設備の搬送機や工作機械の制御盤を開けると、モータへの配線とは別に、細いシールド線が 何本もモータ側から制御盤へ戻ってきている。これはエンコーダケーブル——モータの回転位置を 制御盤側へ「報告」するための配線だ。
一方、同じように精密に位置決めするモータでも、この報告用の配線が一切ないものもある。 両方とも「指令した位置に正確に動く」という結果は同じに見えるのに、なぜ片方だけ わざわざ配線を増やしてまで位置を報告させているのか。
このトピックを読み終えるころには、モータへの配線を見ただけで、それがクローズドループ (自分の状態を見ながら動く)なのか、オープンループ(指令を信じて動くだけ)なのかを 見分けられるようになっている。
種明かしは、フィードバック——自分が今どこにいるかを常に測り、目標とのズレを 打ち消し続ける仕組みがあるかどうかにある。
フィードバック制御の基本 — 偏差を打ち消し続ける
サーボモータを含む多くの制御系は、次のようなループで動いている。
- 目標値(どこまで動かしたいか)を与える
- 検出器(エンコーダ等)で、実際の出力(現在位置・速度)を測る
- 目標値と検出値の差=偏差を計算する
- 偏差を打ち消す向きに、モータへの操作量を出す
- 1〜4を繰り返す
が偏差、 が目標値、 が検出値(実際の出力)だ。このループが絶え間なく回り続けることで、 モータは目標値へ向かって自らを修正し続ける。これがフィードバック制御であり、 サーボモータの「サーボ(servo)」という語自体が、この追従動作を意味している。
サーボモータ — クローズドループで「見ながら」動く
サーボモータは、モータ本体にエンコーダ(回転角を検出する装置)やレゾルバなどの検出器を 内蔵し、常に自分の実際の位置・速度を制御器(サーボアンプ)へ送り返している。制御器は その検出値と目標値を比較し、偏差がゼロに近づくように電流・電圧を調整し続ける。
この、検出器からの信号が制御器へ戻ってくる経路があることを指して「クローズドループ (閉ループ)制御」と呼ぶ。ループが閉じているからこそ、負荷変動や外乱があっても、 サーボモータは実際の位置を確認しながら自分で修正できる。
ステッピングモータ — オープンループで「指令を信じて」動く
これに対してステッピングモータは、位置を検出する仕組みを持たない。制御器から送られる パルス信号1つにつき、決まった角度(ステップ角)だけ回転するという構造で動作する。
ステップ角0.72°のモータなら ステップで1回転する。パルス数をそのまま 数えれば「今どれだけ回転したはず」かが分かるため、検出器がなくても位置決めができる—— というのがステッピングモータの発想だ。
回転「角度」がパルスの数で決まるのと同じ発想で、回転「速度」はパルスを送る周波数 (1秒間に何パルス送るか)で決まる。パルスの間隔が短くなる=周波数が高くなるほど、 モータは短い時間で多くのステップを刻むので、回転速度は速くなる——つまり回転速度は パルス周波数に比例する。
たとえばステップ角0.72°(1回転500ステップ)のモータに、毎秒2000パルスを送り続けると、 回転/秒、1分に換算すると min⁻¹ で回転する。制御器側は パルス数で「どこまで回すか」を、パルス周波数で「どれくらいの速さで回すか」を、それぞれ 指令していることになる。
もう一つ、ステッピングモータ、特に永久磁石形(ロータに永久磁石を使うタイプ)に 特有の性質がある。励磁電流を止めて無通電状態にしても、ロータの永久磁石とステータの 磁極の間には磁気的な吸引力が働き続けるため、ある程度の外力までなら位置がずれずに 留まろうとする力——保持力(ディテントトルク)——が働く。これはエンコーダによる フィードバックとは無関係の、磁石の構造そのものが持つ性質であり、電源を切った瞬間に 完全に自由回転するわけではない、という点はサーボモータとの比較でも押さえておきたい。
減速機を介した動力伝達 — 回転速度・トルク・動力の関係
電動機は一般に、負荷が必要とするトルクよりずっと小さいトルクしか出せない代わりに、 高い回転速度で回る方が効率よく作れる。そこで電動機の出力軸と負荷の間に減速機 (歯車の組み合わせ)を挟み、回転速度を落とす代わりにトルクを高めて負荷を駆動する 構成が広く使われる。
減速機の減速比N(電動機側の回転速度÷負荷側の回転速度)を使うと、負荷側の 回転速度・トルクは次のように変換される。
