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電気応用 ・ 8 / 10

電動機の速度制御と所要出力の計算 — 回転数を2割落とすと動力は半分になる

読み終えると、こうなる

工場の換気ファンをインバータでほんの少し弱めただけで電気代が大きく下がる、という一見不釣り合いな現象を、1つの指数計算で説明できるようになる

  • 送風機・ポンプの回転数をインバータで2割落としたとき、消費電力がおよそ半分まで下がることを3乗則から計算できる
  • 揚水ポンプ・巻上機・送風機の所要出力を、それぞれの公式から求められる
  • 周波数だけを下げて電圧を下げずにいると電動機が過熱する理由を、V/f一定制御の考え方から説明できる
考えてみよう

工場の大きな換気ファンを、インバータでほんの2割だけゆっくり回してみた。風は気持ち弱くなった程度で、体感ではほとんど変わらない。ところが電力計の数字を見ると、消費電力はほぼ半分になっていた。回転数はたった2割しか落としていないのに、この不釣り合いな減り方はどこから来るのか。

見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、この「不釣り合い」を1つの指数計算で説明できるようになっている。

電動機の速度を変える方法は、同期速度の式Ns=120f/pとすべりsから整理すると、「周波数f」「極数p」「すべりs」の3系統に分けられる。実務での主役はインバータによる周波数制御だ。電圧形インバータは、商用電源を一度整流して直流にし、平滑した上でPWM(パルス幅変調)によって任意の周波数の交流に再変換する。

このとき重要なのが、周波数を下げるときは電圧も同じ比率で下げるV/f一定制御だ。電動機の磁束は、電源電圧Eを周波数fで割った値にほぼ比例する(変圧器の起電力の式と同じ形で、E≒4.44fNΦという関係にある)。だから周波数だけを下げて電圧をそのままにすると、E/fが大きくなる方向に動き、磁束が過大になって鉄心が飽和し、電動機が過熱してしまう。周波数と電圧を同じ比率で一緒に下げれば、E/fの値が変わらず磁束が一定に保たれたまま、速度だけを変えられる。ただし周波数がごく低い領域では、巻線の抵抗による電圧降下の影響が相対的に大きくなり、単純にV/fを一定に保つだけでは磁束・トルクが不足しやすい。実際のインバータには、低速域で電圧をわずかに底上げする補正(トルクブースト)が組み込まれていることが多い。

送風機・ポンプの世界では、回転数と流体の量・圧力・動力の関係に、はっきりした指数の法則がある。この法則(相似則)は、幾何学的に相似な羽根車であれば、流体の速度は羽根の周速度(回転数nに比例)で決まり、圧力は速度の2乗に比例する動圧(ρv2/2の形)で決まる、という流体力学の基本的な考え方から導ける。動力は「流量×圧力」で決まる仕事率なので、1乗と2乗を掛け合わせて3乗になる。

回転数との関係導出の考え方
流量回転数nに比例(∝n)羽根の周速度が回転数に比例するため
圧力回転数の2乗に比例(∝n2)圧力は速度の2乗に比例する動圧の形で決まるため
軸動力回転数の3乗に比例(∝n3)動力=流量×圧力=n×n2=n3
回転数を0.8倍にすると、動力は3乗で効いて約51%まで下がる 100% 回転数(基準) 80% 流量 ∝ n 64% 圧力 ∝ n2 51.2% 動力 ∝ n3 回転数を0.8倍(80%)にしたときの、流量・圧力・動力それぞれの変化量。動力だけが3乗で効くため、ほかより大きく下がる
流量は1乗、圧力は2乗、動力は3乗——この「1・2・3」という指数の重なりが、回転数をわずかに落としただけで電力が大きく下がる理由だ。回転数を0.8倍にすると流量はまだ0.8倍程度しか変わらないが、動力は0.83=0.512倍とほぼ半分まで落ちる。ダンパやバルブで風量・水量を絞る方式は流れそのものを堰き止めて無駄な圧力損失を生むだけだが、インバータで回転数を落とす方式はこの3乗則の恩恵をそのまま受け取れる。これがインバータ導入が省エネ効果を持つ理論的な根拠だ。

