制御盤の更新工事の真っ最中、頼んだ覚えのない作業員が現場に現れ、何の前置きもなく電力量計を新品に交換していく——そんな場面に立ち会ったことのある現場監督は、案外少なくないはずだ。工事の見積りにも契約書にも、電力量計の交換など一行も書かれていない。代金は請求されない。作業員は「検定の期限が来たので」とだけ言い残して去っていく。
一瞬、こう思う。改修工事のついでに、電力会社が便乗して営業をかけてきたのだろうか。あるいは、こちらの設備更新工事を口実に、何かの点検作業を紛れ込ませているのだろうか。どちらも外れている。電力量計の交換は、工事の都合とは無関係に、もっと前から決まっていた予定だった。決めていたのは工事の発注者ではない。計量法という法律である。
電力量計とは何か——「特定計量器」という位置づけ
電力量計は、需要家が使用した電気の量をkWhという単位で計測し、電気料金の根拠にする機器だ。ここまでは説明するまでもない。
重要なのは、この機器が計量法上「特定計量器」に分類されているという点である。経済産業省は、料金の徴収など取引または証明に使用される電力量計・水道メーター・ガスメーター等について、検定に合格したことを証する検定証印(または基準適合証印)が付され、かつその有効期間内のものでなければ使用してはならないと定めている。根拠になっているのは計量法第16条だ。
つまり電力量計は、単に電気を測る箱ではない。国が定めた基準で検定を受け、期限内であることが法律上要求される、特別な位置づけの計量器なのである。
なぜ有効期限があるのか——経年で精度がずれていく機器だから
計量器に有効期限があるということは、裏を返せば、時間が経つと計量の正確さが保証できなくなる、ということだ。電力量計も例外ではない。内部の部品は使われ続ける限り少しずつ摩耗し、電子部品であっても経年劣化は避けられない。料金という金銭のやり取りの根拠になる数値だからこそ、「昔は正確だった」では済まされない。
日本電気計器検定所(JEMIC)が公開している有効期間一覧を見ると、この期限は一律ではなく、計器の種類や定格電流によって細かく分かれていることがわかる。単独で使用する普通電力量計のうち、定格電流20A・60Aのものは電子式で10年、機械式で7年。定格電流30A・120A・200A・250Aのものは、いずれも10年だ。変流器などの変成器と組み合わせて使うタイプの計器になると、電子式で7年、機械式で5年という、より短い期限になる。
一般家庭に設置されている電力量計についていえば、東京電力パワーグリッドが自社の発表資料の中で明言している。検定満了期間は10年、という数字だ。これが「10年ごとに電力量計が交換される」という現象の、法的な正体である。
誘導形電力量計とスマートメーター——回る機械と、回らない電子回路
古い住宅の外壁を思い浮かべてほしい。透明なカバーの奥で、銀色の円盤がくるくると回り続けている、あの機器だ。あれは誘導形電力量計と呼ばれ、アラゴの円盤という原理を利用している。電気が流れると円盤が回転し、その回転数を積算することで、使用した電力量を数値に変えている。
回転するという仕組みは、裏を返せば、機械的に摩耗する部品を持つということでもある。振動や衝撃で誤差が出やすく、設置の傾きにも敏感だ。これに対してスマートメーターを含む電子式(静止型)電力量計は、回転駆動する部品を持たない。電子回路で電力量を計測するため、計測精度が安定しやすく、機械式に比べて長寿命になる。JEMICの有効期間一覧で電子式の期限が機械式より長く設定されているものが多いのは、単なる制度上の優遇ではなく、この構造上の違いを反映した結果だと考えると腑に落ちる。
スマートメーターは、この電子式電力量計に通信機能を持たせたものだ。電力量を測るだけでなく、測った値を電力会社へ自動で送信し、需要家宅内の端末へも送信できる。円盤が消えたことは、見た目の変化にすぎない。本質的な変化は、その内側で起きている。
スマートメーター化で変わったこと——検針の自動化と30分値
スマートメーターの導入で最初に変わったのは、検針という作業そのものだ。従来は月に一度、検針員が敷地に立ち入って指針を読み取っていた。スマートメーターは通信機能によって遠隔で自動検針ができるため、この作業そのものが要らなくなる。東京電力パワーグリッドは2020年度までに、関東エリアの世帯・事業所へ約2,840万台のスマートメーターを設置したと公表している。
