よく晴れた昼、太陽光発電の電気が余ったら、その電気はどこへ行くのか。電気はそのまま大量には貯められないはずなのに。
水力発電というと「ダムの水を落として発電する」というイメージだけで止まっている人が多い。だが実は、水力発電の仲間には「電気を余らせて水を汲み上げる」という、発電とは逆方向の使い方をする設備がある。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、水車の使い分けの理屈と、余った電気の行き先を説明できるようになっている。
水力発電は、水が高いところから低いところへ落ちる位置エネルギーを、水車で機械エネルギーに変え、発電機で電気に変える仕組みだ。落差の大きさによって、使う水車の種類が変わる。
ペルトン水車は、ノズルから水を勢いよく噴出させてバケットに当てて回す衝動水車で、流量はニードル弁で調整する。フランシス水車は、ケーシング内の水の圧力エネルギーでランナを回す反動水車で、大容量機に多く日本の水力の主力になっている。吸出し管(ドラフトチューブ)によって、ランナと放水面の間の落差まで有効に使えるのも特徴だ。斜流(デリア)水車はフランシスとプロペラの中間的な特性を持ち、水がランナを斜めに通過する。カプラン水車(プロペラ水車の可動羽根形)は、羽根の角度を流量に応じて変えられるため、流量変動があっても効率を保ちやすく、低落差向きになる。落差の具体的な数値の境界は資料によって幅があるため、ここでは「高落差=ペルトン、中落差=フランシス、低落差=プロペラ(カプラン)」という序列で押さえておけば十分だ。
発電機の出力は P = 9.8QHη [kW] という式で表される。Qは流量(m³/s)、Hは有効落差(m、総落差から水路・水圧管の摩擦損失分を差し引いたもの)、ηは水車効率と発電機効率を掛けた総合効率だ。係数9.8は、水の位置エネルギーρgQH(水の密度ρ=1000kg/m³×重力加速度g=9.8m/s²)をkWに換算した物理的な定数で、統計値ではなく変わらない。
揚水発電は、電力需要の少ない時間帯(従来は夜間が中心だったが、近年は太陽光の発電量が需要を上回る昼間の時間帯も対象になっている)に、余った電力でポンプを回し、下池から上池へ水を汲み上げる。そして需要がピークになる時間帯に、その水を落として発電する。多くの場合、1つの水車をポンプとしても発電機としても使えるポンプ水車が採用されている。
水がたどる道を、順番に並べられるようにする
水力発電所の設備を水の流れる順に並べさせる設問がある。落差や出力の計算はできても、設備の名前と順番が出てこないと答えられない。
- 取水口 — 川やダムから水を取り入れる入口
- 沈砂池 — 取り込んだ水に混じる砂を沈めて除く。砂は水車の羽根を削る
- 導水路 — 発電所の近くまで、水をゆるやかに運ぶ水路。落差はほとんど取らない
- 水槽(ヘッドタンク/サージタンク) — 水圧管路の手前で水位を安定させる。負荷が急に変わったときの圧力変動(水撃)を吸収する
- 水圧管路 — ここで一気に落とす。落差を圧力に変える区間
- 水車 — 水の勢いを回転に変える
- 放水口 — 使い終わった水を川へ返す
水槽が水圧管路の手前にあるのも理屈がある。水車の弁を急に閉じると、水圧管路の中の水が行き場を失って圧力が跳ね上がる(水撃)。その圧力を逃がす場所が、管路の入口に要る。
有効落差の話ともつながる。取水口と放水口の水面の高さの差が総落差で、そこから導水路・水圧管路での摩擦による損失を引いたものが有効落差だ。出力の式 の は有効落差のほうを使う。設備の並びが分かると、損失がどこで生まれているかも見えてくる。
ダム湖の水位が、電力システムの体温計になる
電気はそのままの形では大量に貯めておけない。だが揚水発電は、電気を「位置エネルギー」という別の形に変換することで、山の上のダム湖を巨大な蓄電池として使っている。太陽光や風力のように出力が変動する電源が増えるほど、この「余った電気を貯めて、必要なときに戻す」という調整力の役割は重みを増す。
今日試せることとして、ダムのそばを通る機会があれば、上池と下池という2段構えの水位を意識して眺めてみるといい。水位の変化そのものが、電力需要のピークと谷を映し出している。
この序列や式が標準化されているのは、地形に合わせて最も効率よく水のエネルギーを取り出すための積み重ねがあるからだ。そして、電気を大量に貯める手段が限られている以上、揚水発電の役割は再生可能エネルギーが増えるこれからの電力システムでむしろ重要になっていく。将来、太陽光や蓄電池の設備に関わる仕事をするときも、この「電気は貯めにくいものだ」という前提と、それをどう補っているかという発想は、そのまま土台になる。
冒頭の謎、余った太陽光の電気が向かう先は。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。