同じ規模で同じように機械を動かしている、隣どうしの2つの工場がある。ところが毎月の電気料金の基本料金が、片方だけ1割以上安い。使っている電力量(kWh)はほぼ同じなのに、だ。安い方の工場のキュービクルをのぞくと、灰色の箱がいくつか余分に載っている。
あの箱は、いったい何を「節約」しているのか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、この差額を生んでいる数字を、自分で計算して出せるようになっている。
二種電気工事士の基礎理論では、進相コンデンサについて「並列に付けると電流が減る」という定性的な理解までを学んだ。一種では、目標の力率まで改善するのに具体的に何kvarのコンデンサが必要かを計算する。
電力三角形 ― 力率とは何の比率か
有効電力P(実際に仕事をする電力)、無効電力Q(コイル・コンデンサとの間を行き来するだけの電力)、皮相電力S(見かけ上の電力)の3つは、直角三角形の関係にある。
tanθ = Q / P
力率cosθが悪いというのは、この三角形が横に潰れて、無効電力Qが有効電力Pに対して大きくなっている状態だ。
必要なコンデンサ容量 Qc=P(tanθ1−tanθ2)
改善前の力率をcosθ1、目標とする改善後の力率をcosθ2とすると、必要なコンデンサ容量Qcは次の式になる。
Qc = P(tanθ1 − tanθ2)
たとえば有効電力P=100kW、力率を0.6から0.95まで改善したいとする。まずtanθを求める。cosθ1=0.6のときsinθ1=√(1−0.6²)=0.8、tanθ1=0.8/0.6≒1.333。cosθ2=0.95のときsinθ2=√(1−0.95²)≒0.312、tanθ2=0.312/0.95≒0.329。
Qc = 100 × (1.333 − 0.329) ≒ 100.5kvar
この結果を、Q1とQ2をそれぞれ別々に求めてから引き算する形でも検算できる。改善前の無効電力Q1=P×tanθ1=100×1.333≒133.3kvar。改善後に許容する無効電力Q2=P×tanθ2=100×0.329≒32.9kvar。Qc=Q1−Q2=133.3−32.9≒100.4kvar――先ほどの計算とほぼ同じ値になる(端数の丸め方で若干の差が出るだけ)。Qc=P(tanθ1−tanθ2)という1本の式は、実質的にはこの「改善前の無効電力から改善後の無効電力を引く」という単純な引き算を、Pでくくって1つの式にまとめたものにすぎない。
ここでもし、tanθへの変換を省略して、cosθの差をそのままコンデンサ容量だと勘違いしてしまうとどうなるか。Qc≒100×(0.95−0.6)=35kvarという、実際(約100.5kvar)の3分の1程度の値が出てしまう。この容量のコンデンサを実際に設置しても、目標の力率0.95にはまったく届かない。cosθの差とtanθの差は同じ量ではない、という区別を最初につけておく必要がある。
皮相電力は足し算できない ― PとQに分けてから合成する
電力三角形の理解を試す問題が、もう1つある。負荷が2つあるときの合成皮相電力だ。
たとえば、力率1で60kWの電熱負荷(皮相電力60kVA)と、力率0.6で有効電力60kWの電動機負荷(皮相電力100kVA)を、同じ変圧器から供給するとする。変圧器に必要な容量は60+100=160kVA――と答えたくなるが、これが定番のワナだ。皮相電力S同士は、単純に足せない。
理由は電力三角形そのものにある。Sは、有効電力Pと無効電力Qを2辺とする直角三角形の斜辺、つまり向きを持ったベクトルの大きさだ。力率1の負荷の三角形は横に寝ていて(θ=0)、力率0.6の負荷の三角形は大きく起き上がっている。向きの違う斜辺同士は、長さだけを足しても合成した斜辺の長さにならない。足してよいのは、同じ向きの成分同士――つまりP同士とQ同士だけだ。
手順はこうなる。
