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発電施設、送電施設及び変電施設の基礎的な構造及び特性 ・ 2 / 11

水力発電 — 落差と水車の使い分け、そして揚水という蓄電池

読み終えると、こうなる

山の上のダム湖が、晴れた昼に太陽光の電気が余ったときの『貯金箱』に見えてくる。

  • 落差の大小から、その発電所がどの水車を使っているかを絞り込める
  • 揚水発電の入力計算で、効率を掛けるか割るかを向きから判定できる
  • 晴れた昼に太陽光の電気が余ったとき、それがどこへ向かうかを言い当てられる
考えてみよう

よく晴れた昼、太陽光発電の電気が余ったら、その電気はどこへ行くのか。電気はそのまま大量には貯められないはずなのに。

水力発電というと「ダムの水を落として発電する」というイメージだけで止まっている人が多い。だが実は、水力発電の仲間には「電気を余らせて水を汲み上げる」という、発電とは逆方向の使い方をする設備がある。

見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、水車の使い分けの理屈と、余った電気の行き先を説明できるようになっている。

水力発電は、水が高いところから低いところへ落ちる位置エネルギーを、水車で機械エネルギーに変え、発電機で電気に変える仕組みだ。落差の大きさによって、使う水車の種類が変わる。

落差による水車の使い分け 高落差 → ペルトン水車(衝動水車) 中落差 → フランシス水車(反動水車) 中落差 → 斜流水車(デリア水車) 低落差 → カプラン水車(可動羽根) 落差が大きいほど上、小さいほど下(フランシス水車は反動水車の中でも適用範囲が最も広く、日本の水力の主力)

ペルトン水車は、ノズルから水を勢いよく噴出させてバケットに当てて回す衝動水車で、流量はニードル弁で調整する。フランシス水車は、ケーシング内の水の圧力エネルギーでランナを回す反動水車で、大容量機に多く日本の水力の主力になっている。吸出し管(ドラフトチューブ)によって、ランナと放水面の間の落差まで有効に使えるのも特徴だ。斜流(デリア)水車はフランシスとプロペラの中間的な特性を持ち、水がランナを斜めに通過する。カプラン水車(プロペラ水車の可動羽根形)は、羽根の角度を流量に応じて変えられるため、流量変動があっても効率を保ちやすく、低落差向きになる。落差の具体的な数値の境界は資料によって幅があるため、ここでは「高落差=ペルトン、中落差=フランシス、低落差=プロペラ(カプラン)」という序列で押さえておけば十分だ。

発電機の出力は P = 9.8QHη [kW] という式で表される。Qは流量(m³/s)、Hは有効落差(m、総落差から水路・水圧管の摩擦損失分を差し引いたもの)、ηは水車効率と発電機効率を掛けた総合効率だ。係数9.8は、水の位置エネルギーρgQH(水の密度ρ=1000kg/m³×重力加速度g=9.8m/s²)をkWに換算した物理的な定数で、統計値ではなく変わらない。

発電の式では効率ηを「掛けて」出力を求める。だから揚水発電のポンプの計算でも、同じように掛ければよいと思うかもしれない。だが向きは逆だ。揚水は電力を消費してポンプを回し、水を汲み上げる側の操作なので、損失の分だけ余計に電力が要る。**発電では効率で割り引かれ、揚水では効率で割り増しされる——同じ9.8QHという式が、掛けるか割るかで正反対の意味を持つ。** ポンプ用電動機の所要入力は P = 9.8QH/η [kW] になる。

揚水発電は、電力需要の少ない時間帯(従来は夜間が中心だったが、近年は太陽光の発電量が需要を上回る昼間の時間帯も対象になっている)に、余った電力でポンプを回し、下池から上池へ水を汲み上げる。そして需要がピークになる時間帯に、その水を落として発電する。多くの場合、1つの水車をポンプとしても発電機としても使えるポンプ水車が採用されている。

水がたどる道を、順番に並べられるようにする

水力発電所の設備を水の流れる順に並べさせる設問がある。落差や出力の計算はできても、設備の名前と順番が出てこないと答えられない。

取水口沈砂池導水路水槽(ヘッドタンク・サージタンク)水圧管路水車放水口取水口 \rightarrow 沈砂池 \rightarrow 導水路 \rightarrow 水槽(ヘッドタンク・サージタンク) \rightarrow 水圧管路 \rightarrow 水車 \rightarrow 放水口

