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電気応用 ・ 7 / 10

同期速度とすべり — モータの回転数は周波数が決めている

読み終えると、こうなる

工場の機械を東日本から西日本へ引っ越したときにモータの回転が速くなる、という現象を電源周波数の数字だけで説明できるようになる

  • 極数と周波数(Ns=120f/p)から、その電動機の同期速度を暗算できる
  • 50Hz地域の機械を60Hz地域に移設したとき、回転数がちょうど1.2倍になることを計算できる
  • 誘導電動機が同期速度ぴったりでは回らず、必ずわずかに遅れて回る(すべりがゼロにならない)理由を説明できる
考えてみよう

東日本の工場で使っていた三相モータを、そのまま西日本の工場に移設した。モータ本体には何も手を加えていないのに、動かしてみると回転が2割ほど速くなり、ラインの調整をやり直すはめになった。モータは変わっていないのに、なぜ回転数が変わったのか。

見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、この2割という数字がどこから出てくるのか、計算で言い当てられるようになっている。

三相誘導電動機の中では、三相の巻線が作る磁界が回転している。この回転磁界の速度を同期速度Nsと呼び、次の式で求まる。

Ns=120fp〔min1N_s = \frac{120f}{p} \quad \text{〔min}^{-1}\text{〕}

fは電源周波数〔Hz〕、pは極数だ。三相巻線が1周期で磁極対の1ピッチ分だけ回転磁界を進めることから導けるので、丸暗記しなくても組み立てられる式になる。4極の電動機なら、50Hzで1500min-1、60Hzで1800min-1だ。

Ns=120f/pのpは分母にある。極数を増やすほど頑丈で高性能に思えるかもしれないが、式の上では極数が多いほど同期速度は遅くなる。回転を速くしたいなら極数を減らすか周波数を上げるしかない、という反比例の関係を先に押さえておくと式を見間違えない。

回転子(ロータ)は、この回転磁界とまったく同じ速度では回らない。もし完全に同じ速度で回ってしまうと、回転子から見て磁界の変化がなくなり、誘導電流もトルクも発生しなくなってしまう。だから回転子は回転磁界よりわずかに遅れて回る。この遅れの割合をすべりsという。

s=NsNNs,N=Ns(1s)s = \frac{N_s - N}{N_s}, \qquad N = N_s(1 - s)
回転磁界(Ns)に、回転子(N)はわずかに遅れてついていく 回転磁界 Ns 回転子 N すべり s=回転磁界と回転子の位相の遅れ 回転磁界(黄)は同期速度Nsで回り続けるが、回転子(黒)はわずかに遅れて追いかける。この遅れがゼロだと誘導電流もトルクも生まれない

回転子は、導体(かご形なら棒状の導体を短絡したもの)でできている。回転磁界と回転子の間に速度差(すべり)があると、回転子の立場から見れば磁束が時間とともに変化して見えるため、ファラデーの電磁誘導の法則により回転子の導体に起電力が生じ、閉じた回路に電流が流れる。この電流が磁界の中を流れることで、フレミングの左手則に従う力、つまりトルクが発生する。もし回転子が回転磁界とまったく同じ速度で回ってしまえば、回転子から見た磁束の変化はゼロになり、起電力も電流もトルクも生まれない。誘導電動機が原理的にすべりゼロでは回れないのは、この因果関係のためだ。定格運転時のすべりはおおむね数%程度で、負荷が重くなるほど回転子の遅れが大きくなり、すべりも増える。

トルクと電圧の関係も押さえておきたい。トルクは磁束と2次電流の積に比例し、どちらも電圧に比例するため、トルクは電圧の2乗に比例する(T∝V2)。電圧が10%下がるとトルクは0.92=0.81、つまり約19%も落ちる。始動時に電圧降下が大きい配線だと、電動機が本来のトルクを出せずに始動できないことがある(始動方式そのものは別のトピックで扱う)。

すべりは、始動直後と定格運転時とでまったく違う値を取る。電源を入れた瞬間、回転子はまだ止まっている(N=0)ため、s=(Ns-0)/Ns=1、つまりすべりは最大の1になる。回転子から見た磁束の変化がもっとも激しいのがこの瞬間で、始動電流が定格運転時よりずっと大きくなるのはこのためだ。回転が上がっていくにつれてすべりは小さくなり、定格付近で数%程度に落ち着く。すべりが大きいほど回転子に生じる誘導起電力・電流も大きくなるという関係を知っておくと、始動時に大きな電流が流れる理由が、この1つの変数(すべり)から一貫して説明できる。

