電力ケーブルの導体が発熱するのは分かる。電流が抵抗を流れればジュール熱が出る——それは電線でもニクロム線でも同じだ。
だが地中送電の世界では、電流を流していないはずの場所が2つも発熱する。ひとつは絶縁体。電気を通さないための部材が、なぜか熱を持つ。もうひとつは金属シース。導体を包んで保護しているだけの金属の筒に、頼んでもいない電流が流れて熱になる。
電流の通り道ではない場所が、なぜ熱くなるのか。見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、ケーブルの断面図を「3種類の熱が生まれる場所の地図」として読めるようになっている。
電力ケーブルの損失は3つに整理される。発生する場所が、ケーブルの断面の内側から順に並んでいるのがポイントだ。
抵抗損 — 素直なジュール熱、ただし交流では少し増える
抵抗損(導体損)は、導体を流れる負荷電流によるジュール熱で、 そのものだ。3つの中では最も素直な損失だが、交流では表皮効果や近接効果によって電流が導体断面の一部に偏るため、実効的な抵抗が直流のときより大きくなる、という上乗せがある。
誘電体損 — 絶縁体が「電界にもまれて」発熱する
誘電体損は、絶縁体の内部で発生する。交流電圧がかかると、絶縁体内部の分子の電荷の偏りが電界の反転に合わせて向きを変えさせられ続け、その内部摩擦が熱になる。誘電加熱(電子レンジ)とまったく同じ現象が、望まない場所で小さく起きていると考えればいい。
重要な性質が2つある。第一に、原因は電流ではなく電圧なので、負荷の大小と無関係に、電圧を加えているだけで発生する。第二に、電界の向きが反転しない直流では発生しない。直流送電のケーブルに誘電体損の心配がないのはこのためだ。
シース損 — 導体を囲んでいるがゆえの宿命
本題のシース損だ。金属シースは、ケーブルを機械的・化学的に守るための金属の筒で、電気を送る役目は持っていない。それなのに発熱するのは、シースが導体のまわりを囲んでいるからにほかならない。
導体に交流電流が流れると、そのまわりに交番磁束ができる。導体を囲む金属シースは、この磁束に貫かれる位置にある。磁束が変化すれば電圧が誘導される——変圧器の二次巻線とまったく同じ理屈で、シースには電圧が誘導され、電流が流れ、ジュール熱になる。これがシース損だ。ケーブルの長手方向にシースを流れる電流によるシース回路損と、シースの中を局所的に回る渦電流損に分けられる。
ここで効いてくるのがケーブルの構成だ。3心ケーブルなら、3相の電流の和は常にゼロなので、3本の導体がつくる磁界はケーブルの外側でほぼ打ち消し合い、シース損は無視できるほど小さい。問題になるのは、大容量送電で単心ケーブルを3条並べる場合だ。各ケーブルのシースは自分の導体と隣の相の磁束にさらされ、シース損が無視できなくなる。
3つの損失は、ケーブルの「体温」を決めている
なぜ損失をここまで細かく仕分けるのか。それは、この3つの発熱の合計がケーブルの温度上昇を決め、絶縁体の許容温度から逆算される許容電流を左右するからだ。地中ケーブルは架空電線と違って熱がこもりやすく、発熱の見積もりがそのまま「何アンペアまで流せるか」の答えになる。損失の内訳を知ることは、ケーブルの体温管理の第一歩だ。
高圧CVケーブルを扱う現場でも、この見方は生きる。単心ケーブルを並べて布設するときのシースの接地の取り方が、単なる作法ではなく損失と発熱に直結した設計事項なのだと分かっていれば、施工図の指定の意味が読めるようになる。
冒頭の謎、電流を流していないはずのシースが熱くなる理由は。答え合わせは理解度チェックの問題でしてみよう。