は電動機側(減速機の入力側)の回転速度とトルク、 は負荷側 (減速機の出力側)の回転速度とトルク、 は減速機の効率(1未満)だ。回転速度は 減速比Nの逆数(1/N)に落ち、トルクはN倍に高まる——ちょうど自転車の変速機で、 軽いギアにすると足の回転は速いがペダルは軽く、重いギアにすると回転は遅いが力強く 踏み込めるのと同じ関係にある。
ここで動力(仕事率)P=トルクT×角速度ωの関係を思い出すと、回転速度が1/N、 トルクがN倍という2つの変化は、掛け算すると打ち消し合う。つまり理想的(効率 100%)には、減速機を通しても動力は変わらない。実際には、歯車のかみ合いや軸受の 摩擦などによる損失があるため、効率η(1未満)の分だけ動力は目減りする。
まず角速度に直すと rad/s なので、電動機トルクは N・m。負荷側の回転速度は min⁻¹ ( rad/s)、負荷側トルクは N・m。
負荷側の動力を計算すると kW となり、これは kW と一致する。回転速度とトルクは 大きく変化しても、動力は効率η分だけ小さくなるだけ——という構造が数値で確認できる。
巻上機の所要動力 — 直線運動の仕事率を電動機出力に変換する
ここまでの減速機は回転運動どうしの動力伝達だったが、巻上機(ホイスト・クレーンなど) のように、ロープでおもりを直線的に持ち上げる負荷では考え方が少し変わる。
一定速度でおもりを持ち上げるとき、電動機が支えなければならない力は、おもりに働く 重力とつり合う力だ。質量、重力加速度とすると、必要な力は、
この力で、速度で持ち上げ続けるのに必要な仕事率(動力)は、力×速度で求まる。
電動機はこの負荷側の仕事率をそのまま出せばよいわけではない。ロープや滑車、減速機構の 摩擦損失がある分、電動機はそれを補うだけ余分に出力しなければならない。機械効率を とすると、電動機の所要出力は、
例題(自作の数値例)
質量800kgの物体を0.5m/sの一定速度で巻き上げる巻上機があり、機械効率は95%、 重力加速度は9.8m/s²とする。
減速機の回転運動どうしの動力伝達(P=Tω)と、巻上機の直線運動を含む動力計算 (P=Fv=mgv)は式の形こそ違うが、「効率η分だけ入力側が大きくなる」という 考え方そのものは共通している。
エレベータの釣合いおもり — 電動機が支えるのは「差分」だけ
巻上機のなかでも、ロープ式エレベータには特有の工夫がある。かご(人や荷物を乗せる部分)の 反対側に、ロープを介して釣合いおもり(カウンターウェイト)をつなぎ、かごが上がれば おもりが下がる、かごが下がればおもりが上がる、という構造になっている。
もし釣合いおもりがなければ、電動機はかご質量と積載質量の合計をまるごと持ち上げなければ ならない。だが釣合いおもりが反対側で常に引っ張り返してくれるため、電動機が実際に支える 必要があるのは、かご側の質量と釣合いおもり側の質量の差(不釣合い質量)だけで済む。
かご質量、定格積載質量、釣合いおもり質量とすると、定格積載時に 電動機が支える正味質量は、
あとは、このを通常の巻上機の式にそのまま当てはめればよい。
例題(自作の数値例)
かごの質量300kg、定格積載質量1200kgのロープ式エレベータで、釣合いおもりの質量は、 かごの質量に定格積載質量の50%を加えた値とする。定格積載質量を搭載したかごを 一定速度90m/min(=1.5m/s)で上昇させるときの電動機出力を求める。機械効率は80%とする。
釣合いおもりを考慮せず、かご質量と積載質量の合計1500kgをそのまま使ってしまうと、 所要出力はkWと、実際の2倍以上に過大評価してしまう。
スイッチトリラクタンスモータ(SRM)— 磁石を使わず、鉄の形だけで回る
サーボモータやステッピングモータの多くは、永久磁石を使って高いトルク密度を実現している。 だが近年、ネオジムなど希土類磁石の価格変動・供給リスクを避けるため、磁石を一切使わない 特殊なモータが注目されている——それがスイッチトリラクタンスモータ(SRM)だ。
SRMの固定子巻線は集中巻(各磁極に単純に巻線を集中して巻く方式)で、回転子は 永久磁石も導体巻線も持たない、突極形(凸凹のある形状)の鉄心だけでできている。 固定子の巻線に流す電流をスイッチで順番に切り替えると、回転子の鉄心の突極が、 磁気抵抗(リラクタンス)が最小になる位置——つまり最も近い固定子磁極——に向かって 引き寄せられる。これを連続して繰り返すことで、回転子は回り続ける。
