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自家用電気工作物の検査方法 ・ 3 / 9

絶縁耐力試験 — 1.5倍を10分かける理由

読み終えると、こうなる

6,600Vという公称電圧から、絶縁耐力試験でかける実際の電圧を自分の手で導けるようになる。

  • 最大使用電圧→試験電圧という2段階の計算を、公称電圧が変わっても組み立て直せる
  • 同じ電路を直流で試験するとき、倍率が交流のときと変わることを見分けられる
  • 絶縁耐力試験が『瞬間の印加』ではなく『連続10分間』を要求している理由を仕分けられる
考えてみよう

高圧電路の絶縁耐力試験では、最大使用電圧の1.5倍もの電圧を、連続して10分間もかけ続ける。1分では足りないのか。そもそも1.5倍という数字も、6,600Vの電路なら10,350Vという中途半端な値になる。

なぜ「1.5倍」で「10分間」なのか。なぜ6,600Vという分かりやすい数字が、10,350Vという覚えにくい数字に化けるのか。

見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、6,600Vから10,350Vが導かれる計算の道筋を、自分の手で再現できるようになっている。

絶縁耐力試験は、電路や機器が実際の使用条件よりも高い電圧に耐えられるかを、受電開始前に一度だけ証明する試験だ。試験電圧を決めるには、まず「最大使用電圧」という基準値を求める必要がある。

最大使用電圧の求め方

最大使用電圧は、公称電圧(使用電圧)に係数を掛けて求める。1,000Vを超え500,000V未満の電路では、係数は1.15/1.1(電技解釈第1条第1項第二号・1-1表)。

6,600V電路の試験電圧の求め方 公称電圧 6,600V ×1.15/1.1 最大使用電圧 6,900V ×1.5 試験電圧 10,350V (交流・連続10分間) ×2(DC) ケーブルの直流試験 20,700V (直流・連続10分間) 公称電圧6,600Vの高圧電路を例にした、最大使用電圧と試験電圧の計算の道筋(条文には6,600Vの数値例そのものは書かれていない。算出の考え方を示す自作図)

つまり10,350Vという数字は、条文にそのまま書かれた値ではなく、6,600×1.15/1.1=6,900V(最大使用電圧)を求めたうえで、6,900×1.5=10,350Vという2段階の計算を経て出てくる値だ。

対象ごとの試験電圧・時間

試験対象(いずれも最大使用電圧7,000V以下)試験電圧時間
交流の高圧電路(電線と大地間、多心ケーブルは心線相互間・心線と大地間)最大使用電圧の1.5倍の交流電圧連続10分間
ケーブルを使用する電路を直流で試験する場合交流試験電圧の2倍の直流電圧連続10分間
変圧器の巻線最大使用電圧の1.5倍(500V未満となる場合は500V)連続10分間
回転機(交流)最大使用電圧の1.5倍(500V未満となる場合は500V)連続10分間
回転機を直流で試験する場合交流試験電圧の1.6倍の直流電圧連続10分間
「1.5倍を10分間」という条件は、単に高い電圧をかけて壊れないか確認する試験ではない。**電路には運転中、開閉サージや軽微な地絡によって、常時の使用電圧より高い異常電圧が繰り返し加わる。** 絶縁耐力試験は、こうした実運用で遭遇する内部異常電圧に耐えられることを、受電開始前に一度だけ証明する儀式だ。瞬間なら耐えられても、絶縁の弱点(内部のボイドや小さな傷)は連続して電圧をかけ続けることで発熱・部分放電を起こし、そこで初めて露呈する。だから時間が要る。

ケーブルだけ、直流での試験が認められ、しかも倍率が2倍に引き上げられているのにも理由がある。長いケーブルは巨大なコンデンサのように振る舞うため、交流で試験すると絶縁が健全でも大きな充電電流が流れ続け、現場に運べる大きさの試験電源では足りなくなる。直流なら充電は最初だけで済むが、直流は交流より絶縁物をいじめにくい。そこで公平を期すために、倍率を2倍へ引き上げている。測る側の都合で試験方式を変え、厳しさの引き上げで帳尻を合わせる、という規制の設計思想がここに表れている。

試験場に並ぶ道具一式 — 絶縁抵抗計はそこに居ない

では、この10,350Vを実際にかける現場には、どんな機器が並ぶのか。試験回路を構成する顔ぶれは決まっている。

機器役割
試験用変圧器(耐圧試験器)商用電源から試験電圧(10,350V等)を作る
電圧計試験電圧が規定値に保たれていることを監視する
電流計(mA計)被試験電路に流れる漏れ電流を監視する
水抵抗器などの保護抵抗万一絶縁破壊したときの電流を制限し、試験器を守る
放電棒試験後、電路に残った電荷を大地へ逃がす