もう一つの変化は、電力量を捉える時間の細かさだ。従来の検針では、1か月分の総使用量しかわからなかった。スマートメーターは30分ごとに使用量を計測し、これを積み重ねて送信する。この「30分値」があるからこそ、時間帯ごとの電力使用の癖を分析できるようになった。
さらに、宅内向けの通信機能(いわゆるBルート)を使えば、HEMSなどの需要家側の端末へ、30分値や電流値をリアルタイムに近い形で届けることもできる。検針票が届くのを待つ必要がなく、省エネのための行動を、使った直後にフィードバックできるようになったわけだ。
電力量計は誰のものか——需要家の設備の一部、という思い込み
ここまでの話を、「検定制度がある機械式の計器が、電子式に置き換わっていく話」として読んでいたなら、それは半分正しい。しかしもう半分、見落とされやすい事実がある。電力量計そのものの持ち主は、多くの場合、需要家ではないという事実だ。
東京電力パワーグリッドは、メーターやアンペアブレーカーといった装置について、はっきりと述べている。これらの装置は東京電力の所有物であり、需要家はその取り付け場所を提供しているにすぎない、と。取り付け自体は無料だが、改築などの都合で需要家側からメーターの移動を希望する場合には、実費を請求することがあるとも付記されている。
制御盤や受電設備の中に電力量計を見つけると、それを「自分の設備の一部」として扱いたくなるのは自然な感覚だ。盤の中に収まっていて、配線もつながっていて、日々の請求書の数字を作っているのだから、自分の持ち物のように感じてしまう。だが電力量計に貼られた検定の封印は、この感覚を裏切る。封印線が切れたり封印キャップが破損したりすれば、その電力量計は取引・証明用として使えなくなる——つまり、需要家が勝手に手を出してよい機器ではない、ということが、この封印という一点に凝縮されている。
期限を超過したまま使い続けるとどうなるか——電力会社自身の違反事例
この「10年ごとの交換」という仕組みは、需要家に義務が課されているわけではない。義務を負っているのは、電力量計を設置・管理する電力会社の側だ。だからこそ、期限が来れば需要家に費用負担を求めることなく、電力会社が自ら段取りをして交換に来る。
裏を返せば、電力会社側の管理が一件でも漏れれば、それは需要家の落ち度とは関係なく発生する法令違反になる。実際、東京電力パワーグリッドは2016年、相模原支社サービスエリアの一部で、電力量計の交換業務を受託していた協力会社の担当者が交換手配を怠り、検定の有効期間を超過したまま使用させてしまっていたことを公表している。対象は644件、当該期間に交換工事に携わった案件のおよそ0.8%にあたる規模だったという。同社は、この超過が計量法に基づく法令違反にあたるとして公表し、電力量計の写真つき照合などチェック体制の強化を進めたと説明している。
この事例が示しているのは、電力量計の有効期限が「守られて当然の細則」ではなく、破れば公表を要するほどの法令上の義務だということだ。制御盤の改修や設備更新の現場で、電力会社が予告なく電力量計を交換しに来るのを見かけたら、それは工事への便乗でも余計なお節介でもない。むしろ、この義務がきちんと履行されている証拠だと捉えたほうが実態に近い。
改修・移設のときは、先に電力会社へ
制御盤の更新や受電設備の移設で、電力量計の位置を動かさざるを得ない工事は珍しくない。ここで無断で電力量計を取り外したり移設したりすれば、封印を破壊することになり、電力会社の所有物に無断で手を加えたことにもなる。
建物の解体にともなって電気設備を撤去する場合、東京電力エナジーパートナーは、契約状況に応じて解体日の2週間前までに事前の連絡を求めている。解体ほど大がかりな話でなくても、電力量計を含む受電設備まわりの改修・移設を計画する段階では、着工前に契約している電力会社(または小売電気事業者)へ連絡し、電力量計の取り外し・再設置の段取りを確認しておくのが安全だ。工事日程だけを社内で固めてしまい、電力会社側の手配が間に合わない、という段取りのすれ違いを避けられる。
電力量計まわりの設備更新について
受変電設備や制御盤の更新工事にあわせて、電力量計・変流器(CT)まわりの配線・端子台・盤内部材を手配したい、というご相談を工事店・設備管理担当者様からいただくことがあります。電力量計本体は電力会社の管理下にありますが、その手前の配線・保護機器・計器類は需要家側で用意する部材です。当サービス「電材サーチ」では、こうした周辺部材の仕様確認からまとめての調達までご相談いただけます。
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