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電気応用 ・ 6 / 10

ヒートポンプの成績係数COP — 熱を作らず「運ぶ」から1を超える

読み終えると、こうなる

同じ1kWの電気を使うのに、エアコンの部屋がすぐ暖まり電気ストーブの部屋がなかなか暖まらない理由を、エネルギー保存則を疑うことなく説明できるようになる

  • 電熱器とヒートポンプの違いを『熱を作る』か『熱を運ぶ』かという1つの軸で説明できる
  • 外気温が下がった日にエアコンの暖房が効きにくくなる理由を、室内外の温度差の式から説明できる
  • 暖房COPと冷房COPの関係(暖房COP=冷房COP+1)を、圧縮機の入力の行き先から導ける
  • エコキュートについて問われたら、冷媒の名前(二酸化炭素)とサイクルの流れを言い当てられる
考えてみよう

同じ1kWの電気を使っているのに、電気ストーブをつけた部屋はなかなか暖まらず、エアコンの暖房をつけた部屋はすぐに暖まる。使っている電力は同じはずなのに、この差はどこから来るのか。「エアコンの方が得だ」というだけでは説明になっていない。

見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、この差をエネルギー保存則を疑うことなく、理論式で説明できるようになっている。

電気による暖房には、根本的に方式が違う2つの考え方がある。電熱器(抵抗加熱)は、電流のジュール熱をそのまま暖房に使う。投入した電力Pがそのまま熱量になるので、成績係数(COP)は次の式で1が上限になる。

COP=くみ上げた熱量投入した電力1\text{COP} = \frac{\text{くみ上げた熱量}}{\text{投入した電力}} \leq 1

一方、エアコンなどのヒートポンプは、熱を「作る」のではなく、低温側(外気)にある熱を高温側(室内)へ「運ぶ」。汲み上げるだけなら、投入電力の何倍もの熱を室内に持ち込むことができ、COPは1を大きく超える。

ヒートポンプは熱を「作る」のではなく「運ぶ」 外気 (低温側 T2) 圧縮機 (ヒートポンプ) 室内 (高温側 T1) 熱をくみ上げる 熱を届ける 投入電力 W 圧縮機(投入電力W)が外気の熱を汲み上げて室内へ届ける。室内が受け取る熱は「汲み上げた熱+投入した電力」の合計になる
「投入電力より大きな熱が出てくる」と聞くと、エネルギーが増えているように錯覚する。しかしヒートポンプの熱の出どころは電力だけではない。外気という『タダの熱源』から汲み上げた熱も一緒に室内へ運び込んでいるから、投入電力以上の熱が出てきても保存則には反しない。COPは「電力1に対して熱が何倍出てきたか」ではなく、「電力を使ってポンプを何倍働かせたか」を表す数字だと考えると腑に落ちる。

このCOPの理論上限は、逆カルノーサイクルという理想的な熱サイクルから導ける。室温などの高温側の絶対温度をT1、外気などの低温側の絶対温度をT2とすると、

COP(冷房)=T2T1T2,COP(暖房)=T1T1T2\text{COP(冷房)} = \frac{T_2}{T_1 - T_2}, \qquad \text{COP(暖房)} = \frac{T_1}{T_1 - T_2}

暖房COPが冷房COPよりちょうど1大きくなることは、エネルギーの出入りを追うと自分で導ける。圧縮機に投入した電力をW、外気からくみ上げた熱をQcとすると、室内側に届く熱Qhは、エネルギー保存則からQh=Qc+Wになる(くみ上げた熱と、圧縮の仕事がそのまま両方とも室内側の得になる)。冷房COPはQc/Wで定義される一方、暖房COPはQh/Wなので、

COP(暖房)=QhW=Qc+WW=QcW+1=COP(冷房)+1\text{COP(暖房)} = \frac{Q_h}{W} = \frac{Q_c + W}{W} = \frac{Q_c}{W} + 1 = \text{COP(冷房)} + 1

