東日本の工場で使っていた三相モータを、そのまま西日本の工場に移設した。モータ本体には何も手を加えていないのに、動かしてみると回転が2割ほど速くなり、ラインの調整をやり直すはめになった。モータは変わっていないのに、なぜ回転数が変わったのか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、この2割という数字がどこから出てくるのか、計算で言い当てられるようになっている。
三相誘導電動機の中では、三相の巻線が作る磁界が回転している。この回転磁界の速度を同期速度Nsと呼び、次の式で求まる。
fは電源周波数〔Hz〕、pは極数だ。三相巻線が1周期で磁極対の1ピッチ分だけ回転磁界を進めることから導けるので、丸暗記しなくても組み立てられる式になる。4極の電動機なら、50Hzで1500min-1、60Hzで1800min-1だ。
回転子(ロータ)は、この回転磁界とまったく同じ速度では回らない。もし完全に同じ速度で回ってしまうと、回転子から見て磁界の変化がなくなり、誘導電流もトルクも発生しなくなってしまう。だから回転子は回転磁界よりわずかに遅れて回る。この遅れの割合をすべりsという。
回転子は、導体(かご形なら棒状の導体を短絡したもの)でできている。回転磁界と回転子の間に速度差(すべり)があると、回転子の立場から見れば磁束が時間とともに変化して見えるため、ファラデーの電磁誘導の法則により回転子の導体に起電力が生じ、閉じた回路に電流が流れる。この電流が磁界の中を流れることで、フレミングの左手則に従う力、つまりトルクが発生する。もし回転子が回転磁界とまったく同じ速度で回ってしまえば、回転子から見た磁束の変化はゼロになり、起電力も電流もトルクも生まれない。誘導電動機が原理的にすべりゼロでは回れないのは、この因果関係のためだ。定格運転時のすべりはおおむね数%程度で、負荷が重くなるほど回転子の遅れが大きくなり、すべりも増える。
トルクと電圧の関係も押さえておきたい。トルクは磁束と2次電流の積に比例し、どちらも電圧に比例するため、トルクは電圧の2乗に比例する(T∝V2)。電圧が10%下がるとトルクは0.92=0.81、つまり約19%も落ちる。始動時に電圧降下が大きい配線だと、電動機が本来のトルクを出せずに始動できないことがある(始動方式そのものは別のトピックで扱う)。
すべりは、始動直後と定格運転時とでまったく違う値を取る。電源を入れた瞬間、回転子はまだ止まっている(N=0)ため、s=(Ns-0)/Ns=1、つまりすべりは最大の1になる。回転子から見た磁束の変化がもっとも激しいのがこの瞬間で、始動電流が定格運転時よりずっと大きくなるのはこのためだ。回転が上がっていくにつれてすべりは小さくなり、定格付近で数%程度に落ち着く。すべりが大きいほど回転子に生じる誘導起電力・電流も大きくなるという関係を知っておくと、始動時に大きな電流が流れる理由が、この1つの変数(すべり)から一貫して説明できる。
この同期速度の式を軽く見ると、実際の設備で失敗が起きる。50Hz地域用に設計された電動機を、確認せずに60Hz地域でそのまま使うと、回転数が1.2倍に上がるだけでは済まない。ポンプや送風機のような負荷では、次のトピックで扱う3乗則により、回転数が上がった分だけ所要動力が急激に増える。電動機は定格電流を超えて運転を続けることになり、巻線が過熱して絶縁が劣化し、最悪の場合は焼損につながる。「回転数が上がって都合が良さそうだ」ではなく、負荷側の所要動力まで含めて周波数の違いを評価しないと、機器を壊す結果になる。
電動機の回転数を、電源の数字から先に見積もれるようになる
この式が頭に入ると、電動機の仕様書に極数と定格周波数が並んで書かれている理由が分かる。今日試せることとして、身の回りの電動機(換気扇やポンプなど)の銘板を見て、極数や周波数の表示がないか探してみるといい。表示があれば、Ns=120f/pで同期速度を計算し、実際の回転音の速さと照らし合わせてみると感覚がつかめる。
日本国内で東西の電源周波数が異なる(50Hz・60Hz)のは、電気の導入初期に東日本がドイツ製、西日本がアメリカ製の発電機をそれぞれ輸入し、そのまま周波数が異なる設備として定着してしまった歴史的な経緯によるものだ。統一されないまま今日まで続いているこの違いは、単なる豆知識ではなく、電動機の回転数に直接影響する現役の技術的制約になっている。同じ機械を東西で使い回す場合、この式を知らずに設置すると、思わぬ回転数の違いに戸惑うことになる。次のトピックで扱う速度制御(インバータ)は、この同期速度の式をどう自在に操るかという話につながっていく。
冒頭の工場のモータ、なぜ移設しただけで回転数が変わったのか。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。