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電気応用 ・ 9 / 10

パワーエレクトロニクスの基礎 — 電気を「切り刻んで」制御する

読み終えると、こうなる

調光器のつまみや電熱器の温度調節が、抵抗で電力を捨てる装置ではなく、交流波形を切り刻んで通電時間を削る装置に見えてくる。

  • ダイオード・サイリスタ・トライアック・IGBTを「点でON・点でOFFできるか」で仕分けられる
  • 位相制御の波形図を見て、ゲートの点弧を遅らせると平均電圧が下がる理由を説明できる
  • パワエレ機器が高調波の発生源になる理由を、直列リアクトルの話とつなげて説明できる
考えてみよう

調光器のつまみを回すと、白熱電球がなめらかに暗くなる。もし抵抗を直列に入れて電圧を落としているのなら、絞った分の電力は抵抗の熱になるはずだ。100Wの電球を半分の明るさにしたら、壁の小さなつまみが何十Wも発熱することになる。だが実際の調光器は、ほとんど熱くならない。

電圧を落とさずに、電力だけを絞る。そんな器用なことがどうやってできるのか。

見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、その答えである「波形を切り刻む」という発想と、それを支える半導体素子の役割分担を説明できるようになっている。

パワーエレクトロニクスは、半導体素子をスイッチとして使い、電力の形(電圧・周波数・直流交流)を変換・制御する技術だ。登場する素子は多いが、覚え方はひとつでいい。「どこまで制御できるか」の階段で並べることだ。

素子ONの制御OFFの制御ひとことで
ダイオードできない(電圧の向きで勝手に流れる)できない一方通行の弁。合図なしで流れる
サイリスタゲート信号でできるできない(電流ゼロを待つ)合図をもらってから流れる
トライアックゲート信号でできる(交流両方向)できない(電流ゼロを待つ)双方向版のサイリスタ
GTOゲート信号でできるゲート信号でできる合図で止められるサイリスタ
IGBTゲート信号でできるゲート信号でできるON/OFF自在の高速スイッチ

ダイオードは制御端子を持たず、順方向なら流れ、逆方向なら止まる。整流はできるが、量の調整はできない。サイリスタはそこに「ゲート」という入口の合図を加えた素子だ。順方向に電圧がかかっていても、ゲートに信号が入るまでは流れない。ただし一度ONすると、ゲートの信号を取り去っても流れ続け、主電流が保持電流を下回るまで自分では止まれない。交流回路なら半サイクルごとに電流が自然にゼロを横切るので、そこでOFFに戻る。この「自然にゼロになる瞬間を利用してOFFする」という性質が、サイリスタを交流の制御に向いた素子にしている。

トライアックはサイリスタを双方向にしたもので、交流のプラス側・マイナス側の両方で位相制御ができる。さらにGTOやIGBTは、ゲートの信号でOFFまで制御できる。ONもOFFも一瞬で切り替えられるIGBTは、毎秒何千回ものスイッチングを繰り返すインバータ(VVVF)の主役だ。

位相制御 — 点弧を遅らせるほど、波形が削れる

サイリスタの使い方の代表が位相制御だ。交流の半サイクルごとに、ゲートを点弧する位相(制御角α)を制御する。αが小さければ半サイクルのほぼ全体が負荷に流れ、αを遅らせるほど波形の前半分が削られて、通電するのは後ろの短い区間だけになる。

位相制御の出力波形 点弧が早い(αが小さい)→ 出力大 点弧 点弧が遅い(αが大きい)→ 出力小 点弧 位相制御の概念図(自作)。点線が電源の正弦波、実線と塗り部分が実際に負荷へ流れる波形。点弧を遅らせるほど通電区間が短くなり、平均電圧が下がる

負荷に加わる電圧の平均値は、通電している面積で決まる。点弧を遅らせて波形を削れば削るほど、平均電圧は下がる。これがサイリスタ位相制御による交流電力調整で、負荷電圧を0〜100%まで連続的に変えられる。

冒頭の調光器の正体がこれだ。**位相制御は電圧を抵抗で落とすのではなく、通電している時間そのものを削る。電力をどこかで熱として捨てていないから、調光器はほとんど発熱しない。** 白熱灯の調光器(トライアックで交流両方向を制御)も、電熱装置の温度調節(交流電力調整器)も、同じ原理で動いている。

