ダムの案内板に「有効落差100m、最大使用水量20m³/s」と書かれているのを見て、 この発電所が最大で何kWの電力を作れるか、その場で計算できるだろうか。
落差と流量という、目で見てわかる2つの数字だけから、電力という目に見えないものが どうやって求まるのか。
このトピックを読み終えるころには、案内板の数字を見ただけで、その水力発電所の 出力をその場で暗算できるようになっている。
種明かしは、水力発電の出力が P=9.8QHη という、たった1つの掛け算の式で決まる という事実にある。
水力発電の仕組み — 位置エネルギーを電気エネルギーに変える
水力発電は、高い場所にある水が持つ位置エネルギーを、落差を利用して水車の回転エネルギーに変え、 水車に直結した発電機で電気エネルギーに変換する仕組みだ。取水方式には、川の水をそのまま 利用する水路式、ダムでせき止めた水を使うダム式、両者を組み合わせたダム水路式などがあるが、 「落差のある水を水車に落として回す」という原理はどれも共通している。
このとき出力は、次の式で求まる。
は流量[m³/s]、 は有効落差[m]、 は水車効率と発電機効率を掛け合わせた総合効率だ。 9.8という係数は、水の密度(1000kg/m³)と重力加速度(約9.8m/s²)から導かれるもので、 「1秒間に落ちてくる水の重さ×落差」という水の持つ力学的なエネルギーを、 そのままkW単位の電気出力に読み替えるための橋渡し役をしている。
例題
流量5m³/s、有効落差50m、総合効率0.8の水力発電所の出力は何kWか。
有効落差と総落差の違い
案内板や資料には「総落差」の数値が大きく書かれていることが多いが、公式のHに そのまま代入してよいのは 有効落差 の方だ。
総落差は、取水口の水位から放水口の水位までの高さの差。これに対して、水が導水路や 水圧管路を流れる間には、摩擦などによって必ずエネルギーの一部が失われる。この失われた分を 落差に換算したものが損失落差で、総落差から損失落差を引いたものが、実際に水車を回す仕事に 使える有効落差になる。
水圧管内の流れ — 連続の式とベルヌーイの定理
P=9.8QHηの式は、水車の入口と出口を結んだ「全体としての」出力を求める式だった。これとは別に、 水圧管の途中にある特定の断面で、水がどれくらいの速さで流れ、どれくらいの圧力がかかっているかを 問われることもある。この計算に使うのが連続の式とベルヌーイの定理だ。
水圧管内をすき間なく水が満たして流れているとき、管の途中で断面積が変わっても、単位時間に 通過する体積(流量)は変わらない。これを連続の式という。
は断面積[m²]、は流速[m/s]だ。断面積が小さくなる部分では、その分だけ流速が 速くなる——ホースの先をつまむと水の勢いが増すのと同じ関係だ。
もう一つの関係がベルヌーイの定理で、水が持つ「圧力のエネルギー」「速度のエネルギー」 「高さのエネルギー」の合計(全水頭)が、管のどの断面でも一定に保たれるという法則だ。
は圧力[Pa]、は水の密度[kg/m³]、は流速[m/s]、は重力加速度[m/s²]、は 基準面からの高さ[m]だ。
例題
水圧管内を水が満たして流れている。断面Aでは内径2.0m、流速2.5m/s、圧力30kPaである。 断面Aとの落差20m、内径1.6mの断面Bにおける流速と水圧を求める。
まず連続の式から断面Bの流速を求める。断面積は内径の2乗に比例するので、
次にベルヌーイの定理に代入する。断面Aは断面Bより20m高い位置にあるので、と 置くと、
水撃作用とサージタンク — 水圧管に生じる圧力変動を吸収する
発電所の負荷が急激に変化すると、それに応じて水車を通過する使用水量も急激に変化させる 必要がある。しかし水圧管の中を流れる水には慣性があるため、流速を急に変えようとすると、 水圧管内の圧力が急上昇・急降下する。この圧力変動を水撃作用(ウォーターハンマ)と呼ぶ。
水撃作用の大きさは、水圧管が長いほど、そして水車の案内羽根や入口弁の閉鎖・開放にかける 時間が短いほど大きくなる。管が長いほど中の水の質量(慣性)が大きく、弁を閉じる時間が 短いほど流速の変化が急激になるため、どちらも圧力変動を増大させる方向に働く。
この水撃作用による圧力変動を緩和するために設けるのがサージタンク(水圧調整用水槽)だ。 圧力水路と水圧管の接続箇所に設置し、水位が昇降することで圧力変動を吸収する。
サージタンクにはいくつかの構造があり、代表的なものに差動式サージタンクがある。差動式は、 タンクの中に細い管(ライザ、上昇管)を設け、負荷が急激に遮断されたときの圧力上昇エネルギーを、 まずライザ内の水面上昇によってすばやく吸収し、そのあと小さな穴(オリフィス)を通してゆっくりと タンク本体の水位に戻す、という2段構えの動作をする。このほか、小孔式・水室式といった構造も あり、いずれも水位の昇降で圧力変動を吸収するという基本原理は共通している。
