試験対策は順調で、過去問も安定して合格点を超えている。当日、いつもどおり筆箱と電卓を鞄に入れ、腕時計をして会場に向かった。
このうち2つは、持ち込んだ時点で不正行為になりうる。どれか分かるだろうか。
知識では負けていないのに、当日のルールを知らないだけで失格になる人がいる。このトピックを読み終えるころには、自分が受ける方式で何を持っていけばいいかが、試験センターの原文どおりに分かるようになっている。
学科試験の中身は、ここまでの科目で扱ってきた。最後に扱うのは、知識とは別の失点だ。当日のルールを外すと、どれだけ勉強しても点にならない。
ここに書くことは、すべて電気技術者試験センターが公表している受験案内の原文で確認したものだけにしている。ネットの体験談ではなく、一次情報だ。
電卓は「不正行為」に分類されている
いちばん重い誤解から片付ける。電卓は使えない。
受験案内には「不正行為の具体的な内容」という項目があり、そこに次のように並んでいる。
1 監督員の指示に従わない場合 2 カンニング(カンニングペーパーの使用など)をした場合 3 電卓や電子機器を使用した場合 (携帯電話・スマートフォン・スマートウォッチ・イヤホン・パソコン・電子辞書・ICレコーダ等)
カンニングの次に書かれている。「使ってはいけない」ではなく「使ったら不正行為」という位置づけだ。
裏を返せば、電気工事士の計算問題は、電卓なしで解ける数値で作られているということでもある。 √3=1.73、√2=1.41 を覚え、桁の大きい計算は約分してから進める——この練習を、 日頃の演習から手計算でやっておけば、当日に困らない。
上期に「筆記方式」は無い(令和8年度・第一種)
もう1つ、思い込みで外しやすいところがある。方式だ。
令和8年度の第一種電気工事士試験・上期試験受験案内には、こう書かれている。
上期試験では、学科試験をCBT方式で行います。筆記方式(マークシート)は実施しません
一方、下期試験受験案内はこうだ。
学科試験は、CBT方式か筆記方式の選択制となります
| 期 | 学科試験の方式 |
|---|---|
| 上期 | CBT方式のみ(筆記方式は実施しない) |
| 下期 | CBT方式か筆記方式の選択制 |
年度・期によって扱いが変わる。前年と同じとも限らない。申し込む前に、必ずその期の受験案内で確認する。方式が違えば、次に述べる持ち物のルールも変わってくる。
CBT方式では、自分の鉛筆も腕時計も使えない
ここが実務的にいちばん効く。CBT方式と筆記方式で、持ち物のルールがほぼ正反対になる。
CBT方式の受験案内には、こう書かれている。
筆記用具[ボールペン(黒)とメモ用紙]は、試験会場で貸出します。 持参の筆記用具や時計等は使用できません。
そして不正行為の項目には、こうもある。
5 試験室へ会場で貸出されたボールペン(黒)とメモ用紙、ログイン情報と公的証明書以外の私物を持ち込みした場合
持ち込むこと自体が不正行為という書き方だ。使わなければいい、ではない。
では何なら持ち込めるのか。「使用できるもの(学科試験CBT方式)」に挙がっているのは2つだけだ。
- 眼鏡(ルーペを使いたい場合は、受験申込み前に援助措置の申請が必要)
- 水が入った無色透明なペットボトル(ラベルはすべて剥がし、キャップを完全に閉める。1人1本まで、容量1000ml以下)
複線図や計算のメモを、鉛筆ではなくボールペンで書く——消せないので、 書き直しではなく書き足す前提でメモを取る練習を、直前に一度しておくといい。
なお技能試験は筆記方式と同じで、HBの鉛筆またはHBの芯のシャープペンシル、プラスチック消しゴム、鉛筆削り、定規、色鉛筆・色ボールペン・蛍光ペン・マジックを持参する。複線図は問題用紙の余白か、当日配布される保護板に描く。
全問2点だから、解く順序で差がつく
合格基準は原文でこうなっている。
学科試験における合格基準点は、60点とする。 技能試験における合格基準は、作品に欠陥がないこととする。
学科試験は50問×2点=100点。試験時間は140分、出題は一般問題40問程度・配線図問題10問程度だ。
ここで大事なのは、どの問題も配点が同じ2点だという点だ。5分粘って解いた計算問題も、3秒で答えた法令問題も、取れば同じ2点になる。
- 法令・図記号・鑑別 … 覚えていれば即答できる。ここを先に回収する
- 配線図 … 1枚の図面を10問で共有するので、図を1回読み込めばまとめて片付く
- 計算 … 最後に、残った時間を充てる
60点=50問中30問で届く。計算問題に粘って時間を溶かし、後半の暗記問題を落とすのが いちばんもったいない落ち方だ。分からない問題は飛ばして、必ず一周する。
1問あたりの単純平均は2.8分だが、実際には即答できる問題で時間を貯めて、計算と見直しに回す配分になる。CBT方式なら、後で見直したい問題にフラグを立てておける。
終わったあとの見え方も、方式で違う
細かいが、知っておくと落ち着く違いがある。
CBT方式では、試験終了後に画面へ得点が表示される(合否は表示されない)。筆記方式のように、ホームページで公表される解答を見て自己採点する、という形とは違う。
つまりCBT方式なら、帰り道の時点で自分の点数が分かる。技能試験の準備にすぐ移れるかどうかの判断が、その日のうちにつく。
知識の外側にある失点を、先に潰しておく
ここまで読めば、冒頭の問いに答えられる。筆箱・電卓・腕時計のうち、電卓は方式を問わず不正行為、腕時計と筆記用具はCBT方式では持ち込めない。3つのうち2つが引っかかる。
今日試せることとして、自分が申し込む期の受験案内を1回だけ開いて、「持参するもの」「使用できるもの」の2項目を読んでおくといい。5分で終わるし、この5分を惜しんだせいで140分が無駄になることがある。
試験センターがこれほど細かく持ち物を規定しているのは、CBT方式が会場も日時も受験者ごとにばらばらな仕組みだからだ。全員が同じ部屋で同じ問題を解く筆記方式と違い、公平性を担保する手段が「持ち込みを絞る」ことに寄っている。ルールの細かさは意地悪ではなく、その方式を成立させるための条件になっている。