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電気に関する基礎理論 ・ 8 / 10

単相3線式 ― 中性線が断線したときの電圧配分

読み終えると、こうなる

電子レンジをつけた瞬間に他の家電が異常に明るくなったり壊れたりする現象を、電力会社のせいではなく回路の構造として説明できるようになる

  • 単相3線式の中性線が断線したとき、200Vがどちらの負荷にどれだけ配分されるかを抵抗比から計算できる
  • 消費電力が小さい(抵抗が大きい)側の負荷ほど、断線時に高い電圧を受けて壊れやすいと判断できる
  • 住宅の分岐回路で中性線を持つ配線が原則禁止されている理由を、この電圧配分の式と結びつけて説明できる
  • 断線していない通常運転でも、負荷を平衡させると両側の電圧が近づき中性線の電流・損失が減ると、数値例で説明できる
考えてみよう

アパートの一室で電子レンジを使った瞬間、廊下の照明が異様に明るくなり、待機中だったテレビが壊れた。コンセントを測ると、100Vのはずの場所から160V近くも出ている。電力会社は何も変えていないと言う。

同じ配線、同じ電力会社の電気なのに、この60Vはどこから湧いて出たのか。

見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、この160Vという半端な数字を、自分で計算して出せるようになっている。

二種電気工事士の配電方式では、単相3線式について「平衡していれば中性線に電流は流れない」というところまでを学んだ。ここでは、その中性線が断線した場合に何が起きるかまで踏み込む。

平衡時の単相3線式のおさらい

単相3線式は、変圧器の中性点から引き出した中性線と、両外側の電圧線の3本で電力を送る方式だ。中性線を挟んで100Vが2系統でき、機器によって100Vと200Vを使い分けられる。2つの100V負荷の消費電力が釣り合っている(平衡)状態では、それぞれの負荷電流が中性線上で打ち消し合い、中性線にはほとんど電流が流れない。

断線していなくても、不平衡なら電圧はわずかにずれる

中性線が生きたまま(断線していない)通常運転でも、実は電圧線・中性線には抵抗(線路インピーダンス)があるため、負荷が不平衡だと両側の端子電圧はぴったり同じにはならない。

たとえば、各電圧線・中性線の抵抗をそれぞれ0.1Ω、a側負荷20A・b側負荷10Aとする。この場合、中性線には差電流20−10=10Aが流れる。a側の端子電圧は、電源電圧105Vから、a側電圧線の降下(0.1Ω×20A=2V)と中性線の降下(0.1Ω×10A=1V)を差し引いて、105−2−1=102V。b側の端子電圧は、b側電圧線の降下(0.1Ω×10A=1V)を差し引き、中性線の降下(1V)が軽負荷側では逆に持ち上げに働くため、105−1+1=105Vになる。

ここで負荷を平衡させる(両側とも15A)と、2つの負荷電流が中性線上で打ち消し合い、中性線電流は0Aになる。

**この「引き算」が使えるのは、両側の負荷の力率が同じときだけだ。**

中性線を流れるのは、2つの負荷電流のベクトル差である。力率が同じなら2つの電流の向きがそろうので、 大きさの引き算(20−10=10A)でよい。ところが力率が違うと向きがずれるので、 そのまま引くと答えを外す。

たとえば、a側が10A・遅れ力率50%(電圧との位相差60度)、b側が10A・力率100%(位相差0度)の場合。 大きさは同じなので引き算では0Aになるが、実際には0にならない。 2つの電流の間には60度の開きがあり、同じ大きさIIのベクトルが角度θ\thetaだけ開いているときの差の大きさは 2Isin(θ/2)2I\sin(\theta/2)なので、2×10×sin30°=102 \times 10 \times \sin 30° = 10〔A〕が流れる。

「電流の大きさが同じだから中性線は0A」は、力率も同じときにしか成り立たない。 設問に力率が2つ書かれていたら、それはベクトルで扱えという合図だと考える。

負荷を平衡させて中性線電流が0Aになったとき、両側の端子電圧は、中性線での電圧降下が消える分、105−0.1×15=103.5Vで等しくなる。

平衡化の効果は3つある。**①重負荷側の電圧は上がり、軽負荷側は下がって、両側が等しくなる。②中性線電流が0になり、中性線での電力損失が消え、線路損失全体も減る。③中性線が万一断線しても、平衡していれば異常電圧を生じにくい。** バランサ(単巻変圧器)を設置するのも、これと同じ効果(電圧の平衡化)を人工的に作り出すためだ。断線していない通常運転での電圧のずれ(102V・105V)と、断線後の異常電圧(160V級)は、規模がまったく違う点も区別しておきたい。

中性線が断線すると、回路の形そのものが変わる

問題は、この中性線が何らかの理由で切れたときだ。断線した瞬間、2つの100V回路はもう「別々の回路」ではなくなる。生きている2本の電圧線の間、つまり200Vの電源に対して、2つの負荷が直列でぶら下がる1つの単相回路に姿を変える。

