古い工場の配電盤に、アナログの電流計が埋め込まれている。銘板は色あせ、取扱説明書はとうに失われた。それでも目盛板の隅には、小さな記号が2つ、はっきり残っている。1つはジグザグのコイルに鉄片を組み合わせた絵。もう1つは⊥のような印。
同行したベテランはそれを一目見て言った。「これは交流用。それと、盤に立てて使う前提の計器だね。寝かせて使うと狂うよ」。
なぜ記号2つで、測れる電気の種類から正しい置き方まで分かるのか。しかも一目で「交流用」と言い切れるのはなぜか。見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、同じ目盛板を同じように読めるようになっている。
種明かしを先に少しだけすると、目盛板の記号は性能の等級表示でも型番でもない。針を動かしている仕組みの「似顔絵」だ。だから記号が読めれば、その計器がどんな原理で動き、どんな電気なら測れて、どう置くべきかまで芋づる式に分かる。
可動コイル形 — 磁石とコイル、直流専用の理由
永久磁石の磁界の中にコイルを置き、測定したい電流を流す。電流が磁界から受ける力でコイルが回り、針が振れる。これが可動コイル形だ。記号には馬蹄形の永久磁石とコイルがそのまま描かれている。
力の向きは電流の向きで決まる。ここが運命の分かれ目だ。直流なら針は一方向に振れて止まる。ところが交流では電流の向きが1秒間に100回以上反転するから、針は右へ左へ引っ張られ、慣性で追従できず、結局は平均値——正弦波交流なら0——を指して動かない。可動コイル形が直流専用なのは、性能が低いからではなく、原理の帰結だ。指示値は平均値で、わずかな電流でも針が振れる高感度が持ち味になる。
可動鉄片形 — 電流が反転しても、力は反転しない
ではコイルの中に、磁石ではなく軟鉄片を置いたらどうなるか。コイルに電流が流れると磁界ができ、鉄片は磁化されて動く。交流で電流の向きが反転すると、コイルの磁界も反転するが——鉄片の磁化も同時に反転する。磁界と磁化が同時に裏返るから、鉄片に働く力の向きは変わらない。
つまり可動鉄片形は交流でそのまま使える。電流の2乗に比例した力で動くため指示値は実効値になり、構造が単純で丈夫、安価。だから配電盤に並ぶ交流の電流計・電圧計はほとんどこれだ。
ここで一つ、言い過ぎないように区切っておきたい。可動鉄片形の記号が語っているのは「交流でそのまま使える」ことであって、「直流だと針が動かない」ことではない。日本電気技術者協会の解説も、可動鉄片形を「交直両用の計器である」と説明している。それでも実物は交流の配電盤用として作られ、試験でも交流回路用の計器として問われる。「交流で使える」と「直流では絶対に測れない」は別の主張——ここを混ぜないでおくと、選択肢の言い回しに揺さぶられなくなる。逆に可動コイル形のほうは、力の向きが電流の向きで決まるという原理そのものから直流専用が導かれる。同じ「専用」でも、根拠の強さが違う。
誘導形と整流形 — 円板を回す原理と、折衷の原理
誘導形は、交流が作る移動磁界でアルミ円板に渦電流を起こし、その相互作用で円板を回し続ける原理だ。回転の速さは電力に比例するから、回転数を数えれば電力量(kWh)が積算できる。住宅の引込口で円板がゆっくり回っていた、あの電力量計の中身がこれだ。移動磁界は交流でしか作れないので、交流専用になる。
整流形は「可動コイル形の高感度を交流でも使いたい」という折衷案で、整流器(ダイオード)で交流を直流に直してから可動コイル形の機構で測る。記号もそのとおり、2つの記号の組合せで表される。ここは読み違えやすいところで、JIS C 1102-1:2011の表3-1では整流器の記号(F-22)は単独では「整流器」を指すにすぎず、注e)が「F-18,F-19,F-20,F-21又はF-22の記号が計器の記号,例えば,F-1と組み合わされているときは,そのデバイスが組み込まれている」と定めている。F-1は永久磁石可動コイル形計器のこと。ダイオードの絵だけを見て「整流形計器」と読んではいけない、ということだ。
置き方の記号 — 重力も、計器の部品のひとつ