この3乗則を誤解すると、逆の失敗も起こりうる。「回転数を少し落とせば動力が劇的に下がる」という事実だけを覚えて、必要な風量・水量まで大きく削ってしまうと、換気や冷却が不足し、別の設備トラブル(温度上昇、換気不良)を招く。3乗則は省エネの根拠であると同時に、回転数を落とした分だけ流量・圧力も確実に下がるという制約でもある。必要な流量・圧力の下限を確保した上で、その範囲内で回転数を最小化するのが正しい使い方だ。

所要出力の計算は、どれも「仕事率=力×速度」または「位置エネルギー÷時間」という発想から導ける。

  • 揚水ポンプ:P=9.8QHKηP = \dfrac{9.8QHK}{\eta}〔kW〕(Q:揚水量m3/s、H:全揚程m、K:余裕係数、η:ポンプ効率)
  • 巻上機・エレベータ:P=9.8WvηP = \dfrac{9.8Wv}{\eta}〔kW〕(W:荷重t、v:巻上速度m/s)
  • 送風機:P=QpKηP = \dfrac{QpK}{\eta}〔W〕(Q:風量m3/s、p:風圧Pa)

いずれも9.8は重力加速度gにあたる係数で、位置エネルギーや仕事率の定義から導出できる。揚水量がm3/minで与えられていたら、60で割ってm3/sに直してから代入するのが定番の手順だ。

9.8を掛けるかどうかは、与えられた単位で決まる

巻上機の所要出力は P = 9.8 W v / η〔kW〕 と覚えている人が多い。だがこの 9.8 は 重力加速度で、荷重が質量の単位〔t〕で与えられたときにだけ必要になる。

荷重の与えられ方使う式
W〔t〕(質量)P = 9.8 W v / η〔kW〕
W〔kN〕(力)P = W v / η〔kW〕

さらに効率ηの書き方でも式が変わる。ηが小数(0.8)なら上の式のままだが、 百分率(80〔%〕)で与えられたら、100を掛ける必要がある。

効率の与えられ方式(荷重がkNのとき)
η=0.8(小数)P = W v / η
η=80〔%〕P = 100 W v / η

選択肢には Wv/η100Wv/η の両方が並ぶ。単位〔%〕が付いていたら100を掛ける、 と機械的に決めておけば迷わない。

kN はすでに「力」の単位で、重力加速度を掛けたあとの値だ。そこへさらに 9.8 を掛けると、 約9.8倍ずれた答えになる。そして選択肢には、その誤った値もたいてい用意されている。

所要出力の問題は、**式を思い出す前に、与えられた量の単位を見る**。 t なら 9.8 が要る。kN なら要らない。この一手を先に置くだけで、 「公式は合っているのに答えが1桁近くずれる」という落ち方を防げる。 揚水ポンプの P=9.8QHK/η も同じで、9.8 が付いているのは水の質量から力を出しているためだ。

入力と出力を、効率で行き来する

電動機の計算で最後につまずくのが、入力と出力の区別だ。

  • 入力 — 電源から電動機へ入る電力。三相なら Pin=3VIcosθP_{in} = \sqrt{3} V I \cos\theta〔W〕
  • 出力 — 電動機が軸から取り出す機械的な仕事。PoutP_{out}〔W〕

この2つは同じではない。途中で銅損・鉄損・機械損として一部が熱になって逃げるからだ。その取りこぼしの度合いを表すのが効率η\etaである。

$$出力 = 入力 \times \eta$$

つまり出力を求めるなら効率を掛け、入力を求めるなら効率で割る

Pout=3VIcosθ×ηPin=PoutηP_{out} = \sqrt{3} V I \cos\theta \times \eta \qquad P_{in} = \frac{P_{out}}{\eta}

掛けるか割るかは、「出力は入力より必ず小さい」で確かめられる。効率は1未満なので、掛ければ小さくなり、割れば大きくなる。計算結果が出力なのに入力より大きくなっていたら、その場で間違いに気づける。

力率cosθ\cos\thetaと効率η\etaは、どちらも1以下の係数として同じ式に並ぶので混同しやすい。だが見ているものが違う。

  • 力率 — 電源から見て、送った電力のうち実際に仕事に使われる割合。無効分は熱にならず、電源と負荷の間を往復している
  • 効率 — 電動機に入った電力のうち、軸から出てくる割合。取りこぼした分は熱になって消える