回転子が鉄の塊に近い単純な構造のため、機械的に頑丈で高速回転に適しており、また 希土類磁石や(かご形誘導機のような)回転子側の導体を使わずに、鉄心と巻線だけで 磁気回路を構成できるという特長がある。一方で、磁気抵抗の急な変化を利用した動作原理上、 トルクリプル(脈動)は永久磁石形のモータより大きくなりやすいという弱点も持つ。
ブラシレスDCモータ — ブラシを無くし、センサで巻線を切り換える
直流電動機は本来、整流子とブラシによって電機子巻線への接続を機械的に切り替えることで、 回転が進んでも一定方向のトルクを保っていた(前のトピックで見た直流電動機の原理)。 だが整流子とブラシは機械的に接触する部品であるため、摩耗や火花(電気雑音の原因)が 避けられない。ブラシレスDCモータは、この機械的接触部分をまるごと取り除いた構造だ。
ブラシレスDCモータでは、固定子側に巻線を、回転子側に永久磁石を配置する。固定子巻線に 流す電流の向き・タイミングを外部の駆動回路(インバータに近い構成)で切り替えることで、 永久磁石とのあいだにトルクを発生させ続ける。整流子・ブラシが担っていた「接続の切り替え」 という役割を、電子回路が肩代わりしている、と考えるとイメージしやすい。
ただし、この切り替えを正しいタイミングで行うには、回転子が今どの位置にあるかを 知る必要がある。そこでブラシレスDCモータの多くは、ホール素子などの位置センサを内蔵し、 回転子の位置を検出して駆動回路に伝えている。
ブラシレスDCモータは、この構造上の特徴から効率がよく、エアコンの圧縮機や冷蔵庫の コンプレッサなど、省エネ性能が求められる大型家電製品にも広く利用されている。 「ブラシがない=簡易的な小型モータ」という思い込みで用途を狭く考えないことが大切だ。
はずみ車(フライホイール)— 回転運動にエネルギーを蓄える
プレス機や圧延機のように、瞬間的に大きなトルクを必要とする一方で、平均的な負荷はそれほど大きくない設備では、電動機と負荷の間にはずみ車(フライホイール)と呼ばれる、重い円盤状の部品を組み込むことがある。電動機が比較的小さな出力でゆっくり加速しながらはずみ車を回し続け、そこに蓄えたエネルギーを、負荷が瞬間的に必要とするタイミングでまとめて放出させる、という使い方だ。
この仕組みを式で追うには、まず回転速度・角速度・トルクの関係を整理しておく必要がある。回転速度[min⁻¹](毎分の回転数)は、まず毎秒の回転数[s⁻¹]に直し、そこから角速度[rad/s]に変換する。
電動機が出力[W]を出しているとき、そのときのトルク[N・m]は、出力を角速度で割って求まる。
例題
回転速度3000min⁻¹で回転している軸の角速度は何rad/sか。
電動機がはずみ車を加速し続け、慣性モーメント[kg・m²]のはずみ車が角速度[rad/s]に達したとき、はずみ車に蓄えられている運動エネルギー[J]は、次の式で求まる。
直線運動の運動エネルギーの式と形はそっくりで、質量が慣性モーメントに、速度が角速度に置き換わっているだけだ。
例題(自作の数値例)
電動機ではずみ車を加速し、慣性モーメント4kg・m²のはずみ車の角速度が100rad/sに達した。このときはずみ車に蓄えられている運動エネルギーを求める。
実務との接点 — エンコーダ配線とノイズ対策
サーボモータを使う設備では、動力用の配線(モータへ電流を送る主回路)とは別に、 エンコーダからの信号線を制御盤側まで引き回す必要がある。この信号線は電圧・電流が 小さく、動力線からのノイズの影響を受けやすいため、シールド付きケーブルを使い、 シールドを片端で確実に接地するといった配慮が実務上欠かせない。エンコーダ配線の シールド処理が甘いと、ノイズによって検出値が乱れ、フィードバック制御そのものが 不安定になる——検出器の重要性は、配線材料の選定という電材業界の実務にも直結している。
メカトロニクスとは、この「検出器(センサ)」「制御器(コントローラ)」「駆動源 (アクチュエータ)」という3要素が組み合わさって、機械を電気的に精密に動かす技術分野 全体を指す言葉だ。サーボモータとステッピングモータの違いは、その中でも検出器の 有無という最も基本的な分岐点にある。
冒頭のエンコーダケーブルの正体、答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。