アナログ計器の可動部は、細い針とうずまきバネのわずかな釣り合いの上で動いている。目盛板を立てるか寝かせるかで重力のかかり方が変わると、この釣り合いがずれて読み値に誤差が出る。だから目盛板には、設計時に想定した置き方も記号で描かれている。⊥のような形なら鉛直に立てて、コの字を下に向けた形なら水平に置いて、∠に角度が添えてあればその角度に傾けて使う。
あわせて、どの回路で使えるかも記号になっている。実線と破線の組は直流、波線は交流、波線と実線の組は交直両用だ。
この2つ——基準姿勢と、使える回路の種類——は、JIS C 1102-1:2011が8.2.1で「目盛板上又は使用中に見える部分」に表示するよう定めている項目にあたる(単位や階級指数も同じ扱いだ)。一方、動作原理の記号は8.2.2の側で、こちらは「目盛板上又は外箱上の任意の箇所」でよいとされている。原理の絵が目盛板に見当たらなければ、外箱の側面や背面に回っていることがある——探す場所を知っているだけで、現場での判定は速くなる。
試験では、動作原理の記号と置き方の記号が2つ並んだ図を見せて「この計器の説明として正しいものは」と聞いてくる。左の絵で原理(=直流か交流か)を、右の印で置き方を読む。2段構えで読めば、選択肢の入れ替えには引っかからない。
目盛の間隔が語ること — 均等に振れない目盛の理由
記号だけが目盛板の情報ではない。目盛の刻み方そのものも、その計器が何を測っているかを語っている。しかもこちらは、隅の小さな記号よりずっと大きな面積で目に飛び込んでくる。
アナログ式の絶縁抵抗計を思い出してほしい。MΩの目盛は、左端が∞で右端が0だ。間に並ぶのは 100・50・20・10・5・2・1・0.5・0.2・0.1・0.05 ——間隔は明らかに揃っていない。共立電気計器はこれを「アナログ式絶縁抵抗計の目盛は対数表示になっています」と明記し、理由をこう説明している。1000倍もの広い範囲の絶縁抵抗値を測るためで、指針が0.1〜1〜10〜100のどの位置にあっても同じ細かさで測定値を読み取れるようにするためだ、と。
この計器が背負っている範囲を思えば、その選択は納得がいく。絶縁抵抗計は、共立電気計器の説明によれば「内部で定格電圧(高電圧)を発生させ、測定物に電圧を印加します。オームの法則により、そこに流れる電流を測定することで抵抗値を求めています」という計器だ。読みたい値は、合否を分ける0.1MΩ台から、健全な回路なら軽く超えていく100MΩ超まで。この幅を1本の目盛板に載せなければならない。仮に等分に刻めば、0.1MΩも100MΩも同じ物差しで読むことになり、いちばん見たい低い側がつぶれてしまう。桁ごとに同じ細かさで読めるようにした結果が、あの不揃いな刻みだ。
対数目盛には、もうひとつ避けられない事情がある。∞は「どこか特定の目盛位置」に置ける数ではない。だから∞は目盛の端に置かれ、そこから0に向かって、高抵抗側の値から順に刻まれていく。そして面白いのは、同じ目盛板の上に載っている電圧目盛(0・100・200・300・400・500・600V)が、きれいな等間隔だということだ。1枚の板の上で、電圧は均等、抵抗だけが不揃い。目盛の形は、計器の見た目の都合ではなく「何をどう測っているか」に従っている。
両端が何を意味するかも押さえておきたい。指針が∞側にあるのは電流がほとんど流れない状態=絶縁が良い状態、0側は電流が流れ放題=絶縁がない状態だ。だからアナログ式絶縁抵抗計は、無通電のとき針が∞を指す。共立電気計器の測定手順も、本体の電源を切った状態でメータゼロ調整器をドライバーで回し、指針を∞目盛に正しく合わせるよう定めている。測定前の確認が「ライン測定コードとアース測定コードの先端を短絡してほぼ0MΩ、開放して∞」の2点なのも、要は目盛の両端を実際になぞってみる作業だ。
回路計(テスタ)と並べると、この理屈がもう一段はっきりする。三和電気計器のアナログ・マルチテスタCP8Dの目盛板では、抵抗(Ω・kΩ)の目盛は右端が0・左端が∞の不等間隔で、kΩ目盛は右から0・1k・3k・5k・10k・20k・50k・100k・500k・1M・∞と並ぶ。ところが同じ目盛板のDCV・ACV・DCmAの目盛は、左端が0の等間隔だ。ここでも不揃いなのは抵抗の目盛だけになっている。確度の書き方まで目盛の形に従っていて、CP8Dの仕様ではDCVが最大目盛値の±3%以内、ACVが±4%以内、DCmAが±3.5%以内なのに対し、Ωだけは「目盛長さの±3.5%以内」と別建てで規定されている。等間隔でない目盛は、「最大目盛値の何%」という言い方では誤差を表せないからだ。
