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経営管理

電気工事会社・電材店の事業承継・M&A完全ガイド|後継者不在率57.3%の今、何から考えるべきか

・ 読了目安: 9分 ・ 編集: 電材サーチ編集部(編集・出典ポリシー)

冒頭の場面・会話は、内容の理解を助けるための例示です。特定の現場・企業・案件を指すものではありません。

全国の企業のうち、後継者が「いない」「未定」の会社は50.1%——2社に1社の割合だ(出典:帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」)。この数字だけでも十分に高いが、業種別に見ると建設業はさらに突出している。57.3%、全業種で最も高い。電気工事店・電材店を10軒回れば、6軒近くが「次の代」を決められていない計算になる。

なぜ、これほど偏って高いのか。そして「うちも他人事じゃない」と感じた工事屋・施工会社の経営者は、廃業する前に何を検討すべきなのか。この記事では、電気工事会社・電材店(電設資材の卸・販売店)が事業承継やM&Aを考えるときに、最初に押さえておくべき全体像をまとめた。


なぜ電気工事業は後継者不在率が全業種トップなのか

建設・電気工事業に後継者不在が集中する背景には、いくつかの構造的な事情がある。

  • 経営者の高齢化:全国の経営者平均年齢は60.7歳(2024年時点)まで上昇しており、50代経営者の後継者不在率は58.3%と過半数を超える(出典:帝国データバンク前掲調査)。60代・70代に差し掛かってから慌てて考え始める経営者が多い。
  • 職人不足との掛け算:現場の担い手不足は経営自体の担い手不足と表裏一体で、社内に技術を継げる人材が育っていないケースが多い。
  • 一人親方・家族経営の多さ:電気工事業・電材店は一人親方や家族経営が多く、そもそも「継がせる相手」を社内に持たない会社が珍しくない。

これらが重なり、「黒字で技術も取引先もあるのに、継ぐ人がいないから畳む」という、経済合理性から見ればもったいない廃業が業界内で起き続けている。後継者不在率57.3%は「うちだけが特殊」ではなく、業界の標準的な状況を示す数字だ。


廃業する前に整理したい4つの選択肢

後継者問題に直面したとき、経営者が検討できる道は大きく4つある。

  1. 親族内承継:子や親族に継がせる、最も伝統的な形。ただし本人に意思・適性がなければ無理に進められない。
  2. 従業員承継(MBO):社内の役員・従業員に株式や事業を譲る形。会社の内情を知る人物が継ぐため引き継ぎはスムーズだが、株式取得資金の調達が壁になりやすい。
  3. M&A(第三者への譲渡):社外の会社・個人に会社ごと、または事業を譲渡する。買い手が資金を用意するため、承継側の資金負担がない。
  4. 廃業:事業を畳む。設備・在庫は処分、従業員は解雇、取引先との関係も終了する。

このうち、社内に後継者候補がいない場合に現実的な選択肢として急速に広がっているのが3のM&Aだ。廃業と違い、従業員の雇用・取引先との関係・積み上げてきた仕入れ口座をそのまま引き継げるうえ、経営者自身も譲渡益を得られる。


M&Aの価格はどう決まるのか

「うちの会社にいくらの値が付くのか」は、多くの経営者が最初に気になる点だろう。株式市場のような明確な相場はなく、最終的には売り手と買い手の交渉で決まるが、中小企業のM&Aでは実務上の目安となる計算式が広く使われている(出典:東京都事業承継・引継ぎ支援センター「M&A基礎知識」)。

企業価値の目安 = 時価純資産 + 営業利益の2〜5年分(営業権)

この「営業利益の2〜5年分」の部分が、いわゆる「のれん」——財務諸表には表れない無形の価値だ。電気工事業・電材店の場合、この部分に業界特有の価値が乗ってくる。

  • 電気工事士(第一種・第二種)等の有資格者の在籍数
  • ゼネコン・サブコン・官公庁との長年の安定取引
  • 高圧受変電設備、プラント計装、弱電・通信などの専門技術
  • メーカーとの一次代理店・二次代理店の仕入れルート・仕入れ枠
  • 施工業者・協力会社とのネットワークの太さ

