同じ1kWの電気を使っているのに、電気ストーブをつけた部屋はなかなか暖まらず、エアコンの暖房をつけた部屋はすぐに暖まる。使っている電力は同じはずなのに、この差はどこから来るのか。「エアコンの方が得だ」というだけでは説明になっていない。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、この差をエネルギー保存則を疑うことなく、理論式で説明できるようになっている。
電気による暖房には、根本的に方式が違う2つの考え方がある。電熱器(抵抗加熱)は、電流のジュール熱をそのまま暖房に使う。投入した電力Pがそのまま熱量になるので、成績係数(COP)は次の式で1が上限になる。
一方、エアコンなどのヒートポンプは、熱を「作る」のではなく、低温側(外気)にある熱を高温側(室内)へ「運ぶ」。汲み上げるだけなら、投入電力の何倍もの熱を室内に持ち込むことができ、COPは1を大きく超える。
このCOPの理論上限は、逆カルノーサイクルという理想的な熱サイクルから導ける。室温などの高温側の絶対温度をT1、外気などの低温側の絶対温度をT2とすると、
暖房COPが冷房COPよりちょうど1大きくなることは、エネルギーの出入りを追うと自分で導ける。圧縮機に投入した電力をW、外気からくみ上げた熱をQcとすると、室内側に届く熱Qhは、エネルギー保存則からQh=Qc+Wになる(くみ上げた熱と、圧縮の仕事がそのまま両方とも室内側の得になる)。冷房COPはQc/Wで定義される一方、暖房COPはQh/Wなので、
同じ機械・同じ運転条件なら、暖房として使うか冷房として使うかでCOPがちょうど1だけ違ってくる、という関係がここから導ける。
例題
室温300K・外気温270Kのとき、暖房COPの理論値はいくらか。
この式から読み取れるもう1つの事実がある。外気温が下がってT1-T2(室内外の温度差)が開くほど、COPの分母が大きくなって値が下がる。真冬にエアコンの暖房が効きにくくなるのは、機械が弱っているからではなく、この温度差の拡大が理論式そのものに表れているからだ。実際の機器では、これに加えてもう1つ効率を下げる要因がある。外気から熱を吸い上げる屋外機のコイルは、熱を奪われて表面温度が下がるため、外気が湿っていると表面に霜が付くことがある。霜が厚くなると熱交換の効率が落ちるため、一定時間ごとにサイクルを逆転させて霜を溶かす「除霜運転」が入る。この間は暖房が一時的に止まる、あるいは弱まるため、体感の効きが落ちたように感じることがある。これも温度差の拡大(外気温低下)と表裏一体の現象だ。
ヒートポンプを導入するときに、この温度差の効果を軽視すると失敗につながる。温暖な地域向けに設計された機種を、冬に外気温が大きく下がる寒冷地でそのまま使うと、COPが理論式の通り大きく落ち込み、補助的な電気ヒーターが作動して電気代が跳ね上がることがある。「ヒートポンプだから省エネ」という一般論だけで機種を選ばず、想定する外気温の幅に対してCOPがどう変化するかを踏まえて選定する必要がある。
湯を沸かすヒートポンプ — 冷媒にCO2を選んだエコキュート
ヒートポンプの「熱を運ぶ」原理は、部屋の空気を暖めるだけでなく、湯を沸かすのにも使える。その代表が自然冷媒(CO2)ヒートポンプ給湯器、いわゆるエコキュートだ。試験では「この給湯器が冷媒に何を使うか」という形で問われることがある。答えは二酸化炭素(CO2)——フロンではない。
サイクルの骨格は、ここまで見てきたエアコンの暖房と同じだ。
- 蒸発器で、低温低圧の冷媒が大気の熱を吸収して気化する
- 圧縮機で圧縮され、高温高圧になる
- その熱を水熱交換器で水に与え、湯を沸かす
- 膨張弁で減圧され、元の低温低圧に戻る
大気の熱を汲み上げて運ぶ仕組みなので、消費電力より大きい熱量が得られる(COPが1を大きく超える)ことも、この章の理屈のままだ。エアコンとの違いは、熱の届け先が室内の空気ではなく、タンクに貯める水だという点にある。
ではなぜ、エアコンで広く使われてきたフロン系冷媒ではなく、わざわざCO2なのか。理由は2つ重なっている。1つは環境性能で、CO2はフロンと異なりオゾン層を破壊せず、地球温暖化係数も小さい自然冷媒であること。もう1つは用途との相性で、CO2は高温の湯(90℃級)を作るのに適した性質を持っており、「湯を沸かす」という給湯の仕事に向いていること。この2つが重なった選択の結果として、2001年に日本で世界初の家庭用機が商品化された。COPの理論を学んだあとにこの機器を見ると、「電気で湯を沸かす」のではなく「電気で、大気の熱を湯に運び込む」機械だと読めるようになっているはずだ。
「エアコンは得」を、温度差の数字で言い換えられるようになる
この式が頭に入ると、「電気代が気になるならエアコン」という漠然とした知識が、温度差によって効率が変わるという具体的な理解に変わる。今日試せることとして、エアコンの室外機の周りを見てみるといい。吹き出し口から冷たい風(暖房時)や温かい風(冷房時)が出ているのは、まさに外気との間で熱をやり取りしている証拠だ。
COPという指標がわざわざ理論式まで遡って説明されるのは、実機の効率が機種・年式・外気温で大きく変わる(変動値)のに対し、「熱を運ぶ方式は原理的に1を超えられる」という事実そのものは変わらないからだ。省エネルギー機器の性能を比較する土台として、この理論の骨格を押さえておくことには意味がある。
冒頭の電気ストーブとエアコン、同じ電力でなぜここまで暖まり方が違ったのか。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。