水車の種類と選定 — 落差と流量の組み合わせで決まる
水車には大きく分けて衝動水車と反動水車があり、設置する地点の落差・流量の条件に応じて 使い分けられる。
- ペルトン水車(衝動水車):高落差・小流量に適する。水をノズルから噴射して羽根に当てる方式。
- フランシス水車(反動水車):中落差に適し、最も広く使われる水車。
- カプラン水車(反動水車、プロペラ水車の一種):低落差・大流量に適し、羽根の角度を可変にできるものが多い。
水車の分類ともう一段深い構造 — 衝動水車と反動水車、ガイドベーン、揚水発電所の方式
前節では「落差と流量に応じて水車の種類を選ぶ」という使い分けを見たが、そもそもペルトン水車と フランシス水車・カプラン水車は、水の持つエネルギーをランナ(羽根車)に伝える原理そのものが 異なる。
衝動水車(ペルトン水車が代表)は、水圧管が持つ圧力水頭を、いったんノズルで速度水頭 (流速のエネルギー)に変換してから、大気圧のもとで水をランナのバケットに噴射し、その 衝突力(衝動力)でランナを回す。ノズルを出た時点で水はすでに大気圧まで圧力を失っている 点が特徴だ。
反動水車(フランシス水車・カプラン水車が代表)は、これとは逆に、圧力水頭を保ったまま 水をランナ内部へ導き入れ、水がランナの中を通り抜けて出ていくときの反動力で回転する。 ランナの入口と出口で圧力差が残っている点が、圧力をすべて速度に変えてしまう衝動水車との 大きな違いになる。
反動水車の入口にはガイドベーン(案内羽根)と呼ばれる可動の羽根が並んでおり、その 開度を変えることでランナに流入する水の流量を調整し、水車の出力を加減する役割を持つ。
揚水発電所の3つの構成方式
これまで見てきた揚水発電所の効率計算では「水車・ポンプ・発電機・電動機」をひとまとめに 扱ってきたが、実際の設備構成には3つの方式がある。
- 別置式:水車と発電機、ポンプと電動機を、それぞれ別々の軸に分けて設置する方式。水車と ポンプを個別に最適設計できる反面、設備点数が多くなる。
- タンデム式:水車・ポンプ・発電電動機を同一の軸上に一列に並べて設置する方式。
- ポンプ水車式:水車とポンプの機能を1台の可逆式機械(ポンプ水車)が兼ね、発電機と 電動機も同一軸を共用する方式。水車・ポンプをそれぞれ専用設計する別置式・タンデム式に 比べて設備がコンパクトになるため、国内で建設される揚水発電所の大半はこの方式が採用されている。
水車発電機の構造と、調速機・AVRの役割分担
水力発電機は、火力発電のタービン発電機(高速回転・円筒形回転子)とは対照的に、比較的 低速で回転するため、大径で磁極が外側に突き出た突極形の回転界磁形三相同期発電機が 広く使われている。落差を有効に利用するために、水車を発電機の下方に直結する立軸形に することも多い。
水力発電所の運転には、2つの異なる自動制御装置が組み込まれている。調速機(ガバナ)は 水車の回転速度——系統周波数と直結する量——を一定に保つための装置で、ガイドベーンの開度を 自動調整することで実現する。一方、自動電圧調整器(AVR)は、発電機の界磁電流を調整して 出力電圧の大きさを一定に保つための装置だ。
流況曲線と調整池式発電所の計算
河川を流れる水量は季節や天候によって大きく変動する。1年間の日々の流量を、多い順に並べ替えてグラフにしたものを流況曲線と呼び、水力発電所の計画・運用でよく使われる。
流況曲線上には、1年365日のうち何日はその流量以上が確保できるかという基準で、代表的な流量に名前が付けられている。多い方から、豊水量・平水量・低水量・渇水量という4つの代表値があり、渇水量はその年のほとんどの期間で確保できる最低限の流量にあたる。
河川の全流量をそのまま発電に使う「流れ込み式」とは別に、川の水を一時的にせき止めて貯めておく池(調整池)を持ち、電力需要の多い時間帯に集中して発電する方式を調整池式発電と呼ぶ。調整池式発電では、河川から流れ込む水量よりも大きい流量で、短い時間だけ発電することができる。
例題
ある河川の渇水量が10m³/sであるとする。この流量を使って、1日のうち8時間だけ集中して発電する調整池式発電所を考える。運転しない残り16時間は、河川から流れ込む水をすべて調整池に貯めるものとする。
1日(24時間)を通じて河川から流れ込む水の総量と、8時間の運転で使い切る水の総量は等しくなるはずなので、最大使用流量Qmaxは次のように求まる。
運転しない16時間の間に調整池へ貯める必要がある水量は、河川からの流入量と発電に使う量の差(Qmax−渇水量)に、貯める時間(16時間を秒に換算)を掛けて求める。
発電計画の概算 — 流域面積・降水量から流量を、設備利用率から年間発電電力量を求める
水力発電所を新設する計画段階では、実測した流量データがまだない地点でも、その河川の 流域面積・年間降水量・流出係数という3つの数値から、年間の平均的な流量を おおまかに見積もることができる。
