毎朝、現場では作業前に短い朝礼が開かれ、指差し呼称で「ヨシ!」と声を揃える光景が見られる。あれを「形だけの儀式」だと思っている人は少なくない。
だが、あの数分間には、労働災害を防ぐための手順が、実は厳密な順序で詰め込まれている。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、あの朝礼の中身を、手順として説明できるようになっている。
電気工事の現場には、他の建築工事にはない特有のリスクがある。活線(電気が通っている状態)に近い場所での作業による感電災害と、天井裏や高所での配線・機器取付にともなう墜落・転落災害だ。この2つは、電気工事における労働災害の代表格として、常に意識しておく必要がある。
高さ2m ― 墜落防止措置が求められる境目
労働安全衛生規則では、高さ2m以上の箇所での作業について、墜落制止用器具(いわゆる安全帯)の使用等の墜落防止措置を求めている。天井裏の配線作業や、脚立・高所作業車を使う照明器具の取付作業など、電気工事では2mを超える高さでの作業が日常的に発生する。
KY活動(危険予知活動)― 4ラウンド法という手順
冒頭の朝礼で行われているKY活動(危険予知活動)は、思いつきで危険を挙げ合う場ではなく、4ラウンド法という決まった手順で進める。
第1ラウンドの現状把握では、その日の作業に潜む危険をできるだけ多く洗い出す。第2ラウンドの本質追究では、洗い出した危険の中から特に重要なものを絞り込む。第3ラウンドの対策樹立では、その重要な危険に対する具体的な対策を話し合う。そして第4ラウンドの目標設定で、その日の行動目標を一言にまとめ、指差し呼称で「ヨシ!」と全員で確認する。冒頭の朝礼の掛け声は、この最後の第4ラウンドにあたる。
この一連の流れをその日の作業前に短時間で共有する場が、ツールボックスミーティング(TBM)だ。作業内容・危険箇所・安全対策を確認する場としてKY活動と組み合わせ、「TBM-KY」として毎朝実施している現場が多い。
誰が現場全体の安全を統括するのか
電気工事の現場には、元請(電気工事会社)だけでなく、複数の下請業者の労働者が同時に働いていることが多い。会社が違えば、安全に対する意識や手順にもばらつきが出やすい。このばらつきを埋め、現場全体の安全衛生を1つにまとめる役割を担うのが統括安全衛生責任者だ。
労働安全衛生法第15条により、元請(特定元方事業者)と下請(関係請負人)の労働者を合計した人数が、常時50人以上(ずい道等の建設・橋梁の建設等、特定の仕事は常時30人以上)になる現場では、元請側が統括安全衛生責任者を選任しなければならない。
これに対応して、各下請業者側は安全衛生責任者を選任し、統括安全衛生責任者との連絡・調整の窓口となる。名前が似ているためよく混同されるが、「統括」の有無で、選任する側(元請か下請か)が違うと覚えておくと区別しやすい。
停電させても油断できない ― 残留電荷の放電
電気工事の安全管理では、「電源を切ったから安全」という判断が思わぬ落とし穴になることがある。労働安全衛生規則第339条第1項第2号は、開路した電路が電力ケーブルや電力コンデンサー等を有する電路で、残留電荷による危険を生ずるおそれのあるものについて、安全な方法によりその残留電荷を確実に放電させることを義務付けている。
停電作業の3点セット ― 施錠・表示・監視人/残留電荷の放電/検電と短絡接地
労働安全衛生規則第339条第1項は、停電作業を行う場合に事業者が講じるべき措置を、次の3号にわたって定めている。
| 号 | 措置 | 内容 |
|---|---|---|
| 第1号 | 開閉器の管理 | 開路に用いた開閉器に、施錠・通電禁止に関する所要事項の表示・監視人の配置のいずれか1つを行う |
| 第2号 | 残留電荷の放電 | 電力ケーブル・電力コンデンサー等の残留電荷を安全な方法で確実に放電させる |
| 第3号 | 停電確認と短絡接地 | 電路が高圧又は特別高圧であった場合、検電器具により停電を確認し、かつ短絡接地器具を用いて確実に短絡接地する |
