高圧電路の絶縁耐力試験では、最大使用電圧の1.5倍もの電圧を、連続して10分間もかけ続ける。1分では足りないのか。そもそも1.5倍という数字も、6,600Vの電路なら10,350Vという中途半端な値になる。
なぜ「1.5倍」で「10分間」なのか。なぜ6,600Vという分かりやすい数字が、10,350Vという覚えにくい数字に化けるのか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、6,600Vから10,350Vが導かれる計算の道筋を、自分の手で再現できるようになっている。
絶縁耐力試験は、電路や機器が実際の使用条件よりも高い電圧に耐えられるかを、受電開始前に一度だけ証明する試験だ。試験電圧を決めるには、まず「最大使用電圧」という基準値を求める必要がある。
最大使用電圧の求め方
最大使用電圧は、公称電圧(使用電圧)に係数を掛けて求める。1,000Vを超え500,000V未満の電路では、係数は1.15/1.1(電技解釈第1条第1項第二号・1-1表)。
つまり10,350Vという数字は、条文にそのまま書かれた値ではなく、6,600×1.15/1.1=6,900V(最大使用電圧)を求めたうえで、6,900×1.5=10,350Vという2段階の計算を経て出てくる値だ。
対象ごとの試験電圧・時間
| 試験対象(いずれも最大使用電圧7,000V以下) | 試験電圧 | 時間 |
|---|---|---|
| 交流の高圧電路(電線と大地間、多心ケーブルは心線相互間・心線と大地間) | 最大使用電圧の1.5倍の交流電圧 | 連続10分間 |
| ケーブルを使用する電路を直流で試験する場合 | 交流試験電圧の2倍の直流電圧 | 連続10分間 |
| 変圧器の巻線 | 最大使用電圧の1.5倍(500V未満となる場合は500V) | 連続10分間 |
| 回転機(交流) | 最大使用電圧の1.5倍(500V未満となる場合は500V) | 連続10分間 |
| 回転機を直流で試験する場合 | 交流試験電圧の1.6倍の直流電圧 | 連続10分間 |
ケーブルだけ、直流での試験が認められ、しかも倍率が2倍に引き上げられているのにも理由がある。長いケーブルは巨大なコンデンサのように振る舞うため、交流で試験すると絶縁が健全でも大きな充電電流が流れ続け、現場に運べる大きさの試験電源では足りなくなる。直流なら充電は最初だけで済むが、直流は交流より絶縁物をいじめにくい。そこで公平を期すために、倍率を2倍へ引き上げている。測る側の都合で試験方式を変え、厳しさの引き上げで帳尻を合わせる、という規制の設計思想がここに表れている。
試験場に並ぶ道具一式 — 絶縁抵抗計はそこに居ない
では、この10,350Vを実際にかける現場には、どんな機器が並ぶのか。試験回路を構成する顔ぶれは決まっている。
| 機器 | 役割 |
|---|---|
| 試験用変圧器(耐圧試験器) | 商用電源から試験電圧(10,350V等)を作る |
| 電圧計 | 試験電圧が規定値に保たれていることを監視する |
| 電流計(mA計) | 被試験電路に流れる漏れ電流を監視する |
| 水抵抗器などの保護抵抗 | 万一絶縁破壊したときの電流を制限し、試験器を守る |
| 放電棒 | 試験後、電路に残った電荷を大地へ逃がす |
注目したいのは電流計の目盛がmA単位であることだ。健全な電路なら、10,350Vをかけても流れるのは充電電流とわずかな漏れ電流だけ。試験中この電流がじわじわ増えたり急増したりすれば、それが絶縁の弱点が音を上げ始めた合図になる。電圧計が「規定どおりかけていること」の証人だとすれば、電流計は「耐えていること」の証人だ。
放電棒が一式の最後に控えているのにも、はっきりした理由がある。ケーブルは導体と遮へい層の間に静電容量を持つ、細長いコンデンサでもある。試験電圧をかけ終えて電源を切っても、蓄えられた電荷は逃げ場がなく、導体には高い電圧が残ったままになる。見た目は「電源を切った電路」でも、実体は「充電されたコンデンサ」だ。だから試験後は放電棒で電荷を大地へ逃がし、接地してから次の作業に移る。直流で試験した場合は交流よりも電荷が残りやすく、この手順はいっそう重要になる。試験の合否だけでなく、試験を終えた電路をどう安全に「ただの電線」へ戻すかまでが、絶縁耐力試験の手順に含まれている。
直流漏れ電流測定 — 見るのは「値」ではなく「形」
高圧CVケーブルの劣化診断には、絶縁抵抗計では拾えない変化を見るための 直流漏れ電流測定がある。ケーブルに直流の高電圧を印加し、流れる漏れ電流を 時間とともに記録する試験だ。
ここで判定に使うのは、電流の絶対値よりも、時間に対する形(チャートの傾き)になる。
| チャートの形 | 判定 |
|---|---|
| 印加直後に大きく、時間とともになめらかに減衰して一定値に落ち着く | 良好。健全なケーブル |
| 時間とともに増加していく | 劣化。絶縁体内部の劣化が進行している |
| 脈動する・不規則に振れる | 劣化。水トリーやボイド(空隙)の存在が疑われる |
| 急激に増大する(キック現象) | 絶縁破壊の兆候。試験を中止する |
逆に、時間が経っても減らずに増えていくなら、それは充電・吸収では説明がつかない。 絶縁体そのものが電気を通し始めているということで、劣化のサインになる。 「値が小さいから良い」ではなく、形が減衰しているかで読む。
数字の桁を、計算の手順として持ち帰る
絶縁耐力試験の数字は、覚える対象ではなく、その場で導ける対象だ。最大使用電圧=公称電圧×1.15/1.1、試験電圧=最大使用電圧×1.5という2段階さえ持っていれば、6,600Vならその場で試験電圧を計算できる。
今日試せることとして、身近な高圧設備(工場やビルのキュービクルの銘板など、外から見える範囲で)に「公称電圧6.6kV」といった表示があれば、そこから最大使用電圧・試験電圧を自分の手で計算してみるといい。6,900V、10,350Vという数字が、暗記した値ではなく自分で導いた値として頭に残る。
太陽光発電の高圧連系設備や、大容量の蓄電池設備を高圧で受電するときも、竣工検査では同じ絶縁耐力試験が求められる。長いケーブル配線を伴う設備が増えるほど、直流試験の判断(交流試験電源が現実的に用意できるかどうか)を求められる場面も増えていく。1.5倍・10分・直流2倍という3つの数字の意味が分かっていることは、そうした新しい設備の検査計画を立てるときの土台になる。
冒頭の謎、なぜ6,600Vが10,350Vに化けるのか。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。