制御盤の電源基板を開けると、黒い小さな部品が何個も並んでいる。ダイオードとトランジスタだ。 どちらも見た目は地味だが、電源回路や信号回路の心臓部を担っている。
なぜダイオードは、電流を「一方向にしか」流さないのか。そしてトランジスタは、 指先で触れるかどうかというごく小さな電流で、モーターやランプを動かすほどの 大きな電流をコントロールできるのか。
このトピックを読み終えるころには、制御盤の基板にあるこれらの部品を見て、 それぞれが何のためにそこに置かれているかを説明できるようになっている。
種明かしは、半導体という材料が持つ、ちょっと変わった性質にある。銅のように 電気を常によく通す「導体」でも、ゴムのように常に通さない「絶縁体」でもない。 条件次第で、電気を通したり通さなかったりする——その中間的な性質を利用して、 ダイオードやトランジスタという部品が作られている。
p型半導体とn型半導体 — 電気を運ぶ担い手が違う
半導体の代表格であるシリコンに、ごくわずかな不純物を混ぜる(ドーピングする)ことで、 性質の異なる2種類の半導体が作られる。
- p型半導体:電子が1個足りない「正孔(ホール)」が多数できる。正孔はプラスの電荷を 運ぶ担い手のようにふるまい、多数キャリアは正孔になる。
- n型半導体:逆に電子が余った状態になり、多数キャリアは電子になる。
「p」はpositive(正孔)、「n」はnegative(電子)の頭文字と対応させて覚えると、 取り違えにくい。
ダイオード — 電流を一方向にしか通さない
p型半導体とn型半導体を接合すると、境目(PN接合)に特殊な性質が生まれる。これがダイオードの 基本構造だ。
- 順方向(p型側=アノードの電位が、n型側=カソードより高い):低い抵抗で電流を通す
- 逆方向(カソード側の電位がアノードより高い):ほぼ電流を通さない
この「一方向にしか電流を通さない」性質を利用して、交流を直流的な波形に変換する回路が 整流回路だ。ダイオード1本を使う半波整流では、交流の片側の半周期だけが取り出され、 出力は0Vと正の値のあいだを行き来する脈流(波打つ直流)になる。ここで注意したいのは、 「整流=交流が直流に変わる」という説明だけを覚えていると、電池のような完全に平らな 直流電圧が得られると誤解しやすい点だ。実際には脈を打った波形にすぎず、平滑な直流にするには、 コンデンサ等による平滑化という別の工程が必要になる。制御盤の中でACをDCに変換して 基板やリレーの電源を作る回路には、整流と平滑化がセットで使われている。
特殊なダイオード — あえて逆方向を使う部品たち
ここまでのダイオードは、順方向に電流を通す性質を整流に使うものだった。だが実務で 使われるダイオードには、逆方向電圧をかけたときに起きる特殊な現象を積極的に 利用するものもある。「順方向で使うか、逆方向で使うか」で整理すると分かりやすい。
- 可変容量ダイオード(バリキャップ):逆方向に電圧を加えて使う。逆方向電圧を 大きくするほどPN接合部の空乏層が広がり、コンデンサの極板の間隔が広がるのと同じ 理屈で静電容量が小さくなる。この「電圧で容量を変えられる」性質を利用して、 ラジオやテレビの同調回路(受信するチャンネル・周波数を選ぶ回路)に使われる。
- 定電圧ダイオード(ツェナーダイオード):こちらも逆方向に電圧を加えて使う。 逆方向電圧をある値(ツェナー電圧)まで大きくすると降伏(ツェナー降伏)という 現象が起き、それ以降は流れる電流が変化しても両端の電圧がほぼ一定に保たれる。 この性質を利用して、基準電圧源や簡易的な定電圧回路に使われる。
- 発光ダイオード(LED):順方向に電流を流して使う。おなじみの表示灯・ 照明用途で、電流を流すと発光する。
- レーザダイオード:LEDと同じく順方向に電流を流して使うが、大きな電流を 流すことでPN接合部に誘導放出という現象を起こし、位相のそろったレーザー光を 発生させる。光ファイバ通信や光ディスクの光源に使われる。
トランジスタ — 小さな電流で大きな電流を制御する