0Ω調整をどちら側で行うかも、目盛の向きが決めている。テスタで抵抗を測る前に赤と黒のテストピンをショートして針を合わせるのは、Ω目盛の0位置=目盛板の右端だ(メータの機械的な0位置調整で目盛板の左端に合わせる操作とは別物)。学科試験でも、アナログ式回路計の抵抗測定の手順として「赤と黒の測定端子(テストリード)を開放し、指針が0Ωになるよう調整する」という一文が正誤判定の材料に使われる。開放すれば針は∞側だから、これは誤りだ——目盛の両端が頭に入っていれば、手順を丸暗記していなくても切れる。
零点調整の作法は計器ごとに違う。テスタの抵抗レンジは端子を短絡して0Ωに合わせ、アナログ絶縁抵抗計は無通電のまま指針を∞に合わせる。接地抵抗計についても、「測定の前に端子間を開放して測定し、指示計の零点の調整をする」という誤った手順が、正誤判定の材料として繰り返し置かれる。そしてその接地抵抗計の目盛板は、絶縁抵抗計とはまるで顔つきが違う。共立電気計器のアナログ接地抵抗計MODEL 4102Aでは、Ω目盛は左端0・右端12の等間隔で、∞の表示がない。測定範囲は接地抵抗0〜12Ω/0〜120Ω/0〜1200Ω、接地電圧0〜30V(AC)で、確度はいずれも最大目盛値の±3%だ。「抵抗を測る計器」とひとくくりにできないことが、目盛の並びだけで見て取れる。
単位ではなく、両端と間隔で見分ける
学科試験は、記号だけでなくこの目盛の形そのものも問うてくる。目盛板の図を並べ、「アナログ式絶縁抵抗計の表示部として正しいものはどれか」と選ばせる形式だ。
厄介なのは、並んだ図がすべて単位をMΩと書いていることだ。中身は別物で、0から右へ等間隔に進んで∞のない目盛板や、中央が1で両端にLEADとLAGの文字が入った力率計の目盛板が、単位だけを借りて混ざってくる。単位で見分けようとした瞬間に、手がかりは消える。
見るべきは3点だ。左端に∞があるか。右端が0か。刻みが不等間隔か。この3つを同時に満たす図は、1つしかない。
何ボルトで測るかは、目盛板の外側で決まる
目盛が読めても、そもそも何ボルトをかけて測るかを選び違えれば、出てきた数字は意味を持たない。絶縁抵抗計には定格測定電圧という区分がある。JIS C 1302:2018は箇条5で「定格測定電圧は,直流電圧で,25 V,50 V,100 V,125 V,250 V,500 V,又は1 000 Vのいずれかとする」と定めていて、機種ごとにこのうち1つ、あるいは数レンジが載っている。共立電気計器の解説では、この定格測定電圧によって低圧用(1000Vまで)と高圧用(1000Vを超えるもの)に大きく分けられる、と説明されている。
JIS C 1302:2018の解説は、定格測定電圧ごとの主な使用例を次のように挙げている。
| 定格測定電圧 | 主な使用例 |
|---|---|
| 25V・50V | 電話回線用機器、電話回線電路 |
| 100V・125V | 100V系の低電圧配電路及び機器の維持・管理、制御機器の絶縁測定 |
| 250V | 200V系の低圧電路及び機器の維持・管理 |
| 500V | 600V以下の低電圧配電路及び機器の維持・管理、竣工時の検査 |
| 1000V | 600Vを超える回路及び機器の絶縁測定 |
もうひとつ知っておきたいのは、目盛板に書かれた定格測定電圧ちょうどが端子に出るとは限らないことだ。JIS C 1302:2018は箇条6.3で「開放回路電圧は,8.3の方法によって試験したとき,定格測定電圧の1.25倍を超えてはならない」と定めている。開放回路電圧とは、測定端子を開放した状態の端子間電圧のこと。つまり500Vレンジでも、規格が許す上限は625Vだ。測定コードの先端を素手で握らない、測定中は回路に触れない——教科書どおりの作法の裏には、この上限がある。