同じ機械・同じ運転条件なら、暖房として使うか冷房として使うかでCOPがちょうど1だけ違ってくる、という関係がここから導ける。

例題

室温300K・外気温270Kのとき、暖房COPの理論値はいくらか。

COP=300300270=30030=10\text{COP} = \frac{300}{300 - 270} = \frac{300}{30} = 10

この式から読み取れるもう1つの事実がある。外気温が下がってT1-T2(室内外の温度差)が開くほど、COPの分母が大きくなって値が下がる。真冬にエアコンの暖房が効きにくくなるのは、機械が弱っているからではなく、この温度差の拡大が理論式そのものに表れているからだ。実際の機器では、これに加えてもう1つ効率を下げる要因がある。外気から熱を吸い上げる屋外機のコイルは、熱を奪われて表面温度が下がるため、外気が湿っていると表面に霜が付くことがある。霜が厚くなると熱交換の効率が落ちるため、一定時間ごとにサイクルを逆転させて霜を溶かす「除霜運転」が入る。この間は暖房が一時的に止まる、あるいは弱まるため、体感の効きが落ちたように感じることがある。これも温度差の拡大(外気温低下)と表裏一体の現象だ。

ヒートポンプを導入するときに、この温度差の効果を軽視すると失敗につながる。温暖な地域向けに設計された機種を、冬に外気温が大きく下がる寒冷地でそのまま使うと、COPが理論式の通り大きく落ち込み、補助的な電気ヒーターが作動して電気代が跳ね上がることがある。「ヒートポンプだから省エネ」という一般論だけで機種を選ばず、想定する外気温の幅に対してCOPがどう変化するかを踏まえて選定する必要がある。

湯を沸かすヒートポンプ — 冷媒にCO2を選んだエコキュート

ヒートポンプの「熱を運ぶ」原理は、部屋の空気を暖めるだけでなく、湯を沸かすのにも使える。その代表が自然冷媒(CO2)ヒートポンプ給湯器、いわゆるエコキュートだ。試験では「この給湯器が冷媒に何を使うか」という形で問われることがある。答えは二酸化炭素(CO2)——フロンではない。

サイクルの骨格は、ここまで見てきたエアコンの暖房と同じだ。

  1. 蒸発器で、低温低圧の冷媒が大気の熱を吸収して気化する
  2. 圧縮機で圧縮され、高温高圧になる
  3. その熱を水熱交換器で水に与え、湯を沸かす
  4. 膨張弁で減圧され、元の低温低圧に戻る

大気の熱を汲み上げて運ぶ仕組みなので、消費電力より大きい熱量が得られる(COPが1を大きく超える)ことも、この章の理屈のままだ。エアコンとの違いは、熱の届け先が室内の空気ではなく、タンクに貯める水だという点にある。

ではなぜ、エアコンで広く使われてきたフロン系冷媒ではなく、わざわざCO2なのか。理由は2つ重なっている。1つは環境性能で、CO2はフロンと異なりオゾン層を破壊せず、地球温暖化係数も小さい自然冷媒であること。もう1つは用途との相性で、CO2は高温の湯(90℃級)を作るのに適した性質を持っており、「湯を沸かす」という給湯の仕事に向いていること。この2つが重なった選択の結果として、2001年に日本で世界初の家庭用機が商品化された。COPの理論を学んだあとにこの機器を見ると、「電気で湯を沸かす」のではなく「電気で、大気の熱を湯に運び込む」機械だと読めるようになっているはずだ。

「エアコンは得」を、温度差の数字で言い換えられるようになる

この式が頭に入ると、「電気代が気になるならエアコン」という漠然とした知識が、温度差によって効率が変わるという具体的な理解に変わる。今日試せることとして、エアコンの室外機の周りを見てみるといい。吹き出し口から冷たい風(暖房時)や温かい風(冷房時)が出ているのは、まさに外気との間で熱をやり取りしている証拠だ。

