メーカーのカタログに、ネオジム磁石は「全ての磁石の中で最強」と書かれている。それなら、変圧器の鉄心もネオジム磁石で作れば、磁束がたくさん通って良さそうに思える。
だが現実の変圧器の鉄心は、薄い鋼板を重ねたものだ。永久磁石として最強の材料が、鉄心には向かないのはなぜだろう。
このトピックを読み終えるころには、鉄心・永久磁石・フェライトの材料名を見て、何を優先して選ばれた材料なのかを、その場で説明できるようになっている。
電力科目の出題範囲には「電気材料」が含まれている(電気技術者試験センターの科目の内容)。ここではその中の磁性材料を扱う。導電材料と絶縁材料は既存のページに任せ、このページでは「強磁性体とは何か」「軟磁性と硬磁性の違い」「鉄損の2成分」「材料の比較」を一本の線で整理する。
この記事の結論
- 常温で磁石につく元素は鉄・ニッケル・コバルトの3つ。強磁性体は磁区に分かれ、キュリー温度を超えると磁性を失う。
- 軟磁性材料(保磁力が小さい)は鉄心、硬磁性材料(保磁力が大きい)は永久磁石。
- 鉄損は、JEEAの解説の形では、ヒステリシス損が f·Bm²、渦電流損が f²·Bm² に比例する。「何を一定にしているか」を先に決めて計算する。
- 材料は「磁化されやすさ・損失・周波数・耐熱」のどれを優先するかで選ぶ。万能の材料はない。
強磁性体とは——3つの元素、磁区、キュリー温度
常温で強磁性(磁石につく性質)を示す元素は、鉄・ニッケル・コバルトの3つだ。工業で使う磁性材料は、合金や酸化物の形でこの3元素のどれかを含んでいる。銅やアルミニウムは電気をよく通すが、磁性材料ではない。
強磁性体の内部では、原子の磁気モーメント(原子ひとつひとつの小さな磁石)の間に交換作用が働き、向きがそろう。そのため磁界がなくても磁化(自発磁化)をもつ。ただし物体全体が一つの向きに磁化しているわけではなく、磁化の向きがそろった小さな領域(磁区)に分かれていて、磁区の境界(磁壁)が動くことで、外部磁界に応じて磁化が変わる。
温度を上げると、熱の揺らぎで磁気モーメントの向きがばらつき、自発磁化は減っていく。ある温度で自発磁化が消えて常磁性になる。この温度がキュリー温度で、鉄ではおよそ770℃だ。永久磁石は、使う温度がキュリー温度より十分低いことが前提になる。
反磁性体(電子対の磁気モーメントが打ち消し合う)と常磁性体(不対電子の弱い磁気モーメントがばらばらに並ぶ)は、磁界に対する反応がごく弱い。強磁性体は、磁区をもち、強く磁化される。
磁化曲線とヒステリシスループ——Bm・Br・Hc
強磁性体に交流の磁界をかけると、磁束密度 と磁界の強さ の関係は、行きと帰りで違う道を通る閉じた曲線(ヒステリシスループ)になる。ループの面積が、1周期ごとに失われるエネルギー(ヒステリシス損)に相当する。
- 最大磁束密度 :磁化した最大の磁束密度。
- 残留磁気(残留磁束密度):磁界を に戻しても残る磁束密度。
- 保磁力 :磁束密度を に戻すのに必要な、逆向きの磁界の強さ。
ループの描き方や初期磁化曲線、磁気飽和は、既存のトピック「磁界と電磁力(フレミングの世界)」で扱っている。ここでは、このループの形で材料が2種類に分かれることを使う。
軟磁性材料と硬磁性材料
| 軟磁性材料 | 硬磁性材料 | |
|---|---|---|
| ヒステリシスループ | 細い(面積が小さい) | 幅広い(面積が大きい) |
| 保磁力 | 小さい | 大きい |
| 透磁率 | 高い | 軟磁性より低い |
| 磁界を取り去ると | 磁力を失いやすい | 磁力を保つ |
| 主な用途 | 変圧器・モータの鉄心、磁気ヘッド | 永久磁石、磁気記録の媒体 |
| 代表材料 | けい素鋼板(電磁鋼板)、アモルファス合金、パーマロイ、ソフトフェライト(酸化物。厳密にはフェリ磁性体)など | アルニコ、フェライト磁石(硬質フェライト。ソフトフェライトとは別の材料)、希土類磁石(ネオジム・サマコバ) |
磁気記録のように、軟磁性と硬磁性がペアで使われる製品も多い。磁気テープは硬質(記録を保つ)、読み取る磁気ヘッドは軟質(信号に素早く反応する)。モータでも、固定子の鉄心が軟磁性(電磁鋼板)、回転子の磁石が硬磁性(永久磁石)という組合せが多い。
冒頭の答え合わせ。永久磁石の材料は、磁界を取り去っても磁力を保つように保磁力が大きいものを選ぶ。変圧器の鉄心は、交流で磁化と消磁を何度も繰り返すので、損失を減らしたい。だから保磁力が小さい軟磁性材料を選ぶ。同じ「ループの大小」でも、求める向きが正反対になる。
鉄損の2成分——ヒステリシス損と渦電流損
鉄心の損失(鉄損)は、2つの成分の和になる。
