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自家用電気工作物の検査方法 ・ 9 / 9

絶縁油の劣化診断 — 油を1本抜くだけで、変圧器の中が見える

読み終えると、こうなる

変圧器から採った1本の油が、絶縁の健康診断書と内部事故の検出器を兼ねていることが見えるようになる。

  • 絶縁破壊電圧試験・酸価度(全酸価)試験・水分測定・油中ガス分析を、それぞれ何を見ている試験かで仕分けられる
  • 油中ガス分析が、変圧器を分解せずに内部の放電・過熱を推定できる理由を説明できる
  • 『真空度測定』が絶縁油の劣化診断の仲間に混ざっていたら、無関係だと見抜ける
考えてみよう

運転中の油入変圧器の内部で、何かが起きていないかを知りたい。だが変圧器は密閉されていて、蓋を開ければ絶縁油が空気に触れて吸湿し、かえって絶縁を傷める。停電させて分解点検するのは大仕事だ。

ところが検査員は、変圧器から油をわずかに採取するだけで、「内部で放電が起きている疑いがある」とまで言い当てることがある。開けてもいないのに、なぜ中の出来事が分かるのか。

見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、油の1本が内部事故の検出器になる仕組みを説明できるようになっている。

油入変圧器の中は、絶縁油で満たされている。役割は2つ。巻線と巻線、巻線と鉄心の間を絶縁することと、内部で発生する熱を放熱器へ運んで冷却することだ。紙とともに変圧器の絶縁の主役でありながら、油は液体だから循環して熱も運べる。この一人二役が、油入変圧器が長く使われ続けてきた理由でもある。

だが油は劣化する。運転中の油は常に熱にさらされ、わずかに触れる酸素と反応して酸化が進む。酸化が進むと酸性の物質やスラッジ(泥状の析出物)が生じ、絶縁性能や冷却性能が落ちていく。さらに水分が混入すると、絶縁性能は大きく低下する。だから絶縁油は、定期的に「健康診断」を受ける。

油の健康診断 — 3つの試験

絶縁油の状態そのものを調べる試験は、次の3つが柱になる(試験方法はJIS C 2101に定められている)。

試験何を測るか何が分かるか
絶縁破壊電圧試験油中の電極間で電圧を上げ、絶縁が破壊する電圧(kV)絶縁性能そのもの。劣化・水分混入で低下する
酸価度(全酸価)試験油中の酸性成分を中和するのに必要な水酸化カリウムの量(mgKOH/g)酸化劣化の進み具合
水分測定油に含まれる水分量絶縁低下の主要因である水分の混入

3つの試験は、それぞれ別の軸から油を見ている。絶縁破壊電圧試験は「電気的に、いま何kVまで耐えられるか」という結果を直接測る。酸価度試験は「化学的に、酸化劣化がどこまで進んだか」という原因側を測る。水分測定は、絶縁破壊電圧を下げる最大の犯人を名指しで探す。結果と原因の両面から挟み撃ちにする構図だ。なお、良否を判定する具体的な数値基準は規格・規程類に定められているので、実務ではそちらを確認する。試験で問われるのは数値の暗記よりも、「どの試験が何を見ているか」の仕分けである。

4つ目の試験だけ、見ているものが違う — 油中ガス分析

ここまでの3つは「油そのものの健康状態」を調べる試験だった。4つ目の油中ガス分析は、まったく別のものを見ている。油を証人として、変圧器内部の事故の痕跡を読む試験だ。

絶縁油は炭化水素でできている。内部で部分放電や局部過熱といった異常が起きると、その熱と放電のエネルギーで油の分子が分解され、水素・メタン・エタン・エチレン・アセチレン・一酸化炭素などのガスが生じる。生じたガスはその場で消えず、油に溶け込んで蓄積していく。

油中ガス分析が内部を推定できる理由 内部で部分放電・局部過熱が起きる 熱・放電のエネルギー 絶縁油(炭化水素)が分解する 水素・メタン・アセチレン等が 油に溶けて蓄積する 採油して分析 ガスの種類と量から 異常の種類・程度を推定する 変圧器を開けずに、油が内部の記録を運んでくる 油中ガス分析の考え方(自作の概念図)。内部異常の痕跡がガスとして油に残るため、採油だけで内部を推定できる
ここに、この診断の驚きがある。**内部の放電や過熱は、本来なら変圧器を止めて分解しなければ確かめられない。だが異常が起きれば必ず油が分解されてガスが残る。つまり油は、内部で起きた出来事を記録し続けている。** 採油して溶存ガスを分析すれば、どんなガスが、どれだけ溶けているかから、異常の種類(放電か過熱か)と程度を、変圧器を開けずに推定できる。ガスの種類が手がかりになるのは、油の分解のされ方が温度によって違うからだ。たとえばアセチレンは、アーク放電のようなきわめて高い温度で油が分解したときに生じるガスとして知られ、検出されれば内部で激しい放電が起きた疑いが強まる。

