センサーが出す信号は、多くの場合ミリボルト単位のごくわずかな電圧変化にすぎない。 そのままでは制御盤の中のリレーもPLCの入力回路も、指一本動かせない。
なぜ増幅回路を1つ挟むだけで、そのわずかな信号が機器を動かせるほどの強さに変わるのか。 拡大するとき、回路の中では何が何倍にされているのか。
このトピックを読み終えるころには、制御盤やセンサー回路の中にある小さなアンプ回路を見て、 「何を、どれだけ拡大しているか」を数値で言い当てられるようになっている。
種明かしは、トランジスタが電流を増幅する部品であるという事実と、その増幅度を測る 「デシベル」という物差し、そして負帰還という仕組みを組み合わせた、増幅回路の設計思想にある。
トランジスタの増幅作用 — 小さな電流の変化を、大きな電流の変化に拡大する
トランジスタには3つの端子(ベース・コレクタ・エミッタ)があり、ベースに流す電流 を 少し変化させると、コレクタに流れる電流 がそれよりずっと大きく変化する。この比率を 電流増幅率(hFE)と呼ぶ。
は数十から数百程度の値を取ることが多い。つまりベース側でμA(マイクロアンペア) オーダーのわずかな電流変化を作ってやるだけで、コレクタ側にはmA(ミリアンペア)オーダーの 大きな電流変化が現れる——これが「小さな信号で大きな電流を制御する」増幅の正体だ。
例題
のトランジスタに、ベース電流 を流した。コレクタ電流 はいくらか。
増幅度の物差し — 「倍」とデシベル(dB)
増幅度は「入力の何倍か」という倍率でそのまま表せるが、実務ではデシベル(dB)という 対数の物差しで表されることも多い。電圧の増幅度 (=出力電圧÷入力電圧)をdBで表すと、
電力の増幅度 の場合は、
電圧の式にだけ係数2が余分に付くのは、電力が電圧の2乗に比例するからだ ( なので、 となる)。
例題
電圧増幅度が10倍の増幅回路がある。この利得をデシベルで表すと何dBか。
10倍の電圧増幅度はちょうど20dBに相当する、という対応はよく使うので覚えておくと計算が速い。
オペアンプの基本 — 「仮想短絡」という近似で回路を解く
オペアンプ(演算増幅器)は、開ループ利得が非常に大きい増幅ICで、通常は出力の一部を 入力に戻す負帰還をかけて使う。負帰還をかけると、理想的なオペアンプは次の2つの 性質で近似できる。
- 2つの入力端子(+端子と-端子)には電流がほとんど流れ込まない
- 2つの入力端子の電位は、常にほぼ等しくなる(仮想短絡)
この2つの性質を使うと、抵抗の比だけで増幅度を求められる。反転増幅回路(-端子側に 入力抵抗 、出力との間に帰還抵抗 を接続する構成)の電圧増幅度は、
マイナス符号は、出力の位相が入力に対して180度反転していることを表す。
例題
入力抵抗 、帰還抵抗 の反転増幅回路の 電圧増幅度の大きさはいくらか。
非反転増幅回路 — 位相を反転させずに増幅する
反転増幅回路は入力信号を-端子に入れていたが、+端子に入力信号を入れる構成もある。 これが非反転増幅回路で、-端子とグラウンドの間に抵抗、-端子と出力の間に 帰還抵抗を接続する。
+端子には入力電圧がそのまま加わる。仮想短絡により-端子の電位もに 等しくなり、-端子には電流が流れ込まないので、とは出力からグラウンドへ向かう 1本の直列回路(分圧回路)とみなせる。は、この分圧回路がの両端に作る 電圧そのものだから、
反転増幅回路の式()と違い、非反転増幅回路の利得には必ず「+1」が 付き、符号もマイナスにならない。出力の位相は入力と同じ(反転しない)。
例題
、の非反転増幅回路に、入力電圧 を+端子に加えた。出力電圧はいくらか。
