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トップランナー方式の電動機 — 「同じ出力の新品」に替えたのに現場が変わる理由

読み終えると、こうなる

モータを『同じ出力の新品』に交換しただけでブレーカが飛んだり電流が増えたりする現象を、故障や不良品ではなく、制度と物理の当然の帰結として説明できるようになる

  • トップランナー制度が三相誘導電動機に課しているのがIE3(プレミアム効率)相当の効率基準で、対象が定格出力0.75kW以上375kW以下などの標準的なかご形電動機だと言える
  • 高効率化ですべりが減って回転速度が上がるため、ポンプ・ファンでは3乗則により消費電力がむしろ増えうることを指摘できる
  • 電動機の更新工事で、始動電流の増加(ブレーカ・電磁開閉器の見直し)と外形寸法の変化(取付・干渉の確認)を確認項目として挙げられる
考えてみよう

工場のポンプを回していたモータが寿命を迎え、同じ定格出力の新品に交換した。メーカーのカタログから選んだ、正規の後継機種だ。ところが動かしてみると、運転電流が以前よりわずかに増えている。月末の電力量計の値も増えた。新しいモータは「高効率」をうたっているのに、なぜ電気を余計に食うのか。

不良品ではない。むしろこのモータは、法律が求める水準どおりに、きちんと作られている。このトピックを読み終えるころには、この一見矛盾した現象を、制度と物理の両方から筋道立てて説明できるようになっている。

モータに「燃費規制」がかかっている — トップランナー制度

自動車に燃費基準があるように、実は三相誘導電動機にも効率の基準がある。根拠は省エネ法(エネルギーの使用の合理化等に関する法律)のトップランナー制度だ。市場に出ている製品のうち最も優れたエネルギー消費効率を基準に目標を定め、製造事業者・輸入事業者に達成を義務付ける仕組みで、エアコンや冷蔵庫などの家電で先行していたこの制度に、三相誘導電動機が2013年の政省令改正で追加された。目標年度は2015年度。2015年4月以降に国内向けに出荷されるモータは、この効率基準(目標基準値)を満たすように作られている。

なぜモータが対象になったのか。三相誘導電動機は工場のポンプ・送風機・圧縮機など、産業のあらゆる場所で回り続けている。国内の普及台数は約1億台、その消費電力量は産業部門の消費電力量の大半を占めるとされる。1台あたりの効率を数%上げるだけで、国全体では発電所単位の省エネになる――規制する側から見れば、これほど「効きしろ」の大きい機器はない。

効率の水準は、国際規格(IEC 60034-30、対応するJIS C 4034-30)で定められた効率クラス「IEコード」のうち、IE3(プレミアム効率)と整合するように定められている。だから実務では、この基準を満たすモータを「トップランナーモータ」や「IE3モータ」と呼んでいる。

対象になるのは「どこにでもある普通のモータ」

対象範囲は、標準的な三相かご形誘導電動機を広く覆うように定められている。主な条件は次のとおりだ。

  • 定格出力 0.75kW以上375kW以下
  • 定格電圧 1,000V以下
  • 極数 2極・4極・6極
  • 定格(基底)周波数 50Hz又は60Hz(両用を含む)
  • 単一速度のかご形で、商用電源で駆動するもの
  • 連続使用(S1)又はそれに近い使い方(S3で負荷時間率80%以上)のもの

逆に、インバータ駆動専用に作られたものや、機械に組み込まれていて分離して試験できないものなどは対象外とされている。つまり「カタログから選んで買ってきて、商用電源につないで回す普通のモータ」がほぼ全部対象になる、と捉えておけばよい。

もう1つ、試験でも実務でも大事な線引きがある。この効率基準の達成義務を負うのは、国内向けに出荷する製造事業者・輸入事業者(出荷側) だ。既設の旧効率モータを使い続けることが違法になるわけではない。ただし、故障して交換しようとすれば市場にあるのはトップランナーモータだから、更新のタイミングで否応なく置き換わっていく。制度は使用者を直接縛らずに、出荷の蛇口を絞ることで現場を変えていく設計になっている。

「同じ出力の新品」がそのまま載せ替えられない理由

さて、冒頭の謎に戻る。高効率のはずの新しいモータで、なぜ消費電力が増えたのか。鍵は、効率を上げるという設計変更が、モータの他の特性も一緒に変えてしまうことにある。

高効率化が消費電力増につながる経路 効率を上げる(損失を減らす) すべりが小さくなる 回転速度がやや速くなる ポンプ・ファンの軸動力は 回転速度の3乗に比例して増える 消費電力がむしろ増えることがある 効率はモータ単体の話、消費電力は負荷と回転速度で決まる 高効率化→すべり減→回転速度増→3乗則→消費電力増、という因果の流れ(自作の概念図)。モータ単体の効率向上が、システム全体の省エネと一致しない場合がある

第1に、回転速度が速くなる。効率を上げるとは損失を減らすことで、二次側の損失が減るとすべりが小さくなる。同期速度とすべりのトピックで見たとおり、実回転数はN=Ns(1−s)だから、すべりが減れば回転はわずかに速くなる。数%にも満たない増速だが、ポンプ・ファンの軸動力は回転速度の3乗に比例するため、この「わずか」が消費電力の目に見える増加になって返ってくる。冒頭の工場で起きたのは、まさにこれだ。効率はモータ単体の性質、消費電力は負荷と回転速度で決まる――この2つを混同しないことが、この論点の芯になる。