切り刻んだ波形は、正弦波ではない

ただし、この便利さには代償がある。位相制御された電流波形は、途中からいきなり立ち上がる歪んだ形をしていて、もはや正弦波ではない。歪んだ波形は、基本波(50/60Hz)にその整数倍の周波数の波(高調波)が重なったものとして表せる。つまり、波形を切り刻むパワエレ機器——位相制御装置、整流器、インバータなど——は、高調波の発生源になる。

ここで、高圧受電設備の進相コンデンサに直列リアクトルを付ける話とつながる。系統に高調波が存在すると、コンデンサは周波数が高いほどインピーダンスが下がる性質のため、高調波電流を引き込んで過熱や異音の原因になる。直列リアクトルは、その流入を抑えて回路を守るための備えだった。発生源(パワエレ機器)と防御側(直列リアクトル付きコンデンサ)——2つのトピックは、高調波という同じ現象の両側を見ていたことになる。

インバータまでは、あと一歩

ONもOFFも自在なIGBTを4つまたは6つ組み合わせてスイッチングの順序を工夫すると、直流から任意の周波数の交流を作り出せる。これがインバータで、電動機の回転速度を周波数ごと変える(VVVF)という、速度制御のトピックで登場した仕組みの正体だ。エアコン、エレベータ、電車、太陽光発電のパワーコンディショナ——身の回りの「効率よく電気を使う機械」の中では、ほぼ例外なくこの素子たちが毎秒何千回も波形を刻んでいる。

冒頭の謎、調光器が熱くならずに電球を暗くできる理由は。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。

出題者のワナ — ここで受験者を転ばせにくる

この論点は、知っているだけでは足をすくわれる。試験でよく仕掛けられる崩し方を、先に知っておこう。

  1. サイリスタを「ゲートでOFFにもできる」と思わせる(GTO・IGBTとの混同)

    なぜ引っかかるゲートでONできるなら、同じゲートでOFFもできそうに感じる。実際の(逆阻止3端子)サイリスタは、一度ONすると電流が保持電流を下回るまで自分では止まれない

    見破り方「サイリスタ=入口の合図だけ」「GTO・IGBT=入口も出口も制御」と、素子ごとに『点でONできるか・点でOFFできるか』の2問を自分に出して確認する

  2. 調光器が「余った電力を熱として捨てて」暗くしていると思わせる

    なぜ引っかかる抵抗を直列に入れて電圧を落とす旧来の方法のイメージが残っており、電力を絞る=どこかで消費している、と考えやすい

    見破り方位相制御は電圧を落とすのではなく、通電している時間そのものを削っている。だから制御部はほとんど発熱せず、小さなつまみに収まる、と装置の小ささから逆に思い出す

  3. 高調波の発生源を進相コンデンサだと思わせる

    なぜ引っかかる高調波対策の文脈で直列リアクトル付き進相コンデンサが頻出するため、コンデンサ自体が高調波を出していると混同しやすい

    見破り方発生源は波形を切り刻むパワエレ機器(整流器・インバータ・位相制御装置など)。コンデンサは高調波に対して低インピーダンスになって流れ込まれる被害者側で、直列リアクトルはその備えだ、と役割を仕分ける

参考文献・出典

理解度チェック(5問)

このトピックの内容がどれくらい身についたか、5問で確認しよう。 内訳は基本3問・応用1問・ひっかけ1問。基本が解けたら、条件を足した応用と、本番で足をすくいにくるひっかけまで踏み込む。

/ 5 問正解

覚えておきたいポイント

  1. 電力用半導体素子は制御できる度合いで並べて覚える。ダイオード=合図なしで一方向に流れる(制御不可)、サイリスタ=ゲートの合図でONできるがOFFは電流が自然にゼロになるまで待つ、トライアック=交流の両方向でON制御できる、GTO・IGBT=ONもOFFもゲート(ベース)で制御できる
  2. サイリスタの位相制御は、交流の半サイクルごとにゲートを点弧する位相(制御角α)を遅らせ、波形の前半分を削って負荷に加わる平均電圧を下げる方式。白熱灯の調光器や電熱器の交流電力調整がこの原理
  3. 位相制御された電流は正弦波ではなくなるため、パワエレ機器は高調波の発生源になる。進相コンデンサ回路に直列リアクトルを入れて高調波への備えをするのは、こうした波形の歪みが系統に存在するから
  4. ONもOFFも自在に制御できるIGBTは高速なスイッチングに向き、インバータ(VVVF)による電動機の速度制御など、現在の電力変換の主役になっている
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