中性線断線後の単相3線式 200V(電源) 負荷1(R1=40Ω) 負荷2(R2=10Ω) V1=160V V2=40V 中性線は断線している 断線後は200Vが2つの負荷に抵抗比で配分される

このとき、それぞれの負荷にかかる電圧は、抵抗(インピーダンス)の比で決まる分圧則にしたがう。断線後は負荷1(R1)と負荷2(R2)が単純に直列につながった1つの回路になっているので、オームの法則からそのまま導ける。回路に流れる電流はI=200/(R1+R2)(直列合成抵抗で200Vを割るだけ)。この電流は負荷1にも負荷2にも共通で流れるので、それぞれの電圧はV1=I×R1、V2=I×R2となる。Iを代入すると、

V1 = 200 × R1 / (R1 + R2)、V2 = 200 × R2 / (R1 + R2)

という形になる。特別な公式を新しく覚える必要はなく、直列回路の基本(電流共通・電圧は抵抗比で配分)がそのまま断線後の回路にも使えている。

たとえば負荷1がR1=40Ω(消費電力が小さい待機中の機器)、負荷2がR2=10Ω(消費電力が大きい電子レンジ)だとすると、回路電流I=200/(40+10)=4A。V1=4×40=160V、V2=4×10=40V。検算として160V+40V=200Vとなり、電源電圧と一致することを確認できる。もしR1とR2を取り違えて計算してしまうと、V1=40V・V2=160Vという逆の答えになり、「どちらの機器が高電圧を受けるか」という肝心の部分が正反対になってしまう――だからこそ、どちらが軽負荷(抵抗大)でどちらが重負荷(抵抗小)かを、計算の前に必ず確認する必要がある。

断線時に高い電圧を受けるのは、消費電力が**小さい**(抵抗が**大きい**)側の負荷だ。「電力を多く使っている機器のほうが影響を受けそう」という直感とは逆で、**待機中でおとなしくしている機器のほうが、危険な高電圧を受け取ってしまう。**これが、電子レンジを使った瞬間に別の部屋の家電が壊れる、という一見不合理な現象の正体だ。

対策 ― バランサと欠相保護

現場では、負荷端の近くにバランサ(単巻変圧器)を設置することがある。不平衡な負荷があっても、バランサが電流を吸収して2つの回路の電圧を平衡に保ち、断線時のような極端な電圧配分を防ぐ役割を果たす。

そして電技解釈第149条3項は、住宅屋内で中性線を持つ分岐回路を施設すること自体を原則として禁止し、例外として認める場合には、専用配線であるか、欠相時に異常電圧が加わらない施設であるか、欠相時に自動遮断する装置を求めている。今回計算したV=200×R1/(R1+R2)という異常電圧そのものが、この条文が存在する理由だ。

200V負荷が混ざっている場合はどうなるか

実際の単相3線式の回路には、100V負荷だけでなく、L1-L2間(線間)に直接つながる200V負荷(エアコンの室外機やIH調理器など)が混在していることが多い。中性線が断線したとき、この200V負荷はどう扱えばよいのか。

200V負荷が混ざっている場合の断線後の回路 200V(電源) 負荷1(R1)100V系 負荷2(R2)100V系 200V負荷(R3) R3はL1-L2間に直接並列。分圧の計算には無関係のまま 200V負荷(R3)は中性線をまたがず、断線の前後で接続状態が変わらない並列の枝のまま残る

答えは「分圧の計算には入れない」だ。200V負荷はもともとL1-L2間(線間)に直接接続されており、中性線をまたいでいない。中性線が断線しても、この負荷の接続のされ方そのものは断線前とまったく変わらない。断線後に直列の鎖ができるのは、あくまで中性線をまたいで100Vずつ接続されている負荷どうし(負荷1と負荷2)だけであり、200V負荷はその鎖に加わらない、単なる並列の枝のままだ。

「負荷が3つあるから、3つとも直列の分圧計算に入れなければならない」という思い込みは誤りだ。**分圧の鎖に加わるのは、中性線をまたいで接続されている負荷どうしだけ。** L1-L2間に直接ぶら下がる200V負荷は、断線の前後で接続状態が変わらない以上、理想電源(線路インピーダンスを無視するモデル)では分圧比に一切影響しない、独立した並列の枝として扱えばよい。

断線という「見えない事故」を数字で先読みする

今日試せることとして、自宅や職場の分電盤で単相3線式(200Vと100Vの両方が取れるタイプ)を見かけたら、中性線がどの線かを意識してみるといい。実際に触れる必要はないが、「この線が切れたら何が起きるか」を頭の中で計算できるようになっているはずだ。

