火力発電は、燃料を燃やして水を沸かし、蒸気でタービンを回す。つまり発電所の心臓部は「蒸気をつくるボイラ」だ。では、もし地面に井戸を掘るだけで、高温高圧の蒸気がそのまま噴き上がってくる場所があったら——ボイラも燃料もいらない発電所ができることになる。
日本には実際、その条件がそろった場所がいくつもある。温泉地の湯けむりが、その気配だ。ところが、この「世界有数」とされる地下の恵みを持ちながら、日本の地熱発電はなかなか増えていない。
資源はあるのに、なぜ使えないのか。見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、地熱発電の2つの方式と、この「増えない理由」を説明できるようになっている。
地熱発電は、火山地帯の地下深くにある地熱貯留層から、マグマの熱で温められた高温高圧の蒸気・熱水を取り出してタービンを回す発電方式だ。蒸気・熱水を汲み上げる井戸を生産井、使い終えた蒸気・熱水を地下へ戻す井戸を還元井と呼ぶ。地下から借りた熱水を地下へ返す——この循環があるから、資源を汲み尽くさずに長期間発電を続けられる。
フラッシュとバイナリー — 何を沸かしてタービンを回すか
発電方式は、地熱資源の温度と状態で使い分けられる。
フラッシュ方式は、高温の蒸気・熱水が豊富に得られる資源向けだ。生産井から噴き上がる蒸気・熱水を気水分離器で分け、蒸気をそのままタービンへ送る。分離した熱水をさらに減圧気化器で減圧すると、圧力が下がったぶん熱水の一部が沸騰して二次蒸気が得られる。この二次蒸気もタービンに送って使うのがダブルフラッシュ方式で、同じ資源からより多くの電気を取り出せる。
バイナリー方式は、蒸気が少なく、比較的温度の低い熱水が主体の資源向けだ。水のままでは十分な蒸気を得られないので、熱水の熱でペンタンなど水より沸点の低い媒体を沸かし、その媒体の蒸気でタービンを回す。地熱流体の系統と媒体の系統、2つの系統(binary)を持つのでこの名前がある。温泉の熱を利用した小規模な発電にも使われている。
それなのに、なぜ増えないのか
これだけの好条件がそろっていながら、日本の地熱発電の導入はゆっくりとしか進んでいない。理由は資源の少なさではなく、開発の難しさにある。
第一に、立地の重なり。日本の地熱資源の約8割は国立・国定公園の中にあるとされ、有望な場所の多くは温泉地とも重なる。景観の保護や、温泉への影響を心配する地元との丁寧な調整が欠かせない。第二に、探査リスク。地熱貯留層は地下1,000〜3,000mにあり、調査を重ねて掘削しても、商業的に十分な貯留層に当たらないことがある。井戸を1本掘るだけでも大きな費用がかかるため、この「掘ってみないと分からない」性質が投資をためらわせる。第三に、時間。広域調査から掘削調査、環境アセスメント、建設までを積み上げると、運転開始まで10年以上かかることがある。
つまり地熱発電は、「燃料費のかからない安定電源」という大きな見返りと引き換えに、開発の入口に時間とリスクの壁がある電源だ。試験でこの分野が問われるときは、方式の仕組みと並んで、この「資源は豊富、開発は大変」という構図そのものが問われる。
今日試せることとして、温泉地を訪れる機会があれば、源泉の温度表示を見てみるといい。100℃に満たない熱水でも、沸点の低い媒体を沸かすには十分——バイナリー方式の発想が、その温度表示の中にある。
冒頭の謎、資源大国なのに地熱発電が増えない理由は。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。