三相Y結線の電動機のそばで、線間電圧の波形と、負荷1相(巻線)の両端の波形を同時にオシロスコープで観測した。大きさが違うのは知っている(√3倍の関係だ)。ところが、波の山と谷が来るタイミングまで、きっちり30度ずれていた。
同じ電源から出ている電気のはずなのに、なぜ「タイミング」まで変わってしまうのか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、この30度のずれがどこから生まれるのかを、自分で描いて説明できるようになっている。
二種電気工事士の三相回路では、「線間電圧=√3×相電圧」という大きさの関係式だけを使って計算を済ませてきた。ここでは、その関係の裏にある位相(タイミング)まで踏み込み、負荷が単純な抵抗でなくインピーダンスになった場合の計算にも広げる。
なぜ√3倍と同時に30度ずれるのか
Y結線の3つの相電圧は、それぞれ120度ずつタイミングがずれた波だ。線間電圧は、この3つのうち隣り合う2つの相電圧の「差」として生まれる。
3つの相電圧を120度ずつずらして描き、隣り合う2本の矢印(ベクトル)の差を取ると、その差のベクトルは元の相電圧より長く(√3倍)、しかも向きが30度傾いた位置にできる。これが「線間電圧=√3×相電圧」という式の、位相まで含めた本当の姿だ。
なぜ√3という数字が出てくるのか、実際に計算して確かめてみる。2つの相電圧(大きさVp、なす角120度)の差を取ると、大きさが等しい2本のベクトルがなす角120度の二等辺三角形ができる。この三角形の底辺(差のベクトル、つまり線間電圧)の長さは、頂角120度を二等分して直角三角形として解くと、Vl = 2・Vp・cos30° という形になる。cos30°=√3/2なので、Vl=2・Vp×(√3/2)=√3・Vp。「2倍してcos30°を掛ける」という幾何学的な操作をすると、ちょうど√3倍という数字が出てくる――これが暗記でなく計算で導ける、という意味だ。そして、この二等辺三角形の頂角が120度・底角が30度になっていることが、そのまま「線間電圧は相電圧に対して30度傾く」という位相のずれの根拠にもなっている。大きさの√3と位相の30度は、この1つの三角形の中に同時に含まれている。
負荷がインピーダンスになったら
二種の三相回路は、抵抗だけの負荷で計算が済んだ。一種では、負荷がコイルを含むインピーダンスZ=√(R²+X²)になる。この場合も、考え方は変わらない。1相分だけを取り出して、単相回路として解く。
Y結線なら、負荷1相にかかるのは相電圧Vp=Vl/√3。1相に流れる電流は、
Ip = Vp / Z
線間電圧200V、負荷が1相あたりR=6Ω・X=8Ω(Z=10Ω)なら、相電圧は200/√3≒115.5V、電流はIp=115.5/10≒11.5A。Y結線ではIp=Il(線電流と相電流が等しい)なので、これがそのまま線電流にもなる。
力率もこのインピーダンスの中身から求める。cosθ=R/Z=6/10=0.6。二種の抵抗負荷ではcosθ=1が当たり前だったが、一種ではこの0.6のような値を、負荷の内訳から自分で計算する場面が増える。
三相電力の式そのものは変わらない。
P = √3・Vl・Il・cosθ = 3・Vp・Ip・cosθ
結線がYであれΔであれ、負荷が抵抗であれインピーダンスであれ、この式の形はずっと同じだ。変わるのは、cosθや電流の値を、負荷の中身に応じて正しく求められるかどうかにある。
実際にこの回路(線間電圧200V、1相あたりZ=10Ω・R=6Ω)の全消費電力を、2通りの式で計算して一致することを確かめてみる。1相分の式では、P=3・Vp・Ip・cosθ=3×115.5×11.5×0.6≒2390W。線間電圧・線電流の式では、Il=Ip=11.5A(Y結線)なので、P=√3・Vl・Il・cosθ=1.732×200×11.5×0.6≒2390W。どちらの式でも同じ答えにたどり着く――これは偶然ではなく、P=√3VlIlcosθという式自体が、Vl=√3VpとIl=Ipという関係を代入して1相分の式から作られているためだ。検算としてこの2通りの計算を照らし合わせる習慣をつけておくと、途中の計算ミスにも自分で気づける。
PとQとSを、1つの手順でまとめて出す
試験では1つの三相負荷について、線電流・有効電力・無効電力・皮相電力を続けて問われる。 バラバラの公式として覚えると、聞かれるたびに思い出し直すことになる。順序を固定しておけばいい。
- Z = √(R² + X²) … 1相分のインピーダンス
- I = V / (√3 Z)(Y結線の場合)… 線電流
- cosθ = R/Z、sinθ = X/Z … 力率と、その相方
ここまで出せば、あとは同じ形の3本に入れるだけだ。
| 求めるもの | 式 |
|---|---|
| 有効電力 P〔W〕 | √3 · V · I · cosθ |
| 無効電力 Q〔var〕 | √3 · V · I · sinθ |
| 皮相電力 S〔V·A〕 | √3 · V · I |
3本とも「√3 VI」までは共通で、後ろに cosθ を付けるか、sinθ を付けるか、何も付けないかの 違いしかない。Sが力率を含まないのは、皮相電力が「見かけ上どれだけ電気を流しているか」であって、 そのうちどれだけ仕事をしたかを問わない量だからだ。
ベクトル図は「近道」であって「飾り」ではない
ベクトル図を描く力は、この先のΔ結線の断線パターンや、1相分の等価回路への還元でも土台として使い続ける。今日試せることとして、教科書やノートに描かれた三相のベクトル図を見たら、「これは大きさの関係を表しているのか、位相の関係を表しているのか」を自問してみるといい。両方が同時に描かれていることに気づけたら、この回のポイントは押さえられている。
工場のモーター制御盤や高圧受電設備では、力率を測る計器(力率計)が実際に設置されている。それが示す数値の裏側には、今回見たcosθ=R/Zという関係が隠れている。
冒頭の30度のずれがどこから生まれていたのか、答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。