運転中の油入変圧器の内部で、何かが起きていないかを知りたい。だが変圧器は密閉されていて、蓋を開ければ絶縁油が空気に触れて吸湿し、かえって絶縁を傷める。停電させて分解点検するのは大仕事だ。
ところが検査員は、変圧器から油をわずかに採取するだけで、「内部で放電が起きている疑いがある」とまで言い当てることがある。開けてもいないのに、なぜ中の出来事が分かるのか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、油の1本が内部事故の検出器になる仕組みを説明できるようになっている。
油入変圧器の中は、絶縁油で満たされている。役割は2つ。巻線と巻線、巻線と鉄心の間を絶縁することと、内部で発生する熱を放熱器へ運んで冷却することだ。紙とともに変圧器の絶縁の主役でありながら、油は液体だから循環して熱も運べる。この一人二役が、油入変圧器が長く使われ続けてきた理由でもある。
だが油は劣化する。運転中の油は常に熱にさらされ、わずかに触れる酸素と反応して酸化が進む。酸化が進むと酸性の物質やスラッジ(泥状の析出物)が生じ、絶縁性能や冷却性能が落ちていく。さらに水分が混入すると、絶縁性能は大きく低下する。だから絶縁油は、定期的に「健康診断」を受ける。
油の健康診断 — 3つの試験
絶縁油の状態そのものを調べる試験は、次の3つが柱になる(試験方法はJIS C 2101に定められている)。
| 試験 | 何を測るか | 何が分かるか |
|---|---|---|
| 絶縁破壊電圧試験 | 油中の電極間で電圧を上げ、絶縁が破壊する電圧(kV) | 絶縁性能そのもの。劣化・水分混入で低下する |
| 酸価度(全酸価)試験 | 油中の酸性成分を中和するのに必要な水酸化カリウムの量(mgKOH/g) | 酸化劣化の進み具合 |
| 水分測定 | 油に含まれる水分量 | 絶縁低下の主要因である水分の混入 |
3つの試験は、それぞれ別の軸から油を見ている。絶縁破壊電圧試験は「電気的に、いま何kVまで耐えられるか」という結果を直接測る。酸価度試験は「化学的に、酸化劣化がどこまで進んだか」という原因側を測る。水分測定は、絶縁破壊電圧を下げる最大の犯人を名指しで探す。結果と原因の両面から挟み撃ちにする構図だ。なお、良否を判定する具体的な数値基準は規格・規程類に定められているので、実務ではそちらを確認する。試験で問われるのは数値の暗記よりも、「どの試験が何を見ているか」の仕分けである。
4つ目の試験だけ、見ているものが違う — 油中ガス分析
ここまでの3つは「油そのものの健康状態」を調べる試験だった。4つ目の油中ガス分析は、まったく別のものを見ている。油を証人として、変圧器内部の事故の痕跡を読む試験だ。
絶縁油は炭化水素でできている。内部で部分放電や局部過熱といった異常が起きると、その熱と放電のエネルギーで油の分子が分解され、水素・メタン・エタン・エチレン・アセチレン・一酸化炭素などのガスが生じる。生じたガスはその場で消えず、油に溶け込んで蓄積していく。
だから油中ガス分析は、運転を止めずに実施できる予防保全の切り札として使われている。兆候の段階で異常をつかめれば、計画的に停止して手当てができる。突然の内部事故で変圧器を失い、長時間の停電を招く事態と比べれば、油を1本採る手間はあまりに安い。
仲間に見えて仲間でないもの — 真空度測定
試験では、絶縁油の劣化診断の試験項目を並べたうえで、「直接関係のないもの」を選ばせる出題がある。そこに混ぜ込まれる代表が真空度測定だ。真空度が問題になるのは、真空遮断器(VCB)の真空バルブのように「真空そのものを絶縁に使う機器」であって、油入変圧器の絶縁油とは何の関係もない。同じ受電設備の保守という大きなくくりで記憶していると引っかかる。絶縁油の診断は、絶縁破壊電圧・酸価・水分・油中ガスという「油そのものとその中身」を見る試験で構成される、と線を引いておけば揺らがない。
油の診断票を「結果・原因・痕跡」の3列で読めるようになる
4つの試験を丸暗記の羅列として持つのではなく、絶縁破壊電圧=絶縁性能という結果、酸価・水分=劣化の原因、油中ガス=内部異常の痕跡、という3列で持っておくと、どの試験名を問われても役割から答えを組み立て直せる。
今日試せることとして、職場や取引先で変圧器の保守点検報告書を見る機会があれば、絶縁破壊電圧・全酸価・油中ガス分析の欄を探してみるといい。並んでいる項目が、この3列のどれに当たるかを仕分けてみると、報告書が「油の健康診断書と内部事故の検出器の合冊」として読めるようになる。
変圧器は据え付けたら数十年使う機器で、太陽光や蓄電池の普及で受変電設備が増えるほど、止めずに診断できる技術の価値は上がっていく。油中ガス分析の「分解しなければ分からないはずの情報を、分解せずに取り出す」という発想は、設備診断という分野全体を貫く考え方の代表例でもある。
冒頭の謎、開けてもいない変圧器の内部の放電がなぜ分かるのか。答え合わせは理解度チェックの問題でしてみよう。