  • 取水口 — 川やダムから水を取り入れる入口
  • 沈砂池 — 取り込んだ水に混じる砂を沈めて除く。砂は水車の羽根を削る
  • 導水路 — 発電所の近くまで、水をゆるやかに運ぶ水路。落差はほとんど取らない
  • 水槽(ヘッドタンク/サージタンク) — 水圧管路の手前で水位を安定させる。負荷が急に変わったときの圧力変動(水撃)を吸収する
  • 水圧管路 — ここで一気に落とす。落差を圧力に変える区間
  • 水車 — 水の勢いを回転に変える
  • 放水口 — 使い終わった水を川へ返す
順番の要は、**「運ぶ区間」と「落とす区間」が分かれている**ことだ。導水路はほぼ水平に運ぶだけで、落差を稼ぐのは水圧管路の一区間に集中させる。**発電に使えるのは落差だから、落差はできるだけまとめて取る**——だから長い距離を水平に運び、最後に一気に落とす形になる。

水槽が水圧管路の手前にあるのも理屈がある。水車の弁を急に閉じると、水圧管路の中の水が行き場を失って圧力が跳ね上がる(水撃)。その圧力を逃がす場所が、管路の入口に要る。

有効落差の話ともつながる。取水口と放水口の水面の高さの差が総落差で、そこから導水路・水圧管路での摩擦による損失を引いたものが有効落差だ。出力の式 P=9.8QHηP = 9.8QH\etaHH は有効落差のほうを使う。設備の並びが分かると、損失がどこで生まれているかも見えてくる。

ダム湖の水位が、電力システムの体温計になる

電気はそのままの形では大量に貯めておけない。だが揚水発電は、電気を「位置エネルギー」という別の形に変換することで、山の上のダム湖を巨大な蓄電池として使っている。太陽光や風力のように出力が変動する電源が増えるほど、この「余った電気を貯めて、必要なときに戻す」という調整力の役割は重みを増す。

今日試せることとして、ダムのそばを通る機会があれば、上池と下池という2段構えの水位を意識して眺めてみるといい。水位の変化そのものが、電力需要のピークと谷を映し出している。

この序列や式が標準化されているのは、地形に合わせて最も効率よく水のエネルギーを取り出すための積み重ねがあるからだ。そして、電気を大量に貯める手段が限られている以上、揚水発電の役割は再生可能エネルギーが増えるこれからの電力システムでむしろ重要になっていく。将来、太陽光や蓄電池の設備に関わる仕事をするときも、この「電気は貯めにくいものだ」という前提と、それをどう補っているかという発想は、そのまま土台になる。

冒頭の謎、余った太陽光の電気が向かう先は。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。

出題者のワナ — ここで受験者を転ばせにくる

この論点は、知っているだけでは足をすくわれる。試験でよく仕掛けられる崩し方を、先に知っておこう。

  1. 揚水発電の入力計算で、発電時と同じように効率を『掛けて』しまう

    なぜ引っかかる発電時の出力式(9.8QHη、効率を掛けて答えを小さくする)のイメージが強く、揚水の入力計算でも同じ操作をしたくなる

    見破り方『電力を生み出す発電→損失分を差し引く=掛ける』『電力を消費して汲み上げる揚水→損失分だけ余計に電力が要る=割る』と、向きを言葉にして確認する

  2. 落差と水車の対応を入れ替えて出題する

    なぜ引っかかるペルトン・フランシス・カプランという名前は覚えていても、高落差/低落差との対応を逆に暗記しやすい

    見破り方『高い所から少ない水を勢いよく当てる=衝動水車=ペルトン』『大量の水の圧力で回す=反動水車=フランシス・カプラン』という動作原理から対応を導く

  3. 揚水発電を『発電の逆再生』だと単純化させる

    なぜ引っかかる汲み上げと発電を対称的な操作だと思い込むと、効率で割る・掛けるの区別が抜け落ちる

    見破り方汲み上げは電力を消費する側、発電は電力を生み出す側という別の物理現象だと切り分けて考える

参考文献・出典

理解度チェック(5問)

このトピックの内容がどれくらい身についたか、5問で確認しよう。 内訳は基本3問・応用1問・ひっかけ1問。基本が解けたら、条件を足した応用と、本番で足をすくいにくるひっかけまで踏み込む。

/ 5 問正解

覚えておきたいポイント

  1. 水車は落差に応じて使い分ける。高落差=ペルトン水車(衝動水車)、中落差=フランシス水車(反動水車、適用範囲が最も広い)・斜流水車、低落差=カプラン水車(可動羽根のプロペラ水車)という序列で覚える
  2. 水力発電機の出力は P = 9.8QHη [kW](Q:流量m³/s、H:有効落差m、η:総合効率)。係数9.8は水の位置エネルギーρgQHをkW換算した物理定数
  3. 揚水発電のポンプ用電動機の所要入力は、発電時とは逆に効率で『割る』P = 9.8QH/η [kW]になる。発電は損失分を差し引き、揚水は損失分だけ余計に電力が要るという向きの違い
  4. 揚水発電は、電力需要の少ない時間帯の余剰電力で下池から上池へ水を汲み上げ、需要ピーク時に落として発電する。電気をそのまま大量には貯められないため、位置エネルギーの形で貯める調整力として位置づけられている
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