調光器のつまみを回すと、白熱電球がなめらかに暗くなる。もし抵抗を直列に入れて電圧を落としているのなら、絞った分の電力は抵抗の熱になるはずだ。100Wの電球を半分の明るさにしたら、壁の小さなつまみが何十Wも発熱することになる。だが実際の調光器は、ほとんど熱くならない。
電圧を落とさずに、電力だけを絞る。そんな器用なことがどうやってできるのか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、その答えである「波形を切り刻む」という発想と、それを支える半導体素子の役割分担を説明できるようになっている。
パワーエレクトロニクスは、半導体素子をスイッチとして使い、電力の形(電圧・周波数・直流交流)を変換・制御する技術だ。登場する素子は多いが、覚え方はひとつでいい。「どこまで制御できるか」の階段で並べることだ。
| 素子 | ONの制御 | OFFの制御 | ひとことで |
|---|---|---|---|
| ダイオード | できない(電圧の向きで勝手に流れる) | できない | 一方通行の弁。合図なしで流れる |
| サイリスタ | ゲート信号でできる | できない(電流ゼロを待つ) | 合図をもらってから流れる |
| トライアック | ゲート信号でできる(交流両方向) | できない(電流ゼロを待つ) | 双方向版のサイリスタ |
| GTO | ゲート信号でできる | ゲート信号でできる | 合図で止められるサイリスタ |
| IGBT | ゲート信号でできる | ゲート信号でできる | ON/OFF自在の高速スイッチ |
ダイオードは制御端子を持たず、順方向なら流れ、逆方向なら止まる。整流はできるが、量の調整はできない。サイリスタはそこに「ゲート」という入口の合図を加えた素子だ。順方向に電圧がかかっていても、ゲートに信号が入るまでは流れない。ただし一度ONすると、ゲートの信号を取り去っても流れ続け、主電流が保持電流を下回るまで自分では止まれない。交流回路なら半サイクルごとに電流が自然にゼロを横切るので、そこでOFFに戻る。この「自然にゼロになる瞬間を利用してOFFする」という性質が、サイリスタを交流の制御に向いた素子にしている。
トライアックはサイリスタを双方向にしたもので、交流のプラス側・マイナス側の両方で位相制御ができる。さらにGTOやIGBTは、ゲートの信号でOFFまで制御できる。ONもOFFも一瞬で切り替えられるIGBTは、毎秒何千回ものスイッチングを繰り返すインバータ(VVVF)の主役だ。
位相制御 — 点弧を遅らせるほど、波形が削れる
サイリスタの使い方の代表が位相制御だ。交流の半サイクルごとに、ゲートを点弧する位相(制御角α)を制御する。αが小さければ半サイクルのほぼ全体が負荷に流れ、αを遅らせるほど波形の前半分が削られて、通電するのは後ろの短い区間だけになる。
負荷に加わる電圧の平均値は、通電している面積で決まる。点弧を遅らせて波形を削れば削るほど、平均電圧は下がる。これがサイリスタ位相制御による交流電力調整で、負荷電圧を0〜100%まで連続的に変えられる。
切り刻んだ波形は、正弦波ではない
ただし、この便利さには代償がある。位相制御された電流波形は、途中からいきなり立ち上がる歪んだ形をしていて、もはや正弦波ではない。歪んだ波形は、基本波(50/60Hz)にその整数倍の周波数の波(高調波)が重なったものとして表せる。つまり、波形を切り刻むパワエレ機器——位相制御装置、整流器、インバータなど——は、高調波の発生源になる。
ここで、高圧受電設備の進相コンデンサに直列リアクトルを付ける話とつながる。系統に高調波が存在すると、コンデンサは周波数が高いほどインピーダンスが下がる性質のため、高調波電流を引き込んで過熱や異音の原因になる。直列リアクトルは、その流入を抑えて回路を守るための備えだった。発生源(パワエレ機器)と防御側(直列リアクトル付きコンデンサ)——2つのトピックは、高調波という同じ現象の両側を見ていたことになる。
インバータまでは、あと一歩
ONもOFFも自在なIGBTを4つまたは6つ組み合わせてスイッチングの順序を工夫すると、直流から任意の周波数の交流を作り出せる。これがインバータで、電動機の回転速度を周波数ごと変える(VVVF)という、速度制御のトピックで登場した仕組みの正体だ。エアコン、エレベータ、電車、太陽光発電のパワーコンディショナ——身の回りの「効率よく電気を使う機械」の中では、ほぼ例外なくこの素子たちが毎秒何千回も波形を刻んでいる。
冒頭の謎、調光器が熱くならずに電球を暗くできる理由は。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。