- ヒステリシス損 :磁化と消磁を繰り返すたびに、ヒステリシスループの面積ぶんのエネルギーが熱になる。1周期あたりの損失がループの面積に等しいので、1秒あたりでは周波数に比例する。
- 渦電流損 :鉄心の中で磁束が変化すると渦状の電流が流れ、鉄心の電気抵抗でジュール熱になる。表皮効果を伴わない場合、板厚・最大磁束密度・周波数の各2乗に比例し、電気抵抗率が高いほど小さい。
電験の問題で使う関係は次のとおり(JEEAの解説講座の式)。
変圧器では、巻線に電圧 を加えると最大磁束密度は になる(ここは既存のトピック「磁界と電磁力」の と同じ関係)。これを代入すると、次のように書き換えられる。
鉄損の問題は、最初に「何を一定にしているか」を決める。Bm が一定なら、 は f に比例、 は f² に比例する。電圧が一定なら、 は周波数に反比例して減り、 は周波数に関係なく変わらない。周波数が一定なら、どちらも電圧の2乗に比例する。
なお、実験式(スタインメッツ)ではヒステリシス損の の指数を約1.6とする。この指数は本ページの出典では未確認なので、問題文に指数が書かれていれば、その指数に従う。
例題1(周波数を変えたときの鉄損)
変圧器の鉄心に一定の電圧を加え、60Hz で運転したところ、ヒステリシス損が180W、渦電流損が60Wであった。電圧を変えずに周波数を50Hzにしたときの鉄損を求めよ。ただし、ヒステリシス損は 、渦電流損は に比例し、 とする。
電圧一定なので、、 は変わらない。
検算:周波数を下げると が大きくなるので、ヒステリシス損は増える。渦電流損は で減りそうに見えるが、 が で増えるので打ち消し合って変わらない。
鉄損を減らす方法と材料
渦電流損とヒステリシス損は、発生の仕組みが違うので、対策も別になる。
| 減らしたい損失 | 方法 | 理由 |
|---|---|---|
| 渦電流損 | 板を薄くして、表面を絶縁して積層する | 渦電流の流れる断面を小さくする。板厚を半分にすると渦電流損は1/4 |
| 渦電流損(ヒステリシス損にも効く) | けい素などを加えて電気抵抗率を高める | 渦電流が流れにくくなる。あわせて結晶磁気異方性が下がって磁壁が動きやすくなり、ヒステリシス損も減る方向に働く。ただし加えすぎると磁気モーメントが小さくなる |
| ヒステリシス損 | 保磁力が小さい材料を選ぶ | ヒステリシスループの面積が小さくなる |
| ヒステリシス損 | 結晶の磁化しやすい方向(〈100〉方向)をそろえる | 磁化の向きを変えるのに余計なエネルギーが要らなくなる |
結晶の向きの制御から、電磁鋼板は2種類に分かれる。方向性電磁鋼板は磁化しやすい方向を圧延方向にそろえ、磁束の向きがほぼ一定の変圧器の鉄心に使う。無方向性電磁鋼板は面内のどの向きにも磁化しやすいように作り、回転で磁界の向きが変わるモータなどの回転機に使う。日本製鉄の方向性電磁鋼板(1968年に工業生産開始)は、変圧器の電力損失を25%削減できる材料として評価された、と電気学会の資料にある。
代表的な軟磁性材料の比較
| 材料 | 特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|
| けい素鋼板(電磁鋼板) | 鉄にけい素を加えて鉄損を下げた。薄板を積層して使う | 変圧器・回転機の鉄心 |
| アモルファス合金 | 非晶質で磁気異方性がほぼ0。鉄損が小さいが、飽和磁束密度・占積率が低く磁歪が大きい | 変圧器の鉄心(柱上変圧器の例は、既存トピック「変電所の役割と変圧器の結線」を参照) |
| 圧粉磁心 | 絶縁被覆した鉄粉を圧縮成形。異方性がなく形状の自由度が高い。純鉄系は飽和磁束密度が大きいが鉄損も大きい | 高周波用のリアクトル・チョークコイル |
| ソフトフェライト | 酸化物の磁性体。電気抵抗が高く、渦電流損を抑えて高い周波数まで使える | 高周波のトランス・コイル |
| パーマロイ(鉄・ニッケル合金) | 磁気異方性がなく、ヒステリシスループが非常に細い(高透磁率) | 磁気ヘッドなど |
アモルファス合金と方向性電磁鋼板の差は、メーカー資料(日立評論)の表で数字が確認できる。
| 項目 | アモルファス(2605SA1/HB1M) | 方向性電磁鋼板(23P090) |
|---|---|---|
| 公称板厚 | 25μm | 230μm |
| 占積率 | 84%以上 | 94.5%以上 |
| 鉄損(50Hz・1.4T) | 0.10W/kg(標準) | 0.55W/kg(標準) |
| 磁束密度(800A/m) | 1.56T/1.63T(標準) | 1.85T以上 |
