晴れた日には静かな超高圧送電線が、雨の日になると「ジー」というかすかな音を 立てることがある。近くでラジオを聴くと雑音が混じることもある。電気は目に見えないはずなのに、 なぜ天候によって送電線がノイズを出したり出さなかったりするのか。
一方、送電線を見ると、1本の太い導体ではなく、細い導体を何本も束ねた「多導体」に なっていることが多い。同じ断面積の金属を使うなら、1本の太い線にまとめた方が シンプルなはずなのに、なぜわざわざ複数本に分けて束ねているのか。
この2つの疑問は、実はまったく別の物理現象——コロナ損失と表皮効果——から来ている。 このトピックを読み終えるころには、送電線がなぜ多導体になっているのか、 2つの独立した理由から説明できるようになっている。
コロナ損失 — 導体表面の空気が「電離」して光る・鳴る・失われる
高電圧の送電線では、導体の表面付近の電界強度が非常に高くなる。この電界強度が、 空気の絶縁破壊電圧の目安(乾燥した空気でおよそ1cmあたり30kV程度とされるが、 実際の破壊電界は気圧・湿度・導体表面の凹凸などで変わる)を超えると、導体周辺の 空気が部分的に電離し、放電(コロナ放電)が起こる。これがコロナ損失だ。
コロナ放電が起きると、次のような弊害が生じる。
- 放電のエネルギー分だけ、送電の電力損失になる
- 放電にともなう電磁波が、近くのラジオ受信などに雑音(無線障害)を与える
- 「ジー」という可聴音(コロナ音)が発生する
- 放電によってオゾンや窒素酸化物が生成される
雨・霧・雪などの悪天候では、水滴が導体表面に付着して局所的に電界を強めるため、 コロナ損失は悪天候時に大きくなる。冒頭の「雨の日に音が大きくなる」現象は、 これが正体だ。
表皮効果 — 交流電流は、導体の中心を避けて表面を流れる
もう一方の現象は、導体の断面のどこを電流が流れるかという話だ。直流電流は 導体の断面全体にほぼ均等に流れるが、交流電流は導体の表面付近に偏って流れる。 これが表皮効果だ。
原因は、導体内部の電流変化にともなう誘導作用にある。導体の中心部を流れる電流ほど、 周囲を取り囲む磁束(鎖交磁束)が多く、電流の変化を妨げようとする逆起電力も大きくなる。 そのため交流では、電流は逆起電力の小さい表面側に集中しやすくなる。この効果は、 周波数が高いほど、導体が太いほど、導体の透磁率が高いほど顕著になる。
結果として、交流電流が実際に流れる断面積は直流のときより実質的に小さくなり、 交流抵抗は直流抵抗より大きくなる。送電線の交流抵抗が単純な直流計算より やや大きく見積もられるのは、この表皮効果が理由の1つだ。
2つの現象が導く、同じ設計解 — 多導体方式とACSR
コロナ損失は「導体を太くすれば軽減される」現象、表皮効果は「導体が太いほど 交流抵抗の増加が悪化する」現象——向きが逆の2つの要求だ。1本の太い導体で コロナ対策をしようとすると、その導体の中心部は表皮効果でほとんど電流が流れない 「無駄な重量」になってしまう。
この矛盾を解決するのが、複数本の細い導体を束ねる多導体方式だ。束ねることで 見かけ上の導体径(等価半径)が広がり、導体表面の電界強度が下がってコロナ損失は 軽減される。しかも1本ずつは細いままなので、表皮効果による交流抵抗の増加も、 同じ重量の1本の太い導体を使う場合より抑えられる。多導体方式は、コロナ損失と 表皮効果という相反する2つの物理現象を、同時に満たす折衷案になっている。
架空送電線でよく使われるACSR(鋼心アルミより線)も、同じ発想の延長にある。 電気を通しやすいアルミを外側に、強度を保つ鋼を中心に配置する構造は、 「どうせ表皮効果で中心部にはあまり電流が流れない」という前提と相性がよく、 電気を通す役割はアルミの外周部に、機械的な強度を保つ役割は鋼の芯に、 それぞれ分担させる合理的な設計になっている。
実務との接点 — より線・端子まわりの施工にも同じ発想がある
電材商社が扱う電力ケーブルの導体が、1本の太い単線ではなく、細い素線を 何本も撚り合わせた「より線」になっているのも、柔軟性のためだけでなく、 表皮効果の影響を抑える意味も持っている。また、キュービクルや受変電設備の 高圧端子まわりで、端子や導体の角を丸く仕上げる施工は、その部分に電界が 集中して部分放電(局所的なコロナ放電と同じ原理の現象)が起きるのを防ぐ、 コロナ対策の考え方が小さなスケールで生きている一例だ。
冒頭で見た「雨の日の音」と「多導体方式の理由」——答え合わせは理解度チェックの 最後の問題でしてみよう。