第2に、始動電流が大きくなる傾向がある。高効率化のための設計変更の結果として、始動時に流れる電流が旧来の標準モータより大きくなる場合があり、配線用遮断器や電磁開閉器がそのままでは始動のたびにトリップする、といったことが起こりうる。更新時には保護機器の定格・整定の見直しまでセットで検討する。

第3に、外形寸法が大きくなる場合がある。損失を減らすために鉄心を長くしたり導体を太くしたりすれば、同じ出力でも一回り大きな筐体になりうる。既設の据付スペースや軸継手・プーリの位置関係、周囲機器との干渉を、図面の段階で確認しておく必要がある。

電動機の更新は「同じ出力の後継機を注文して終わり」ではない。トップランナーモータへの置き換えでは、**①回転速度(負荷側の動力への影響)、②始動電流(ブレーカ・電磁開閉器の見直し)、③外形寸法(取付・干渉)**の3点を確認項目に挙げる。どれも「高効率化」という同じ原因から枝分かれした変化なので、効率が上がる→設計が変わる→特性も変わる、という因果で覚えておけば芋づる式に思い出せる。

「省エネの機械」を正しく省エネに使う仕事

この制度の面白いところは、モータ単体を高効率にしただけでは省エネが完成しない、という点にある。回転速度が上がった分をインバータやプーリ比の調整で元に戻してはじめて、効率向上の分がまるごと省エネとして手に入る。機器の性能を引き出すのは、それを選定し、据え付け、保護機器を整定する側――つまり電気工事の仕事だ。

今日試せることとして、工場や設備の機械室でモータの銘板を見る機会があれば、効率クラス(IEコード)の表示を探してみるといい。IE3とあれば、それはトップランナー制度以降に出荷されたモータだ。銘板の効率の数字と一緒に、そのモータの周りで①〜③の確認がきちんとされているか――ブレーカの定格は、据付は、回転速度は――と目を走らせられるようになっていれば、この論点はもう自分のものになっている。

冒頭のポンプ、なぜ高効率モータで電力量が増えたのか。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。

出題者のワナ — ここで受験者を転ばせにくる

この論点は、知っているだけでは足をすくわれる。試験でよく仕掛けられる崩し方を、先に知っておこう。

  1. 『トップランナーモータ=高効率だから、そのまま付け替えれば必ず省エネになる』と思い込ませる

    なぜ引っかかる効率が上がること自体は事実なので、消費電力も必ず減るように見える。しかし高効率化で損失が減るとすべりが小さくなり、回転速度がやや速くなる。ポンプ・ファンのような負荷では軸動力が回転速度の3乗に比例するため、回転が速くなった分だけ消費電力がむしろ増えることがある

    見破り方『効率』と『消費電力』を分けて考える。効率はモータ単体の性質、消費電力は負荷と回転速度で決まる。負荷がポンプ・ファンなら、回転速度の変化→3乗則→動力の変化、という経路を必ず確認する

  2. 『既設の旧効率モータは使用禁止になった』と、規制の対象を使用者側にすり替える

    なぜ引っかかる『基準が課された』と聞くと、使う側の義務のように感じる。しかしトップランナー制度で効率基準の達成義務を負うのは、国内向けに出荷する製造事業者・輸入事業者だ

    見破り方義務の主語を確認する。規制がかかるのは『出荷』であって『使用』ではない。既設モータをそのまま使い続けることは制度違反ではないが、故障・更新のタイミングで入手できるのは実質的にトップランナーモータになる、という形で現場に波及する

  3. 『同じ定格出力の後継機なら、寸法も特性も同じはずだ』と思わせて、更新工事の確認を省かせる

    なぜ引っかかるカタログ上の定格出力(kW)が同じだと、完全な互換品に見える。しかし効率を上げるために鉄心や導体を増やした結果、外形寸法が大きくなる場合があり、電気的にも始動電流が大きくなる傾向がある

    見破り方電動機の更新では『出力が同じ=そのまま載せ替え可能』とせず、①取付寸法・周囲との干渉、②始動電流とブレーカ・電磁開閉器の整定、③回転速度の変化と負荷側への影響、の3点を確認項目として挙げる

参考文献・出典

理解度チェック(4問)

このトピックの内容がどれくらい身についたか、4問で確認しよう。 内訳は基本2問・応用1問・ひっかけ1問。基本が解けたら、条件を足した応用と、本番で足をすくいにくるひっかけまで踏み込む。

/ 4 問正解

覚えておきたいポイント

  1. 省エネ法に基づくトップランナー制度により、三相誘導電動機には効率の目標基準値が課されている。目標年度は2015年度で、2015年4月以降に国内向けに出荷されるモータから適用されている
  2. 目標基準値は、国際規格IEC 60034-30・JIS C 4034-30で規定される効率クラスIE3(プレミアム効率)と整合している
  3. 対象は単一速度の三相かご形誘導電動機のうち、定格出力0.75kW以上375kW以下・定格電圧1,000V以下・極数2/4/6極・定格(基底)周波数50Hz又は60Hz・商用電源駆動などの条件を満たすもの。インバータ駆動専用のものや、機械に組み込まれて分離して試験できないものは対象外
  4. 効率基準の達成義務を負うのは製造事業者・輸入事業者(出荷側)。既設の旧効率モータの使用がただちに禁止されるわけではないが、更新すれば実質的にトップランナーモータ(IE3相当)への置き換えになる
  5. 更新時の注意:同じ定格出力でも、①損失が減ってすべりが小さくなり回転速度がやや速くなる(ポンプ・ファンでは3乗則で軸動力・消費電力が増えうる)、②始動電流が大きくなる傾向がありブレーカ等の見直しが必要になる場合がある、③外形寸法が大きくなる場合があり取付や周囲との干渉確認が要る
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