バーチャート工程表は、電気工事に限らず、ほぼどの現場でも一度は目にする工程表だ。作り方は単純で、読み方も直感的。にもかかわらず、大規模で複雑な工事の現場では、この表「だけ」で工程を管理しているところは少ない。
読みやすいはずの表が、なぜ主役になれないのか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、バーチャートが得意なことと、苦手なことを説明できるようになっている。
バーチャート工程表は、縦軸に工種(作業項目)を並べ、横軸に暦日(着工日から竣工日までの日付)を取り、各工種がいつからいつまで作業するかを横棒(バー)で示す工程表だ。電気工事であれば、「仮設工事」「電線管配管工事」「電線・ケーブル敷設工事」「盤設置工事」「機器取付工事」「試験・調整」「竣工検査」といった工種を縦に並べ、それぞれの作業期間を横棒で描いていく。
| 工種\日付 | 1週目 | 2週目 | 3週目 | 4週目 |
|---|---|---|---|---|
| 仮設工事 | ■■ | |||
| 電線管配管工事 | ■■■ | |||
| ケーブル敷設工事 | ■■■ | |||
| 盤・機器取付 | ■■ | ■ | ||
| 試験・調整 | ■■ |
この形の工程表を作るのに、専門的な計算は要らない。各工種の想定作業日数を見積もり、開始日から順番にバーを引いていくだけで完成する。誰が見ても「いつ、何をやっているか」が一目で分かる、というのがバーチャート最大の強みだ。
バーチャートとガントチャート — 横軸の意味が違う
似た名前でよく混同されるのがガントチャートだ。見た目はどちらも横棒を使うグラフだが、横軸が表している意味が違う。
| 横軸が表すもの | 主な用途 | |
|---|---|---|
| バーチャート工程表 | 暦日(いつからいつまで作業するか) | 工事全体の日程計画を示す |
| ガントチャート | 進捗率(0〜100%、どこまで進んだか) | 各作業の進捗状況を管理する |
バーチャートは「予定表」としての性格が強く、ガントチャートは「進捗確認表」としての性格が強い、と考えると区別しやすい。現場によっては、1つの表の中に予定バーと実績バーを重ねて描き、両方の役割を兼ねさせている場合もある。ガントチャートの横棒は、あくまで各作業がどこまで進んだかを長さや塗りつぶし具合で示すためのものであり、出来高累計曲線のような折れ線・曲線のグラフではない。「進捗を示す表」という共通点から、両者を同じ描き方のグラフだと混同しないよう注意する。
バーチャートが向く現場、向かない場面
バーチャートは、工種の数が少なく、工種間の関連が単純な小〜中規模の工事に向いている。作成の手間が少なく、現場の職人や関係者に配って「この週は何が動いているか」を共有する用途にも使いやすい。
一方、工種が数十にも及び、複数の工種が並行して進み、しかも「この工種が終わらないと次が始められない」という複雑な依存関係を持つ大規模工事では、バーチャート単独では力不足になる。どの作業が遅れると全体の工期に直結するのか(クリティカルパス)が見えないため、遅延が起きたときに「どこを立て直せば工期に間に合うか」を判断する材料に乏しい。
だからといって、大規模工事でバーチャートがまったく使われないわけではない。実務では、工程の重要度や遅延の影響範囲をネットワーク工程表で把握しつつ、現場での日々の進捗共有にはバーチャートを使う、という役割分担・併用がよく行われる。「分かりやすいが、工程の重要度は見えない」という一長一短を正しく理解していることが、工程表を使い分ける第一歩になる。
タクト工程表 — バーチャートとネットワークの中間
バーチャートやガントチャートと並んで、大規模な繰り返し工事でよく使われるのがタクト工程表だ。フロア(階層)や区画ごとに同じ作業が繰り返される工事で、バーチャートに、ネットワーク工程表が持つ「区画間のつながり」の表現を一部取り入れた形式になる。基準階の内装・設備工事を各階で繰り返す高層マンションのような現場に向いている。
タクト工程表には、もう1つ見落としやすい限界がある。タクト工程表が表しているのは、あくまで「この区画の作業を、この期間に行う」という計画であって、実際にどこまで工事が進んだかという出来高(進捗の実績データ)を記録・集計する仕組みではない。「繰り返し工程の管理に向いている」「工期の遅れなど状況の把握が容易」という長所から連想を広げて、「出来高の管理も容易なはずだ」と考えると足をすくわれる。出来高を計画と実績で数値として比較したいときは、タクト工程表ではなく、この後に説明する出来高累計曲線(Sカーブ)のような別の図表を使う。