これらは決算書の数字だけを見る一般的なM&A仲介では正しく評価されにくい。「本当はもっと価値があるはずなのに、財務諸表上の数字だけで買い叩かれた」というケースが実際に起こりうるのは、この評価の難しさが原因だ。


相談先を選ぶときに注意したいこと

中小企業庁は「中小M&Aガイドライン」で、仲介事業者に対して手数料体系の開示や利益相反リスクの説明を求めている(出典:中小企業庁「中小M&Aガイドライン」)。裏を返せば、これらが明示されないまま契約に進んでしまうトラブルが実際に起きているということだ。相談先を選ぶ際は、次の点を確認したい。

  • 手数料の算定根拠が事前に説明されるか(最低手数料の金額、料率、発生タイミング)
  • 売り手・買い手どちらの利益を代弁する立場かが明確か(両手仲介の場合、利益相反リスクの説明があるか)
  • 業界特有の価値(仕入れルート・技術者数など)を理解した上で評価してくれるか

特に3点目は見落とされがちだが、電気工事業・電材店にとっては譲渡価格に直結する重要なポイントだ。


一段深い理解:スキームの選び方で、許可と登録の手続きが変わる

M&Aの実務では、会社ごと譲渡する「株式譲渡」と、特定の事業だけを切り出して譲渡する「事業譲渡」のどちらを選ぶかが最初の分岐点になる。節税や簿外債務の遮断を理由に、税理士やM&A仲介から事業譲渡を勧められることもあるが、電気工事業・電材店に限っては、この選択が事業継続そのものに関わる重要な論点になる。

  • 株式譲渡:会社という「入れ物」ごと株主だけが入れ替わるため、その会社が保有する電気工事業の登録・建設業許可はそのまま維持されるのが原則。
  • 事業譲渡:特定の事業・資産だけを切り出して譲渡する方式。建設業許可と電気工事業の登録は、それぞれ別の法律に承継の定めがあり、手続きが違う。

事業譲渡で何が引き継げるかは、法律ごとに次のとおりだ(出典:建設業法第17条の2、電気工事業法第9条・第34条、いずれもe-Gov法令検索)。

  • 建設業許可:建設業法第17条の2は、許可に係る建設業の全部の譲渡について、譲渡人と譲受人があらかじめ認可を受けたときは、譲受人が譲渡の日に建設業者としての地位を承継すると定めている(2020年10月施行の制度)。合併や、建設業の全部を承継させる会社分割も同様。同じ種類の建設業で一般と特定の許可が入れ替わる組み合わせは、条文のかっこ書きで対象から除かれている。
  • 登録電気工事業者:電気工事業法第9条第1項は、登録電気工事業者が登録に係る事業の全部を譲渡したときは、譲り受けた者が登録電気工事業者の地位を承継すると定めている。承継した者は、承継の日から30日以内に届け出る(同条第3項)。譲受人が登録の拒否事由(第6条第1項第1号〜第5号)に当たる場合は承継しない。
  • 建設業許可を持つ会社の電気工事業:同法第34条により「みなし登録」の扱いとなり、第9条を含む第二章(登録等)は適用されない(同条第1項)。承継の扱いは登録電気工事業者と異なり、条文だけでは断定できない。建設業の許可行政庁と、電気工事業の届出先(都道府県など)の窓口に事前に確認したい。

つまり、建設業許可にも登録電気工事業者の登録にも、事業譲渡で引き継ぐための定めがある。空白が生じうるのは、その手続きを踏まずに事業譲渡を実行した場合だ。たとえば建設業法第17条の2は、あらかじめ認可を受けたときに承継すると定めており、認可を受けずに譲渡しても、この規定による承継は起きない。その間、譲受側が許可や登録を持っていなければ、許可や登録が必要な工事は請け負えない。