精度が保証されるのも、目盛の全域ではない。共立電気計器の説明では、絶縁抵抗計の精度保証範囲は第1有効測定範囲と第2有効測定範囲に分かれる。500V・100MΩの機種の例では、0.1〜50MΩが表示値の±5%、0.05〜0.1MΩと50〜100MΩが±10%。KEW 3432(125/250/500V)なら有効最大表示値200MΩ、第1有効測定範囲0.1〜100MΩが指示値の±5%以内だ。範囲の中心が最も確かで、両端に寄るほど許容誤差は広がる。
判定に使う値のほうは、電気設備に関する技術基準を定める省令第58条にある。開閉器又は過電流遮断器で区切ることのできる電路ごとに、使用電圧300V以下で対地電圧150V以下なら0.1MΩ以上、300V以下のその他は0.2MΩ以上、300Vを超えるものは0.4MΩ以上。この0.1・0.2・0.4MΩは、いずれも目盛板の右寄り、0に近い側に並ぶ数字だ。等分の目盛なら100MΩ側に押しつぶされて読み分けられなかったはずの帯が、対数目盛のおかげで1桁分の幅を持って開いている——合否を分ける値が読みやすい位置にあるのは、偶然ではない。
当てた瞬間、回路は少しだけ別の回路になる
ここまでは「計器が何を示すか」の話だった。最後に、向きを逆にした問いを1つ置いておきたい。計器を当てること自体が、測られる側の回路を変えてしまうという論点だ。目盛板のどこにも書かれていないぶん、抜け落ちやすい。
電圧を測るとき、計器は測りたい2点の間に並列に入る。並列に入るということは、計器の中を通ってわずかな電流が枝分かれするということだ。その枝分かれの分だけ、もとの回路に流れる電流の配分が変わり、測りたかった電圧はほんの少し下がる。計器が示すのは、下がったあとの値になる。測るという行為が、測られる対象を動かしてしまう。
どれだけ動かすかは、計器の入力抵抗(内部抵抗)の大きさで決まる。抵抗が大きいほど枝分かれする電流は小さく、回路への影響も小さくなる。理屈は分流の計算そのままだ。
ここでアナログ計器とディジタル計器の差が出る。アナログの可動コイル形は、針を振らせる力を測定電流そのものから得ている。回路から電流を借りなければ指示できない、という原理上の宿命がある。三和電気計器のアナログ・マルチテスタCP8Dの一般仕様では、直流電圧の内部抵抗は「4 kΩ/V」。レンジの最大目盛値1Vあたり4kΩという意味で、たとえば300Vレンジなら1.2MΩにあたる。
いっぽうディジタル計器は、入力の電圧を増幅回路で受けてA-D変換する。針を振らせる仕事がないので、入り口の抵抗を高く取れる。同じ三和電気計器のディジタルマルチメータCD772の仕様では、直流電圧の入力抵抗は10M〜100MΩ、交流電圧で10M〜11MΩだ。桁が2つ以上違う。
| アナログ計器(CP8Dの例) | ディジタル計器(CD772の例) | |
|---|---|---|
| 直流電圧測定時の入力抵抗 | 内部抵抗4kΩ/V(300Vレンジで1.2MΩ) | 10M〜100MΩ |
| 針/表示を動かす力の出どころ | 被測定回路から流れる測定電流 | 増幅回路(電源は計器の電池) |
| 被測定回路への影響 | 相対的に大きい | 相対的に小さい |
結論はひと言でまとまる。ディジタル計器のほうが入力抵抗が大きく、そのぶん被測定回路に与える影響が小さい。 アナログとディジタルの特徴を並べて正誤を問う形式では、ここが定番の論点になる。ほかの見比べ方——数値で表示されるディジタルは読み取りの個人差が小さい、指針が動くアナログは変化の傾向をつかみやすい——と一緒に、影響の大小まで一組で持っておきたい。
そして、この論点は目盛板の記号を読む話とちゃんと地続きだ。可動コイル形が高感度だと言われるのは、わずかな電流でも針が振れるから——つまり回路から借りる電流が少なくて済むからだった。原理が感度を決め、感度が入力抵抗を決め、入力抵抗が「その測定値をどこまで信じてよいか」を決める。目盛板の隅の似顔絵は、その一連の話の入り口だったことになる。
3つの計器を1つの回路に入れる — 電力計だけが両方の顔を持つ