だから油中ガス分析は、運転を止めずに実施できる予防保全の切り札として使われている。兆候の段階で異常をつかめれば、計画的に停止して手当てができる。突然の内部事故で変圧器を失い、長時間の停電を招く事態と比べれば、油を1本採る手間はあまりに安い。

仲間に見えて仲間でないもの — 真空度測定

試験では、絶縁油の劣化診断の試験項目を並べたうえで、「直接関係のないもの」を選ばせる出題がある。そこに混ぜ込まれる代表が真空度測定だ。真空度が問題になるのは、真空遮断器(VCB)の真空バルブのように「真空そのものを絶縁に使う機器」であって、油入変圧器の絶縁油とは何の関係もない。同じ受電設備の保守という大きなくくりで記憶していると引っかかる。絶縁油の診断は、絶縁破壊電圧・酸価・水分・油中ガスという「油そのものとその中身」を見る試験で構成される、と線を引いておけば揺らがない。

油の診断票を「結果・原因・痕跡」の3列で読めるようになる

4つの試験を丸暗記の羅列として持つのではなく、絶縁破壊電圧=絶縁性能という結果、酸価・水分=劣化の原因、油中ガス=内部異常の痕跡、という3列で持っておくと、どの試験名を問われても役割から答えを組み立て直せる。

今日試せることとして、職場や取引先で変圧器の保守点検報告書を見る機会があれば、絶縁破壊電圧・全酸価・油中ガス分析の欄を探してみるといい。並んでいる項目が、この3列のどれに当たるかを仕分けてみると、報告書が「油の健康診断書と内部事故の検出器の合冊」として読めるようになる。

変圧器は据え付けたら数十年使う機器で、太陽光や蓄電池の普及で受変電設備が増えるほど、止めずに診断できる技術の価値は上がっていく。油中ガス分析の「分解しなければ分からないはずの情報を、分解せずに取り出す」という発想は、設備診断という分野全体を貫く考え方の代表例でもある。

冒頭の謎、開けてもいない変圧器の内部の放電がなぜ分かるのか。答え合わせは理解度チェックの問題でしてみよう。

出題者のワナ — ここで受験者を転ばせにくる

この論点は、知っているだけでは足をすくわれる。試験でよく仕掛けられる崩し方を、先に知っておこう。

  1. 絶縁油の劣化診断の試験項目に『真空度測定』を混ぜ込む

    なぜ引っかかる変圧器の周りには真空遮断器(VCB)が並んでおり、『受電設備の保守で測るもの』というくくりで記憶していると、真空度も油の診断の仲間に見えてしまう

    見破り方測る相手で仕分ける。真空度が問題になるのは真空遮断器の真空バルブのような『真空を絶縁に使う機器』であり、油入変圧器の絶縁油とは別物。絶縁油の診断は、絶縁破壊電圧・酸価・水分・油中ガスという『油そのものの性質』を見る試験で構成される

  2. 油中ガス分析を『油の中の空気(酸素)の量を測る試験』だと思わせる

    なぜ引っかかる『ガス』という言葉から、油に溶けた空気や酸素の量を測る試験だと連想しやすい

    見破り方見ているのは空気ではなく、油が熱や放電で分解されて生じた水素・メタン・アセチレンなどの分解生成ガス。内部で異常が起きたことの痕跡を読む試験だと確認する

  3. 酸価度試験と絶縁破壊電圧試験の役割を入れ替える

    なぜ引っかかるどちらも『油の劣化を調べる試験』とだけ覚えていると、何を測っているかを問われたときに区別できない

    見破り方酸価度(全酸価)は酸化劣化の進み具合を化学的に測る(単位はmgKOH/g)。絶縁破壊電圧は絶縁性能そのものを電気的に測る(単位はkV)。化学の診断と電気の診断、と測り方の軸で区別する

参考文献・出典

理解度チェック(5問)

このトピックの内容がどれくらい身についたか、5問で確認しよう。 内訳は基本2問・応用2問・ひっかけ1問。基本が解けたら、条件を足した応用と、本番で足をすくいにくるひっかけまで踏み込む。

/ 5 問正解

覚えておきたいポイント

  1. 変圧器の絶縁油は『絶縁』と『冷却』の2つの役割を持つ。熱・酸素・水分によって酸化劣化し、絶縁性能が落ちていく
  2. 絶縁破壊電圧試験は、油が何kVまで耐えられるかを直接測る試験。劣化や水分の混入で破壊電圧は低下する
  3. 酸価度(全酸価)試験は、油の酸化劣化の進み具合を、油中の酸性成分を中和するのに必要な水酸化カリウムの量(mgKOH/g)で表す試験
  4. 油中ガス分析は、内部の部分放電や局部過熱で絶縁油が分解して生じる水素・メタン・アセチレンなどの溶存ガスを分析し、分解せずに内部異常の種類と程度を推定する診断
  5. 真空度測定は真空遮断器(VCB)の真空バルブなどの話であり、絶縁油の劣化診断とは無関係
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