- 各負荷をPとQに分解する。電熱負荷はP=60kW、Q=0。電動機負荷はP=60kW、cosθ=0.6よりsinθ=0.8だから、S=60/0.6=100kVA、Q=100×0.8=80kvar。
- 同じ向きの成分同士を足す。P=60+60=120kW、Q=0+80=80kvar。
- 最後に1回だけ斜辺を求める。S=√(P²+Q²)=√(120²+80²)=√(14400+6400)=√20800≒144kVA。
kVAの単純合計160kVAより、およそ16kVAも小さい。力率の違う負荷を合成すると、皮相電力は「見かけの合計」より必ず小さくなる(等しくなるのは全負荷の力率が同じときだけ)。試験の選択肢には、この160kVAにあたる「足し算の答え」が必ず混ぜてある。合成皮相電力と来たら、分解→成分ごとに加算→最後に√、という3ステップを機械的に踏めば引っかからない。
なお、この「同じ向きの成分だけが足せる」という見方は、力率改善の式そのものにもつながっている。Qc=P(tanθ1−tanθ2)がQ同士の引き算として成り立つのも、無効電力が皮相電力と違って向きのそろった成分だからだ。
力率改善の効果 ― 電流と損失がどれだけ減るか
力率を改善すると、同じ有効電力を送るのに必要な線路電流は減る。
I = P / (√3・V・cosθ)
cosθが0.6から0.95に上がると、電流は0.6/0.95≒0.63倍に減る。さらに電力損失はこの電流の2乗に比例するため、(0.6/0.95)²≒0.4倍、つまり約60%も損失が減る計算になる。
具体的な数字で確認すると、線間電圧6.6kV・力率0.6のときの線路電流はI=100,000÷(√3×6,600×0.6)≒14.6A。力率を0.95まで改善すると、I=100,000÷(√3×6,600×0.95)≒9.2A。電流はおよそ0.63倍(14.6A→9.2A)に減り、電線1条あたりの電力損失I²Rで比べると(9.2/14.6)²≒0.40倍、つまり損失は約6割も小さくなる。基本料金の割引だけでなく、電線の発熱や電力損失そのものも小さくなる――これが力率改善の実質的な効果だ。
直列リアクトルを挟むと、無効電力は減るのか増えるのか
ここまでの計算は、コンデンサ単体の話だった。しかし実際の高圧進相コンデンサ(SC)は、単体では設置しない。直列リアクトル(SR)を直列に挟んで使うのが原則だ。理由は2つある。コンデンサを回路に投入した瞬間の大きな突入電流を抑えること、そして回路に含まれる第5調波などの高調波に対して合成回路を誘導性に保ち、高調波の拡大を防ぐことだ。標準のリアクトル容量はコンデンサリアクタンスの6%で、この使い分けと規格上の根拠は機器・受電設備の科目の進相コンデンサ・直列リアクトルのトピックで扱っている。
ここで計算上の疑問が生まれる。リアクトルのリアクタンスXLは、コンデンサのXCと符号が逆だ。逆向きの部品を直列に足すのだから、力率改善の能力――つまりコンデンサ設備が出す無効電力は、その分だけ目減りしそうに見える。本当にそうか。
1相分の回路で確かめる。合成リアクタンスは差になり、XC>XLであれば全体は容量性のままだ。
X = XC − XL
相電圧をVpとすると、流れる電流は I=Vp/(XC−XL)、1相分の無効電力は Vp・I=Vp²/(XC−XL)。三相合計はその3倍で、線間電圧V=√3・Vpを使って書き直すと3Vp²=V²だから、
Q = V² / (XC − XL)
線間電圧の2乗を合成リアクタンスで割るだけ、という形に落ち着く。さて、リアクトルを挟むと分母のXC−XLはXC単独より小さくなる。分母が小さくなるのだから、同じ端子電圧に対する無効電力は――減るのではなく、増える。6%リアクトル(XL=0.06XC)なら、
Q = V² / (0.94XC) = (1/0.94) × V²/XC ≒ 1.064 × V²/XC
