工場の分電盤で、電線どうしが接触する短絡事故が起きた。普段は20Aほどしか流れない回路に、その瞬間だけ推定2000A近い電流が流れた。ところがキュービクルの遮断器は焼き付きもせず、涼しい顔で回路を切った。
この遮断器は、まだ起きてもいない事故の電流の大きさを、なぜ前もって知っていたかのように振る舞えたのか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、この2000Aという数字を、自分で計算して出せるようになっている。これがこの科目の最後の計算だ。
ここまで見てきた三相の等価回路・Y-Δ変換・単相3線式の断線は、すべて「今、正常に流れている電流」を計算する話だった。ここでは視点を変えて、「もし事故(短絡)が起きたら、どれだけの電流が流れるか」を計算する。二種にはまったく存在しない、一種で完全に新規の論点だ。
%インピーダンスという「電流を抑える壁の高さ」
変圧器の銘板を見ると、「%Z=5%」のような表示がある。これは、定格電流Inを流したときにインピーダンスZで生じる電圧降下(Z・In)が、定格電圧Enの何%にあたるかを表した数字だ。
%Z = (Z・In / En) × 100 = (Z・S / V²) × 100(S: 基準容量、V: 線間電圧)
この数字を「電流を抑える壁の高さ」だとイメージするとわかりやすい。正常運転時は、この壁のおかげでインピーダンスが電流を適度に制限している。もし短絡事故が起きて、壁の反対側の電圧がまるごとインピーダンスにかかる状態になったら――その壁の高さ(%Z)がそのまま、事故電流の大きさを決める。
三相短絡電流と短絡容量
短絡が起きると、そこには本来の定格電圧が全部インピーダンスにかかる状態になる。この条件を%Zの定義に当てはめると、短絡電流Isは次の式で求まる。
Is = In × (100 / %Z)
まず基準容量Sと線間電圧Vから定格電流を求める。In = S / (√3・V)
たとえば基準容量S=1000kVA、線間電圧V=6.6kV、合成%Z=5%の回路なら、In=1,000,000÷(√3×6,600)≒87.5A。短絡電流はIs=87.5×(100/5)=87.5×20=1750A。短絡容量はPs=√3・V・Is、あるいはPs=S×(100/%Z)から、Ps=1,000×20=20,000kVA=20MVAと求まる。
合成するときは基準容量をそろえる
現場の回路は、電源側の%Zと変圧器の%Zなど、複数の区間が直列につながっている。%法の最大の利点は、この複数の%Zを単純な足し算だけで合成できることにある。ただし1つだけ条件があり、それぞれの%Zが同じ基準容量で示されていなければならない。
先ほどの例(合成%Z=5%)とは別に、この電源側2%+変圧器側4%の組み合わせを合成した%Z=4.2%を使って、実際に短絡電流まで計算し切ってみる。基準容量を1,000kVAにそろえたので、線間電圧をV=6.6kVとすると、In=1,000,000÷(√3×6,600)≒87.5A。短絡電流はIs=87.5×(100/4.2)≒2083A、短絡容量はPs=1,000×(100/4.2)≒23,810kVA≒23.8MVAとなる。
もしここで基準容量の換算を省き、2%+4%=6%のまま計算してしまうとどうなるか。Is=87.5×(100/6)≒1458A、Ps≒16,670kVA≒16.7MVAという、実際より小さい値が出てしまう。短絡電流を実際より小さく見積もるということは、選ぶべき遮断器の定格遮断容量も本来より小さいもので足りると誤判断することにつながる。もし本当にその小さい容量の遮断器を選んでしまえば、実際の短絡事故で遮断器の能力を超える電流が流れ、遮断器自体が壊れて事故を拡大させかねない。基準容量をそろえるという1手間は、単なる計算上の作法ではなく、機器選定の安全側・危険側を分ける手順そのものだ。
%Zという指標がなぜこう定義されているのかも、Ohmの法則から見れば自然だ。定格電流Inを流したときにインピーダンスZで生じる電圧降下はZ・In。これが定格相電圧Enに対してどれくらいの割合かを百分率で表したものが%Z=(Z・In/En)×100にほかならない。「電圧降下の大きさ」という具体的な量を、機器の規模(基準容量)によらず比較できる「割合」の形に変換しているのが、この定義の狙いだ。
受け止める側の数字 ― 遮断器の定格遮断容量
ここまでで、事故のときに襲ってくる電流Isと短絡容量Psが計算できた。では、それを受け止める側の遮断器の実力は、どんな数字で表されているのか。カタログや銘板には「定格遮断電流12.5kA」のような表示があり、そこから次の式で定格遮断容量が求まる。
定格遮断容量 [MV・A] = √3 × 定格電圧 [kV] × 定格遮断電流 [kA]
新しい公式に見えるが、正体はこの科目で何度も使ってきた三相の皮相電力S=√3・V・Iそのものだ。Vに遮断器の定格電圧、Iに定格遮断電流を代入しただけの定義式であり、暗記し直すものは何もない。皮相電力なので単位はMV・A(メガボルトアンペア)になる。有効電力のMWではない――単位を問う形の出題では、ここが引っかけどころになる。
数値で確かめる。定格電圧7.2kV・定格遮断電流12.5kAの遮断器なら、√3×7.2×12.5≒156MV・A。ここで代入する電圧は、回路の公称電圧6.6kVではなく、遮断器という機器の定格電圧7.2kVである点に注意したい。定格遮断容量は機器側の実力を表す数字だから、機器の定格値だけで組み立てる。
%Zの計算とのつながりはこうだ。%Zから求めた短絡電流Is(今回の例なら1750A=1.75kA)と、遮断器の定格遮断電流(12.5kA)を見比べて、事故電流を上回る実力の機器を選ぶ。実務の仕様書では遮断器は定格遮断電流(kA)で表記するのが主流で、遮断容量(MV・A)はそこからの換算値として扱われる。攻める側の計算(Is・Ps)と受ける側の定格(定格遮断電流・定格遮断容量)が同じ√3・V・Iという1つの式の上で比べられる――これが%インピーダンス法の出口だ。
遮断器選定の根拠を、自分の手で確認できるようになる
キュービクルに設置される遮断器の定格遮断容量は、この計算で求めた短絡容量Psを上回るように選ばれている。今日試せることとして、変圧器の銘板や仕様書に「%Z」という表示を見かけたら、その横に必ず基準容量(kVA)と定格電圧が書かれていることを確認してみるといい。この2つがそろって初めて、%Zという数字は意味を持つ。
%インピーダンス法は、一種電気工事士が扱うキュービクルの設計思想そのものだ。設備を作る人は、事故がまだ起きていない段階で、事故が起きたときの電流の桁をこの式で見積もり、それに耐える機器をあらかじめ選んでおく。冒頭の遮断器が涼しい顔をしていられたのは、偶然でも過剰性能でもなく、この計算のうえに成り立った当然の結果だった。
これで基礎理論9本は終わりだ。冒頭の2000Aがどこから出てきた数字なのか、答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。