中性線の断線は、ヒューズが切れるような分かりやすい故障ではなく、家電が次々と原因不明で壊れるという形で現れることが多い。この理論を知っているかどうかが、原因究明のスピードを大きく左右する。

冒頭の160Vがどこから生まれたのか、答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。

出題者のワナ — ここで受験者を転ばせにくる

この論点は、知っているだけでは足をすくわれる。試験でよく仕掛けられる崩し方を、先に知っておこう。

  1. 中性線が断線しても、平衡時と同じように各負荷に100Vずつかかり続けると錯覚させる

    なぜ引っかかる二種で『平衡していれば中性線電流ゼロ』と覚えたイメージが強く残っていると、中性線そのものが無くなっても100V・100Vのままだと思い込みやすい。実際は中性線が切れた時点で回路の構造そのものが変わる

    見破り方中性線が断線した瞬間、回路図を描き直す。2つの負荷が別々の100V回路ではなく、200Vの電源に対して直列につながった1つの回路になっている、という新しい絵を最初に描いてから計算する

  2. 断線時に電圧が高くなるのは『抵抗が小さい側』だと逆に覚えさせる

    なぜ引っかかる消費電力が大きい負荷ほど『強い』というイメージから、抵抗が小さい(電力を多く消費する)側のほうが高い電圧を受けそうに感じるが、実際は逆で、抵抗が大きい(消費電力が小さい)側のほうが高い電圧を受ける

    見破り方V1=200×R1/(R1+R2)という式で、Rが大きいほど分子も大きくなることを式の形で確認する。電圧配分は抵抗の比に比例するという分圧則の基本に立ち返れば、大小関係を逆にせずに済む

  3. L1-L2間(線間)に直接つながる200V負荷を、分圧計算の3つ目の抵抗として直列の鎖に混ぜて計算させる

    なぜ引っかかる断線後の回路図に3つの負荷(100V×2、200V×1)が同時に描かれていると、3つとも同じ直列の鎖の一部だと錯覚しやすい

    見破り方断線の前後で、その負荷の接続状態が変わったかどうかを確認する。200V負荷はもともとL1-L2間に直接つながっており、中性線をまたいでいないため、断線前後で接続状態が変わらない。中性線をまたいで直列の鎖になるのは、100V負荷どうしだけだと線引きする

  4. 中性線が断線していない通常運転でも、不平衡なら電圧配分が乱れることを、断線時と同じ大きさの異常だと錯覚させる

    なぜ引っかかる『中性線が生きているか切れているか』の違いを意識せず、不平衡というだけで同じ規模の電圧異常が起きると考えてしまいやすい

    見破り方中性線が生きている通常運転では、線路抵抗による電圧降下の差はわずか(数V程度)にとどまる。中性線が断線して初めて、200Vが抵抗比でそのまま配分される規模の異常(100V超の差)が生じる、という規模の違いを区別する

参考文献・出典

理解度チェック(7問)

このトピックの内容がどれくらい身についたか、7問で確認しよう。 内訳は基本4問・応用2問・ひっかけ1問。基本が解けたら、条件を足した応用と、本番で足をすくいにくるひっかけまで踏み込む。

/ 7 問正解

覚えておきたいポイント

  1. 単相3線式は平衡していれば中性線に電流が流れず、100V×2系統として問題なく使える(二種で既出)
  2. 中性線が断線すると、2つの100V負荷が200Vに直列でつながった単相回路に姿を変える
  3. 断線時に負荷が3つ以上ある場合は、まず同じ側にある負荷どうしを合成してから分圧する。たとえばA・Bが片側に並列、Cが反対側にあるなら、A//Bの合成抵抗とCの直列回路として100V+100V=200Vを分圧する。負荷が2つの例をそのまま当てはめると、並列合成の一手を飛ばして誤答になる
  4. 断線後の電圧配分はV1=200×R1/(R1+R2)。抵抗(インピーダンス)が大きい側=消費電力が小さい側ほど高い電圧を受ける
  5. L1-L2間(線間)に直接つながる200V負荷が混在していても、断線前後で接続状態が変わらない並列の枝にすぎない。分圧の計算に混ぜてはいけない
  6. バランサ(単巻変圧器)を負荷端近くに設置すると、不平衡があっても電圧を平衡させ、中性線がなくても電圧配分の異常を抑えられる
  7. 電技解釈第149条3項は、住宅屋内で中性線を有する分岐回路を原則として禁止し、欠相時に異常電圧が生じない施設か自動遮断装置を求めている
  8. 断線していない通常運転でも、電圧線・中性線に抵抗(線路インピーダンス)がある以上、負荷が不平衡だと中性線に差電流が流れ、両側の負荷端子電圧はわずかに不揃いになる(重負荷側は下がり、軽負荷側は上がる)。負荷を平衡させると中性線電流がゼロになり、両側の端子電圧が一致して中性線での損失も消える
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