キュービクルの中で短絡事故が起きたとき、なぜ事故を起こした分岐回路のブレーカーだけが落ちて、 ビル全体、あるいは電力会社の配電用変電所までもが一緒に停電しないのか。
保護のための装置は、系統のあちこちに何段にも設置されている。それなのに、事故が起きた 「その場所」だけをピンポイントで切り離せるのはなぜなのか。
このトピックを読み終えるころには、キュービクルや制御盤の保護協調図(整定値の一覧)を見て、 なぜその動作時間・遮断容量が選ばれているのかを、選択遮断の考え方から読み解けるようになっている。
種明かしは、系統に並んだ複数の保護装置が、わざと動作するタイミングに階段状の差をつけている ことにある。この仕組みを保護協調(協調保護)と呼ぶ。
継電器と遮断器 — 頭脳と筋肉の役割分担
保護システムは、性格の異なる2つの機器が組んで成り立っている。
継電器(リレー) は、電流や電圧を常時監視し、異常(過電流・地絡など)を検出したときに 「切れ」という指令(トリップ信号)を出す装置だ。過電流を検出する過電流継電器(OCR)、 地絡事故を検出する地絡継電器(GR)や地絡方向継電器(DGR)などがある。継電器自身は、 電流を物理的に遮断する能力を持たない。あくまで判断を下す「頭脳」の役割だ。
遮断器(ブレーカー) は、継電器からの指令を受けて、実際に大電流を安全に断ち切る機器だ。 高圧受電設備の真空遮断器(VCB)や、低圧の配線用遮断器(MCCB)などがこれにあたる。 遮断器自身は「切るべきかどうか」を自分で判断せず、指令を受けて実行する「筋肉」の役割だ。
保護協調(選択遮断)— 事故に一番近い装置だけを、先に動かす
系統には、電源側(上位)から末端の分岐回路(下位)まで、何段もの継電器・遮断器が直列に 配置されている。事故が起きたとき、もし電源側から末端まですべての保護装置が同時に動作したら、 事故と無関係な区間まで巻き込んで大規模停電になってしまう。
そこで保護協調は、事故点に一番近い下位の保護装置が最初に動作し、事故区間だけを切り離す よう設計する。上位の保護装置は、下位が正常に動作すれば出番がない。下位が万一動作しなかった 場合にだけ動く「バックアップ」として、あえて遅く動作するように整定されている。これを選択遮断 と呼ぶ。
この動作順序を実現する鍵が、限時継電器が持つ反限時特性——流れる電流が大きいほど動作時間が 短くなる特性——と、上位・下位の間に意図的に設ける動作時間の差(協調のための余裕)だ。
例で考える
下位のOCRが0.2秒で動作し、下位の遮断器が指令を受けてから0.1秒で実際に電流を遮断するとすれば、 下位側で事故が除去されるまでの合計時間は0.3秒になる。上位のOCRは、この0.3秒より確実に遅く 動作するよう、たとえば0.6秒といった余裕を持たせた時間に整定する。こうすることで、下位が 正常に動作した事故では上位はまったく動作せず、下位が万一動作しなかった場合にだけ、 少し遅れて上位が事故を除去する保険として働く。
遮断器の選定 — 「流せる電流」と「遮断できる電流」は別物
遮断器には、性格の異なる2つの定格がある。
- 定格電流:通常運転時に連続して流せる電流の大きさ
- 定格遮断電流(遮断容量):短絡事故のような異常時に、安全に遮断できる電流の大きさ
遮断器を選定するときは、負荷電流に対して定格電流が十分であることに加えて、その系統で 想定される最大の短絡電流に対して、定格遮断電流が上回っていることを、必ず両方確認する 必要がある。定格電流だけを見て「流せるから大丈夫」と判断すると、通常運転では問題がなくても、 いざ短絡事故が起きたときに遮断しきれず、遮断器自体が破損する重大事故につながりかねない。
真空遮断器(VCB)の特徴 — 小形・長寿命だが、開閉サージには注意
高圧受電設備の遮断器として広く使われる真空遮断器(VCB)には、他の消弧方式の遮断器には ない特有の性質がある。
真空遮断器は、高真空状態に保った容器(バルブ)の中で接点を開閉し、真空が持つ優れた絶縁 耐力を利用してアークを消弧する。SF6ガスや油といった消弧媒体を使わないため、ガス漏れや 油の劣化・保守といった負担がなく、小形・軽量で電極の寿命が長く、保守も容易という利点が ある。開閉時の機械的な消耗が少ないため、比較的多頻度の開閉動作にも適している。
一方で、真空遮断器には注意すべき点もある。真空中でのアーク遮断は電流を急激に断ち切る 性質があるため、他の方式に比べて開閉サージ(開閉操作にともなって発生する過渡的な 高電圧)が高くなることが懸念される場合がある。このような場合には、避雷器などを用いて、 真空遮断器に接続される機器(変圧器やモーターなど)を保護することがある。また、動作時の 音(開閉音)は、空気を使って消弧する空気遮断器に比べて大きい傾向がある。
断路器 — 「切る」ではなく「切り離す」ための機器
遮断器と並んで受変電設備でよく見かける機器に断路器(DS: Disconnecting Switch)がある。 遮断器と似た外見で回路を開閉するが、役割はまったく違う。
断路器は消弧装置を持たない。つまりアークを安全に消す能力がなく、負荷電流のような電流が 流れている状態のまま開くと、接触子間にアークが飛び続けて焼損や短絡事故を引き起こす危険がある。 断路器の目的は電流を「遮断する」ことではなく、機器の点検・修理の際に、電源側から回路を 確実に切り離す(縁を切る)ことにある。
この性質から、断路器と遮断器を組み合わせて使う回路には、決まった操作順序がある。
