工場の制御盤にある三相電動機、銘板には「Δ結線・1相あたり巻線インピーダンス9Ω」と書かれている。ところが先輩技術者は、テスターも当てずに一言、「Yに直して1相だけ計算しろ」と言う。
Δ結線とY結線は、見た目も配線もまったく違う。結線を勝手に変えて計算したら、答えも変わってしまいそうなものだ。なぜ先輩は平然と「変換して」と言い切れるのか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、この変換がなぜ許されるのかを、自分の言葉で説明できるようになっている。
ここまで、Y結線のベクトル図とインピーダンス負荷、Δ結線の相電流・線電流と断線パターンを見てきた。ここでその2つを結びつけ、一種の三相計算でもっとも重要な操作――Y-Δ変換で1相分の等価回路に落とし込むという考え方をまとめる。
なぜ「1相分」だけで済むのか
平衡三相回路(3つの負荷が全く同じ)は、対称性がある。3つの相のうち1つだけを取り出して、その相電圧・相電流・力率から電力を求め、最後に3倍すれば全体の答えになる。Y結線ならこの手順はすぐに使える――負荷1相にかかるのは相電圧Vl/√3、電流はIp=Vp/Zの単相回路そのものだからだ。
問題はΔ結線のときだ。Δの負荷は線間電圧をそのまま受けており、Y結線のような「相電圧だけの単相回路」の形にそのままはなっていない。ここで使うのがY-Δ変換だ。
Y-Δ変換 ― Z_Δ = 3・Z_Y
平衡負荷であれば、Δ結線のインピーダンスZ_ΔとY結線のインピーダンスZ_Yの間には、次の関係が成り立つ。
Z_Δ = 3・Z_Y
なぜ3分の1になるのか。Δ結線は負荷が線間電圧をまるごと受け持つのに対し、Y結線は相電圧(線間電圧の1/√3)しか受け持たない。同じ電流を流すために必要なインピーダンスは、受け持つ電圧が小さいYのほうが小さくて済む――この関係を電圧・電流の関係式から突き詰めると、ちょうど3分の1という数字になる。
この関係は、より一般的なΔ→Y変換の式からも導ける。3つの辺のインピーダンスがZab・Zbc・Zcaと個別に違う場合の一般式は、Za=(Zab・Zca)/(Zab+Zbc+Zca)という形になる(他の2つの頂点も同様の形)。この式で3辺すべてが同じ値Z_Δだった(平衡している)場合を考えると、Za=(Z_Δ・Z_Δ)/(Z_Δ+Z_Δ+Z_Δ)=Z_Δ²/(3Z_Δ)=Z_Δ/3となり、Z_Δ=3Z_Yという関係がそのまま出てくる。平衡三相回路で使う「3分の1」は、この一般式の特別な場合にすぎない。
YとΔが混在する回路の一本化
一種の計算問題では、電源側がY・負荷側がΔ、あるいはその逆といった混在パターンが頻出する。この場合も方針は同じで、Δ側をY-Δ変換でYに直し、結線を1つにそろえてから1相分の単相回路にする。二種の三相回路はこの「変換して1相に落とす」操作を一度も扱っていない。ここが一種の基礎理論でいちばん新しく、いちばん配点も大きい部分だ。
もう1つ、Y結線の負荷とΔ結線の負荷が同じ電源に並列に接続されている(たとえば動力用のΔ結線モーターと、Y結線の抵抗負荷が同じ母線につながっている)場合も頻出する。この場合、わざわざ両方をどちらかの結線に変換してインピーダンスを合成する必要はない。電力はベクトルではなくスカラー(向きを持たない量)なので、結線の種類にかかわらず、それぞれの負荷の消費電力を別々に計算して単純に足し算するだけでよい。Y結線負荷の消費電力が3kW、Δ結線負荷の消費電力が5kWと分かれば、合計はそのまま8kW。電流の合成(位相を考えたベクトル和)が必要な場面と、電力の合成(単純なスカラー和で済む場面)を区別できるかどうかも、この科目の計算を速くする分かれ目になる。
抵抗とリアクタンスが混在したら ― 消費電力を生むのは抵抗だけ
もう一段ひねったパターンとして、Δ結線に抵抗Rの負荷、Y結線に誘導性リアクタンスX_Lの負荷、というように性質の違う負荷が混在して並列につながっている回路の全消費電力を問う問題がある。一見、両方をYにそろえてインピーダンスをベクトル合成する重い計算が待っていそうに見える。
だが、この型の決め手はただ1点——リアクタンスは有効電力を消費しない。コイルやコンデンサは、電流が流れ込んでくる半サイクルでエネルギーを磁界や電界の形で貯め、次の半サイクルでそっくり電源側へ返す。行って帰ってくるだけで、熱として消えていく分(有効電力)はゼロだ。有効電力を消費するのは抵抗だけ——この一点を先に宣言してしまえば、リアクタンス側の負荷は消費電力の計算では丸ごと無視してよい。
たとえば線間電圧200Vの電源に、Δ結線の抵抗12Ω/相と、Y結線の誘導性リアクタンス8Ω/相が並列にぶら下がっているとする。全消費電力を求めるなら、見るのはΔ結線の抵抗側だけだ。Δ結線では相電圧=線間電圧200Vが各抵抗にそのままかかるので、1相分はP=V²/R=200²÷12≒3,333W、3相分で約10kW。これで終わりで、Δ→Y変換すら出番がない。
注意したいのは、リアクタンス側にも電流は流れているということだ。無視してよいのはあくまで「消費電力(有効電力)」の計算においてであって、線電流や皮相電力・力率を問われたら、リアクタンス側の遅れ電流もベクトルとして合成しなければならない。問われている量が有効電力か、それ以外か——問題文のこの一語で、リアクタンスを無視できるかどうかが決まる。
変換は「近道」であって、答えを変えるものではない
今日できることとして、教科書や過去問の三相計算問題を1つ選び、「この負荷はYかΔか」「変換が必要か」を最初に確認する癖をつけてみるといい。それだけで、複雑に見える三相の問題が「1本の線と1つの負荷」だけの単純な絵に変わって見えてくる。
Y-Δ変換の考え方は、この先の%インピーダンス法や短絡電流計算でも土台として使われる。1相分に還元するという操作を体に染み込ませておくことが、この科目全体の計算を速くする。
冒頭の「なぜ変換しても答えが同じなのか」、答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。