アパートの一室で電子レンジを使った瞬間、廊下の照明が異様に明るくなり、待機中だったテレビが壊れた。コンセントを測ると、100Vのはずの場所から160V近くも出ている。電力会社は何も変えていないと言う。
同じ配線、同じ電力会社の電気なのに、この60Vはどこから湧いて出たのか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、この160Vという半端な数字を、自分で計算して出せるようになっている。
二種電気工事士の配電方式では、単相3線式について「平衡していれば中性線に電流は流れない」というところまでを学んだ。ここでは、その中性線が断線した場合に何が起きるかまで踏み込む。
平衡時の単相3線式のおさらい
単相3線式は、変圧器の中性点から引き出した中性線と、両外側の電圧線の3本で電力を送る方式だ。中性線を挟んで100Vが2系統でき、機器によって100Vと200Vを使い分けられる。2つの100V負荷の消費電力が釣り合っている(平衡)状態では、それぞれの負荷電流が中性線上で打ち消し合い、中性線にはほとんど電流が流れない。
断線していなくても、不平衡なら電圧はわずかにずれる
中性線が生きたまま(断線していない)通常運転でも、実は電圧線・中性線には抵抗(線路インピーダンス)があるため、負荷が不平衡だと両側の端子電圧はぴったり同じにはならない。
たとえば、各電圧線・中性線の抵抗をそれぞれ0.1Ω、a側負荷20A・b側負荷10Aとする。この場合、中性線には差電流20−10=10Aが流れる。a側の端子電圧は、電源電圧105Vから、a側電圧線の降下(0.1Ω×20A=2V)と中性線の降下(0.1Ω×10A=1V)を差し引いて、105−2−1=102V。b側の端子電圧は、b側電圧線の降下(0.1Ω×10A=1V)を差し引き、中性線の降下(1V)が軽負荷側では逆に持ち上げに働くため、105−1+1=105Vになる。
ここで負荷を平衡させる(両側とも15A)と、2つの負荷電流が中性線上で打ち消し合い、中性線電流は0Aになる。
中性線を流れるのは、2つの負荷電流のベクトル差である。力率が同じなら2つの電流の向きがそろうので、 大きさの引き算(20−10=10A)でよい。ところが力率が違うと向きがずれるので、 そのまま引くと答えを外す。
たとえば、a側が10A・遅れ力率50%(電圧との位相差60度)、b側が10A・力率100%(位相差0度)の場合。 大きさは同じなので引き算では0Aになるが、実際には0にならない。 2つの電流の間には60度の開きがあり、同じ大きさのベクトルが角度だけ開いているときの差の大きさは なので、〔A〕が流れる。
「電流の大きさが同じだから中性線は0A」は、力率も同じときにしか成り立たない。 設問に力率が2つ書かれていたら、それはベクトルで扱えという合図だと考える。
負荷を平衡させて中性線電流が0Aになったとき、両側の端子電圧は、中性線での電圧降下が消える分、105−0.1×15=103.5Vで等しくなる。
中性線が断線すると、回路の形そのものが変わる
問題は、この中性線が何らかの理由で切れたときだ。断線した瞬間、2つの100V回路はもう「別々の回路」ではなくなる。生きている2本の電圧線の間、つまり200Vの電源に対して、2つの負荷が直列でぶら下がる1つの単相回路に姿を変える。
このとき、それぞれの負荷にかかる電圧は、抵抗(インピーダンス)の比で決まる分圧則にしたがう。断線後は負荷1(R1)と負荷2(R2)が単純に直列につながった1つの回路になっているので、オームの法則からそのまま導ける。回路に流れる電流はI=200/(R1+R2)(直列合成抵抗で200Vを割るだけ)。この電流は負荷1にも負荷2にも共通で流れるので、それぞれの電圧はV1=I×R1、V2=I×R2となる。Iを代入すると、
V1 = 200 × R1 / (R1 + R2)、V2 = 200 × R2 / (R1 + R2)
という形になる。特別な公式を新しく覚える必要はなく、直列回路の基本(電流共通・電圧は抵抗比で配分)がそのまま断線後の回路にも使えている。
たとえば負荷1がR1=40Ω(消費電力が小さい待機中の機器)、負荷2がR2=10Ω(消費電力が大きい電子レンジ)だとすると、回路電流I=200/(40+10)=4A。V1=4×40=160V、V2=4×10=40V。検算として160V+40V=200Vとなり、電源電圧と一致することを確認できる。もしR1とR2を取り違えて計算してしまうと、V1=40V・V2=160Vという逆の答えになり、「どちらの機器が高電圧を受けるか」という肝心の部分が正反対になってしまう――だからこそ、どちらが軽負荷(抵抗大)でどちらが重負荷(抵抗小)かを、計算の前に必ず確認する必要がある。
対策 ― バランサと欠相保護
現場では、負荷端の近くにバランサ(単巻変圧器)を設置することがある。不平衡な負荷があっても、バランサが電流を吸収して2つの回路の電圧を平衡に保ち、断線時のような極端な電圧配分を防ぐ役割を果たす。
そして電技解釈第149条3項は、住宅屋内で中性線を持つ分岐回路を施設すること自体を原則として禁止し、例外として認める場合には、専用配線であるか、欠相時に異常電圧が加わらない施設であるか、欠相時に自動遮断する装置を求めている。今回計算したV=200×R1/(R1+R2)という異常電圧そのものが、この条文が存在する理由だ。
200V負荷が混ざっている場合はどうなるか
実際の単相3線式の回路には、100V負荷だけでなく、L1-L2間(線間)に直接つながる200V負荷(エアコンの室外機やIH調理器など)が混在していることが多い。中性線が断線したとき、この200V負荷はどう扱えばよいのか。
答えは「分圧の計算には入れない」だ。200V負荷はもともとL1-L2間(線間)に直接接続されており、中性線をまたいでいない。中性線が断線しても、この負荷の接続のされ方そのものは断線前とまったく変わらない。断線後に直列の鎖ができるのは、あくまで中性線をまたいで100Vずつ接続されている負荷どうし(負荷1と負荷2)だけであり、200V負荷はその鎖に加わらない、単なる並列の枝のままだ。
断線という「見えない事故」を数字で先読みする
今日試せることとして、自宅や職場の分電盤で単相3線式(200Vと100Vの両方が取れるタイプ)を見かけたら、中性線がどの線かを意識してみるといい。実際に触れる必要はないが、「この線が切れたら何が起きるか」を頭の中で計算できるようになっているはずだ。
中性線の断線は、ヒューズが切れるような分かりやすい故障ではなく、家電が次々と原因不明で壊れるという形で現れることが多い。この理論を知っているかどうかが、原因究明のスピードを大きく左右する。
冒頭の160Vがどこから生まれたのか、答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。