制御盤の中に、誘導電動機の始動用としてスターデルタ始動器や、巻線形電動機用の 二次抵抗始動器が組まれているのを見たことがあるはずだ。なぜ、電源にただつなぐだけの 「全電圧始動」ではなく、わざわざ複雑な結線切り替えや抵抗器を用意する必要があるのか。
電動機を電源に直接つないだ瞬間、いったい何が起きているのか。 このトピックを読み終えるころには、始動法ごとに何が変わり、何を犠牲にしているのかを、 電流とトルクの両面から説明できるようになっている。
種明かしは、誘導電動機が止まっている瞬間(始動の瞬間)に流れる電流とトルクの関係、 すなわちトルク-すべり曲線の形にある。
同期速度とすべり — 電動機の「基準速度」と「遅れ」
誘導電動機の回転磁界の速さ(同期速度)は、電源周波数と極数だけで決まる。
は電源周波数[Hz]、 は極数。誘導電動機の回転子は、この同期速度より必ずわずかに遅れて 回る。この遅れの割合をすべり という。
例題
4極の三相誘導電動機を60Hzの電源で運転すると、同期速度は rpm。すべり5%で運転しているなら、実際の回転速度は rpm となる。
トルク-すべり曲線 — なぜ始動の瞬間が一番苦しいのか
誘導電動機のトルクは、すべりに対して単純な比例関係ではなく、山型の曲線を描く。
- すべり (同期速度で回っている状態)では、トルクはゼロ
- すべりが大きくなるにつれてトルクは増加し、あるすべり で最大値(停動トルク、最大トルク)を迎える
- そこからさらにすべりが大きくなると、トルクはむしろ減少していく
- (回転子が完全に静止している始動の瞬間)のトルクが、始動トルクである
最大トルクが生じるすべり は、二次抵抗 と二次リアクタンス の比で決まる。
通常の運転範囲(定格近く)は、この曲線のうち同期速度に近い小さなすべりの領域にあたる。 一方、始動の瞬間()は曲線の反対側の端であり、多くの電動機では最大トルクの山からは 外れた、比較的トルクの出にくい位置にある。にもかかわらず電流だけは非常に大きい—— これが誘導電動機の始動が難しい理由である。
始動法の使い分け — 電流を抑えるか、トルクを稼ぐか
全電圧始動(直入れ始動)
電源電圧をそのまま電動機に加える、もっとも単純な始動法。構成が単純な分、 目安として定格電流の5〜7倍程度という大きな始動電流が流れる。小容量の電動機や、 配電系統・電源設備に余裕がある場合に限って使われる。
スターデルタ始動
かご形誘導電動機の固定子巻線を、始動時だけスター(Y)結線にし、電圧を1/√3倍に落として 始動する方法。運転速度に近づいたところでデルタ(Δ)結線に切り替える。
電圧を落とせば電流もトルクも下がる——このトレードオフを理解した上で、 負荷側が始動時に大きなトルクを必要としない用途(ポンプ・送風機など)に使われる。
結線を変えて始動電流を見積もる — Δでの拘束試験結果をYの始動電流に変換する
現場や工場試験では、電動機の巻線をΔ結線のまま拘束試験(回転子を固定した状態で 低い電圧を加え、始動時に相当する状態を測定する試験)を行い、線間電圧・線電流を 得ることがある。この結果から、同じ電動機をY結線に組み替えて、別の電源電圧で 始動したときの始動電流を計算で求められる。
考え方は2段階だ。
- Δ結線での相インピーダンスZを求める。Δ結線では相電圧=線間電圧、 相電流=線電流の1/√3倍(線電流=√3×相電流)なので、
- Y結線に組み替えて電源電圧をかけたときの始動電流(Y結線では線電流=相電流)を、 相電圧をZで割って求める。
例題(自作の数値例)
Δ結線のまま拘束試験を行ったところ、線間電圧33.0V、線電流8.00Aが得られた。 この電動機をY結線に切り替え、200Vの三相電源に接続して始動するときの始動電流を求める。
二重かご形・深溝かご形(かご形機自身が持つ始動トルク改善の工夫)
