制御盤の更新工事の現場で、監督員からバーチャート工程表を渡された。ケーブル布設、盤据付、結線、試験調整という順に棒グラフが並んでいる。日数の合計は工期にきちんと収まっている。だが棒の並びをよく見ると、「試験調整」の棒が「結線」の棒の終わりより2日早く始まっている。
日数の計算はどこも間違っていないのに、この工程表はなぜ「おかしい」と言えるのか。
このトピックを読み終えるころには、工程表を数字ではなく手順として読み、矛盾を指させるようになっている。
種明かしは、能力問題の工程表が「計算問題」ではなく「読解問題」だという点にある。日数の足し算が合っているかどうかより、その並び順が実際の施工手順として成立しているかどうかが問われている。
バーチャート工程表 — 見るのは日数ではなく並び順
バーチャート工程表は、縦軸に作業名、横軸に日数をとり、各作業の期間を横棒(バー)で表す工程表だ。作成が簡単で誰でも直感的に読めるため、電気工事の現場では最も広く使われている。
冒頭のシナリオでいえば、「試験調整」は「結線」がすべて完了して初めて着手できる工程だ。結線の完了前に試験調整の棒が始まっているという記載は、日数の帳尻を合わせるためだけに書かれた、施工手順として成立しない工程表だと判断できる。
ネットワーク工程表 — 3つの部品で読む
ネットワーク工程表は、作業どうしの前後関係(どの作業が終わらないと次の作業に進めないか)を矢印でつないで表す工程表だ。バーチャートより複雑だが、どの作業を遅らせると全体工期に響くかまで見える。
ネットワーク工程表は次の3つの部品でできている。
- 結合点(○):作業の開始点・終了点を表す丸印。その結合点に入ってくる矢線の作業がすべて完了した状態を意味する
- アクティビティ(矢線→):実際の作業そのもの。矢線の上に作業名、下に所要日数を書く
- ダミー(点線の矢印-→):実際の作業ではなく、作業順序の関係だけを表すための線。所要日数は0
作図のルールとして、同一の結合点どうしを2本以上のアクティビティで直接結ぶことはできない(同じ2点間に別々の矢線を引くと区別がつかなくなるため、間にダミーを挟んで区別する)。この作図ルールを知っていると、「同じ2つの結合点の間に矢線が2本並んで描かれている」というネットワーク工程表は、それだけで作図として不適切だと見抜ける。
最早開始時刻・最遅完了時刻・フロートを、自作の工程表で計算する
言葉の定義だけでは実感が湧きにくいので、制御盤更新工事を想定した架空の工程表で実際に計算してみる。
| 作業 | 内容 | 所要日数 | 先行作業 |
|---|---|---|---|
| A | 準備工 | 3日 | なし |
| B | 盤搬入 | 4日 | A |
| C | 配管配線 | 6日 | A |
| D | 盤据付 | 5日 | B |
| E | 結線 | 4日 | C・D の両方が完了 |
| F | 試験調整 | 3日 | E |
この関係をネットワーク工程表にすると、結合点は①(開始)→②(Aの終わり)→③(Bの終わり)/④(Cの終わり)→⑤(DとCの両方が合流する点。④からはダミーで結ぶ)→⑥(Eの終わり)→⑦(完了)という形になる。
最早開始時刻(その作業に最も早く着手できる時刻)は、起点から足し算で求める。複数の経路が合流する結合点では、合流する経路のうち最大値をとる(すべての先行作業が終わっていないと次に進めないため)。
- ①=0
- ②=①+A(3)=3
- ③=②+B(4)=7
- ④=②+C(6)=9
- ⑤=max(③+D(5)=12、④+ダミー(0)=9)=12
- ⑥=⑤+E(4)=16
- ⑦=⑥+F(3)=19
工事全体で19日かかる計算になる。
最遅完了時刻(全体工期を19日に保つために、その結合点までに完了していなければならない時刻)は、終点から引き算で求める。複数の経路に分岐する結合点では最小値をとる(どちらの経路も期日に間に合わせる必要があるため)。
- ⑦=19
- ⑥=⑦-F(3)=16
- ⑤=⑥-E(4)=12
- ④=⑤-ダミー(0)=12
- ③=⑤-D(5)=7
- ②=min(③-B(4)=3、④-C(6)=6)=3
- ①=②-A(3)=0
各結合点のフロート(最遅完了時刻-最早開始時刻)を求めると、①〜③、⑤〜⑦はすべて0だが、④だけは12-9=3日の余裕がある。
計算せずに矢印だけを読む出題 — 合流点は「両方そろって初めて」
ここまではEST・LFT・フロートを実際に計算する出題を見てきたが、能力問題にはもう1つ別の形式がある。数値を計算させず、図に描かれた矢印の関係を読んで、ある作業の開始条件についての記述が正しいかどうかを直接判定させる出題だ。
この形式で必ず問われるのが、合流点の扱いだ。1つの結合点に複数の作業(矢印)が合流しているとき、そこから始まる後続作業は、合流するすべての作業が完了して初めて開始できる。
例えば、①→②が作業P(3日)、①→③が作業Q(2日)、②→④が作業R(2日)、③→④が作業S(4日)という自作の工程表があるとする。結合点④には、②経由の作業Rと③経由の作業Sという2本の矢印が合流している。このとき「作業Sが終了していなくても、作業Rが終了すれば、④から始まる作業Tを開始できる」という記述は誤りだ。④はR・S両方の合流点であり、Sが終わっていなければRだけが終わってもTには進めない。一方、「作業Qが終了していなくても、作業Pが終了すれば作業Rを開始できる」という記述は正しい。作業Rは②(作業Pの完了)だけを条件に始まる作業で、③経由の作業Qの完了・未完了とは無関係だからだ。
