工期を2か月短縮できれば、それだけ現場を早く終えられて、費用も安く済む——そう考えるのが自然に思える。
ところが実際の工事費と施工期間の関係を表すグラフを見ると、極端に短い工期のほうが、むしろ総費用が高くなっている場面がある。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、なぜ「急ぐほど得をする」とは限らないのかを、費用の内訳から説明できるようになっている。
工事にかかる総費用(総工事費用)は、大きく2種類の費用の合計でできている。直接工事費(材料費・労務費・機械費など、工事そのものに直接必要な費用)と、間接工事費(共通仮設費・現場管理費など、工事全体を進めるために間接的にかかる費用)だ。この2つは、施工期間の長さに対してまったく逆の動きをする。
直接費は「急ぐほど高くつく」、間接費は「長引くほど高くつく」
直接工事費は、工期を短縮しようとするほど増加する。短い工期で工事を終わらせるには、通常より多くの人員や機械を同時に投入し、残業や休日出勤で作業を進める必要があるからだ。逆に工期を延ばせば、無理のない人員配置で作業できるため直接工事費は下がっていくが、ある点(後述するノーマルタイム)を超えて工期を延ばしても、直接工事費はそれ以上ほとんど変わらなくなる。
一方、間接工事費は、現場事務所の維持費や管理者の人件費のように、現場を維持している期間そのものに比例してかかる費用だ。工期が長くなればなるほど、間接工事費は増加し続ける。
ノーマルタイム・クラッシュタイム・最適工期 — 3つの似た用語を区別する
工期とコストの関係を扱うとき、次の3つの用語が登場する。それぞれ「何が最小・最短になる点か」で区別すると混同しにくい。
| 用語 | 何が最小・最短になる点か |
|---|---|
| ノーマルタイム | 直接工事費が最小となる工期(これより延ばしても直接費はほぼ変わらない) |
| クラッシュタイム | これ以上短縮できない、物理的な最短の工期 |
| 最適工期(経済的工期) | 総工事費用(直接費+間接費の合計)が最小となる工期 |
自作の数値例で確認する
制御盤更新工事を想定した、自作の数値例で総費用の動きを確認してみる。
| 施工期間 | 直接工事費 | 間接工事費 | 総工事費用 |
|---|---|---|---|
| 10か月(ノーマルタイムに近い) | 900万円 | 500万円 | 1,400万円 |
| 7か月(最適工期に近い) | 1,000万円 | 350万円 | 1,350万円 |
| 4か月(クラッシュタイム) | 1,600万円 | 200万円 | 1,800万円 |
10か月から7か月に短縮すると、直接費は100万円増えるが間接費が150万円減るため、総費用はむしろ50万円安くなる。ところがそこからさらに4か月まで短縮すると、直接費が600万円も跳ね上がり、間接費の減少(150万円)ではまったく相殺できず、総費用は450万円も増加してしまう。「短縮すれば得をする局面」と「短縮するほど損をする局面」の両方が、同じ1本のグラフの中に存在する。
この曲線は、工程表の遅れ対応にもつながる
工期とコストの関係を理解しておくと、工程が遅れたときに「とにかく人員を増やして取り戻す」という判断が常に正しいとは限らないことが分かる。クリティカルパス上の遅れをどこまで直接費をかけて短縮すべきかは、総費用のグラフでいえばすでに最適工期の左側(直接費が急増する領域)に入っていないかを、まず確認する価値がある判断になる。
今日試せることとして、身近な工事の見積書や工程表を見る機会があれば、工期を1か月延ばした場合と縮めた場合とで、費用がどちらの方向に動きそうかを直接費・間接費に分けて考えてみるといい。
この資格を取ったあと、現場で何が変わるか
取引先から「工期を切り詰めたいので特急で納品してほしい」と頼まれたとき、これまでは特急料金を提示して応じるだけだったのが、合格後は「その短縮は、間接費の減少より直接費の増加のほうが大きくなっていませんか」と、費用面から一緒に考えられるようになる。急ぎの依頼をただ受けるのではなく、その急ぎ方が本当に得なのかを一緒に検証できる相手への変化だ。
このU字型のグラフの発想を知っていると、クリティカルパス上の遅れを取り戻すために人員や資材を追加投入すべきかどうかという相談を受けたときも、「もう最適工期を過ぎて、直接費が急増する領域に入っていないか」という視点を提供できる。単に在庫を融通する業者ではなく、工期とコストのバランスまで踏み込んで提案する業者としての立場になる。
こうした費用構造の理解は、見積書の金額の妥当性を自分の言葉で説明できることにもつながる。「なぜこの短縮にはこの追加費用がかかるのか」を筋道立てて話せる担当者は、価格だけを比較される競合から一歩抜け出し、工事全体の経済性を相談できる相手として選ばれるようになる。
冒頭の問い、極端に短い工期がむしろ総費用を高くしていたのはなぜか。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。