短絡接地器具は、取り付けるときだけでなく、取り外すときの確認も義務付けられている。労働安全衛生規則第339条第2項により、開路した電路に通電を再開しようとするときは、あらかじめ、作業に従事した労働者に感電の危険が生ずるおそれがないこと、及び短絡接地器具を取りはずしたことを確認したあとでなければ、通電してはならない。短絡接地器具を付けたままの電路に通電すれば、地絡・短絡事故につながる。安全のために取り付けた器具が、外し忘れれば今度は事故の原因になる、という点まで押さえておきたい。
作業主任者制度 ― 「危険な作業」すべてに必要なわけではない
労働安全衛生法第14条・同法施行令第6条は、一定の危険・有害な作業について、作業主任者の選任を事業者に義務付けている。代表的な例を挙げる。
| 作業主任者の種類 | 選任が必要になる作業の条件 |
|---|---|
| 足場の組立て等作業主任者 | つり足場・張出し足場又は高さ5m以上の足場の組立て・解体・変更の作業 |
| 地山の掘削及び土止め支保工作業主任者 | 掘削面の高さ2m以上の地山の掘削の作業 |
| 型枠支保工の組立て等作業主任者 | 型枠支保工の組立て・解体の作業 |
| コンクリート破砕器作業主任者 | コンクリート破砕器を用いて行う破砕の作業 |
| 酸素欠乏危険作業主任者 | 酸素欠乏危険場所における作業 |
明り掘削の安全措置 — 数字が細かいほど、狙われる
地山の掘削作業主任者が選任されるような明り掘削(地表から直接行う掘削)の現場には、選任の要否とは別に、掘削そのものの安全措置にも具体的な数字の基準がある。
| 措置 | 基準 |
|---|---|
| 土止め支保工の点検周期 | 設置後7日をこえない期間ごと(中震以上の地震の後、大雨等で地山が急激に軟弱化するおそれがある事態が生じた後も点検) |
| 砂からなる地山の掘削面のこう配 | 35度以下、又は掘削面の高さ5m未満 |
| スレート等でふかれた屋根上の作業 | 踏み抜きの危険があるときは、幅30cm以上の歩み板を設け、防網を張るなどの措置 |
| 高さ又は深さが1.5mを超える箇所 | 安全に昇降するための設備等を設置(作業の性質上著しく困難な場合を除く) |
玉掛け業務の資格 — 荷の重さではなく、クレーンの吊り上げ荷重で判断する
キュービクルや大型変圧器のような重量機器を、クレーンで吊って搬入する場面では、ワイヤーロープなどをクレーンのフックに掛け外しする玉掛け作業が発生する。この玉掛け業務に必要な資格は、使用するクレーン等の吊り上げ荷重(そのクレーンが吊り上げられる能力の上限)で区分される。
| クレーン等の吊り上げ荷重 | 必要な資格 |
|---|---|
| 1t以上 | 玉掛け技能講習の修了 |
| 1t未満 | 玉掛けの業務に係る特別教育の修了 |
足場の作業床 — 手すり・中さん・幅木を数字で押さえる
高さ2m以上の作業床には、墜落制止用器具の使用等とあわせて、足場そのものの構造にも墜落防止の基準がある。労働安全衛生規則は、足場(電気工事の現場でよく使われる移動式足場=ローリングタワーを含む)の作業床について、次の3点を求めている。
| 設備 | 高さの基準 |
|---|---|
| 手すり等 | 85cm以上 |
| 中さん等 | 35cm以上50cm以下 |
| 幅木 | 10cm以上 |
床材間や床材と建地とのすき間は3cm以下とし、資材や工具が隙間から落下しない構造にする。
移動式足場(ローリングタワー)にはもう1つ、固定の足場にはない注意点がある。作業床の上に作業員を乗せたまま、移動式足場を移動させてはならない。移動中に不意な傾きや衝撃があれば、高所の作業床に乗った作業員がそのまま転落する危険があるためだ。移動させるときは、作業床の上に人がいないことを必ず確認する。
なお、高さ5m以上の移動式足場の組立て・解体・変更作業には、後述する足場の組立て等作業主任者の選任も必要になる。「移動式だから足場の組立て等作業主任者の対象外」ということはなく、通常の足場と同じ高さ基準(5m以上)で判定する。
高さ3m — 「人の墜落」とは別の、「物の落下」を防ぐ基準