税務上の理由だけでスキームを決め、許可と登録の手続きを後回しにすると、後になって「承継の手続きが間に合わず、工事を止めざるを得なかった」という事態になりかねない。建設業許可の承継は事前の認可が前提なので、M&Aの検討を始めた最初の段階で、許可行政庁などの窓口に確認し、業界事情を理解したアドバイザーにも伝えておきたい。


進め方の目安:準備から成約まで半年〜1年

M&Aは思い立ってすぐ成約するものではない。一般的な流れは次の通りだ。

  1. 無料相談・簡易的な企業価値の把握
  2. アドバイザリー契約の締結、事業概要書の準備
  3. 匿名(ノンネーム)での買い手候補への打診
  4. 意向表明の受領、トップ面談での条件すり合わせ
  5. 基本合意契約の締結
  6. 買収監査(デューデリジェンス)
  7. 最終契約の締結、譲渡代金の決済・引き継ぎ

準備から成約まで、通常半年から1年程度を見ておくとよい。業績が安定しており、手元資金に余裕があるタイミングで動き始めた方が、買い手候補が集まりやすく、交渉力を保ったまま進められる。健康不安や資金繰りの悪化が表面化してから動くと、足元を見られて条件が悪化しやすい。


「後継者がいない」は、もはや珍しい状況ではなく、業界の半数以上が直面している標準的な課題だ。だからこそ、廃業という一つの選択肢だけで判断を急ぐ前に、会社の価値を正しく評価してもらえる相談先に、早めに話を聞いてみる価値がある。

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よくある質問

工事屋・施工会社でも会社を売ることはできますか?

できます。むしろ電気工事店・施工会社は「社会インフラとしての安定性」から、買い手企業にとって魅力的な買収候補とされています。有資格者(電気工事士等)の在籍、ゼネコン・サブコンとの安定取引、特定分野(高圧受変電、弱電・通信等)の専門技術などがあれば、規模が小さくても評価は高くなりやすい傾向があります。

電材店(電設資材の卸・販売)もM&Aの対象になりますか?

なります。電材店の場合は、メーカーとの一次代理店・二次代理店の権利、仕入れ枠の大きさ、施工業者との取引関係の深さが、財務諸表には表れない「のれん(無形資産)」として評価されます。一般的なM&A仲介はこうした業界特有の価値を把握しづらいため、業界知識のある相手に相談する方が適正な評価を得やすくなります。

後継者が決まっていない場合、廃業とM&Aどちらを先に検討すべきですか?

黒字で事業に価値がある場合は、廃業より先にM&Aを検討することをおすすめします。廃業すると従業員の雇用や取引先との関係、積み上げてきた仕入れ口座や信頼はすべて失われますが、M&Aであればそれらを引き継いだ上に譲渡益も得られます。判断に迷う段階でも、早めに相談することで選択肢が広がります。

M&Aの相談から成約まで、どのくらいの期間がかかりますか?

一般的に準備開始から成約まで半年〜1年程度が目安です。業績が良く、手元資金に余裕があるうちに動き始めた方が、買い手候補が集まりやすく好条件を引き出しやすい傾向があります。健康不安や資金繰り悪化が表面化してから動くと、交渉力が弱くなりがちです。

参考文献・出典

確認・変更の記録

出典照合日: (AIによる照合補助)

e-Gov法令検索の条文で、建設業法第17条の2、電気工事業法第9条・第17条・第34条を照合。事業譲渡の節の記述を条文の範囲に直した。個別の案件で許可・登録がどう扱われるかは、許可行政庁などの窓口で確認が必要。

個別設備の適合判定・技術者による承認を示すものではありません。

  • :事業譲渡の節に、許可・登録の承継と電気工事業法の条文について、事実と異なる説明があったため訂正。建設業法第17条の2(事前の認可による承継)、電気工事業法第9条(事業の全部の譲渡を含む承継)、同第34条(建設業許可を持つ会社の扱い)に沿って書き直し、出典を差し替えた。
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