工場のポンプを回していたモータが寿命を迎え、同じ定格出力の新品に交換した。メーカーのカタログから選んだ、正規の後継機種だ。ところが動かしてみると、運転電流が以前よりわずかに増えている。月末の電力量計の値も増えた。新しいモータは「高効率」をうたっているのに、なぜ電気を余計に食うのか。
不良品ではない。むしろこのモータは、法律が求める水準どおりに、きちんと作られている。このトピックを読み終えるころには、この一見矛盾した現象を、制度と物理の両方から筋道立てて説明できるようになっている。
モータに「燃費規制」がかかっている — トップランナー制度
自動車に燃費基準があるように、実は三相誘導電動機にも効率の基準がある。根拠は省エネ法(エネルギーの使用の合理化等に関する法律)のトップランナー制度だ。市場に出ている製品のうち最も優れたエネルギー消費効率を基準に目標を定め、製造事業者・輸入事業者に達成を義務付ける仕組みで、エアコンや冷蔵庫などの家電で先行していたこの制度に、三相誘導電動機が2013年の政省令改正で追加された。目標年度は2015年度。2015年4月以降に国内向けに出荷されるモータは、この効率基準(目標基準値)を満たすように作られている。
なぜモータが対象になったのか。三相誘導電動機は工場のポンプ・送風機・圧縮機など、産業のあらゆる場所で回り続けている。国内の普及台数は約1億台、その消費電力量は産業部門の消費電力量の大半を占めるとされる。1台あたりの効率を数%上げるだけで、国全体では発電所単位の省エネになる――規制する側から見れば、これほど「効きしろ」の大きい機器はない。
効率の水準は、国際規格(IEC 60034-30、対応するJIS C 4034-30)で定められた効率クラス「IEコード」のうち、IE3(プレミアム効率)と整合するように定められている。だから実務では、この基準を満たすモータを「トップランナーモータ」や「IE3モータ」と呼んでいる。
対象になるのは「どこにでもある普通のモータ」
対象範囲は、標準的な三相かご形誘導電動機を広く覆うように定められている。主な条件は次のとおりだ。
- 定格出力 0.75kW以上375kW以下
- 定格電圧 1,000V以下
- 極数 2極・4極・6極
- 定格(基底)周波数 50Hz又は60Hz(両用を含む)
- 単一速度のかご形で、商用電源で駆動するもの
- 連続使用(S1)又はそれに近い使い方(S3で負荷時間率80%以上)のもの
逆に、インバータ駆動専用に作られたものや、機械に組み込まれていて分離して試験できないものなどは対象外とされている。つまり「カタログから選んで買ってきて、商用電源につないで回す普通のモータ」がほぼ全部対象になる、と捉えておけばよい。
もう1つ、試験でも実務でも大事な線引きがある。この効率基準の達成義務を負うのは、国内向けに出荷する製造事業者・輸入事業者(出荷側) だ。既設の旧効率モータを使い続けることが違法になるわけではない。ただし、故障して交換しようとすれば市場にあるのはトップランナーモータだから、更新のタイミングで否応なく置き換わっていく。制度は使用者を直接縛らずに、出荷の蛇口を絞ることで現場を変えていく設計になっている。
「同じ出力の新品」がそのまま載せ替えられない理由
さて、冒頭の謎に戻る。高効率のはずの新しいモータで、なぜ消費電力が増えたのか。鍵は、効率を上げるという設計変更が、モータの他の特性も一緒に変えてしまうことにある。
第1に、回転速度が速くなる。効率を上げるとは損失を減らすことで、二次側の損失が減るとすべりが小さくなる。同期速度とすべりのトピックで見たとおり、実回転数はN=Ns(1−s)だから、すべりが減れば回転はわずかに速くなる。数%にも満たない増速だが、ポンプ・ファンの軸動力は回転速度の3乗に比例するため、この「わずか」が消費電力の目に見える増加になって返ってくる。冒頭の工場で起きたのは、まさにこれだ。効率はモータ単体の性質、消費電力は負荷と回転速度で決まる――この2つを混同しないことが、この論点の芯になる。
第2に、始動電流が大きくなる傾向がある。高効率化のための設計変更の結果として、始動時に流れる電流が旧来の標準モータより大きくなる場合があり、配線用遮断器や電磁開閉器がそのままでは始動のたびにトリップする、といったことが起こりうる。更新時には保護機器の定格・整定の見直しまでセットで検討する。
第3に、外形寸法が大きくなる場合がある。損失を減らすために鉄心を長くしたり導体を太くしたりすれば、同じ出力でも一回り大きな筐体になりうる。既設の据付スペースや軸継手・プーリの位置関係、周囲機器との干渉を、図面の段階で確認しておく必要がある。
「省エネの機械」を正しく省エネに使う仕事
この制度の面白いところは、モータ単体を高効率にしただけでは省エネが完成しない、という点にある。回転速度が上がった分をインバータやプーリ比の調整で元に戻してはじめて、効率向上の分がまるごと省エネとして手に入る。機器の性能を引き出すのは、それを選定し、据え付け、保護機器を整定する側――つまり電気工事の仕事だ。
今日試せることとして、工場や設備の機械室でモータの銘板を見る機会があれば、効率クラス(IEコード)の表示を探してみるといい。IE3とあれば、それはトップランナー制度以降に出荷されたモータだ。銘板の効率の数字と一緒に、そのモータの周りで①〜③の確認がきちんとされているか――ブレーカの定格は、据付は、回転速度は――と目を走らせられるようになっていれば、この論点はもう自分のものになっている。
冒頭のポンプ、なぜ高効率モータで電力量が増えたのか。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。