流域に降った雨のすべてが川に流れ込むわけではなく、地表への浸透や蒸発によって一部は 失われる。降った雨のうち実際に河川の流量として流れ出る割合を流出係数と呼ぶ。 流域面積[km²]に年間降水量[mm]と流出係数を掛け合わせれば、1年間に河川を流れる水の 総量(体積)が求まり、これを1年間の秒数で割れば、年間の平均流量Qが求まる。
単位をそろえる際は、流域面積[km²]をm²に(×10⁶)、年間降水量[mm]をmに(×10⁻³)変換して から体積[m³]を求める、という手順を踏む。
例題
流域面積2,000km²、年間降水量1,600mm、流出係数0.7の河川で、年間の平均流量を求める。
まず年間の総流出量を求める。
これを年間秒数(365日×24時間×3600秒=31,536,000秒)で割ると、
このようにして求めた平均流量Qと、計画する有効落差H・総合効率ηから、P=9.8QHηで発電所の 出力を見積もれる。さらに、その発電所が実際にどれだけの電力量を1年間に発電できるかを 見積もるには、設備利用率という指標を使う。
設備利用率は、発電所が定格出力で24時間365日フル稼働し続けたと仮定した場合の年間発電 電力量に対して、実際の年間発電電力量が何%にあたるかを表す割合だ。
例題
出力8,000kWの水力発電所が、設備利用率60%で1年間運転した場合の年間発電電力量を求める。
揚水発電所の効率計算 — 揚水時と発電時で「使う落差」が違う
これまで見てきたP=9.8QHηは、川の水を一方向に流して発電する場合の式だった。夜間などの余剰電力でポンプを回し、下池の水を上池へ汲み上げておき、電力需要の多い時間帯に汲み上げた水で発電する揚水発電所では、揚水時と発電時それぞれで計算の向きが変わる。
揚水発電所には、ポンプと水車を1台の可逆式機械(ポンプ水車)で兼ねる方式が多く、電動機と発電機も同様に兼用されることが多い。揚水時・発電時のどちらでも、導水路の摩擦などによる損失水頭が生じる点は共通しているが、この損失が効く向きが逆になる。
- 揚水時:電動機がポンプを回し、下池の水を上池へ押し上げる。ポンプは総落差に加えて、損失水頭の分まで余計に水を押し上げなければならない。使う落差は 。電動機入力は次の式で求まる。
- 発電時:上池の水を落として水車・発電機を回す。損失水頭の分だけ、実際に水車が使える落差は目減りする。使う落差は 。発電機出力は通常の水力発電と同じ形の式で求まる。
例題
総落差100m、流量50m³/s、損失水頭は揚水時・発電時共に総落差の3%、ポンプ効率・水車効率共に89%、電動機効率・発電機効率共に97%とする揚水発電所を考える。
発電時に水車が使える有効落差は 。
揚水時に電動機が押し上げるべき落差は 。
同じ流量・同じ総落差でも、揚水時に投入する電力(約58.5MW)の方が、発電時に取り出せる電力(約41.0MW)よりはるかに大きい。この差が、揚水発電所を運用するうえでの往復効率(約70%程度)にあたる。
水車の比速度 — 水車の「形」を1つの数値で表す
水力発電の出力計算とは別に、水車そのものの形状的な特徴を表す指標として比速度がある。比速度Nsは、「同じ形をした水車を1mの落差で運転したとき、1kWの出力を出すために必要な回転速度」という考え方から定義される量で、次の式で求まる。
は回転速度[min⁻¹]、は出力[kW]、は有効落差[m]だ。比速度の値が大きいほど、低落差・大流量に向くカプラン水車のような形状に近づき、比速度が小さいほど、高落差・小流量に向くペルトン水車のような形状に近づく——第1節で見た「落差と流量による水車の使い分け」を、1つの数値に集約した指標だと考えるとよい。
一方、水車に直結する同期発電機の回転速度Nは、周波数fと磁極数pから決まる。
磁極数pは必ず偶数になる。この2つの式を組み合わせると、「この落差・この出力なら、比速度の目安から回転速度の見当がつき、そこから50Hz(または60Hz)に合う磁極数が絞り込める」という流れで、水車の仕様を検討できる。
例題
有効落差300m、水車出力60,000kWの水車を回転速度200min⁻¹で運転する場合の比速度は、
この発電機を50Hzの系統に接続する場合の磁極数は、
実務との接点 — 「掛け算で実出力を出す」考え方はどこにでも使われている
水力発電の出力計算は「複数の要素を掛け合わせて、実際に取り出せる値を求める」という 考え方の典型だが、これは電材業界の実務にもそのまま通じる。受変電設備の変圧器容量や 遮断器の定格を選定する際も、皮相電力・力率・効率といった複数の要素を掛け合わせて 実際に必要な容量を割り出す。水力発電のP=9.8QHηも、受変電設備の容量計算も、 「単一の数値ではなく、複数の要素の積で実力値が決まる」という発想の応用という点は変わらない。
冒頭の案内板の数字から出力を暗算する練習は、理解度チェックの最後の問題でしてみよう。