- 回路を開放するとき:先に遮断器で負荷電流・故障電流を遮断し、回路が無負荷になったことを 確認してから、断路器を開く。
- 回路を投入するとき:逆に、先に無負荷の断路器を投入し、そのあとで遮断器を投入する。
この順序を誤り、電流が流れたまま断路器を開いてしまうと、接触子間にアークが発生して重大事故に つながる。この誤操作を防ぐため、遮断器が投入(入)状態のままでは断路器を操作できないように するインタロック装置が、受変電設備には一般に組み込まれている。
継電器の目 — 計器用変成器(CT・PT)と、変流器の二次開放が危険な理由
継電器は電流・電圧の異常を検出する「頭脳」だと説明したが、継電器自身は高圧・大電流の 系統をそのまま直接測ることができない。そこで系統と継電器の間に計器用変成器を挟み、 大電流・高電圧を継電器が扱いやすい小さな値(例:電流5A、電圧110V級)に変換している。 電流を変換するのが変流器(CT)、電圧を変換するのが計器用変圧器(PT)だ。
このCTには、実務上とても重要な鉄則がある。一次電流(負荷電流)が流れている状態で、 二次側を絶対に開放してはならない。変圧器の二次側を開放した場合は単に電流が流れなく なるだけだが、CTは一次電流によって磁束が強制的に作られる機器のため、二次側を開放すると 一次電流のほぼ全てが励磁電流としてコアに流れ込み、二次側に絶縁を破壊しかねない異常高電圧が 発生する。点検などで二次側の負荷(電流計や継電器)を一時的に外す必要があるときは、 必ず先に二次側を短絡してから作業するのが鉄則だ。
限時特性図とタイムレバー位置 — OCRの動作時間を自分で計算する
保護協調の節で見た「反限時特性」——電流が大きいほど動作時間が短くなる特性——を、実際に 数値として扱えるようにしたのが限時特性図だ。カタログや教材に載る限時特性図は、 多くの場合タイムレバー位置10(最大) における基準の特性として描かれている。実務では このタイムレバー位置を、必要な動作時間に合わせて10より小さい値に整定して使う。
タイムレバー位置を変えると、同じ電流倍数(タップ整定電流の何倍の電流が流れているか)に 対する動作時間全体が伸び縮みする。多くの機種では、同じ電流倍数における動作時間は、 タイムレバー位置にほぼ比例するという関係が成り立つ。つまり、基準特性(位置10)での 動作時間がわかれば、実際に整定したタイムレバー位置での動作時間は、次の比率で換算できる。
例題
事故電流750Aが流れる系統で、OCRを0.18秒で動作させたい。このOCRのタイムレバー位置は3に 整定されており、タイムレバー位置10における限時特性は、電流倍数5倍のとき動作時間0.60秒 だったとする。
タイムレバー位置3での動作時間は、基準特性の値に(3/10)を掛けた値になるはずなので、
これは目標の動作時間とちょうど一致する。つまり、電流倍数5倍のときに整定どおりの動作時間が 得られることになるので、整定すべきタップ電流は、事故電流をこの倍数5で割って求める。
限時特性の種類 — 反限時だけではない4つの動作パターン
ここまで見てきた反限時特性(電流が大きいほど動作時間が短くなる特性)は、限時継電器の 代表的な動作パターンだが、実際にはこれ以外にも複数の種類がある。動作時間曲線の形の違いで 整理すると覚えやすい。
- 反限時特性:電流が大きいほど動作時間が短くなる。動作時間曲線は右肩下がりの曲線になる。
- 定限時特性:整定した電流値を超えれば、その後の電流の大きさに関わらず動作時間がほぼ 一定になる。動作時間曲線は電流軸に対してほぼ水平な直線として現れる。
- 瞬時特性:整定値を超えたら、電流の大きさに関わらずほとんど遅れなく動作する。動作時間 曲線は横軸(0秒)に近い位置にほぼ張り付く。
- 反限時定限時特性:反限時特性と定限時特性を組み合わせた性質を持つ。低い電流域では 反限時特性のように電流が大きいほど動作時間が短くなるが、電流がある程度大きくなると 動作時間の減少が頭打ちになり、大電流域ではほぼ一定の時間に近づく。
保護協調の設計では、上位・下位の保護装置にどの特性を組み合わせるかによって、事故の種類や 系統の構成に応じた最適な動作順序を作り込む。たとえば、上位側には大電流の重大事故を 確実に早く止めたい区間に瞬時特性を組み合わせる、といった使い分けが実務では行われている。
受電設備では、CTと計器用変圧器を一体化したVCT(計器用変成器)が使われることも多く、 電力量計と組み合わせて電力会社との取引用電力量を計量する役割を担う。また、高圧受電設備の 主開閉器としてよく使われる高圧交流負荷開閉器(LBS)は、負荷電流や変圧器の励磁電流など 定格電流以下の電流を開閉する機器で、遮断器(CB)のように短絡電流のような大きな異常電流を 安全に遮断する能力(遮断容量)は持たない。「開閉できる=遮断もできる」と考えず、LBSは 通常時の開閉専用、短絡事故の遮断は上位のCB(または限流ヒューズとの組み合わせ)が担う、 という役割分担で理解しておく必要がある。
電材商社として保護継電器や遮断器を選定・提案する場面では、単体の定格を満たしているかだけ でなく、上位・下位の整定値が階段として噛み合っているか——つまり協調が取れているか—— までを確認できることが、波及事故を防ぐうえでの実務上の生命線になる。
冒頭の「なぜ事故区間だけが止まるのか」の答え合わせは、理解度チェックの最後の問題で してみよう。