通勤・通学路で、鉄塔からぶら下がる白い陶器のヒダヒダ(がいし)や、電柱の上に載っている灰色の入れ物を、数えきれないほど目にしているはずだ。だが、それぞれが電気の長い旅のどの段階の道具なのか、説明できる人は少ない。
発電所で作られた電気は、そのまま送られてくるわけではない。何段階も電圧を変えながら、姿を変えて届く。その全体の道のりが分かっていないと、これから見ていく発電・送電・変電・配電の各トピックが、バラバラの暗記項目にしか見えなくなる。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、電気が発電所を出てから家庭に届くまでの道のりを、電圧の変化とともに順を追って説明できるようになっている。
第一種電気工事士のこの科目は、電力会社が「電気をどう作り、どう届けているか」という上流の仕組みを扱う。まずは全体の地図を頭に入れてから、各区間を1つずつ拡大していく。
発電所で作られた電気は、まず特別高圧まで一気に電圧を上げてから送電線に乗る。理由は次のトピックで詳しく扱うが、ひとことで言えば「電圧を高くするほど、送電中に電線の熱として失う電力が急激に減る」からだ。
送電線を通ってきた電気は、変電所を経るごとに段階的に電圧を下げられていく。ある電力会社の公表例では、500kV/275kV級の超高圧変電所から始まり、154kV→77kV→33kV(配電用へ)→6.6kVという順に下げていくとされている。ただしこの途中段階の具体的な数値は電力会社や地域によって異なり、全国共通の規格ではない。全国で確実に共通しているのは、電気設備に関する技術基準を定める省令 第2条が定める、低圧(交流600V以下)・高圧(600V超7,000V以下)・特別高圧(7,000V超)という3つの区分だけだ。
配電用変電所で6.6kVまで下がった電気は、高圧配電線を通って街を巡り、最後は電柱の上の柱上変圧器で100V/200Vに落とされて家庭に届く。この「発電→送電→変電→配電」という4つの区間の名前と役割の違いは、後のトピックを読み解く土台になる。送電=高い電圧で長距離を運ぶ区間、配電=需要家近くまで電圧を下げて振り分ける区間、という線引きをまず押さえておきたい。
電柱の見慣れた景色が、旅程表に変わる
ここから先のトピックは、この全体地図の各区間を1つずつ拡大して見ていく。水力・火力・原子力・再エネという発電の方式の違い、送電線がなぜ高電圧を選ぶのかという理屈、架空送電線を支える鉄塔とがいしの構造、送電線の途中で起きる現象、変電所の役割、そして配電の方式——すべてがこの1枚の地図のどこかに位置づけられる。
今日試せることとして、通勤・通学路で見かける鉄塔や電柱を、ただの構造物ではなく「電圧を下げていく旅の1区間」として眺めてみるといい。鉄塔の高さや電線の太さ、がいしの連結枚数が、そこを流れている電圧のヒントになっている。
この全体像を知ることは、単なる暗記の準備ではない。電力会社が発電・送電・変電・配電という区間ごとに設備と責任を分けているのは、どこかで事故が起きたときに原因を素早く特定し、影響範囲を絞り込むためでもある。太陽光発電や蓄電池、EV充電設備を系統に接続する仕事も、結局はこの1本の電気の道のりのどこかに新しい設備をつなぎ込む作業であり、この全体地図を持っていることが、そうした仕事に足を踏み入れる出発点になる。
冒頭のがいしのヒダヒダ、その連結枚数から何が読み取れるのか。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。