一般家庭に数年に一度、「電気設備の調査に伺いました」と作業服の調査員が訪ねてくる。分電盤を開け、絶縁抵抗を測り、問題がなければ報告書を置いて帰っていく。あの調査、家の設備なのだから家主の義務かといえば、違う。国が直接やっているのかといえば、それも違う。では誰が、何の義務として、何年おきに来ているのか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、この訪問者の正体と、その背後にある「素人の設備を誰が見守るか」という制度設計を説明できるようになっている。
前のトピックで見た保安規程と主任技術者は、事業用電気工作物の設置者に「自分の設備は自分で守る」体制を義務づける仕組みだった。ところが一般用電気工作物、つまり一般家庭や小さな商店の設備には、その前提が成り立たない。設置者は電気の素人で、保安規程も主任技術者も存在しない。技術基準に適合していない配線があっても、住人自身がそれに気づく手段がないのだ。
そこで電気事業法57条1項は、まったく別の相手に義務を割り当てた。一般用電気工作物と直接に電気的に接続する電線路を維持し、及び運用する者——条文はこれを「電線路維持運用者」と呼ぶ——に、その一般用電気工作物が技術基準に適合しているかどうかを調査する義務を課したのだ。実態としては、その家に電気を送っている電力会社側がこれに当たる。ただし、設置場所への立入りについて所有者・占有者の承諾が得られないときは、この限りでない(57条1項ただし書)。調査は義務だが、家宅への強制立入り権までは与えられていない。
調査の頻度は施行規則96条が定めている。設置された時と、変更の工事が完成した時に行うほか、原則として4年に1回以上だ(96条2項1号イ)。そして例外がひとつある。所有者・占有者から点検業務を受託する事業について産業保安監督部長(区域が複数の監督部にわたるときは経済産業大臣)の登録を受けた法人——登録点検業務受託法人——が点検業務を受託している一般用電気工作物(受託電気工作物)については、5年に1回以上でよい(同号ロ)。
ここで、この頻度緩和の読み方を正確にしておきたい。登録点検業務受託法人が点検しているのだから、電線路維持運用者がわざわざ重ねて調査するのは無駄ではないか——実務感覚としては自然な発想だが、条文はそうなっていない。受託電気工作物でも電線路維持運用者の調査は必要なままで、変わるのは頻度が4年に1回以上から5年に1回以上になることだけだ。 民間の点検はあくまで所有者と法人の契約にもとづくサービスであって、法律上の調査義務の代わりにはならない。だから条文は義務を免除せず、信頼できる点検が入っている分だけ間隔を1年延ばす、という控えめな調整にとどめている。
調査の結果、技術基準に適合していないと認めたときの扱いも、この制度の性格をよく表している。電線路維持運用者がとるのは改修命令でも供給停止でもなく、遅滞なく、技術基準に適合するようにするためとるべき措置と、その措置をとらなかった場合に生ずべき結果を、所有者または占有者に通知することだ(57条2項)。直すかどうかの最終判断は設置者に残されている。義務の実効性は国が支えており、経済産業大臣は、調査や通知をしない・方法が適当でない電線路維持運用者に対して改善を命ずることができる(57条3項)。また電線路維持運用者は、調査と通知の業務について帳簿を備え、記載・保存する義務も負う(57条4項・5項)。
もうひとつの登場人物が登録調査機関だ。電線路維持運用者は、調査業務——技術基準適合の調査と、不適合時の所有者・占有者への通知——を、経済産業大臣の登録を受けた登録調査機関に委託できる(57条の2第1項)。委託したときは遅滞なくその旨を経済産業大臣に届け出る(同条2項)。そして委託しているときは、その委託に係る一般用電気工作物については57条1項の規定は適用されない(同条3項)。調査という仕事がなくなるのではなく、担い手が登録調査機関に代わるという構造だ。
この制度の線引きが守っているのは、電気の知識を持たないまま電気設備と暮らす住人の安全だ。事業用の世界では「設備を持つ者が自分で守る」自主保安が原則だったが、一般用の世界ではその原則が成立しないため、物理的に電線でつながっていて、技術力もある供給側に見守りの義務を移した。自主保安の裏返しとしての「供給側保安」——同じ電気事業法の中に、設備の持ち主の力量に応じて2つの保安モデルが並んでいる。
「あの調査員は誰か」を制度の言葉で説明できるようになる
この構造が頭に入ると、顧客から「電気の調査に来ると連絡があったが、あれは何か」と聞かれたときに、電線路維持運用者の義務・4年に1回以上という頻度・不適合なら通知が来るという流れを、制度の言葉で説明できるようになる。電気工事のプロとして、調査で不適合の通知を受けた顧客から改修の相談が来る、という導線も見えてくる。
今日試せることとして、自宅や実家で前回の「電気設備調査のお知らせ」や調査結果のお知らせが残っていないか探してみるといい。調査の実施者名を見れば、電線路維持運用者側か、委託を受けた登録調査機関かが読み取れるはずだ。
第一種電気工事士として一般用電気工作物の工事も手がけるようになると、自分の施工が4年に1回の調査で第三者にチェックされ続ける、という緊張感がこの制度の実感になる。調査で指摘が出ない施工を積み重ねることが、そのまま仕事の信頼になっていく。
登録点検業務受託法人が点検している設備で、電線路維持運用者の調査はどうなるのだったか。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。