この同期速度の式を軽く見ると、実際の設備で失敗が起きる。50Hz地域用に設計された電動機を、確認せずに60Hz地域でそのまま使うと、回転数が1.2倍に上がるだけでは済まない。ポンプや送風機のような負荷では、次のトピックで扱う3乗則により、回転数が上がった分だけ所要動力が急激に増える。電動機は定格電流を超えて運転を続けることになり、巻線が過熱して絶縁が劣化し、最悪の場合は焼損につながる。「回転数が上がって都合が良さそうだ」ではなく、負荷側の所要動力まで含めて周波数の違いを評価しないと、機器を壊す結果になる。

電動機の回転数を、電源の数字から先に見積もれるようになる

この式が頭に入ると、電動機の仕様書に極数と定格周波数が並んで書かれている理由が分かる。今日試せることとして、身の回りの電動機(換気扇やポンプなど)の銘板を見て、極数や周波数の表示がないか探してみるといい。表示があれば、Ns=120f/pで同期速度を計算し、実際の回転音の速さと照らし合わせてみると感覚がつかめる。

日本国内で東西の電源周波数が異なる(50Hz・60Hz)のは、電気の導入初期に東日本がドイツ製、西日本がアメリカ製の発電機をそれぞれ輸入し、そのまま周波数が異なる設備として定着してしまった歴史的な経緯によるものだ。統一されないまま今日まで続いているこの違いは、単なる豆知識ではなく、電動機の回転数に直接影響する現役の技術的制約になっている。同じ機械を東西で使い回す場合、この式を知らずに設置すると、思わぬ回転数の違いに戸惑うことになる。次のトピックで扱う速度制御(インバータ)は、この同期速度の式をどう自在に操るかという話につながっていく。

冒頭の工場のモータ、なぜ移設しただけで回転数が変わったのか。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。

出題者のワナ — ここで受験者を転ばせにくる

この論点は、知っているだけでは足をすくわれる。試験でよく仕掛けられる崩し方を、先に知っておこう。

  1. 極数pが多いほど回転が速いと錯覚させる

    なぜ引っかかる『極数が多い=立派なモータ=速い』という直感を持たれやすいが、Ns=120f/pの式ではpは分母にあり、極数が多いほど同期速度は遅くなる

    見破り方式を計算する前に、極数pが分母にあることを確認する。極数を2倍にすれば同期速度は半分になる、という反比例の関係を先に思い出す

  2. 誘導電動機はすべりゼロ(同期速度ちょうど)で回っていると誤解させる

    なぜ引っかかる『誘導電動機はほぼ同期速度で回る』という近似的な説明を、そのまま『すべりゼロで回る』と読み替えてしまう。しかし回転子が回転磁界とまったく同じ速度で回ると、回転子に対して磁界の変化がなくなり、誘導電流もトルクも生じなくなる

    見破り方『誘導』という名前の由来を思い出す。誘導電流を生むには回転磁界との相対速度差(すべり)が必要で、すべりが正確にゼロになることはない、と押さえておく

参考文献・出典

理解度チェック(5問)

このトピックの内容がどれくらい身についたか、5問で確認しよう。 内訳は基本3問・応用1問・ひっかけ1問。基本が解けたら、条件を足した応用と、本番で足をすくいにくるひっかけまで踏み込む。

/ 5 問正解

覚えておきたいポイント

  1. 三相誘導電動機の同期速度Ns=120f/p〔min-1〕(f:周波数、p:極数)。三相巻線が作る回転磁界の速度で、1周期で磁極対の1ピッチ分回ることから導出できる
  2. 4極機の同期速度は50Hzで1500min-1、60Hzで1800min-1。同じ機械でも周波数が違えば回転数が1.2倍変わる
  3. すべりs=(Ns-N)/Ns。回転子は回転磁界より少し遅れて回る。遅れがなければ回転子に誘導電流もトルクも生じないため、すべりは必ずゼロより大きくなる
  4. 実回転数N=Ns(1-s)。定格運転時のすべりはおおむね数%程度
  5. トルクは電圧の2乗に比例する(T∝V2)。電圧が10%下がるとトルクは約19%落ちる(0.9の2乗=0.81)
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