ある電気工事の現場で、元請の労働者と下請の労働者を合わせると常時60人になった。単独の事業場であれば、この規模で選任が必要なのは安全管理者と衛生管理者だけのはずだ。ところが現場の責任者から「この現場には、それとは別に選任すべき役職がある」と言われる。単独の事業場の管理体制だけでは足りないのは、なぜか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、労働者数と現場の構成(元請・下請の混在の有無)から、その現場に必要な安全管理体制を自分で組み立てられるようになっている。
労働安全衛生法は、労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずることなどにより、職場における労働者の安全と健康を確保することを目的とする(1条)。事業者は、法律で定める最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて、労働者の安全と健康を確保するよう努めなければならない(3条1項)。
単独の事業場に積み上がる安全管理体制 — 役職ごとに違う敷居
労働安全衛生法は、事業場の規模に応じて段階的に安全管理体制を積み上げる仕組みになっている。建設業を例にとると、次のような敷居が設定されている。
| 役職 | 選任が必要になる規模(建設業の場合) | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 総括安全衛生管理者 | 常時100人以上 | 10条 |
| 安全管理者 | 常時50人以上 | 11条 |
| 衛生管理者 | 常時50人以上(業種を問わず) | 12条 |
| 作業主任者 | 高圧室内作業その他政令で定める作業 | 14条 |
作業主任者の選任義務は「高圧室内作業その他政令で定める作業」(14条)と定められているが、この「政令で定める作業」は労働安全衛生法施行令6条に一覧として列挙されている。建設現場に関わるものだけでも、型枠支保工の組立て又は解体の作業(14号)、つり足場・張出し足場又は高さ5メートル以上の構造の足場の組立て・解体・変更の作業(15号)、コンクリート破砕器を用いて行う破砕の作業(8号の2)など、日常的に発生する作業が多く含まれる。
安全管理者の選任には、規模の基準(常時50人以上)だけでなく、手続き面の基準も定められている。労働安全衛生規則4条は、安全管理者を選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任しなければならないこと(1号)、原則としてその事業場に専属の者を選任しなければならないこと(2号)を定め、さらに事業者は、安全管理者を選任したときは、遅滞なく所轄労働基準監督署長に報告しなければならないと定めている(同条3項)。
元請・下請が混在する現場 — 単独の事業場の枠組みでは足りない
建設業には、単独の事業場の管理体制だけでは対応できない事情がある。1つの現場に、元請と複数の下請の労働者が混在して作業するという構造だ。この場合、元請(特定元方事業者)は統括安全衛生責任者を選任し、協議組織の設置及び運営、作業間の連絡及び調整、作業場所の巡視、関係請負人が行う安全衛生教育への指導及び援助などの措置を統括管理させなければならない(15条、30条)。この義務が生じるのは、現場の労働者数が常時50人以上(ずい道等の建設・橋梁の建設・圧気工法による作業は常時30人以上)になる場合だ(施行令7条)。
元方安全衛生管理者 — 統括安全衛生責任者の「技術的事項」を担う実務担当者
統括安全衛生責任者を選任した事業者で、建設業その他政令で定める業種に属する事業を行うものは、厚生労働省令で定める資格を有する者のうちから元方安全衛生管理者を選任し、統括安全衛生責任者が統括管理すべき事項(30条1項各号:協議組織の設置・運営、作業間の連絡調整、作業場所の巡視など)のうち、技術的事項を管理させなければならない(15条の2)。
教育の義務 — 入社時だけでなく、作業内容が変わるたびに
事業者は、労働者を雇い入れたときは、その従事する業務に関する安全又は衛生のための教育(雇入れ時教育)を行わなければならない(59条1項)。この規定は、労働者の作業内容を変更したときにも準用される(2項)。さらに、危険又は有害な業務に労働者をつかせるときは、当該業務に関する特別の教育(特別教育)を行わなければならない(3項)。
59条の教育とは別に、60条は新たに職務につくこととなった職長その他の作業中の労働者を直接指導又は監督する者(作業主任者を除く)に対する教育を定めている。対象になるのは建設業、製造業(一部除く)、電気業、ガス業、自動車整備業、機械修理業など政令で定める業種の事業場で(施行令19条)、作業方法の決定・労働者の配置や、労働者への指導監督の方法について教育を行う。59条が「労働者本人」への教育であるのに対し、60条は「労働者を指導・監督する立場につく者」への教育という違いがある。
産業医の選任基準と健康診断 — 教育とは別の系統の労働者保護
