がいし(電線と鉄塔の間の白い陶器)は、なぜあんなにヒダヒダの傘を重ねた形をしているのか。表面積を稼ぐ理由が分からないと、ただの飾りにしか見えない。
前のトピックまでで、電気がどれだけ高い電圧で送られているかを見てきた。だが高い電圧の電線を、どうやって鉄塔から絶縁して支えているのか、その部材の話はまだしていない。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、鉄塔の上から下までに並ぶ部材を、それぞれの役割とともに説明できるようになっている。
架空送電線は、鉄塔・がいし・電力線・架空地線という部材が組み合わさってできている。鉄塔の上から下へ、実際の位置関係の順に見ていく。
鉄塔の最上部に張られているのが架空地線だ。電力を送っているわけではなく、接地された防御専用の線で、電力線への直撃雷を代わりに受けて遮蔽し、通信線への誘導障害も軽減する。雷撃を受けると鉄塔自体の電位が瞬間的に上がり、逆に電力線側へ放電してしまう「逆フラッシオーバ」が起きることがあるため、その対策として埋設地線で塔脚の接地抵抗を下げる工夫もされている。
電力線本体は、鉄塔から絶縁するためにがいしで支えられている。がいしは懸垂がいしを電圧に応じた個数だけ連結して使う。表面がヒダヒダの傘を重ねた形になっているのは、雨や塩分で濡れた表面を電気が「這って」漏れる沿面放電を防ぐため、わざと表面の道のりを長くしているからだ。塩害地域向けには沿面距離をさらに伸ばした耐塩がいしを使い、活線状態のまま洗浄する活線洗浄も行われる。
アークホーンが守っているもの
がいし連の上下に、角のように突き出た金具が付いていることがある。これがアークホーンだ。名前のとおり「角(ホーン)」の形をしている。
雷がかかると、がいしの絶縁が耐えきれずに放電(フラッシオーバ)が起きる。このとき放電がどこを通るかが問題になる。がいしの表面を這って放電すれば、磁器が熱で割れたり、表面が焼けて二度と使えなくなる。 送電線を止めて、がいしを1個ずつ交換する工事になる。
アークホーンは、がいし連の外側に、がいしより短い放電経路をあらかじめ用意しておく金具だ。放電はいちばん飛びやすいところを通るので、がいしの表面ではなくホーンとホーンの間で放電が起きる。 がいしは無傷で残り、犠牲になるのは金属の角だけで済む。
つまりアークホーンは、雷を防ぐ装置ではない。避けられない放電を、壊れて困る場所から、壊れても構わない場所へ誘導する装置だ。架空地線が「雷を電力線に当てない」のに対し、アークホーンは「当たってしまった後の被害を限定する」。役割の階層が1つ違う。
電線は、鉄塔と鉄塔の間でまっすぐには張られておらず、適度にたるませてある。これがたるみ(弛度)で、電線を張りすぎると気温低下による収縮で張力が増し、断線の危険が生じるため、あえて余裕を持たせている。電線を径間S、水平張力Tで支え、単位長さあたりの荷重Wがかかっているとして、電線の形を放物線として近似すると、中央でのたわみ量(たるみD)は力の釣合いから D=WS²/8T という形で表せることが知られている。これは実測値ではなく、放物線近似という条件のもとでの標準的な導出であることを踏まえておきたい。
電線は張られたまま静止しているわけでもない。毎秒数m程度の緩やかな一様風が吹くと、電線の背後にカルマン渦が生じて上下に細かく振動し続ける「微風振動」が起き、長期間続くと支持点付近で素線切れに至ることがある。一方、電線に翼形に付着した氷雪に風が当たると揚力が働き、上下に大きくゆっくり自励振動する現象が「ギャロッピング」(ダンシングとも呼ばれる)で、振幅が大きいため相間短絡(混触)を起こす恐れがある。さらに、付着した氷雪が一斉に脱落した反動で電線が跳ね上がる「スリートジャンプ」という現象もある。対策は、現象ごとに別のものが用意されている。「揺れ対策」とひとまとめに覚えると、試験で対策と現象の組合せを入れ替えられたときに答えられない。
| 現象 | 何が起きるか | 主な対策 |
|---|---|---|
| 微風振動 | 緩やかな風でカルマン渦が生じ、上下に細かく振動。支持点付近の素線切れ | ダンパ(ストックブリッジダンパ等の錘)で振動エネルギーを吸収 |
| ギャロッピング | 翼形に付いた氷雪に風が当たって揚力が働き、上下に大きくゆっくり自励振動。相間短絡のおそれ | 相間スペーサで電線同士の接近を防ぐ/難着雪リングで着雪そのものを防ぐ |
| スリートジャンプ | 付着した氷雪が一斉に脱落した反動で、電線が跳ね上がる | 鉄塔で上下の電線間にオフセットを設ける(水平方向にずらして配置し、跳ね上がっても上の相に届かないようにする) |
氷雪の脱落は一瞬で、しかもどの相で先に落ちるか制御できない。抑え込むのが難しい以上、当たらない配置にするほうが確実だ、という判断がこの言葉に入っている。
「オフセット」とは、上下に並ぶ電線の取り付け位置を、水平方向にずらしておくことをいう。鉄塔を横から見ると電線が縦一列に並んでいるように見えるが、正面から見ると少しずつ左右にずれている——あの配置が、氷雪が落ちた瞬間のために用意されたものだ。
静かに見える電線ほど、実は調律され続けている
送電線をぼんやり見上げているだけでは気づかないが、その1本1本は、雷・風・氷雪という自然の力に絶えず調律され続けている構造物だ。架空地線・がいし・ダンパという部材は、いずれも「壊れないための備え」として存在している。
今日試せることとして、送電線の途中にぶら下がる錘のような金具(ダンパ)や、がいしの連結枚数を、次に鉄塔を見かけたときに探してみるといい。連結枚数が多いほど、そこを流れている電圧が高いことが多い。
こうした対策が積み重なっているのは、素線切れや相間短絡といった事故が実際に起きてきた歴史があるからだ。1本の断線が広い停電につながることを防ぐため、部材ごとに役割を分けて備えている。この「見えない自然の力から設備を守る」という発想は、太陽光パネルの架台の耐風設計や、屋外の電気設備の維持管理にもそのままつながっていく。
冒頭の謎、がいしがヒダヒダの傘の形をしている理由。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。