トランジスタは、p型とn型を「サンドイッチ」のように3層に組み合わせた部品で、 3本の端子(ベース・コレクタ・エミッタ)を持つ。基本の働きは、ベースに流す小さな電流で、 コレクタ〜エミッタ間に流れる大きな電流をコントロールすることだ。
この比率を表すのが電流増幅率 で、次の式で表される。
(コレクタ電流)は (ベース電流)よりずっと大きくなるので、 は 1よりずっと大きな値(数十〜数百程度)になる。
例題
電流増幅率が100のトランジスタで、ベース電流が20µA流れている。 コレクタ電流はいくらか。
このベース電流による制御は、電流を大きくする「増幅」としてだけでなく、 ベース電流をオン・オフして、コレクタ〜エミッタ間の大きな電流を丸ごと オン・オフする「スイッチ」としても使える。信号レベルの小さな電流で、 ランプやリレー、モーターといった大きな負荷を間接的にオン・オフする回路の 基本原理が、まさにこのトランジスタのスイッチ動作だ。
FET(電界効果トランジスタ) — 電流ではなく「電圧」でチャネルを制御する
ここまで見てきたトランジスタ(バイポーラトランジスタ、BJT)は、ベースに流す電流の 大小でコレクタ電流を制御する素子だった。もう1つの代表的なトランジスタが電界効果 トランジスタ(FET)で、こちらはゲートに加える電圧でドレイン-ソース間の電流の 通路(チャネル)の広さを制御する。
FETは大きく2つに分類できる。
- 接合形FET(JFET):PN接合の逆方向電圧を利用してチャネルの幅を制御する
- MOS形FET:ゲートを絶縁層で分離した構造を持ち、さらに2種類に分かれる
- デプレッション形:ゲート電圧が0Vのときからチャネルが存在し、ゲート電圧を 加えるとチャネルが狭まって(空乏化して)電流が減っていく
- エンハンスメント形:ゲート電圧が0Vのときはチャネルがほとんどなく電流が 流れない。ゲート電圧を加えることで初めてチャネルが作られ、電流が流れ始める
FETとBJTの決定的な違いは、ゲート(FET)とベース(BJT)への入力が「電圧」か「電流」かという点だ。 FETのゲートは絶縁されているか逆方向接合になっているため、動作中にゲートへ流れ込む電流は ごくわずかで、入力インピーダンス(信号源から見た入りにくさ)が非常に高い。センサーの 微小な信号を、信号源側の負荷を増やさずに受け取りたい回路の入力段にFETがよく使われるのは、 この「電圧だけで制御でき、電流をほとんど奪わない」という性質のためだ。
BJTとFET、実務での使い分けの決め手
ここまでBJT(バイポーラトランジスタ)とFETを、それぞれ「電流制御」「電圧制御」という 制御方式の違いで見てきた。実務でどちらを選ぶかを左右する、もう3つの視点を押さえておく。
- 消費電力:BJTはベース電流を流し続ける必要があり、ゲートにほとんど電流が流れない FETに比べて消費電力が大きくなりやすい。低消費電力が求められる回路でFET(特にMOSFET)が 好まれる理由の一つはここにある。
- 静電気への強さ:FETはゲートを極めて薄い絶縁層で分離しているため、静電気によって この絶縁層が破壊されやすい。BJTはこの種の絶縁層を持たないため、静電気に対しては FETより壊れにくい。MOSFETを扱う現場でリストストラップなどの静電気対策が徹底されて いるのは、この弱点が理由だ。
- 電流を運ぶキャリアの種類:BJTのコレクタ電流は、自由電子と正孔の両方が動くことで 成り立っている(「バイポーラ=両極性」という名前の由来)。一方FETのドレイン電流は、 チャネルの種類(nチャネルかpチャネルか)に応じて自由電子か正孔のどちらか一方だけが 動く(「ユニポーラ=単極性」の素子とも呼ばれる)。
半導体材料の分類 — 単元素半導体と化合物半導体
半導体は、材料そのものの成り立ちによっても分類できる。1種類の元素だけでできている半導体を単元素半導体、2種類以上の元素を組み合わせた化合物でできている半導体を化合物半導体と呼ぶ。
- 単元素半導体:シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)など。周期表のIV族元素そのものが半導体になる
