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発電施設、送電施設及び変電施設の基礎的な構造及び特性 ・ 11 / 11

電力ケーブルの損失 — 電流が流れていないはずの場所が、なぜ熱くなるのか

読み終えると、こうなる

地中ケーブルの断面図が、「電流の通り道」だけでなく「3種類の熱が生まれる場所の地図」として読めるようになる。

  • 抵抗損・誘電体損・シース損を「どこで・何が原因で」発熱するかで仕分けられる
  • 電流を流していない金属シースが発熱する理由を、電磁誘導から説明できる
  • クロスボンド接地が何のための工夫かを、シース電流の打ち消しとして説明できる
考えてみよう

電力ケーブルの導体が発熱するのは分かる。電流が抵抗を流れればジュール熱が出る——それは電線でもニクロム線でも同じだ。

だが地中送電の世界では、電流を流していないはずの場所が2つも発熱する。ひとつは絶縁体。電気を通さないための部材が、なぜか熱を持つ。もうひとつは金属シース。導体を包んで保護しているだけの金属の筒に、頼んでもいない電流が流れて熱になる。

電流の通り道ではない場所が、なぜ熱くなるのか。見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、ケーブルの断面図を「3種類の熱が生まれる場所の地図」として読めるようになっている。

電力ケーブルの損失は3つに整理される。発生する場所が、ケーブルの断面の内側から順に並んでいるのがポイントだ。

ケーブル断面と3つの損失 導体 絶縁体 金属シース 抵抗損 負荷電流のジュール熱 誘電体損 交流電界で発熱 シース損 誘導電流のジュール熱 内側から順に、電流・電界・磁束と原因が変わる 単心ケーブルの断面と損失の発生場所(自作の概念図)。3つの損失は発生する層も原因も異なる

抵抗損 — 素直なジュール熱、ただし交流では少し増える

抵抗損(導体損)は、導体を流れる負荷電流によるジュール熱で、P=I2RP = I^2R そのものだ。3つの中では最も素直な損失だが、交流では表皮効果や近接効果によって電流が導体断面の一部に偏るため、実効的な抵抗が直流のときより大きくなる、という上乗せがある。

誘電体損 — 絶縁体が「電界にもまれて」発熱する

誘電体損は、絶縁体の内部で発生する。交流電圧がかかると、絶縁体内部の分子の電荷の偏りが電界の反転に合わせて向きを変えさせられ続け、その内部摩擦が熱になる。誘電加熱(電子レンジ)とまったく同じ現象が、望まない場所で小さく起きていると考えればいい。

重要な性質が2つある。第一に、原因は電流ではなく電圧なので、負荷の大小と無関係に、電圧を加えているだけで発生する。第二に、電界の向きが反転しない直流では発生しない。直流送電のケーブルに誘電体損の心配がないのはこのためだ。

シース損 — 導体を囲んでいるがゆえの宿命

本題のシース損だ。金属シースは、ケーブルを機械的・化学的に守るための金属の筒で、電気を送る役目は持っていない。それなのに発熱するのは、シースが導体のまわりを囲んでいるからにほかならない。

導体に交流電流が流れると、そのまわりに交番磁束ができる。導体を囲む金属シースは、この磁束に貫かれる位置にある。磁束が変化すれば電圧が誘導される——変圧器の二次巻線とまったく同じ理屈で、シースには電圧が誘導され、電流が流れ、ジュール熱になる。これがシース損だ。ケーブルの長手方向にシースを流れる電流によるシース回路損と、シースの中を局所的に回る渦電流損に分けられる。

ここで効いてくるのがケーブルの構成だ。3心ケーブルなら、3相の電流の和は常にゼロなので、3本の導体がつくる磁界はケーブルの外側でほぼ打ち消し合い、シース損は無視できるほど小さい。問題になるのは、大容量送電で単心ケーブルを3条並べる場合だ。各ケーブルのシースは自分の導体と隣の相の磁束にさらされ、シース損が無視できなくなる。