学科試験には、単相回路に電圧計・電流計・電力計の3つを同時に入れた結線図を見せ、正しくつながれているのはどれかを選ばせる問題がある。4つの図はどれも似ていて、線の分岐が1本だけ違う。
判断の軸は2つしかない。
- 電流計は、負荷と直列に入れる。電流はその計器を通り抜けなければ測れないから、回路を切って割り込ませる
- 電圧計は、負荷と並列に入れる。電圧は2点間の差だから、両端に橋を架けるようにつなぐ
問題は3つ目の電力計だ。電力は「電圧×電流」なので、電力計は両方を知る必要がある。だから中に2つのコイルを持っている。
なぜ2つのコイルが要るのかを、指針が動く仕組みから見るとすっきりする。電力計の針は、電流コイルが作る磁界と、電圧コイルに流れる電流とが押し合う力で振れる。片方だけでは力が生まれない。電圧と電流の両方を同時に受け取って、その積を機械的に作っているわけだ。だから結線を間違えると、動かないのではなく「別のものを掛け算した値」を平然と表示してしまう。
テスタは「切り替えて使う」道具 — レンジ選びと、内側の電池
回路計(テスタ)は電圧・電流・抵抗を1台で測れるが、切り替えを誤ると正しく読めない。試験で問われるのは、この使い方の作法のほうだ。
電圧を測るときは、想定される値の直近上位のレンジを選ぶ。 100Vを測るのに1000Vレンジを使うと、目盛の左端の狭い範囲でしか針が振れず、読み取りの誤差が大きくなる。逆に小さすぎるレンジを選べば振り切れて計器を傷める。測りたい値をまたぐ、いちばん小さいレンジが正解になる。デジタル式のオートレンジは、この選択を機械が代行しているにすぎない。
抵抗を測るときは、テスタの内蔵電池から測定端子に直流電圧が出ている。 これは意外に思われがちだが、抵抗は「電圧をかけて流れた電流」から逆算するしかないので、計器の側が電源を持つ必要がある。アナログ式であっても、抵抗レンジだけは電池が要るのはこのためだ。電圧・電流のレンジは測定対象そのものが電気を持っているので、電池がなくても針は振れる。
現場で先輩がテスタのつまみを回してから当てるのは、この2つを体が覚えているからだ。まず何を測るか、次にどのくらいの値を想定するか。 順番が決まっている。
説明書のない計器を、目盛板だけで目利きする
この読み方が効くのは、試験の紙の上だけではない。盤の更新工事や中古の測定器を前にしたとき、仕様書が手元にないことは珍しくない。それでも目盛板さえ見えれば、交流用か直流用か、立てるのか寝かせるのか、その場で判定できる。目盛の並びも手がかりになる。ただし、目盛の形だけで機種名まで決められるわけではない。左端に∞があって刻みが不揃いという顔つきは、前の節で見たとおりアナログテスタの抵抗レンジも同じだ。逆に「0から均等に刻まれていて∞がない」目盛は、電圧計も電流計も接地抵抗計もそうなので、単位の表示と併せて見る必要がある(共立電気計器のアナログ接地抵抗計MODEL 4102Aは、Ω目盛が等間隔で∞表示なし)。目盛の形で候補を絞り、単位と銘板で確かめる——この順序なら、仕様書がなくても迷わない。指定と違う姿勢や回路で使った計器の数字は、検査記録に書いた瞬間から信用できない数字になる——記号を読む力は、記録の信頼を守る力でもある。
今日確かめられるのは、自宅の電力量計だ。円板がゆっくり回っていれば、それは誘導形の現物。液晶表示のスマートメーターに替わっていたら、円板の計器は交換で姿を消しつつあるということだ。手元にアナログテスタがあるなら、目盛板の隅の記号も読んでみてほしい。波線と実線が並んでいれば、交直両用に設計された計器だと分かる。ついでに目盛の並びも見比べるといい。電圧と電流の目盛は左端0から均等に刻まれているのに、抵抗の目盛だけは右端が0・左端が∞で、間隔も不揃いなはずだ。
直流か交流かという区別は、これからの現場でむしろ重みを増す。太陽光発電の直流側やEV充電設備のように、住宅まわりに直流の電路が増えていくからだ。交流専用の計器や検電器を直流に当てても正しく働かない——その判断の入口は、いつも目盛板の小さな記号にある。
冒頭のベテランがなぜ2つの記号だけで言い当てられたのか、答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。