工程表の階層 — 総合工程表が先、週間工程表はそこから切り出す
工程表には、扱う期間の長さが異なる階層がある。着工前にまず作成するのが、工事全体を最初から最後まで俯瞰する総合工程表(全体工程表)だ。ここに、主要な工種の大まかな開始・終了時期が示される。実際の現場運営では、この総合工程表から1〜2週間程度の期間を切り出し、その期間にやるべき作業をより具体的に示した週間工程表を、毎週作成していく。
総合工程表を作るときに押さえる4つの実務ポイント
総合工程表は、ただ工種を並べて着工日から日数を積み上げれば完成する表ではない。特に電気工事の総合工程表では、次の4点を意識して組み立てる。
- 受電日からの逆算:受変電設備や幹線の工事は、電力会社からの受電(送電開始)が完了しなければ、機器の動作試験のような後工程に進めない。だからこそ、着工日からの積み上げだけでなく、受電予定日というゴールから逆算して工事期間を計画する
- 動かせない作業を中心に据える:検査日や設備の搬入日のように、日程を動かせない作業がある場合は、それを軸に他の作業との関連性を踏まえて計画する
- 届出書類の提出予定時期も記入する:諸官庁への届出書類は、提出が遅れれば検査や引渡しといった後工程に直結する。総合工程表とは切り離して管理するのではなく、提出予定時期を工程表に記入し、工事全体の進行とあわせて管理する
- 作業種別ごとの労務の稼働人員も記入する:作業の進捗計画とあわせて、その作業に必要な労務の稼働人員を記入しておくことで、人員配置の過不足を早い段階で把握できる
所要日数はどう決まるか — 全工事量÷1日当たりの平均施工量
バーチャートやネットワーク工程表に記載する各作業の日数は、感覚で「だいたいこれくらい」と決めるものではない。原則となる計算式がある。
人工山積表 — 「いつ、何人必要か」を可視化する表
工程表が「いつ、何をやるか」を示す表だとすれば、人工山積表(労務山積表)は「いつ、何人必要か」を示す表だ。横軸に日付、縦軸にその日必要な作業員数(人工)を、工種ごとに積み上げて示す。
施工速度と品質はトレードオフ — 「速い」は「良い」と同じではない
工程表を使いこなす目的は、単に工期を短くすることではない。工程管理と品質管理は、常にセットで考える必要がある。
バーチャートを読むとき、何を見ればいいか
バーチャート工程表を渡されたとき、ただ「いつからいつまで」を眺めるだけでなく、工種の並びから「この工種は、前の工種が終わってから始まっているのか、それとも独立して並行しているのか」を意識して読むと、表からもう一段深い情報を引き出せる。バーが重なっている期間があれば、そこは複数の工種が同時進行している週だと分かるし、バーとバーの間に隙間があれば、そこには表には現れていない待ち時間(前工程の養生期間や検査待ちなど)が隠れている可能性がある。
今日試せることとして、身近な工事の掲示物や見積書に添付された工程表があれば、それがバーチャートかガントチャートかを、横軸の意味(暦日か進捗率か)で確認してみるといい。名前だけでなく軸の意味で見分けられるようになると、現場で工程表を渡されたときの理解の速さが変わってくる。
この資格を取ったあと、現場で何が変わるか
取引先から「来週このケーブルを納品してほしい」と週間のバーチャート工程表を渡されたとき、これまでは日付だけを見て納期を確認していたのが、合格後は「この作業、後工程の盤据付が詰まっていませんか。前後関係が分かる工程表はありますか」と一歩踏み込んで聞けるようになる。バーチャートが示せていない依存関係を、こちらから補って確認する側に回れる。
現場に掲示された工程表を見たとき、それがバーチャートなのかガントチャートなのかを横軸の意味で瞬時に見分けられると、現場監督との会話の質が変わる。「この表は予定を示しているのか、進捗を示しているのか」を正確に踏まえた質問ができる担当者は、資材の納品時期を単に確認するだけの相手ではなく、工程そのものを理解している相手として扱われるようになる。
総合工程表が先、週間工程表はそこから切り出したものだという順序を知っていれば、直前になって「来週の分だけ」で発注の相談が来たときも、その週の裏にある工事全体の骨格を意識した提案ができる。目先の週間予定だけでなく全体の見通しを踏まえた納品計画を提示できることは、価格だけで比較される取引先から、工程を任せられる取引先への立場の転換につながる。
冒頭の問い、分かりやすいはずのバーチャートが、なぜ大規模工事の主役になれないのか。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。