連休中のオフィスビル。テナントは全部休みで、主開閉器の電流計はほぼゼロを指している。ところが屋上のキュービクルの電力量計は、誰も電気を使っていないのに、ゆっくりと回り続けている。
この電気は、いったい何に食われているのか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、この「連休中も回り続ける電力量計」の正体を、変圧器の損失の性質として説明できるようになっている。
二種電気工事士には、変圧器の効率計算という項目そのものが存在しない。一種で新しく学ぶのが、変圧器の効率と、1日を通した「全日効率」だ。
変圧器の2種類の損失
変圧器の効率は、次の式で表される。
η = 出力P ÷ (出力P + 鉄損Pi + 銅損Pc) × 100
ここに登場する2つの損失は、性質がまったく違う。
- 鉄損Pi(無負荷損): 鉄心を磁束が通過することで生じる損失(ヒステリシス損・うず電流損)。負荷の有無にかかわらず、電源が入っている限りほぼ一定の値で発生し続ける
- 銅損Pc(負荷損): 巻線の抵抗で生じる損失。負荷率α(定格に対する割合)の2乗に比例する(α²Pc)
負荷がゼロのとき、銅損はゼロになるが、鉄損はゼロにならない。冒頭の電力量計が休業日にも回り続けているのは、この鉄損が理由だ。
鉄損の大きさを決めているのは、負荷ではなく「電圧」
「負荷にかかわらず一定」と聞くと、鉄損は生まれつき固定された値のように思えるが、そうではない。鉄損にも大きさを決める要因がちゃんとある。それは印加電圧(と周波数)だ。
理由は鉄損の発生源をたどると見えてくる。鉄損は、鉄心の中を磁束が行き来することで生じる損失で、中身はヒステリシス損(磁化の向きを反転させ続けることによる損失)と渦電流損(磁束の変化が鉄心の中に誘導する電流による損失)の2つだ。どちらも「鉄心の磁束がどれだけ大きく振れるか」で決まる。そしてその磁束の振れ幅を決めているのが、巻線に加わっている電圧だ。変圧器は電源につながっている限り、負荷があってもなくても、印加電圧に見合った磁束を鉄心の中で振らせ続けている——だから鉄損は無負荷でも満額で発生し続ける。
この因果関係を式の形で言うと、周波数が一定なら、鉄損は1次電圧の2乗にほぼ比例する。負荷率を横軸にしたグラフでは水平な直線になる鉄損も、電圧を横軸に取り直せば2乗で立ち上がる曲線になる、ということだ。試験では「負荷電流が増えると鉄損はどうなるか」(変わらない)と「印加電圧が高くなると鉄損はどうなるか」(増える)の両方が問われうる。負荷が動かすのは銅損、電圧が動かすのは鉄損——この対応を1本の軸として持っておくと、どちらの聞かれ方にも揺れずに答えられる。
最大効率は「フル稼働」のときではない
効率の式η=P/(P+Pi+α²Pc)を負荷率αで見ていくと、興味深いことが分かる。鉄損と銅損が等しくなる(Pi=α²Pc)ときに、効率が最大になる。
この2本の線の形を言葉にしておくと、グラフの選択肢問題で迷わなくなる。鉄損は出力(負荷率)によらず一定なので、横軸に平行な水平の直線になる。銅損は出力の2乗に比例するので、原点から始まり、軽負荷のうちは緩やかに、負荷が増えるほど急に立ち上がる曲線(下に凸の放物線)になる。試験では「鉄損と銅損の変化を表すグラフはどれか」という形で、この2本の線の組み合わせを選ばせる問題が実際に出る。水平線になっているほうが鉄損、原点から急に立ち上がる曲線になっているほうが銅損――線の形だけで機械的に見分けられる。
たとえば鉄損1kW、定格負荷時の銅損4kWの変圧器なら、Pi=α²Pcより1=α²×4、α²=0.25、α=0.5。つまり定格の半分の負荷で運転しているときに、この変圧器はもっとも効率よく動いている。「フル稼働がいちばん効率的」という直感は、鉄損という一定量の損失の存在を見落としている。
本当にα=0.5が最大かどうか、負荷率をずらして効率を実際に計算し、確かめてみる。定格出力を100kWとすると、α=0.5のとき出力50kW・銅損=0.5²×4=1kW(鉄損1kWと一致)で、η=50÷(50+1+1)×100≒96.15%。ここでα=0.4に下げてみると、出力40kW・銅損=0.4²×4=0.64kWで、η=40÷(40+1+0.64)×100≒96.06%。逆にα=0.6に上げると、出力60kW・銅損=0.6²×4=1.44kWで、η=60÷(60+1+1.44)×100≒96.09%。α=0.5のときの96.15%が、0.4のときも0.6のときよりも高いことが、実際の数値で確認できる。鉄損と銅損が釣り合う点の前後で効率がわずかに下がっていく、という山型の形が、この3点の比較だけでも見えてくる。
全日効率 ― 24時間分の鉄損を織り込む
瞬間の効率だけでは、変圧器の運用コストの全体像は見えない。1日を通した指標が全日効率だ。
ηd = 1日の出力電力量 ÷ (出力電力量 + 24×鉄損 + 1日分の銅損の合計) × 100
たとえば1日24時間のうち20時間を負荷率0.2(出力20kW)、残り4時間を負荷率1(出力100kW)で運転する変圧器を考える。出力電力量は20時間×20kW+4時間×100kW=400+400=800kWh。鉄損は24時間分(1kW×24h=24kWh)、銅損は軽負荷時20時間×(0.2²×4kW)=3.2kWh、フル負荷時4時間×4kW=16kWhで合計19.2kWh。全日効率ηd=800÷(800+24+19.2)×100≒94.9%。鉄損24kWhが銅損19.2kWhを上回っており、軽負荷の時間が長いほど鉄損の負担が効いてくることが分かる。
比較のため、もしこの変圧器が24時間ずっと定格負荷(出力100kW)で運転され続けたとする。出力電力量は100kW×24h=2400kWh、鉄損は同じく24kWh、銅損は24時間×4kW=96kWh。全日効率ηd=2400÷(2400+24+96)×100≒95.2%。軽負荷の時間が長い最初のケース(94.9%)より、フル負荷を保ち続けたケース(95.2%)のほうが全日効率はわずかに高い。同じ変圧器でも、どんな負荷パターンで使われるかによって全日効率の値そのものが変わる――だからこそ、変圧器を選ぶときはカタログの定格効率だけでなく、実際にどんな負荷パターンで使うかを考え合わせる必要がある。
「連休中の電力量計」は、変圧器の設計思想を映す鏡
今日試せることとして、自分の職場やよく行く商業施設が長期休業に入る前後で、もし電力量計の値を知る機会があれば、休業中もわずかに数字が動いているかどうかを想像してみるといい。それは電力会社の見落としでも計器の誤作動でもなく、変圧器という機器の物理的な性質だ。
変圧器の容量選定は、需要率・不等率で求めた合成最大需要電力だけでなく、実際の稼働パターン(軽負荷の時間がどれだけ長いか)まで考慮すると、より合理的になる。過大な容量の変圧器を選ぶと、常に軽負荷運転になり鉄損の負担ばかりが増えてしまう――このバランス感覚も、全日効率の計算から見えてくる。
冒頭の連休中の電力量計、その正体は答え合わせとして理解度チェックの最後の問題でも触れる。