そこで考え出されたのがクロスボンド接地だ。ケーブル線路のシースを区間ごとに絶縁接続し、3区間をひとまとまりとして、各相のシースを順に入れ替え(クロス)ながら接続していく。すると各区間で誘導される電圧の位相が120°ずつずれ、**3区間分を足し合わせた誘導電圧のベクトル和がほぼ零になる。電圧の合計が零なら、シースを循環する電流は流れず、シース損は大きく減る。** 「接地」という名前だが、目的は接地抵抗の低減ではなく、誘導電圧の打ち消しにある。

3つの損失は、ケーブルの「体温」を決めている

なぜ損失をここまで細かく仕分けるのか。それは、この3つの発熱の合計がケーブルの温度上昇を決め、絶縁体の許容温度から逆算される許容電流を左右するからだ。地中ケーブルは架空電線と違って熱がこもりやすく、発熱の見積もりがそのまま「何アンペアまで流せるか」の答えになる。損失の内訳を知ることは、ケーブルの体温管理の第一歩だ。

高圧CVケーブルを扱う現場でも、この見方は生きる。単心ケーブルを並べて布設するときのシースの接地の取り方が、単なる作法ではなく損失と発熱に直結した設計事項なのだと分かっていれば、施工図の指定の意味が読めるようになる。

冒頭の謎、電流を流していないはずのシースが熱くなる理由は。答え合わせは理解度チェックの問題でしてみよう。

出題者のワナ — ここで受験者を転ばせにくる

この論点は、知っているだけでは足をすくわれる。試験でよく仕掛けられる崩し方を、先に知っておこう。

  1. 誘電体損を「負荷電流に比例して増える」と思わせる

    なぜ引っかかる損失=電流によるジュール熱、というイメージが強く、3つの損失すべてが負荷の大きさで変わると思い込みやすい

    見破り方誘電体損の原因は電流ではなく電圧(交流電界)。電圧を加えていれば無負荷でも発生し、負荷電流の大小とは無関係、という切り分けを最初に確認する

  2. シース損を3心ケーブルの問題として出題する

    なぜ引っかかるシース損という言葉だけ覚えていると、どのケーブルでも同じように起きると思ってしまう。実際は3心ケーブルでは3相の磁界が打ち消し合い、シース損はほとんど問題にならない

    見破り方シース損が効いてくるのは単心ケーブルを3条並べる布設。だからこそ単心ケーブル向けの対策(クロスボンド接地)が存在する、と対策側から逆に思い出す

  3. クロスボンド接地を「接地抵抗を下げるための工夫」だと思わせる

    なぜ引っかかる「接地」という言葉から、感電防止や接地抵抗低減という保安目的を連想しやすい

    見破り方クロスボンドの目的はシースに誘導される電圧を3区間で打ち消し合わせ、シースを流れる電流=シース損を減らすこと。名前の「クロス(入れ替え)」が損失対策の本体だと押さえる

参考文献・出典

理解度チェック(5問)

このトピックの内容がどれくらい身についたか、5問で確認しよう。 内訳は基本2問・応用2問・ひっかけ1問。基本が解けたら、条件を足した応用と、本番で足をすくいにくるひっかけまで踏み込む。

/ 5 問正解

覚えておきたいポイント

  1. 電力ケーブルの損失は3つ。抵抗損(導体損)=導体を流れる負荷電流によるジュール熱、誘電体損=絶縁体が交流電界で発熱するもの、シース損=金属シースに誘導された電流によるジュール熱
  2. 誘電体損は電圧を加えているだけで発生し、負荷電流の大小と無関係。交流の電界の向きが反転を繰り返すことで絶縁体内部が発熱するもので、直流では発生しない
  3. シース損が起きるのは、導体電流のつくる交番磁束が導体を囲む金属シースを貫き、シースに電圧が誘導されて電流が流れるから。長手方向に流れるシース回路損と、シース内の渦電流損がある。3心ケーブルでは3相の磁界が打ち消し合うためほとんど問題にならず、単心ケーブルを並べる場合に問題になる
  4. 単心ケーブルのシース損対策がクロスボンド接地。シースを区間ごとに絶縁し、3区間で各相のシースを順に入れ替えて接続することで、誘導電圧のベクトル和をほぼ零にし、シースを循環する電流を抑える
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