新しくできた工場団地を歩くと、気づくことがある――電柱が1本もない。それなのに、各工場のキュービクルには高圧の電気が届いている。電線はいったいどこを通っているのか。
そして工場の敷地内で駐車場の舗装をやり直すことになった。図面には「掘削注意 埋設深さ1.2m」とある。花壇の脇の同じような表示を見ると、そちらは「0.6m」だ。同じケーブルのはずなのに、なぜ深さが2倍も違うのか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、この2つの謎を、同じ条文の中身として説明できるようになっている。これが基礎理論・配電理論の締めくくりだ。
二種電気工事士の引込線は、低圧・架空(電柱から空中を通す)の範囲までを扱っていた。一種の免状範囲は自家用電気工作物(最大電力500kW未満の需要設備)にまで広がるため、構内の高圧の電線路――架空だけでなく地中も対象に入ってくる。
高圧架空引込線 ― 電柱と同じ役割を果たす電線
高圧の電気を電柱から需要家の建物まで引き込む線は、電技解釈第117条で定められている。使える電線は、直径5mm以上の硬銅線の高圧絶縁電線等・引下げ用高圧絶縁電線・ケーブルに限られる。低圧の引込線と比べて電線そのものの太さ・絶縁の水準が引き上げられているのは、扱う電圧が高圧(6.6kV)になり、万一の接触時の危険度が低圧よりずっと大きいためだ。高さは原則として一定以上を確保するが、条件を満たせば地表上3.5m以上まで緩和できる(ケーブル以外は下方に危険表示が必要)。この緩和が認められるのも、道路の真上のように誰もが日常的に行き交う場所ではなく、車両の往来が想定しにくい限定的な場所であることが前提になっている。
電柱を使わない道 ― 地中電線路
工場団地のように電柱が見当たらない場所でも、高圧の電気は届く。それを可能にするのが地中電線路だ。電技解釈第120条は、施設方式を次の3つに限定している。
- 管路式: あらかじめ埋めた管の中にケーブルを通す。後からケーブルを引き替えやすい反面、管を埋める初期コストがかかる
- 暗きょ式: 人が入れる大きさの構造物(共同溝など)の中にケーブルを通す。点検・増設がしやすいが、構造物自体の建設コストが大きい
- 直接埋設式: 土の中に直接ケーブルを埋める。3方式の中でもっとも簡易に施工できる反面、後からの引き替えは土を掘り返す必要があり、埋設する場所の条件(重量物の圧力の有無)によって深さが変わる
3つの方式は、初期コストと後からの維持・増設のしやすさのどちらを優先するかという、トレードオフの関係にある。工場団地のように広い敷地に多くの需要家がまとまっている場所では、直接埋設式が選ばれることが多い。
さらに高圧地中電線路には、物件名称・管理者名・電圧をおおむね2m間隔で表示する義務がある。これは、後から掘削工事をする人が、地中に高圧の電気が通っていることに気づかず事故を起こさないための表示だ。表示の目的が「後から掘る人への警告」だと分かれば、なぜ2m間隔という短い間隔で繰り返し表示するのか(工事で一部を掘り返しても、前後のどこかに必ず表示が残るようにするため)も、単なる数字としてではなく理由つきで理解できる。
ここは「一部を省略できる」と「そもそも表示が要らない」が別々に置かれている条文なので、混ぜないこと。15m以下は一部省略ではなく、全部免除だ。
見えない電線路まで含めて、初めて「自家用」の範囲になる
一種電気工事士の免状範囲は、キュービクルの中身だけでなく、電柱から建物までの引込みや、構内の地中電線路の設計・維持にまで及ぶ。今日試せることとして、工事現場や工場の敷地内で「埋設深さ注意」「地中電線路」といった表示看板を見かけたら、その深さが車両の有無で変わっていないかを確かめてみるといい。
基礎理論の静電気・磁気から始まり、三相回路の等価回路変換、%インピーダンス法、配電理論の電圧降下・需要率・変圧器効率・力率改善を経て、最後にこの構内電線路にたどり着いた。これで、電柱の高いところの3本の電線から、地面の下1.2mのケーブルまで、一種電気工事士が扱う電気の道のりを一通り見てきたことになる。二種電気工事士の引込線トピックが低圧・架空の範囲で止まっていたのに対し、一種はここまで、電圧(高圧)・施設場所(構内)・施設方法(地中)のすべての方向で範囲が広がっている、ということが最後にあらためて見えてくる。
冒頭の「電柱の無い工場団地」と「深さの違う2つの表示」、その両方の答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。