巻線形誘導電動機の二次抵抗始動は、外部から抵抗器を挿入するという「人の手による」 工夫だった。これに対し、かご形誘導電動機の中にも、回転子導体の形状だけで 同じような効果を自動的に得る工夫がある。
- 二重かご形誘導電動機:回転子スロットに、入口に近い高抵抗の外側導体と、 内部の低抵抗の内側導体という2層の導体を持つ。始動時(すべりが大きく、 回転子側の電流の周波数が電源周波数に近いほど高い)は、表皮効果によって 電流が外側の高抵抗導体に集中し、大きな始動トルクを生む。定格運転に近づき すべりが小さくなる(回転子側の周波数が下がる)と表皮効果が弱まり、電流は 内側の低抵抗導体にも流れるようになるため、効率よく運転できる。
- 深溝かご形誘導電動機:2層に分けず、幅が狭く深いスロットの導体1本で 同じ効果をねらう。始動時は表皮効果によって導体の実効的な断面積が小さくなり (=実効抵抗が上がり)大きな始動トルクを生み、定格運転時は表皮効果が弱まって 実効抵抗が下がり、効率よく運転できる。
もう一つ、かご形誘導電動機の始動特性は、回転子導体の材料によっても変わる。 回転子導体を銅から、電気抵抗率の高い銅合金に変更すると、二次抵抗の値が 増大する。この結果、始動トルクは大きくなりやすい一方、定格負荷時は二次入力のうち 二次銅損として失われる割合(すべりそのもの、というより二次抵抗が大きい分だけ すべりが増えて損失が増える方向)が増えるため、定格負荷時の効率はむしろ低下する。 始動特性の改善と運転効率は、二次抵抗を巡って表裏一体のトレードオフにある。
始動補償器(リアクトル始動・オートトランス始動)
始動時だけ電動機の手前にリアクトルやオートトランス(単巻変圧器)を挿入し、 電動機にかかる電圧を一時的に下げて始動電流を抑える方法。スターデルタ始動より 電圧の下げ幅を細かく調整できる。
二次抵抗始動(巻線形誘導電動機専用)
回転子側の巻線をスリップリングで外部に引き出せる巻線形誘導電動機だけに使える方法。 外部抵抗を回転子回路に挿入することで を大きくし、最大トルクの位置を始動点 (すべり1)側へ寄せる。これにより、電流を大きく増やさずに始動トルクを稼ぐことができる。 負荷側が始動時に大きなトルクを必要とする用途(クレーン、大型のポンプ・コンプレッサ) に向く。
インバータ始動(VVVF始動)
インバータで周波数と電圧を低い値から徐々に上げていく方法。始動電流をなだらかに抑えながら、 必要なトルクを確保しやすく、現在はコストが許せば最も柔軟な始動法として広く使われている。
誘導電動機の速度制御 — 始動法とは別の切り口
ここまで見てきた始動法は「動き出す一瞬」をどう乗り切るかの話だった。これとは別に、 運転中の回転速度そのものを変えたい(連続的に、あるいは段階的に)という場面もある。 誘導電動機の速度制御は、同期速度の式にどの変数を操作するかで、いくつかの方式に分かれる。
極数変換制御 — 段階的にしか変えられない代わりに効率がよい
固定子巻線の結線を切り替えて、極数そのものを2段階(例えば4極↔8極)などに切り替える方式。 運転中の効率は元の電動機の特性のままなので良好だが、は整数の組合せでしか選べないため、 速度は「連続的」ではなく「段階的」にしか変えられない。
二次抵抗制御 — 巻線形限定で、比例推移を使って連続的に変える
前節で見た二次抵抗始動と同じ仕組み(巻線形誘導電動機の二次側に外部抵抗を挿入する)を、 始動時だけでなく運転中の速度制御にも応用したものが二次抵抗制御だ。二次抵抗を 大きくするほど、トルク-すべり曲線の山(最大トルクの位置)がすべりの大きい側へ寄っていく ため、同じ負荷トルクでもより大きなすべり(=より低い回転速度)で釣り合うようになる。 外部抵抗の値を連続的に変えられるので速度も連続的に変わるが、安定に運転できる速度範囲を 広げようと二次抵抗を大きくとるほど、定格負荷時の二次銅損(すべりに比例する損失)が 増え、運転効率はかえって悪化する。