注目したいのは電流計の目盛がmA単位であることだ。健全な電路なら、10,350Vをかけても流れるのは充電電流とわずかな漏れ電流だけ。試験中この電流がじわじわ増えたり急増したりすれば、それが絶縁の弱点が音を上げ始めた合図になる。電圧計が「規定どおりかけていること」の証人だとすれば、電流計は「耐えていること」の証人だ。

ここで、ありがちな混同を断っておきたい。**この機器一式に、絶縁抵抗計(メガー)は入っていない。** どちらも「絶縁」を確かめる道具に見えるが、仕事がまったく別だ。絶縁抵抗計は直流電圧をかけて「今の絶縁抵抗が何MΩか」を数値で読む**診断**の道具。絶縁耐力試験は、交流の規定電圧(ケーブルでは直流も可)を10分間かけ続けて「壊れないこと」を確かめる**証明**の試験。目的も、かける電圧の種類も、読み取るものも違う。実務では耐力試験の前と後に絶縁抵抗測定を行い、試験によって絶縁を傷めていないかを確かめる——つまりメガーの出番は試験の前後であって、試験回路そのものには決して入らない。「絶縁耐力試験に使用する機器」を問われてメガーを選んでしまうのは、この2つの試験の区別が付いていない印として出題者に狙われる。

放電棒が一式の最後に控えているのにも、はっきりした理由がある。ケーブルは導体と遮へい層の間に静電容量を持つ、細長いコンデンサでもある。試験電圧をかけ終えて電源を切っても、蓄えられた電荷は逃げ場がなく、導体には高い電圧が残ったままになる。見た目は「電源を切った電路」でも、実体は「充電されたコンデンサ」だ。だから試験後は放電棒で電荷を大地へ逃がし、接地してから次の作業に移る。直流で試験した場合は交流よりも電荷が残りやすく、この手順はいっそう重要になる。試験の合否だけでなく、試験を終えた電路をどう安全に「ただの電線」へ戻すかまでが、絶縁耐力試験の手順に含まれている。

直流漏れ電流測定 — 見るのは「値」ではなく「形」

高圧CVケーブルの劣化診断には、絶縁抵抗計では拾えない変化を見るための 直流漏れ電流測定がある。ケーブルに直流の高電圧を印加し、流れる漏れ電流を 時間とともに記録する試験だ。

ここで判定に使うのは、電流の絶対値よりも、時間に対する形(チャートの傾き)になる。

チャートの形判定
印加直後に大きく、時間とともになめらかに減衰して一定値に落ち着く良好。健全なケーブル
時間とともに増加していく劣化。絶縁体内部の劣化が進行している
脈動する・不規則に振れる劣化。水トリーやボイド(空隙)の存在が疑われる
急激に増大する(キック現象)絶縁破壊の兆候。試験を中止する
なぜ最初は大きく、やがて減るのか。直流を印加した瞬間は**充電電流**(静電容量に 電荷が溜まる分)と**吸収電流**(絶縁体内部の分極による分)が重なって流れる。 これらは時間とともに収まり、最後に残るのが**本来の漏れ電流(導電電流)**だ。 だから**減衰して一定値に落ち着く形が正常**になる。

逆に、時間が経っても減らずに増えていくなら、それは充電・吸収では説明がつかない。 絶縁体そのものが電気を通し始めているということで、劣化のサインになる。 「値が小さいから良い」ではなく、形が減衰しているかで読む。

数字の桁を、計算の手順として持ち帰る

絶縁耐力試験の数字は、覚える対象ではなく、その場で導ける対象だ。最大使用電圧=公称電圧×1.15/1.1、試験電圧=最大使用電圧×1.5という2段階さえ持っていれば、6,600Vならその場で試験電圧を計算できる。

ただし**×1.5という倍率は、最大使用電圧が7,000V以下の場合のもの**だ。上の表がそろって7,000V以下に収まっているのは偶然ではない。公称22,000Vの回路なら最大使用電圧は23,000Vとなり、7,000Vを超えるので**倍率が1.25倍に変わる**(15-1表。ただし7,000V超のうち、最大使用電圧15,000V以下の中性点接地式電路で中性線を多重接地するものだけは0.92倍)。22,000×1.15/1.1=23,000V、その1.25倍で**28,750V**。ここに×1.5を当てて34,500Vと答えると外す。**倍率を選ぶ前に、最大使用電圧が7,000Vを超えているかを見る。**

今日試せることとして、身近な高圧設備(工場やビルのキュービクルの銘板など、外から見える範囲で)に「公称電圧6.6kV」といった表示があれば、そこから最大使用電圧・試験電圧を自分の手で計算してみるといい。6,900V、10,350Vという数字が、暗記した値ではなく自分で導いた値として頭に残る。