力率は「往復して戻ってくる分」、効率は「熱になって失われる分」——戻るか失われるかが、2つの係数の決定的な違いだ。銘板に両方が書かれているのは、電源側の見え方と機械側の見え方を、それぞれ示す必要があるからだった。

ダンパを閉めるかインバータで回すか、その差を数字で判断できるようになる

この3乗則が頭に入ると、送風機やポンプの制御方法を選ぶときに「なんとなく省エネそう」という感覚ではなく、回転数比の3乗という具体的な数字で比較できるようになる。今日試せることとして、身近な換気扇や扇風機に風量調整のつまみがあれば、弱・中・強を切り替えたときの音の変化を聞き比べてみるといい。回転数のわずかな違いが、体感以上に動力の差になっていることが実感できる。

この計算式が所要出力の設計に使われるのは、電動機の容量を決める最初の一歩だからだ。必要な出力を過小に見積もれば機械が動かず、過大に見積もればコストと電力の無駄になる。ビル・工場の給排水・空調設備を扱う第一種電気工事士にとって、この式は電動機を選定するときの出発点になる。

冒頭の換気ファン、なぜ2割の減速で電力がほぼ半分になったのか。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。

出題者のワナ — ここで受験者を転ばせにくる

この論点は、知っているだけでは足をすくわれる。試験でよく仕掛けられる崩し方を、先に知っておこう。

  1. 3乗則の指数(流量n・圧力n2・動力n3)を取り違えさせる

    なぜ引っかかる流量・圧力・動力の3つがすべて回転数に関係することは覚えていても、どれが1乗でどれが2乗・3乗かを混同しやすい。特に動力が3乗であることを忘れて、比例(1乗)で計算してしまう誤りが多い

    見破り方流量→圧力→動力の順に『1乗・2乗・3乗』と語呂で対応づけて覚える。動力を計算するときは必ず回転数比を3乗してから割合を出す

  2. 揚水量の単位をm3/minで与え、m3/sへの換算を忘れさせる

    なぜ引っかかる所要出力の公式のQはm3/s(毎秒)が前提だが、現場資料ではm3/min(毎分)で揚水量が示されることが多い。60で割る換算を忘れると、答えが60倍もずれてしまう

    見破り方式に代入する前に、与えられた流量の単位が『秒』か『分』かを必ず確認する。m3/minならまず60で割ってからP=9.8QH/ηに入れる

参考文献・出典

理解度チェック(5問)

このトピックの内容がどれくらい身についたか、5問で確認しよう。 内訳は基本3問・応用1問・ひっかけ1問。基本が解けたら、条件を足した応用と、本番で足をすくいにくるひっかけまで踏み込む。

/ 5 問正解

覚えておきたいポイント

  1. 速度を変える手段は、同期速度Ns=120f/pとすべりsの式から『周波数f・極数p・すべりs』の3系統に整理できる。主役はインバータによる周波数制御
  2. 電圧形インバータは商用電源を整流→平滑→PWMで任意周波数の交流に再変換する。周波数を下げるときは電圧も比例して下げるV/f一定制御で磁束を保つ(fだけ下げると磁束過大で鉄心が飽和・過熱する)
  3. 揚水ポンプの所要出力:P=9.8QHK/η〔kW〕(Q:揚水量m3/s、H:全揚程m、η:ポンプ効率、K:余裕係数)。Qがm3/minで与えられたら60で割る単位換算が定番のひっかけ
  4. 巻上機・エレベータの所要出力:P=9.8Wv/η〔kW〕(W:荷重t、v:巻上速度m/s)。送風機:P=QpK/η〔W〕(Q:風量m3/s、p:風圧Pa)
  5. 巻上機の式で9.8を掛けるのは、荷重が質量の単位〔t〕で与えられた場合だけ。荷重がすでに力の単位〔kN〕で与えられているときは重力加速度を掛ける必要がなく、P=Wv/η〔kW〕(W:kN、v:m/s)になる。単位を確認せずに9.8を掛けると約9.8倍ずれた答えになり、選択肢にはその値も用意されている
  6. 所要出力の計算は、式を思い出す前に「与えられた量の単位」を確認する。t(質量)なら9.8が要る、kN(力)なら要らない、という判断が先
  7. 送風機・ポンプは回転数を下げると、流量∝n、圧力∝n2、軸動力∝n3という関係になる。ダンパやバルブで絞るよりインバータで回転数を落とす方が省エネになる根拠
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