IHコンロの上で鍋の中身が煮えたぎっている。ところが鍋を持ち上げた直後のトッププレートは、余熱を除けばそれほど熱くない。ヒーターらしきものはどこにも見当たらないのに、なぜ鍋だけがあれほど熱くなるのか。
似た疑問は電子レンジにもある。陶器の皿はほとんど温めず、中の食べ物だけを熱くする。しかも金属を入れると火花が飛ぶ。IHとは明らかに違う仕組みで、何を選んで温めているのか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、この2つの「不思議な加熱」を、それぞれ別の原理として説明できるようになっている。
すべての加熱方式の土台になるのが、電流による発熱の基本式、ジュールの法則だ。抵抗R〔Ω〕に電流I〔A〕をt秒間流すと発生する熱量は次の式で表される。
電力P=I2Rの時間積分として導けるので、暗記の前に「電力×時間=熱量」という単位の意味を押さえておくと式が崩れない。電力量と熱量の換算は、1Ws=1J、1kWh=3600kJという単位の定義から出せる。カロリー換算では1kWh≒860kcal(1cal=4.186J)になる。
この式を土台に、電気による加熱方式は原理の違いで5つに分かれる。
| 方式 | 原理 | 主な用途 |
|---|---|---|
| 抵抗加熱 | 電流のジュール熱で加熱。発熱体に電流を流す間接式と、被加熱物自体に電流を流す直接式がある | 電気ストーブ、電気炉、電気温水器、はんだごて |
| 誘導加熱 | コイルの交番磁界で導電性の被加熱物に渦電流を誘導し、被加熱物自体をジュール熱(+磁性体ならヒステリシス損)で発熱させる。導電体しか加熱できない | IH調理器、金属の溶解炉・焼入れ |
| 誘電加熱 | 高周波の電界中で絶縁物(誘電体)内部の分子が電界の反転に追従して振動・回転し、その摩擦(誘電損)で内部から発熱する。導電体ではなく絶縁物を加熱する | 高周波誘電加熱(木材乾燥・ビニル溶着)、マイクロ波加熱=電子レンジ(食品中の水分子) |
| アーク加熱 | 電極間のアーク放電(数千〜2万K)の高温を利用する。放電は負性抵抗特性のため電流制限(リアクトル等)が必要 | 製鋼用アーク炉、アーク溶接 |
| 赤外線加熱 | 赤外線ランプ・ヒータからの放射(ふく射)を被加熱物の表面に吸収させる。空気を介さず表面を直接加熱でき、風の影響を受けにくい | 塗装の乾燥・焼付け、印刷インキ乾燥、採暖 |
抵抗加熱には、電熱線そのものが赤くなって周囲に熱を伝える間接式(電気ストーブ、電気炉)と、被加熱物自体に電流を流して発熱させる直接式がある。どちらも発熱の位置は「電流が流れている場所」そのものだ。
誘導加熱は、電磁誘導という現象をそのまま利用する。コイルに交流電流を流すと周囲に交番磁界ができ、その磁界の中に置かれた導体には、磁束の変化を打ち消す向きに渦電流が誘導される(電磁誘導の法則)。この渦電流が流れる場所は導体自身の内部であり、渦電流によるジュール熱も導体自身の中で発生する。鉄のような磁性体では、磁区の向きが交流に合わせて反転を繰り返すヒステリシス損という発熱も加わる。鉄鍋がIHに向き、アルミや銅の鍋が苦手とされるのは、鉄は電気抵抗が比較的高く磁性体でもあるため、同じ磁界でも発熱しやすいからだ。抵抗が低く非磁性のアルミ・銅では、同じ渦電流が流れても発熱量が小さくなる。
誘電加熱は、電流を流すのではなく電界の向きを高速で反転させることで発熱させる。水のように分子内で電荷の偏り(双極子)を持つ物質は、電界が反転するたびにその向きに合わせて振動・回転しようとする。この振動が分子同士の摩擦を生み、物質内部から熱になる。電子レンジが使う2.45GHzという周波数は、水分子がちょうど追従して振動できる帯域として選ばれている。この周波数がもし低すぎれば分子の振動が間に合わず加熱効率が落ち、逆に高すぎれば電波が物質の奥まで届かず表面だけの加熱になってしまう。金属を庫内に入れると、電界が金属の表面(特に角や縁)に集中して放電(スパーク)が起きる。これは、誘電加熱が「絶縁物の中の電界」を利用する方式であるのに対し、金属という導体を電界の中に置くと電荷が表面に集まってしまうために起こる、原理の裏返しの現象だ。
水を加熱する場合の熱量は、質量m〔kg〕の水を温度差ΔT〔K〕だけ上げるのに必要な熱量として次のように表せる。
水の比熱cはおよそ4.19kJ/(kg・K)という実測値だ。ここに熱効率η(投入した電力量のうち実際に水の温度上昇に使われた割合)を組み込むと、加熱時間tは次の式に変形できる。
電気温水器や電気ケトルの加熱時間を求める問題は、この1本の式で解ける。
家電の「見えない発熱源」を、原理から見分けられるようになる
この5方式が頭に入ると、家庭にある加熱器具を見たとき、どこが発熱しているのかを見分けられるようになる。今日試せることとして、自宅にある加熱器具(IHコンロ、電子レンジ、電気ストーブ、はんだごてなど)を思い浮かべ、それぞれがこの5方式のどれに当たるかを分類してみるといい。ヒーター線が赤くなっているものは抵抗加熱、鍋自体が熱くなるものは誘導加熱、というように見た目の違いがそのまま原理の違いに対応している。
加熱方式がこれほど細かく分かれているのは、対象物の性質(導体か絶縁物か、内部から均一に熱したいか表面だけでよいか)によって最適な方式がまったく違うからだ。ビル・工場では、金属の熱処理から食品・木材の乾燥まで多様な加熱設備が使われる。第一種電気工事士がこうした設備の電気工事に関わるとき、この原理の違いは単なる知識ではなく、設備の電源容量や安全対策を考える出発点になる。
冒頭のIHコンロと電子レンジ、それぞれ何を、どうやって加熱していたのか。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。