太陽光発電の高圧連系設備や、大容量の蓄電池設備を高圧で受電するときも、竣工検査では同じ絶縁耐力試験が求められる。長いケーブル配線を伴う設備が増えるほど、直流試験の判断(交流試験電源が現実的に用意できるかどうか)を求められる場面も増えていく。1.5倍・10分・直流2倍という3つの数字の意味が分かっていることは、そうした新しい設備の検査計画を立てるときの土台になる。

冒頭の謎、なぜ6,600Vが10,350Vに化けるのか。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。

出題者のワナ — ここで受験者を転ばせにくる

この論点は、知っているだけでは足をすくわれる。試験でよく仕掛けられる崩し方を、先に知っておこう。

  1. 6,600V電路の試験電圧10,350Vを、条文に書かれた固定値だと思い込ませる

    なぜ引っかかる過去問には具体的な数値が並ぶため、6,600Vなら10,350Vと丸暗記してしまい、その裏にある計算の道筋(係数1.15/1.1、そして1.5倍)を忘れやすい

    見破り方公称電圧が変わる設問が来たら、最大使用電圧=公称電圧×1.15/1.1をまず出し、その値が7,000Vを超えているかを見る。7,000V以下なら1.5倍、7,000V超60,000V以下なら1.25倍(結果が10,500V未満なら10,500V)。ただし7,000V超のうち、最大使用電圧15,000V以下の中性点接地式電路で中性線を多重接地するものだけは0.92倍。10,350Vという数字を覚えるのではなく、倍率を選ぶ手順ごと覚える

  2. ケーブルを直流で試験する場合の倍率を、交流と同じ1.5倍のまま計算させる

    なぜ引っかかる『絶縁耐力試験は1.5倍』という数字が強く印象に残るため、直流に切り替えても同じ倍率のままだと錯覚しやすい

    見破り方対象と印加方式の組み合わせで倍率が変わることを区別する。ケーブルを直流で試験する場合は交流試験電圧の2倍、回転機を直流で試験する場合は交流試験電圧の1.6倍というように、直流試験の倍率は対象ごとに異なる

  3. 試験時間を『瞬間的な印加』や『1分間』で足りると思わせる

    なぜ引っかかる耐圧試験と聞くと、電圧を一瞬だけかけて壊れないか確認する試験だとイメージされやすい

    見破り方絶縁耐力試験は『連続して10分間』電圧をかけ続けることが要件になっている。瞬間的な印加や短時間の印加では要件を満たさない、と時間の条件を明確に確認する

  4. 絶縁耐力試験に使用する機器の一覧に絶縁抵抗計(メガー)を混ぜ込む

    なぜ引っかかるどちらも『絶縁』を確かめる試験なので道具も共通だと思い込みやすいうえ、実務では耐力試験の前後に絶縁抵抗測定を行うため、記憶の中で機器一式に混ざりやすい

    見破り方目的と電源で仕分ける。絶縁抵抗計は直流をかけて『今の抵抗値』を数値で読む診断の道具。絶縁耐力試験は交流(ケーブルでは直流も可)の規定電圧を10分間かけ続けて『壊れないこと』を証明する試験。メガーの出番は試験の前後であって、試験回路そのものには入らない

参考文献・出典

理解度チェック(8問)

このトピックの内容がどれくらい身についたか、8問で確認しよう。 内訳は基本3問・応用3問・ひっかけ2問。基本が解けたら、条件を足した応用と、本番で足をすくいにくるひっかけまで踏み込む。

/ 8 問正解

覚えておきたいポイント

  1. 試験電圧の基準となる『最大使用電圧』は、公称電圧に係数1.15/1.1を掛けて求める(1,000V超500,000V未満の電路。電技解釈第1条第1項第二号)
  2. 最大使用電圧7,000V以下の交流の高圧電路は、最大使用電圧の1.5倍の電圧を連続して10分間かける(電技解釈第15条)
  3. 電線にケーブルを使う交流の電路を直流で試験する場合は、交流試験電圧の2倍の直流電圧を連続10分間かける(電技解釈第15条)
  4. 変圧器の巻線・回転機(いずれも最大使用電圧7,000V以下)にも、最大使用電圧の1.5倍(500V未満となる場合は500V)を連続10分間かける規定がある(電技解釈第16条)
  5. 試験に使う機器は、試験用変圧器(耐圧試験器)・電圧計・電流計(漏れ電流をmA単位で監視)・水抵抗器などの保護抵抗・放電棒。絶縁抵抗計(メガー)は試験前後の絶縁抵抗確認に使うもので、耐力試験の回路そのものには入らない
  6. 試験終了後のケーブルは充電されたままなので、放電棒で放電してから接地し、それまで導体に触れない
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