机の上のスタンド照明を、腕を伸ばして高さだけ2倍の位置まで上げてみる。手元は「半分くらい」暗くなると予想するかもしれないが、実際に測るとそれよりずっと暗くなっている。吹き抜けの天井に照明を付けたときに床が妙に暗いのも、同じ現象だ。
光の量そのものは変えていないのに、なぜ距離を2倍にしただけで、思った以上に暗くなるのか。見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、この「思った以上」の正体を自分の手で計算できるようになっている。
光源から出た光束は、四方八方に球状に広がっていく。光度I〔cd〕の点光源を中心に、半径rの球面を思い浮かべると、光束はこの球の表面積4πr2に一様に分布することになる。照度E=(その面積あたりの光束)なので、次の式が成り立つ。
なぜ2乗になるのか、手順を追って導いてみる。光度I〔cd〕の点光源は、ある方向に向けて一定の立体角ωの中に光を送り出している。立体角そのものは光源からの距離が変わっても変化しない——同じ「見込む角度」だからだ。ところが、その立体角が距離rの位置で切り取る面積は、半径rの球の表面積の一部にあたり、球の表面積は4πr2に比例して大きくなる。つまり同じ立体角(同じ光束)が、距離が伸びるほど広い面積に配られることになる。距離が2倍になれば、その立体角が切り取る面積は2×2=4倍に広がる。同じ量の光を4倍の面積で分け合うのだから、単位面積あたりの量(照度)は1/4になる——これが逆2乗の法則の正体で、公式そのものを丸暗記する必要はない。
距離が3倍なら面積は9倍に広がるので、照度は1/9になる。
この法則を軽く見ると、実際の照明設計で失敗する。よくあるのが、器具のすぐ近くで測った明るさの印象をそのまま部屋全体の設計に持ち込んでしまうケースだ。展示会場のショールームで器具を1m先から見て「十分明るい」と判断しても、実際の設置高さ(天井付近、光源からの距離が数m)まで離れると、距離の2乗で照度が落ちるため、想像以上に暗くなる。逆に、必要照度を確保しようと器具を近づけすぎると、直下だけが極端に明るく周辺との差(グレア、まぶしさのムラ)が出やすくなる。距離を「1.5倍にしただけ」のつもりでも、照度は1/2.25まで落ちるという感覚を持っておかないと、この手の見積もり違いに気づけない。
もう1つ、光が斜めに当たる場合の法則がある。真夏の昼の直射日光は肌が痛いほど強いのに、同じ太陽でも夕方の日差しは弱く感じる。太陽との距離はほとんど変わっていないのに、なぜ強さが変わるのか——答えは「入射角」だ。光が面の法線(面に垂直な仮想の線)に対して角度θで斜めに入射するときは、次の式になる。
これも図を思い浮かべれば導ける。光が正面(θ=0)から当たるときは、光束がそのまま面の断面積に収まる。ところが角度θで斜めに入射すると、同じ太さの光束が、正面のときより1/cosθ倍広い面積に引き伸ばされて当たる。面積が1/cosθ倍に広がった分だけ、単位面積あたりの照度はcosθ倍に薄まる、というのがこの式の中身だ。太陽が真上にあるときは面積があまり引き伸ばされないので強く感じ、夕方で太陽が傾くと同じ光束が広い地表に薄く広がるので弱く感じる。
この式は、水平な作業面(机の上・床)の照度を求めるときにそのまま使う。一方、壁のような鉛直面の照度を求めるときは、角度の取り方が90度ずれるためsinθを使う。水平面照度はE cosθ、鉛直面照度はE sinθ、と覚えておくと、机と壁のどちらの照度を聞かれているかで式を選び間違えない。この使い分けを誤ると、たとえば階段の踏み面(水平に近い面)と、壁面のサイン照明(鉛直面)を同じ式で計算してしまい、避難時の視認性を左右する照度基準を満たせないまま設計を通してしまう、という失敗につながる。
光の法則の裏にある「熱」 ― 断熱材の天井とS形ダウンライト
ここまで光の広がり方だけを見てきたが、光源は光と同時に必ず熱を出している。天井に埋め込むダウンライトの場合、この熱の逃げ場が問題になる。省エネのために天井裏へ断熱材を吹き込んだり敷き詰めたりした住宅では、埋め込まれた器具が断熱材にすっぽり覆われ、熱がこもり続ける。こうした断熱材使用の建築物で器具に起因する火災を防ぐため、一般社団法人日本照明工業会は、工業会規格JIL5002に基づき、断熱施工天井に取り付けても安全なことを型式評定で確かめたS形埋込み形照明器具の制度を設けている。評定に合格した器具にはSマークが表示される。
S形の中は、対応できる断熱施工の工法によってさらに分かれている。
- SB形 — ブローイング工法(細かい断熱材を天井裏へ吹き込む工法)で断熱施工する天井に使用できる。吹き込まれた断熱材は器具のわずかな隙間からも入り込もうとするため、SB形には断熱材の侵入を防ぐ構造が求められている
- SGI形 — マット敷工法(ロール状・パッド状の断熱材を敷き詰める工法)で断熱施工する天井に使用できる
- SG形 — 同じく断熱施工天井用の区分だが、対応できる工法に加えて「施工できない地域区分・住宅の種類」が定められており、取扱説明書でその可否を確認してから使う必要がある
そして、この表示のない一般形の器具は、断熱材をかぶせて埋め込んではならない。使う場合は、断熱材と器具を離隔して施工することが求められる。照度の計算がどれだけ正確でも、器具の選定でこの区分を読み違えれば、明るさの前に安全が崩れる。天井裏の見えない断熱材と、器具に貼られた小さな表示の対応関係——ここにも、逆2乗の法則と余弦の法則で見てきた「条件を確認してから式(器具)を選ぶ」のと同じ規律が生きている。
「暗い」を、器具の性能でなく距離と角度で説明できるようになる
照明が「暗い」と感じたとき、多くの人は器具や電球そのものを疑う。しかし実際には、同じ器具でも設置高さや角度を変えるだけで、体感の明るさは大きく変わる。今日試せることとして、部屋の照明の下で、体の位置を近づけたり離れたりしながら手元の明るさの変化を観察してみるといい。距離を半分にすると劇的に明るくなることが、体感でも分かるはずだ。
この2つの法則が幾何学だけで導けることには理由がある。照明設計では光源の種類・配光・設置条件の組み合わせが無数にあるため、暗記に頼っていては対応しきれない。距離と角度という2つの変数から照度を組み立てられれば、どんな配置の照明計画にも応用が利く。次のトピックで扱う光束法による平均照度計算も、この照度Eの考え方の延長線上にある。
冒頭のスタンド照明、高さを2倍にした机の上は実際どれくらい暗くなったのか。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。