| 飽和磁歪定数 | 27ppm | 0.7ppm |
磁歪は、磁化によって磁性体の形が変わる現象で、変電設備から聞こえる音は、変圧器の鉄心の磁歪によるものだ。アモルファス合金は磁歪定数が大きく、同じ磁束密度で比べると騒音が大きい(日立評論の記事にある日立製品の例では、実際の変圧器の動作磁束密度がアモルファス鉄心で低く選ばれるため、騒音はほぼ同レベルとされる。どの製品にも当てはまる一般則ではない)。既存のトピック「変電所の役割と変圧器の結線」にアモルファス鉄心の長所と短所があるので、あわせて読むとよい。
永久磁石材料(硬磁性材料)の比較
メーカー(ネオマグ)のカタログに載っているグレードの例で比べる。値はそのメーカーの例であり、材料の一般的な代表値ではない。
| 材料 | 残留磁束密度 Br | 保磁力 Hcb | キュリー温度 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| アルニコ磁石(SAN52) | 1.30T | 56kA/m | 850℃ | 保磁力が低く減磁しやすい(カタログは、高温使用での減磁と機械的な衝撃による減磁に注意が必要としている)。温度特性に優れ計器などに使われた |
| フェライト磁石(Y30BH) | 0.38〜0.40T | 223〜279kA/m | 460℃ | 酸化鉄が主原料で低コスト。磁力はネオジム磁石の1/5〜1/10程度。最も大量に使われる |
| ネオジム磁石(N42) | 1.29〜1.33T | 860kA/m以上 | 330℃ | メーカーは「全ての磁石の中で最強」とし、最大エネルギー積も掲載4種で最大。キュリー温度が低い(カタログ値 330〜340℃) |
| サマコバ磁石(SS28、2-17系) | 1.03〜1.08T | 756〜812kA/m | 850℃ | 錆びにくく、温度特性が優れる |
アルニコは残留磁束密度が高いのに保磁力が低いことに注目したい。磁力の強さ(Br)と、減磁のしにくさ(保磁力)は別の性質だ。
例題2(材料選定の正誤)
次のうち、誤っているものを選べ。
- 変圧器の鉄心には、結晶の向きをそろえた方向性電磁鋼板が使われる。
- 磁気ヘッドには、保磁力が小さく透磁率の高いパーマロイなどの軟磁性材料が使われる。
- 高周波のコイルの鉄心に、電気抵抗が高いフェライトが使われる。
- モータの回転子の磁石に、保磁力の小さい電磁鋼板を使えば、永久磁石の代わりになる。
答えは4。回転子の磁石には、磁界を取り去っても磁力を保つ硬磁性材料(永久磁石)が必要で、保磁力の小さい電磁鋼板は、磁界がなくなると磁力を失う。1は変圧器の磁束の向きが一定なので正しい。2は、磁気ヘッドが信号に素早く反応する軟磁性材料であることから正しい。3は、電気抵抗が高く渦電流損が小さいフェライトの特徴として正しい。
材料の正誤問題は、「軟磁性か硬磁性か」「損失はヒステリシス損と渦電流損のどちらに効く対策か」「周波数はどれくらいか」の3つで選択肢を仕分けると、誤りが見つかりやすい。「保磁力が大きい/小さい」「方向性/無方向性」を入れ替えた記述が、よく仕掛けられる誤りの形だ。
実務との接点——カタログの数字の読み方
電磁鋼板の等級表示は、たとえば「35A270」のように書かれる。電気学会の用語解説によれば、これは板厚0.35mm、無方向性(A)、50Hz・1.5Tの正弦波励磁での鉄損が2.7W/kg以下であることを表す。変圧器の鉄心材料が違えば、無負荷損(鉄損が中心)も変わる。電気設備学会誌では、アモルファス合金の変圧器の無負荷損は、けい素鋼板の変圧器の約1/3〜1/5に下がると紹介されている。
ただし、アモルファス合金は飽和磁束密度が低いので、同じ容量なら鉄心が大形になりやすい。鉄損だけでなく、大きさ、コスト、騒音までを見て選ぶ。
導電材料・絶縁材料とのつながり
電気材料は、このページの磁性材料のほかに、電気を通す導電材料(銅・アルミニウムなど)と、電気を通さない絶縁材料に分けて整理するとよい。
- 導電材料(軟銅線・硬銅線・鋼心アルミより線など)と、絶縁材料の一部(CVケーブルの絶縁体、絶縁油など)は、「電力ケーブルの種類と特性」で扱っている。
- がいしなどの絶縁は、「がいしと絶縁協調」で扱っている。
- 変圧器の鉄損の測り方や等価回路は、「変圧器の原理と等価回路」にある。
磁性材料の役割は、磁束を通しやすくすること(軟磁性)か、磁力を保つこと(硬磁性)。導電材料は電流を通し、絶縁材料は電流を止める。役割の違いで見ると、どの材料の話なのかを取り違えにくい。
冒頭の問いの答え合わせは、理解度チェックでしてみよう。