安全衛生教育(59条・60条)とは別に、労働安全衛生法は労働者の健康そのものを守るための仕組みも定めている。事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、医師のうちから産業医を選任し、労働者の健康管理等を行わせなければならない(13条1項)。この規模の基準は、業種を問わず常時50人以上の労働者を使用する事業場だ(施行令5条)。
その常時10人以上50人未満の事業場に必要な安全衛生推進者(業種によっては衛生推進者)にも、安全管理者と同じような手続き面の基準がある(労働安全衛生法12条の2、労働安全衛生規則12条の2〜12条の4)。選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任し、原則としてその事業場に専属の者を選任する点は安全管理者と共通する。選任する者は、都道府県労働局長の登録を受けた者が行う講習を修了した者その他必要な能力を有すると認められる者のうちから選ばなければならず、選任したときはその氏名を作業場の見やすい箇所に掲示する等により関係労働者に周知させる義務もある。
健康診断についても、労働安全衛生規則が具体的な義務を定めている。事業者は、常時使用する労働者を雇い入れるとき、既往歴及び業務歴の調査、自覚症状及び他覚症状の有無の検査など所定の項目について、医師による健康診断(雇入時健康診断)を行わなければならない(43条)。また常時使用する労働者に対しては、1年以内ごとに1回、既往歴及び業務歴の調査等を含む定期健康診断を行う(44条)。既往歴及び業務歴の調査は、雇入時・定期のどちらの健康診断にも共通して含まれる項目だ。
そして、これらの健康診断の結果に基づき、事業者は健康診断個人票を作成し、これを5年間保存しなければならない(51条)。
就業制限 — 免許・技能講習がなければ、そもそも従事できない業務
特別教育(59条3項)が「教育を受けさせれば従事させてよい」業務であるのに対し、労働安全衛生法61条が定める就業制限は、都道府県労働局長の免許を受けた者、又は登録を受けた機関が行う技能講習を修了した者でなければ、そもそも従事させてはならない業務を定めている。クレーンの運転がその代表例だ。
つり上げ荷重1トン以上の移動式クレーンの運転業務(道路上を走行させる運転を除く)は、原則として移動式クレーン運転士免許を受けた者でなければ従事できない(施行令20条7号)。ただし、つり上げ荷重1トン以上5トン未満の小型移動式クレーンについては、小型移動式クレーン運転技能講習の修了で足りる(クレーン等安全規則68条)。さらにつり上げ荷重1トン未満の運転は、就業制限の対象外で、特別教育を行えば従事させることができる(同規則67条)。
事故が起きたときの報告義務 — 対象になる設備には規模の下限がある
59条・60条の教育義務、61条の就業制限とは別に、労働安全衛生規則96条は、事業者が一定の事故を発生させたときに所轄労働基準監督署長へ報告する義務を定めている。対象になるのは、火災・爆発の事故、遠心機械等高速回転体の破裂、そしてクレーン・移動式クレーン・デリック・エレベーター・建設用リフト・簡易リフト・ゴンドラの逸走・倒壊・転倒・ワイヤロープの切断等の事故だ。
労働者死傷病報告 — 「設備の事故」の報告と、「労働者本人の被災」の報告は別物
96条の事故報告は、火災・爆発やクレーンの倒壊のような設備側に生じた事故を対象にした報告義務だった。これとは別に、労働安全衛生規則97条は、労働者本人が労働災害等により死亡し、又は休業したときの報告義務(労働者死傷病報告)を定めている。97条1項は、事業者は、労働者が労働災害その他就業中又は事業場内若しくはその附属建設物内における負傷、窒息又は急性中毒により死亡し、又は休業したときは、遅滞なく所轄労働基準監督署長に報告しなければならないと定める。
ここまでは96条の事故報告と同じく「遅滞なく」の原則に見えるが、97条2項には96条にはない例外がある。休業の日数が4日に満たないときは、97条1項の規定にかかわらず、1月から3月まで・4月から6月まで・7月から9月まで・10月から12月までの四半期ごとに、それぞれの期間における最後の月の翌月末日までにまとめて報告すればよい。
停電作業の安全措置 — 開路しただけでは終わらない
電気工事の作業は、可能な限り電路を止めて(停電させて)から行うのが原則だ。労働安全衛生規則339条1項は、電路を開路してその電路又は支持物の敷設・点検・修理・塗装等の電気工事の作業を行うときに、開路した後に講ずべき措置を、次の3つに分けて定めている。
- 開路に用いた開閉器に、作業中、施錠し、若しくは通電禁止に関する所要事項を表示し、又は監視人を置くこと(1号)
- 開路した電路が電力ケーブル・電力コンデンサー等を有する電路で、残留電荷による危険を生ずるおそれのあるものについては、安全な方法により当該残留電荷を確実に放電させること(2号)
- 開路した電路が高圧又は特別高圧であったものについては、検電器具により停電を確認し、かつ、誤通電、他の電路との混触又は他の電路からの誘導による感電の危険を防止するため、短絡接地器具を用いて確実に短絡接地すること(3号)
