変圧器や電動機の寿命は、何で決まるのだろうか。鉄心が擦り減るわけではない。銅の巻線が溶けるわけでもない。実は、機器の中で最初に音を上げるのは、巻線に巻かれた紙やワニス、フィルムといった「絶縁物」だ。
だから電気機器の世界には、「この機器の絶縁は何度まで耐えられるか」を一文字で表す共通言語がある。銘板に書かれた「B」や「F」がそれだ。ところがこの文字の並び、Y・A・E・B・F・H・N・R——よく見るとアルファベット順になっていない。
なぜこんな不揃いな並びなのか。見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、この並びを順序ごと使いこなし、銘板の一文字から機器の温度の上限を読み取れるようになっている。
金属や磁性材料と違って、絶縁物の主役は有機材料だ。紙、ワニス、ポリエステルフィルム、エポキシ樹脂——これらは温度が高いほど化学的な劣化が速く進み、硬化やひび割れを経て、最後には絶縁の役目を果たせなくなる。つまり熱は、絶縁物にとって少しずつ効いてくる毒のようなものだ。電気機器の温度は、絶縁物の劣化を左右する主要な因子であり、だからこそ「絶縁物を何度以下に保てば十分な寿命が得られるか」が、そのまま機器の設計温度になる。
この「何度以下に保つか」を段階で表したものが耐熱クラスで、JIS C 4003:2010(IEC 60085に対応)が定めている。耐熱クラスの数値は、絶縁システム(絶縁材料の組合せ)に対する推奨最高連続使用温度(℃)を意味する。
| 耐熱クラス | 指定文字 | 許容最高温度 |
|---|---|---|
| クラス90 | Y | 90℃ |
| クラス105 | A | 105℃ |
| クラス120 | E | 120℃ |
| クラス130 | B | 130℃ |
| クラス155 | F | 155℃ |
| クラス180 | H | 180℃ |
| クラス200 | N | 200℃ |
| クラス220 | R | 220℃ |
| クラス250 | (文字なし) | 250℃ |
250を超える領域は25刻み(275、300…)で数値のまま呼ぶ。かつての規格で180℃超をまとめて「C種」と呼んでいた領域が、現行規格ではN・R・250などに細分された、という経緯も知っておくと古い教材を読むとき迷わない。
並びが不揃いな理由は、この体系が歴史的に積み上がってきたからだ。先にY・A・B・C種といった区分があり、後からその間を埋めるクラス(EはAとBの間)や上位のクラスが追加されていった。結果として、アルファベット順とは一致しない今の並びになっている。出題者はまさにここを突いてくる。「低い方から順に並べよ」という問題で、BとEを入れ替えた選択肢が混ざるのが定番だ。
銘板の一文字が、機器の置き場所と使い方を決める
この体系を知っていると、現場での判断が変わる。たとえば盤内の温度が高くなりがちな場所に電動機や変圧器を置くとき、絶縁の耐熱クラスに対して温度の余裕がどれだけあるかという視点で機器を見られるようになる。同じ出力でもクラスB品とクラスF品では、熱に対する体力がまるで違う。
今日試せることとして、身近なモーターや変圧器の銘板・カタログで耐熱クラス(絶縁種別)の欄を探してみるといい。「F」や「155」という表示が見つかったら、それはこの機器の絶縁物が155℃まで連続使用に耐える設計だ、という宣言だ。
絶縁は熱で劣化する。だから絶縁物の温度の上限が機器の温度の上限になり、それを守るために温度上昇試験がある——この因果の一本線をつかんでしまえば、耐熱クラスは暗記表ではなく、機器の寿命設計の共通言語として読めるようになる。
冒頭の謎、Y・A・E・B・F・H・N・Rという不揃いな並びの理由と使い方は。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。