出来高累計曲線(バナナ曲線) — 許容限界のどちら側か
工程全体の進み具合を一目で把握する道具として、出来高累計曲線(横軸に日数、縦軸に工事全体の進捗度をとった曲線)がある。着工直後と竣工間際は進捗が緩やかで、中盤に進捗が急になるため、全体としてS字型(バナナ型)の曲線を描く。この曲線に、実績が収まってよいとされる上方許容限界線と下方許容限界線を添えたものを工程管理曲線と呼ぶ。
実績の曲線が上方・下方の許容限界線の間に収まっていれば、その工程は概ね順調と判断できる。下方限界を下回っていれば工程が遅延しているサインで、原因を特定して対策を打つ必要がある。逆に上方限界を超えて進みすぎている場合も放置してよいわけではなく、労務や資材が特定の時期に過度に集中している可能性があり、後工程への皺寄せや品質低下を招くことがある。
工程表のミスを見つける5つの視点
能力問題で「この工程表の誤りはどれか」と問われたとき、確認する視点を整理しておく。
- 施工手順として成立しているか:後工程が先行工程の完了前に始まっていないか(バーチャート・ネットワークどちらでも起こりうる)
- 作図ルールを守っているか:同一の結合点間に矢線が2本以上直接引かれていないか、ダミーが正しく使われているか(ネットワーク工程表)
- フロート0の作業を軽視していないか:クリティカルパス上の作業に遅れが出ているのに、それを「まだ余裕がある」と判断していないか
- 出来高累計曲線の許容限界を無視していないか:曲線が下方限界を下回っているのに「順調」と判断していないか
- 工期を短くすれば必ず得をすると決めつけていないか:工事費と施工期間の関係を示すグラフを見るときは、直接費の増加分と間接費の減少分を両方確認してから、その短縮が総費用の面で得か損かを判断する
- 工程表の種類を、目的に合わせて選んでいるか:タクト工程表は稼働人員の把握や階層別の進行管理には向くが、区画間の複雑な依存関係を細かく分析する形式ではないため、全工程のクリティカルパスを詳細に把握したいという目的にはネットワーク工程表を選ぶのが適切
総合工程表は「受電日から逆算できているか」も読み取る
これまで見てきたバーチャート・ネットワーク工程表・出来高累計曲線は、いずれも工事全体の中の「進み方」を扱うものだった。能力問題では、工事全体を俯瞰する総合工程表そのものの組み立て方が問われることもある。
電気工事の総合工程表を評価するときに欠かせない視点が、受電日からの逆算だ。受変電設備や幹線の工事は、電力会社からの受電(送電開始)が完了しなければ、機器の動作試験のような後工程に進めない。着工日から日数を積み上げただけの工程表は、一見きちんと並んでいるように見えても、受電予定日という後工程側の固定点に間に合うかどうかを保証しない。
クリティカルパスを短縮するとき、何を検討すべきか
工程表の読み取りには、遅れを見つけるだけでなく、「工期を短縮したい」という要求にどう応えるかを判断する場面もある。クリティカルパスの日数を短縮する検討では、次の4つの視点を確認する。
- 人員・機械の増加限度:投入できる人員・機械をどこまで増やせるか、その限度を検討する
- 所要日数見積りの精度:各作業の所要日数の見積りが、そもそも適切だったかを確認する
- 作業順序の入替え:作業の順序を入れ替えることで、短縮できる余地がないかを確認する
- 直列作業の並列化:直列で進めている作業のうち、条件が整えば並列で進められるものがないかを検討する
「進捗の把握」はネットワーク工程表の役割ではない
ここまでネットワーク工程表の計算力を見てきたが、能力問題では「ネットワーク工程表なら何でも把握できる」という過大評価を誤りとして仕込む出題もある。
所要日数と人工山積表 — 感覚ではなく計算とグラフで管理する
工程表の日数や必要人数を「経験上これくらい」で済ませていないかも、能力問題の題材になる。
この資格を取ったあと、現場で何が変わるか
取引先の担当者から週間工程表や進捗の状況を共有されたとき、これまでは日付と品名を照合して納品スケジュールを組むだけだったのが、合格後は棒の並び順や出来高累計曲線の位置から「この工程、どこかで無理をしていませんか」と気づけるようになる。渡された工程表を疑いなく受け取る立場から、その工程表自体の整合性を確認できる立場への変化だ。
特に、フロートが残っている作業とクリティカルパス上の作業を見分けられるようになると、同じ「1日遅れそうです」という連絡でも、緊急に手配すべき遅れなのか、様子を見てよい遅れなのかを自分で判断できる。取引先から遅延の相談を受けるたびに一律で謝罪して特急対応するのではなく、根拠を持って優先順位を提案できる担当者になる。
出来高累計曲線が上方限界を超えている、つまり計画より進みすぎている現場に気づけるようになることも、地味だが実務的な武器になる。「進みすぎているなら良いことでは」と流さず、労務・資材が特定の時期に集中しているサインとして捉え、材料の追加手配や前倒し発注の相談を先回りして持ちかけられるようになる。工程表を読み解く力は、納品担当者としての対応の速さそのものを変えていく。