COPという指標がわざわざ理論式まで遡って説明されるのは、実機の効率が機種・年式・外気温で大きく変わる(変動値)のに対し、「熱を運ぶ方式は原理的に1を超えられる」という事実そのものは変わらないからだ。省エネルギー機器の性能を比較する土台として、この理論の骨格を押さえておくことには意味がある。

冒頭の電気ストーブとエアコン、同じ電力でなぜここまで暖まり方が違ったのか。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。

出題者のワナ — ここで受験者を転ばせにくる

この論点は、知っているだけでは足をすくわれる。試験でよく仕掛けられる崩し方を、先に知っておこう。

  1. COPが1を超えることをエネルギー保存則に反すると錯覚させる

    なぜ引っかかる『投入した電力より大きな熱が出てくる』という表現だけを見ると、入力より出力が大きい=エネルギーが増えているように見える。しかしヒートポンプは電力で熱を作っているのではなく、外気にある熱を汲み上げて室内に運んでいるだけなので、保存則には反しない

    見破り方COPの分子(くみ上げた熱量)には、電力そのものだけでなく外気から汲み上げた熱も含まれていると考える。電力は熱を作る燃料ではなく、熱を運ぶポンプを動かす動力だと捉え直す

  2. 外気温が下がるとCOPが落ちる理由を、機械の劣化や霜取り運転などの副次的な話にすり替える

    なぜ引っかかる実際の暖房能力の低下には霜取り運転なども関係するが、理論式の核心はもっと単純で、外気温が下がるほど室内外の温度差T1-T2が開き、COPの式の分母が大きくなるために効率が下がるという点にある

    見破り方COP=T1/(T1-T2)の式に立ち返り、外気温が下がるとT2(低温側)が下がってT1-T2(分母)が開くことを確認する。副次的な要因より先に、この温度差の式で説明できるかを考える

  3. エコキュートの冷媒を、エアコンと同じフロン系だと思わせる

    なぜ引っかかる同じヒートポンプ機器なので冷媒も同じだろうと推測しやすい。しかしこの給湯器の特徴はまさに冷媒にあり、フロンではなく自然冷媒=二酸化炭素(CO2)を使う点が出題の核になる

    見破り方機器の正式な呼び名『自然冷媒ヒートポンプ給湯器』の『自然冷媒』に着目する。フロンは合成された冷媒であり自然冷媒には当たらない。自然冷媒ときたら二酸化炭素(CO2)と結びつける

参考文献・出典

理解度チェック(7問)

このトピックの内容がどれくらい身についたか、7問で確認しよう。 内訳は基本4問・応用2問・ひっかけ1問。基本が解けたら、条件を足した応用と、本番で足をすくいにくるひっかけまで踏み込む。

/ 7 問正解

覚えておきたいポイント

  1. 電熱器は投入電力がそのまま発生熱量になるためCOP=1が上限。ヒートポンプは熱を『作る』のではなく低温側(外気)から高温側(室内)へ『運ぶ』ためCOPが1を大きく超えられる
  2. COP(成績係数)=くみ上げた熱量/投入した電力
  3. 理論上限は逆カルノーサイクルから、冷房時COP=T2/(T1-T2)、暖房時COP=T1/(T1-T2)で導出できる(T1・T2は絶対温度)
  4. 同じ機械なら暖房COP=冷房COP+1になる。圧縮機に投入した電力も最終的に室内側へ熱として捨てられるため
  5. T1-T2(室内外の温度差)が開くほどCOPは式の分母が大きくなり低下する。外気温が下がる冬ほど暖房効率が落ちるのはこのため
  6. 自然冷媒(CO2)ヒートポンプ給湯器(エコキュート)は、冷媒に二酸化炭素を使い、蒸発器で大気の熱を吸収→圧縮機で高温高圧化→水熱交換器で水に放熱、というサイクルで湯を沸かす。CO2はフロンと異なりオゾン層を破壊せず、地球温暖化係数も小さい
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