工場の大きな換気ファンを、インバータでほんの2割だけゆっくり回してみた。風は気持ち弱くなった程度で、体感ではほとんど変わらない。ところが電力計の数字を見ると、消費電力はほぼ半分になっていた。回転数はたった2割しか落としていないのに、この不釣り合いな減り方はどこから来るのか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、この「不釣り合い」を1つの指数計算で説明できるようになっている。
電動機の速度を変える方法は、同期速度の式Ns=120f/pとすべりsから整理すると、「周波数f」「極数p」「すべりs」の3系統に分けられる。実務での主役はインバータによる周波数制御だ。電圧形インバータは、商用電源を一度整流して直流にし、平滑した上でPWM(パルス幅変調)によって任意の周波数の交流に再変換する。
このとき重要なのが、周波数を下げるときは電圧も同じ比率で下げるV/f一定制御だ。電動機の磁束は、電源電圧Eを周波数fで割った値にほぼ比例する(変圧器の起電力の式と同じ形で、E≒4.44fNΦという関係にある)。だから周波数だけを下げて電圧をそのままにすると、E/fが大きくなる方向に動き、磁束が過大になって鉄心が飽和し、電動機が過熱してしまう。周波数と電圧を同じ比率で一緒に下げれば、E/fの値が変わらず磁束が一定に保たれたまま、速度だけを変えられる。ただし周波数がごく低い領域では、巻線の抵抗による電圧降下の影響が相対的に大きくなり、単純にV/fを一定に保つだけでは磁束・トルクが不足しやすい。実際のインバータには、低速域で電圧をわずかに底上げする補正(トルクブースト)が組み込まれていることが多い。
送風機・ポンプの世界では、回転数と流体の量・圧力・動力の関係に、はっきりした指数の法則がある。この法則(相似則)は、幾何学的に相似な羽根車であれば、流体の速度は羽根の周速度(回転数nに比例)で決まり、圧力は速度の2乗に比例する動圧(ρv2/2の形)で決まる、という流体力学の基本的な考え方から導ける。動力は「流量×圧力」で決まる仕事率なので、1乗と2乗を掛け合わせて3乗になる。
| 量 | 回転数との関係 | 導出の考え方 |
|---|---|---|
| 流量 | 回転数nに比例(∝n) | 羽根の周速度が回転数に比例するため |
| 圧力 | 回転数の2乗に比例(∝n2) | 圧力は速度の2乗に比例する動圧の形で決まるため |
| 軸動力 | 回転数の3乗に比例(∝n3) | 動力=流量×圧力=n×n2=n3 |
この3乗則を誤解すると、逆の失敗も起こりうる。「回転数を少し落とせば動力が劇的に下がる」という事実だけを覚えて、必要な風量・水量まで大きく削ってしまうと、換気や冷却が不足し、別の設備トラブル(温度上昇、換気不良)を招く。3乗則は省エネの根拠であると同時に、回転数を落とした分だけ流量・圧力も確実に下がるという制約でもある。必要な流量・圧力の下限を確保した上で、その範囲内で回転数を最小化するのが正しい使い方だ。
所要出力の計算は、どれも「仕事率=力×速度」または「位置エネルギー÷時間」という発想から導ける。
- 揚水ポンプ:〔kW〕(Q:揚水量m3/s、H:全揚程m、K:余裕係数、η:ポンプ効率)
- 巻上機・エレベータ:〔kW〕(W:荷重t、v:巻上速度m/s)
- 送風機:〔W〕(Q:風量m3/s、p:風圧Pa)
いずれも9.8は重力加速度gにあたる係数で、位置エネルギーや仕事率の定義から導出できる。揚水量がm3/minで与えられていたら、60で割ってm3/sに直してから代入するのが定番の手順だ。
9.8を掛けるかどうかは、与えられた単位で決まる
巻上機の所要出力は P = 9.8 W v / η〔kW〕 と覚えている人が多い。だがこの 9.8 は 重力加速度で、荷重が質量の単位〔t〕で与えられたときにだけ必要になる。
| 荷重の与えられ方 | 使う式 |
|---|---|
| W〔t〕(質量) | P = 9.8 W v / η〔kW〕 |
| W〔kN〕(力) | P = W v / η〔kW〕 |
さらに効率ηの書き方でも式が変わる。ηが小数(0.8)なら上の式のままだが、 百分率(80〔%〕)で与えられたら、100を掛ける必要がある。
| 効率の与えられ方 | 式(荷重がkNのとき) |
|---|---|
| η=0.8(小数) | P = W v / η |
| η=80〔%〕 | P = 100 W v / η |
選択肢には Wv/η と 100Wv/η の両方が並ぶ。単位〔%〕が付いていたら100を掛ける、
と機械的に決めておけば迷わない。
kN はすでに「力」の単位で、重力加速度を掛けたあとの値だ。そこへさらに 9.8 を掛けると、 約9.8倍ずれた答えになる。そして選択肢には、その誤った値もたいてい用意されている。
入力と出力を、効率で行き来する
電動機の計算で最後につまずくのが、入力と出力の区別だ。
- 入力 — 電源から電動機へ入る電力。三相なら 〔W〕
- 出力 — 電動機が軸から取り出す機械的な仕事。〔W〕
この2つは同じではない。途中で銅損・鉄損・機械損として一部が熱になって逃げるからだ。その取りこぼしの度合いを表すのが効率である。
つまり出力を求めるなら効率を掛け、入力を求めるなら効率で割る。
掛けるか割るかは、「出力は入力より必ず小さい」で確かめられる。効率は1未満なので、掛ければ小さくなり、割れば大きくなる。計算結果が出力なのに入力より大きくなっていたら、その場で間違いに気づける。
力率と効率は、どちらも1以下の係数として同じ式に並ぶので混同しやすい。だが見ているものが違う。
- 力率 — 電源から見て、送った電力のうち実際に仕事に使われる割合。無効分は熱にならず、電源と負荷の間を往復している
- 効率 — 電動機に入った電力のうち、軸から出てくる割合。取りこぼした分は熱になって消える
力率は「往復して戻ってくる分」、効率は「熱になって失われる分」——戻るか失われるかが、2つの係数の決定的な違いだ。銘板に両方が書かれているのは、電源側の見え方と機械側の見え方を、それぞれ示す必要があるからだった。
ダンパを閉めるかインバータで回すか、その差を数字で判断できるようになる
この3乗則が頭に入ると、送風機やポンプの制御方法を選ぶときに「なんとなく省エネそう」という感覚ではなく、回転数比の3乗という具体的な数字で比較できるようになる。今日試せることとして、身近な換気扇や扇風機に風量調整のつまみがあれば、弱・中・強を切り替えたときの音の変化を聞き比べてみるといい。回転数のわずかな違いが、体感以上に動力の差になっていることが実感できる。
この計算式が所要出力の設計に使われるのは、電動機の容量を決める最初の一歩だからだ。必要な出力を過小に見積もれば機械が動かず、過大に見積もればコストと電力の無駄になる。ビル・工場の給排水・空調設備を扱う第一種電気工事士にとって、この式は電動機を選定するときの出発点になる。
冒頭の換気ファン、なぜ2割の減速で電力がほぼ半分になったのか。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。