つまりコンデンサ単体のときより約6.4%大きい無効電力が出る。直感と逆の結果になる理由は電流を追えば分かる。合成リアクタンスが小さくなった分、同じ電圧でも流れる電流が増え、無効電力Q=VIも増えるのだ。同じ理屈で、コンデンサ自体の端子電圧も電源電圧より上昇する(VC=V×XC/(XC−XL)で、6%なら約1.064倍)。リアクトルは無効電力を削る部品ではなく、突入電流と高調波への備えとして挟まれており、その代償としてコンデンサには電源電圧より高い電圧がかかる――ここまでを1つの式Q=V²/(XC−XL)から読み取れれば、この論点は完成だ。
目標力率が1なら、必要な容量は無効電力そのもの
コンデンサの必要容量は Qc = P(tanθ₁ − tanθ₂) で求める。ここで目標力率が 1(100%)に指定された場合、tanθ₂ = 0 になるので式が縮む。
Qc = P tanθ₁ = Q₁
つまり改善前の無効電力Qをそのまま打ち消す容量が必要になる。負荷が2つ以上あるなら、 先にP同士・Q同士を合成し、合成後のQがそのまま答えだ。
抵抗とリアクタンスが並列なら、電圧が共通になる
電力三角形は「複数の負荷を合成するとき」だけの道具ではない。1つの回路の中で 抵抗とリアクタンスが並列につながっている場合も、まったく同じ形で皮相電力を出せる。
並列回路の要は、どちらの素子にも同じ電圧 V がかかることだ。だから電流を求めなくても、 電圧と各素子の値だけで有効電力・無効電力が直接出る。
- 有効電力 P = V² / R
- 無効電力 Q = V² / X
- 皮相電力 S = √(P² + Q²)
- 直列 … 電流が共通。まず Z = √(R²+X²) を合成して I = V/Z を出し、P = I²R、Q = I²X
- 並列 … 電圧が共通。合成の手間なしに P = V²/R、Q = V²/X
並列回路でインピーダンスを合成しようとすると、1/Z = √((1/R)²+(1/X)²) という面倒な計算に 入り込む。並列を見たら電圧共通、と切り替えるだけで、この回り道を避けられる。
並列回路の力率は、電流で考える
力率の式 は、直列回路のものだ。抵抗とリアクタンスが並列につながれた回路にこれを当てはめると、答えが合わない。並列では、そもそもとを足してを作る手順自体が使えないからだ。
並列回路では、電圧が共通で電流が分かれる。だから電流で考える。
- 抵抗を流れる電流 — 電圧と同相
- リアクタンスを流れる電流 — 電圧と90度ずれる
この2つは向きが直角にずれているので、全電流はやはり直角三角形の斜辺になる。
直列のときの と、形がよく似ている。直列は電流が共通だから電圧(=抵抗)の比、並列は電圧が共通だから電流の比——共通しているほうを分母の材料にする、と覚えておくと取り違えない。
電力も電流から出る。単相回路なら、皮相電力は 、有効電力は 。電力を消費するのは抵抗だけなので、リアクタンス側の電流はには効かない。(三相の とは係数が違うので、単相か三相かを先に確認する。)
実務でこの形が現れるのは、まさに力率改善の場面だ。負荷と並列に進相コンデンサを入れると、コンデンサに流れる進み電流が、負荷の遅れ電流の一部を打ち消す。(有効分)はそのままで、(無効分)だけが減る——だから全電流が小さくなり、 が1に近づく。式の形が、そのまま改善の仕組みを見せてくれる。
灰色の箱の中身を、式で言い当てる
今日試せることとして、工場やビルのキュービクルの銘板・仕様書を見る機会があれば、進相コンデンサの容量(kvar)が表示されていないか探してみるといい。その数字がQc=P(tanθ1−tanθ2)から逆算して決められたものだと分かると、ただの「灰色の箱」が、力率という数字を改善するための具体的な設計物として見えてくる。
高圧受電の基本料金は、多くの電力会社で力率に応じた割引・割増の仕組みを持っている。同じ規模の工場で電気料金に差がつくとき、その理由の1つが、この灰色の箱の有無と容量だ。
冒頭の1割の料金差、その正体は答え合わせとして理解度チェックの最後の問題でも触れる。