- 化合物半導体:ガリウムヒ素(GaAs)、インジウムリン(InP)など。異なる元素を組み合わせて半導体の性質を作り出す。単元素半導体より電子の移動速度が速いものが多く、高周波デバイスや発光素子(LED・レーザダイオード)に使われることが多い
拡散電流 — キャリヤ濃度のムラが、電界なしでも電流を生む
これまで見てきた電流は、電界によってキャリヤが押し流されるドリフト電流だった。半導体にはもう1種類、電界がなくても生じる電流がある。拡散電流だ。
半導体内でキャリヤ(正孔や電子)の濃度が場所によって偏っている(一様でない)と、キャリヤは自然に、濃度の高い場所から低い場所へ拡散していく——ちょうどインクを水に落とすと自然に広がっていくのと同じ現象だ。このキャリヤの移動が電流として現れたものが拡散電流で、その大きさはキャリヤの濃度勾配(場所による濃度の変化の急しゃさ)にほぼ比例する。
ホール効果とホール素子 — 磁界の中で電流を流すと、横方向に電圧が生まれる
半導体には、電流と磁界を組み合わせることで生まれる、もう1つ実務的に重要な現象がある。 ホール効果だ。
半導体の板に電流 を流し、その電流の向きに対して垂直な方向に磁束密度 の 磁界を加えると、電流を運んでいるキャリア(p形なら正孔、n形なら電子)はローレンツ力を 受けて、板の片側へ寄っていく。キャリアが片側に偏ると、そちら側とその反対側との間に 電荷の偏り(=電位差)が生じる。これがホール電圧 で、電流・磁界の両方に 垂直な方向に現れる。
キャリアが飽和するまで偏り続けるわけではなく、偏った電荷が作る電界による力(クーロン力) が、キャリアを偏らせようとするローレンツ力とつり合ったところで落ち着く。この釣り合いの 結果として、ホール電圧は電流 (磁界一定の条件下では)にほぼ比例する。
このホール電圧が電流にほぼ比例して、しかも電流を流す回路と電気的に絶縁されたまま (磁界を介して間接的に)取り出せるという性質は、実務では非接触の電流センサとして 重宝される。大電流が流れる母線を切断・改造することなく、母線の周りに発生する磁界を ホール素子で検知するだけで電流値を測定できるからだ。同様の原理は、ブラシレスモータの 回転子位置検出や、近接スイッチなどの位置センサにも応用されている。
光電効果 — 光が電子をたたき出す現象
半導体・金属の話から少し視点を変えて、最後に光電効果を見ておく。金属や半導体の表面に 光(電磁波)を当てると、その表面から電子が飛び出してくることがある。この電子を 光電子、現象そのものを光電効果と呼ぶ。
光電効果には、直感に反する重要な性質がある。光の強さ(強度)をどれだけ強くしても、 光の振動数がある値(しきい値振動数)に達していなければ、光電子はまったく飛び出さない。 逆に振動数がしきい値以上であれば、わずかな光でも即座に光電子が飛び出し始める。
この振る舞いは、光が波として連続的にエネルギーを運ぶと考えると説明できない。光は 光子(フォトン)という粒の集まりで、光子1個が運ぶエネルギーは振動数に比例する (、はプランク定数)と考えることで、初めて筋道立てて説明できる。光電子が 飛び出すには、金属表面の電子を外へ引き出すのに必要な最小限のエネルギー(仕事関数)を、 光子1個が単独で上回っている必要がある。振動数が低い(光子1個のエネルギーが小さい)光は、 どれだけ本数(強度)を増やしても、電子を1個も外へ弾き出せない。
光電効果は、身近な実験では箔検電器(帯電させた金属箔の開閉で電荷の有無を確認する装置)を 使って観察できる。負に帯電させた電極に、振動数の低い光(赤外線や可視光)をいくら当てても 箔は閉じないが、振動数の高い光(紫外線)を当てると、電極から光電子が飛び出して電荷が 中和され、箔が閉じる——という形で、光の粒子性を目に見える形で確認できる。
冒頭で見た制御盤基板のダイオードとトランジスタ——それぞれが何のために 置かれていたか、答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。