さらに事業者は、この作業中又は作業を終了した場合において、開路した電路に通電しようとするときは、あらかじめ、当該作業に従事する労働者について感電の危険が生ずるおそれのないこと及び短絡接地器具を取りはずしたことを確認した後でなければ、これを行ってはならない(339条2項)。停電作業は、開路して終わりではなく、通電を再開する前の確認まで含めて一つながりの手続きになっている。
高所からの物体投下・低圧活線近接作業・可搬式電動機械器具の漏電防止 — 現場で直接効いてくる措置義務
停電作業(339条)とは別に、労働安全衛生規則には現場作業そのものに関する具体的な措置義務も数多くある。ここでは電気工事の現場に関わりの深いものを取り上げる。
高所からの物体投下については、事業者は3メートル以上の高所から物体を投下するときは、適当な投下設備を設け、監視人を置く等労働者の危険を防止するための措置を講じなければならない(536条1項)。労働者側にも、この措置が講じられていなければ3メートル以上の高所から物体を投下してはならないという義務が課されている(同条2項)。
低圧活線近接作業については、事業者は、低圧の充電電路に近接する場所で電路又はその支持物の敷設・点検・修理・塗装等の電気工事の作業を行う場合において、当該作業に従事する労働者が当該充電電路に接触することにより感電の危険が生ずるおそれのあるときは、当該充電電路に絶縁用防具を装着しなければならない(347条1項)。
可搬式電動機械器具の漏電防止については、347条とは別の切り口の規定がある。事業者は、電動機を有する機械又は器具(電動機械器具)で、対地電圧が150ボルトをこえる移動式若しくは可搬式のもの、又は水等導電性の高い液体で湿潤している場所その他鉄板上・鉄骨上・定盤上等導電性の高い場所において使用する移動式若しくは可搬式のものについては、漏電による感電の危険を防止するため、当該電動機械器具が接続される電路に感電防止用漏電しゃ断装置を接続しなければならない(333条1項)。この措置を講ずることが困難なときは、電動機械器具の金属製外わく等を接地して使用する(同条2項)。
明り掘削の作業 — 土止め支保工の点検頻度と、地山の種類ごとの掘削面のこう配
電気工事の現場でも、地中配線のための掘削(明り掘削)は頻繁に発生する。労働安全衛生規則は、この明り掘削の作業についても具体的な数値基準を定めている。
土止め支保工の点検については、事業者は土止め支保工を設けたときは、その後7日をこえない期間ごと、中震以上の地震の後及び大雨等により地山が急激に軟弱化するおそれのある事態が生じた後に、部材の損傷・変形・腐食・変位・脱落の有無及び状態、切りばりの緊圧の度合、部材の接続部・取付け部・交さ部の状態について点検し、異常を認めたときは直ちに補強又は補修しなければならない(373条)。
掘削面のこう配の基準(356条・357条)は、地山の種類によって細かく分かれている。
| 地山の種類 | 掘削面の高さ | こう配の基準 |
|---|---|---|
| 岩盤又は堅い粘土からなる地山 | 5m未満 | 90度以下 |
| その他の地山 | 2m未満 | 90度以下 |
| その他の地山 | 2m以上5m未満 | 75度以下 |
| その他の地山 | 5m以上 | 60度以下 |
| 砂からなる地山 | (高さ区分なし) | 35度以下、又は高さ5m未満 |
| 発破等により崩壊しやすい地山 | (高さ区分なし) | 45度以下、又は高さ2m未満 |
電材商社の現場で、この体制がどう効いてくるか
大規模な工場や商業施設の電気設備更新工事に関わるとき、現場に何人規模の作業員が入るのか、元請・下請がどう構成されているのかを把握しておくと、その現場にどんな安全管理体制が敷かれているべきかの見当がつく。統括安全衛生責任者が選任されているはずの規模の現場で、その体制が見当たらない場合は、施工体制そのものに疑問を持つべきサインにもなる。
この資格を取ったあと、現場で何が変わるか
この資格を取ったあと、常時60人規模の現場に配置されたとき、あなたは「この現場には安全管理者・衛生管理者だけでなく、統括安全衛生責任者も必要だ」と、労働者数と元請・下請の構成を見た瞬間に判断できるようになる。単独の事業場の体制だけを整えて満足するのではなく、現場全体という別の階層の体制まで組み立てる責任者としての視点を持つ。
足場の組立て作業やコンクリート破砕器を使う解体作業の計画を見たとき、「この作業には作業主任者の選任が要るはずだ」と、施行令6条に列挙された作業かどうかをその場で確認する側に回る。新しく現場に入ってくる職長に対して、59条の雇入れ時教育とは別に、60条の職長等教育が必要な業種かどうかを判断し、教育記録の抜けがないかを確認するのも、施工管理者としてあなたが担う仕事になる。
電材商社との関係では、大規模な工場・商業施設の更新工事の相談を受けたとき、現場の人数規模から「この案件なら統括安全衛生責任者が選任されているはずだ」と見当をつけられるようになる。施工体制がその規模に見合っているかを、労働者数という具体的な数字から読み取れる担当者として、取引先からの信頼のされ方が変わってくる。
冒頭の疑問、常時60人規模の現場で、単独の事業場の管理体制だけでは足りない理由。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。