これまで見てきた「高さ2m以上」は、作業する人が墜落することを防ぐための基準だった。これとは別に、労働安全衛生規則第536条は、高さ3m以上の場所から物体を投下するときの基準を定めている。適当な投下設備を設けるか、監視人を置くなどして、下にいる労働者に物が当たる危険を防止する措置を講じなければならない。この措置が講じられていない場合、労働者は高さ3m以上の場所から物体を投下してはならない。
悪天候時の高所作業 — 装備を強化するのではなく、作業を止める
高さ2m以上の作業に求められるのは、墜落制止用器具の使用等の措置だけではない。労働安全衛生規則第522条は、強風(10分間の平均風速が毎秒10m以上)・大雨(1回の降雨量が50mm以上)・大雪等の悪天候のため、その作業の実施について危険が予想されるときは、労働者を作業に従事させてはならないと定めている。
特別教育で足りる業務、技能講習が必要な業務 — 高所作業車は高さで区分が変わる
建設現場で就業制限のかかる危険業務には、特別教育の修了だけで就業できる業務と、技能講習の修了まで必要な業務がある。アーク溶接機を用いて行う金属の溶接、研削といしの取替え又は取替え時の試運転、つり上げ荷重1t未満の移動式クレーンの運転は、いずれも特別教育の修了で就業できる。
一方、高所作業車の運転業務(道路上を走行させる運転を除く)は、同じ「高所作業車の運転」という業務の中でも、作業床の高さによって必要な資格が変わる。
| 作業床の高さ | 必要な資格 |
|---|---|
| 10m未満 | 高所作業車運転の業務に係る特別教育の修了 |
| 10m以上 | 高所作業車運転技能講習の修了 |
特別教育の対象業務をもう少し広げる — 建設用リフト、フォークリフト、そして「1t」の境界線
特別教育で足りる業務は、アーク溶接・研削といしの取替え・高所作業車の運転(10m未満)だけではない。建設現場でよく登場する業務として、建設用リフトの運転と、最大荷重1t未満のフォークリフトの運転も特別教育の修了で就業できる。
安全管理は「事故が起きてから」ではなく「起きる前」の設計
安全管理の本質は、事故が起きたあとにどう対応するかではなく、事故が起きる前にどれだけ危険を洗い出し、対策を打てるかにある。KY活動の4ラウンド法も、統括安全衛生責任者の選任も、すべて「起きてから対処する」のではなく「起きる前に手を打つ」ための仕組みだ。
今日試せることとして、身近な作業(電気工事に限らず、脚立を使う作業や車の運転でもよい)を1つ思い浮かべ、KY活動の4ラウンド法の流れ——現状把握、本質追究、対策樹立、目標設定——を自分の頭の中で一度なぞってみるといい。手順として意識するだけで、危険の見え方が変わってくる。
この資格を取ったあと、現場で何が変わるか
高圧の機器や大型のケーブルドラムを現場に納品しに行く機会があったとき、これまでは朝礼の輪の外で待つだけだったのが、合格後はTBM-KYの4ラウンド法が今どの段階を回っているかが分かるようになり、「その作業、統括安全衛生責任者は誰が務めていますか」と、複数業者が混在する現場特有の質問を自分から発せるようになる。安全朝礼を眺めるだけの立場から、その中身を理解した立場への変化だ。
停電させたキュービクルの近くに納品する場面でも、「電源を切っただけで、残留電荷の放電は済んでいますか」と具体的に確認できるようになる。これは形式的な声かけではなく、電力ケーブルやコンデンサが静電容量を持つという知識に裏打ちされた、実質的な安全確認だ。現場の作業員や監督者から見ても、この質問ができる納品担当者は、単に荷物を届けるだけの相手とは違う扱いを受ける。
高さ2m以上の作業や、足場・型枠支保工に作業主任者が必要になる条件を具体的な数字で把握していると、取引先の現場体制に関する会話にも具体的に参加できるようになる。安全管理を「気をつけてください」という一般論ではなく、条文と数字で語れることは、電材商社の担当者としての専門性を一段引き上げ、現場からの信頼を積み重ねる材料になる。
冒頭の問い、朝礼の掛け声には、どんな手順が詰め込まれていたのか。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。