負帰還 — 利得を犠牲にして、安定性を手に入れる
負帰還(NFB)とは、出力の一部を逆位相で入力側に戻す仕組みだ。入力を弱める方向に働くため、 利得は必ず下がる。その代わりに、次のような「質」の向上が得られる。
- 温度変化やトランジスタ・IC個体ごとのばらつきによる特性変化が打ち消され、動作が安定する
- 入力と出力の比例関係が崩れにくくなり、波形の歪みが小さくなる(直線性の向上)
オペアンプ回路のほぼすべてが負帰還を前提に設計されているのは、素子1個ごとの利得の ばらつきに頼らず、外付けの抵抗比だけで増幅度を正確に決められるという実務上の利点が 大きいからだ。制御盤の中でセンサーのmV単位の信号をPLCが読める電圧まで持ち上げる アンプ回路にも、この負帰還付きのオペアンプ増幅回路がよく使われている。
シュミットトリガ回路 — 帰還先を+端子に変えると、増幅回路は「2値」の回路に化ける
ここまでのオペアンプ回路は、すべて帰還抵抗を-端子(反転入力)に戻す負帰還だった。 帰還先を+端子(非反転入力)に変えると、回路の性格はまったく別物になる。これが 正帰還であり、代表的な応用がシュミットトリガ回路(コンパレータの一種)だ。
負帰還の反転増幅回路・非反転増幅回路は、入力電圧に比例した連続的な出力を返す 「線形」動作をする。一方、正帰還をかけたシュミットトリガ回路の出力は、入力電圧が あるしきい値を超えた瞬間に一気に反転し、0V付近とVcc付近の2つの状態のどちらかに 張り付く(2値動作)。しかも、入力電圧が上昇していくときに出力が反転するしきい値と、 下降していくときに反転するしきい値は異なる値になる。この性質をヒステリシスと呼ぶ。
シュミットトリガ回路と負帰還の増幅回路を見分けるには、帰還抵抗がオペアンプの どちらの端子に戻っているかを確認すればよい。-端子への帰還なら負帰還(線形な 増幅回路)、+端子への帰還なら正帰還(2値的なシュミットトリガ回路)と、接続先の 端子だけで判別できる。
エミッタホロワ — 電圧は増幅しないが、入力インピーダンスを跳ね上げる回路
トランジスタ増幅回路には、出力をどの端子から取り出すかによっていくつかの構成がある。 ここまで扱ってきたのは出力をコレクタから取り出す構成だったが、もう1つ実務でよく使われるのが、 出力をエミッタから取り出すエミッタホロワ(コレクタ接地回路)だ。
エミッタホロワは電圧をほとんど増幅しない(電圧利得はほぼ1倍)代わりに、入力インピーダンスが 非常に高く、出力インピーダンスが非常に低いという特徴を持つ。この性質を使って、センサーなどの 弱い信号源に負荷をかけずに受け渡す「緩衝(バッファ)」の役割で使われる。
バイアス設計 — 抵抗R1・R2でベース電位を決め、REでエミッタ電流を決める
エミッタホロワの直流動作点(バイアス)は、電源電圧を抵抗(電源側)と (接地側)で分圧してベース電位を作り、そこからベース-エミッタ間電圧 (通常0.7V程度)を差し引いた電位がエミッタにかかる、という考え方で求める。
(ベース電流はを流れる電流に比べて十分小さいものとして無視した近似)
例題
、(電源側)、(接地側) とする。動作点のエミッタ電流を1mAとしたい。抵抗の値はいくらか。
交流等価回路 — 入力インピーダンスがhieよりはるかに大きくなる理由
エミッタホロワを交流信号の視点(hパラメータによる等価回路)で見ると、ベースから見た 入力インピーダンスは、単純なだけではなく、次の式になる。