インバータ制御(VVVF)— 周波数そのものを動かして同期速度を変える
電源周波数を変えれば、同期速度そのものを動かせる。パワーエレクトロニクスの トピックで見たとおり、周波数だけを変えて電圧を一定に保つと磁束が過大・過小になるため、 電圧も周波数に比例させて一緒に変える「V/f一定制御」を行う。この、出力の電圧・周波数を どちらも自在に変えられる方式をVVVF(Variable Voltage Variable Frequency)と呼ぶ。
これに対して、商用電源のように電圧・周波数がどちらもほぼ一定に保たれている電源は CVCF(Constant Voltage Constant Frequency:定電圧定周波数)電源と呼ばれる。「電圧も 周波数も変わらない電源」と「電圧も周波数も自在に変えられる電源」という、対になる 2つの略語として区別しておきたい。
電動機と負荷のトルク-速度曲線 — 交わっていれば安定とは限らない
始動が終わったあとの定常運転でも、電動機のトルク曲線だけを見ていては足りない。 実際に何回転で運転し続けるかは、電動機のトルク曲線と、負荷のトルク曲線が交わる点 (動作点)で決まる。ここで注意したいのは、交わっていれば必ず安定に運転できるとは 限らないという点だ。
動作点が安定であるためには、その速度からわずかにずれたとき、自動的に元の速度へ 戻ろうとする力が働く必要がある。
- 速度が動作点よりわずかに上がったとき、電動機トルクが負荷トルクを下回れば (減速方向の力が働けば)、速度は元に戻ろうとする。
- 速度が動作点よりわずかに下がったとき、電動機トルクが負荷トルクを上回れば (加速方向の力が働けば)、速度は元に戻ろうとする。
この2条件がそろっている交点だけが安定な運転点であり、そろっていない交点は 不安定(わずかなずれがどんどん拡大していく)とみなされる。
安定な組み合わせの例
- 直流分巻電動機と送風機負荷:分巻電動機は速度が上がってもトルクがほぼ一定 (わずかに減少する程度)なのに対し、送風機のトルクは速度の上昇とともに増大する。 低速側では電動機トルクが負荷トルクを上回り加速し、高速側では負荷トルクが電動機 トルクを上回り減速するため、交点は安定になる。
- 二次抵抗を大きくした巻線形誘導電動機と、速度とともにトルクが増える負荷: 二次抵抗を大きくすると、始動点付近から速度上昇とともにトルクが減少していく領域が 広がる。この領域を、速度とともにトルクが増える負荷と組み合わせると、同じ理屈で 安定な交点ができる。
2つの交点が生じる例 — 山型のトルク曲線と定トルク負荷
かご形誘導電動機のように山型のトルク-速度曲線を持つ電動機を、回転速度によらず トルクがほぼ一定の定トルク負荷と組み合わせると、電動機トルク曲線と負荷トルク曲線が 2点で交わることがある。
- 最大トルクより低速側(速度上昇とともにトルクが増加する領域)での交点: 速度が上がると電動機トルクがさらに負荷トルクを上回ってしまい、加速し続ける——不安定
- 最大トルクを超えた高速側(速度上昇とともにトルクが減少する領域)での交点: 速度が上がると電動機トルクが負荷トルクを下回り、減速方向に戻る——安定
実務との接続 — 始動電流が制御盤の部品選定を左右する
始動法の違いは、制御盤に組み込む機器の選定に直結する。全電圧始動を選ぶ場合、 配線用遮断器・電磁接触器・熱動継電器(サーマルリレー)はいずれも、その大きな始動電流に 瞬間的に耐えられる(あるいは始動電流では誤動作しない)ものを選ぶ必要がある。 スターデルタ始動器や二次抵抗始動器が制御盤に組まれているのは、単に電動機を回すためだけでなく、 上流の遮断器やケーブルサイズを過大にしないための、電流を抑える工夫でもある。
冒頭の制御盤で見た始動器の中身——電流とトルクをどう配分していたか、 答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。