は数十〜数百程度の値を取るため、の項はよりはるかに大きくなる。 これは、エミッタホロワの出力(エミッタ電圧)がほぼそのままベース電圧に追従する(電圧利得≒1) ため、を流れる電流()による電圧降下が、ベース側から見ると 小さなベース電流の変化に対して倍に拡大されて働く——電流帰還の効果による。
FET増幅回路 — 電流ではなく「電圧」から出力電流への変換で増幅する
トランジスタ(BJT)の増幅は、ベース電流を倍してコレクタ電流を作る「電流の増幅」だった。FET(電界効果トランジスタ)を使った増幅回路は、これとは違う量で増幅の大きさを表す。ゲート電圧の変化がドレイン電流の変化にどれだけつながるかを表す相互コンダクタンス(単位はS、ジーメンス)だ。
FETを使ったソース接地増幅回路(ゲートに信号を入れ、ドレインから出力を取り出す構成)の簡易小信号等価回路では、ドレイン側の内部抵抗と負荷抵抗が並列に見える。がに比べて十分大きいとき、電圧増幅度は次の式で近似できる。
を無視できないほど小さい(あるいはと同程度)場合は、との並列合成抵抗を使い、次のように表す。
例題
相互コンダクタンスのFETを使ったソース接地増幅回路がある。負荷抵抗とし、ドレイン側の内部抵抗はに比べて十分大きく無視できるとする。電圧増幅度はいくらか。
バイアス回路の温度安定性 — 固定・電流帰還・電圧帰還の3方式
エミッタホロワの・による分圧は、バイアス(直流動作点)を決める設計の一例に すぎない。一般のトランジスタ増幅回路には、バイアスの決め方によっていくつかの方式があり、 周囲温度が変わってhFEがばらついたときに、コレクタ電流Icがどれだけ変動しにくいか (安定度)が方式ごとに大きく違う。
- 固定バイアス:ベースに抵抗を1本つなぎ、電源電圧から一定のベース電流 を流し込むだけの、最も単純な方式。はhFEの値と無関係に ほぼ一定のまま決まってしまうため、温度上昇でhFEが増加すると、が そのまま増加してしまう。hFEの変化を打ち消す帰還経路がなく、安定度は最も低い。
- 電流帰還(自己)バイアス:エミッタに抵抗を追加する方式。の増加で (≒)が増えようとすると、の電圧降下が増えてベース-エミッタ間電圧 を押し下げ、結果としての増加を抑える向きに働く。この「の増加が を減らす」という負帰還のループが、hFEが変化してもICを安定させる。
- 電圧帰還バイアス:コレクタ-ベース間に抵抗を接続する方式。の増加でが 増えようとすると、コレクタ抵抗での電圧降下が増えてコレクタ-エミッタ間電圧が 低下し、これがベース抵抗にかかる電圧を減らしてを減少させる。こちらも 負帰還によってICの変化が抑えられる。
発振回路 — 電源だけで一定の波形を作り出す
増幅回路の出力の一部を、負帰還とは逆に同位相のまま入力へ戻す(正帰還)と、 外から信号を入れなくても回路自身が一定の周波数で振動し続ける発振回路になる。 LC発振回路はコイルとコンデンサの共振現象を利用して発振周波数を決めるが、 周囲の温度変化や部品ごとのばらつきの影響を受けやすく、発振周波数がわずかに 変動しやすいという弱点がある。
そこで、LC発振回路のコンデンサを水晶振動子(水晶を薄く切り出した部品。 電圧を加えると機械的に振動し、その振動が特定の周波数の電気信号として現れる 圧電効果を利用する)に置き換えた水晶発振回路が使われる。水晶振動子は 機械的な共振現象を使うため、LC発振回路よりも周波数安定度がけた違いに優れ、 時計やマイコンのクロック信号など、正確な周波数が求められる回路の基準として 広く使われている。
冒頭のセンサー信号が制御盤の中でどう拡大されているか、答え合わせは理解度チェックの 最後の問題でしてみよう。