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電気に関する基礎理論 ・ 5 / 10

Y結線のベクトル図とインピーダンス負荷

読み終えると、こうなる

三相の負荷の中身が単純な抵抗ではなくコイルや進相コンデンサを含むと分かったとき、電流の計算がどう変わるかを見通せるようになる

  • Y結線の相電圧が線間電圧に対して30度遅れていることを、ベクトル図から読み取れる
  • 負荷がZ=√(R²+X²)のインピーダンスでも、Ip=Vp/Zという1相分の式にすぐ落とし込める
  • 三相電力を求めるとき、cosθを負荷のR/Zから正しく取り出せる
考えてみよう

三相Y結線の電動機のそばで、線間電圧の波形と、負荷1相(巻線)の両端の波形を同時にオシロスコープで観測した。大きさが違うのは知っている(√3倍の関係だ)。ところが、波の山と谷が来るタイミングまで、きっちり30度ずれていた。

同じ電源から出ている電気のはずなのに、なぜ「タイミング」まで変わってしまうのか。

見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、この30度のずれがどこから生まれるのかを、自分で描いて説明できるようになっている。

二種電気工事士の三相回路では、「線間電圧=√3×相電圧」という大きさの関係式だけを使って計算を済ませてきた。ここでは、その関係の裏にある位相(タイミング)まで踏み込み、負荷が単純な抵抗でなくインピーダンスになった場合の計算にも広げる。

なぜ√3倍と同時に30度ずれるのか

Y結線の3つの相電圧は、それぞれ120度ずつタイミングがずれた波だ。線間電圧は、この3つのうち隣り合う2つの相電圧の「差」として生まれる。

Y結線のベクトル図(相電圧と線間電圧) Vr(相電圧) Vs(相電圧) Vt(相電圧) Vrs(線間電圧) Vr−Vsが線間電圧で、Vrに対し30度傾く 2つの相電圧のベクトル差を取ると、大きさは√3倍・位相は30度傾く

3つの相電圧を120度ずつずらして描き、隣り合う2本の矢印(ベクトル)の差を取ると、その差のベクトルは元の相電圧より長く(√3倍)、しかも向きが30度傾いた位置にできる。これが「線間電圧=√3×相電圧」という式の、位相まで含めた本当の姿だ。

なぜ√3という数字が出てくるのか、実際に計算して確かめてみる。2つの相電圧(大きさVp、なす角120度)の差を取ると、大きさが等しい2本のベクトルがなす角120度の二等辺三角形ができる。この三角形の底辺(差のベクトル、つまり線間電圧)の長さは、頂角120度を二等分して直角三角形として解くと、Vl = 2・Vp・cos30° という形になる。cos30°=√3/2なので、Vl=2・Vp×(√3/2)=√3・Vp。「2倍してcos30°を掛ける」という幾何学的な操作をすると、ちょうど√3倍という数字が出てくる――これが暗記でなく計算で導ける、という意味だ。そして、この二等辺三角形の頂角が120度・底角が30度になっていることが、そのまま「線間電圧は相電圧に対して30度傾く」という位相のずれの根拠にもなっている。大きさの√3と位相の30度は、この1つの三角形の中に同時に含まれている。

「√3倍になる」という大きさの変化と、「30度ずれる」という位相の変化は、まったく別々に起きているのではない。**2つのベクトルの差を取る、というただ1つの操作の中に、両方の変化が同時に含まれている。**線間電圧を測っているつもりでも、実は「2つの相電圧の関係」を見ている——この視点を持つと、三相回路のベクトル図がただの図ではなく、計算の近道として使えるようになる。

負荷がインピーダンスになったら

二種の三相回路は、抵抗だけの負荷で計算が済んだ。一種では、負荷がコイルを含むインピーダンスZ=√(R²+X²)になる。この場合も、考え方は変わらない。1相分だけを取り出して、単相回路として解く。

Y結線なら、負荷1相にかかるのは相電圧Vp=Vl/√3。1相に流れる電流は、

Ip = Vp / Z

線間電圧200V、負荷が1相あたりR=6Ω・X=8Ω(Z=10Ω)なら、相電圧は200/√3≒115.5V、電流はIp=115.5/10≒11.5A。Y結線ではIp=Il(線電流と相電流が等しい)なので、これがそのまま線電流にもなる。

力率もこのインピーダンスの中身から求める。cosθ=R/Z=6/10=0.6。二種の抵抗負荷ではcosθ=1が当たり前だったが、一種ではこの0.6のような値を、負荷の内訳から自分で計算する場面が増える。

三相電力の式そのものは変わらない。

P = √3・Vl・Il・cosθ = 3・Vp・Ip・cosθ

結線がYであれΔであれ、負荷が抵抗であれインピーダンスであれ、この式の形はずっと同じだ。変わるのは、cosθや電流の値を、負荷の中身に応じて正しく求められるかどうかにある。

実際にこの回路(線間電圧200V、1相あたりZ=10Ω・R=6Ω)の全消費電力を、2通りの式で計算して一致することを確かめてみる。1相分の式では、P=3・Vp・Ip・cosθ=3×115.5×11.5×0.6≒2390W。線間電圧・線電流の式では、Il=Ip=11.5A(Y結線)なので、P=√3・Vl・Il・cosθ=1.732×200×11.5×0.6≒2390W。どちらの式でも同じ答えにたどり着く――これは偶然ではなく、P=√3VlIlcosθという式自体が、Vl=√3VpとIl=Ipという関係を代入して1相分の式から作られているためだ。検算としてこの2通りの計算を照らし合わせる習慣をつけておくと、途中の計算ミスにも自分で気づける。

PとQとSを、1つの手順でまとめて出す

試験では1つの三相負荷について、線電流・有効電力・無効電力・皮相電力を続けて問われる。 バラバラの公式として覚えると、聞かれるたびに思い出し直すことになる。順序を固定しておけばいい。

  1. Z = √(R² + X²) … 1相分のインピーダンス
  2. I = V / (√3 Z)(Y結線の場合)… 線電流
  3. cosθ = R/Z、sinθ = X/Z … 力率と、その相方

ここまで出せば、あとは同じ形の3本に入れるだけだ。

求めるもの
有効電力 P〔W〕√3 · V · I · cosθ
無効電力 Q〔var〕√3 · V · I · sinθ
皮相電力 S〔V·A〕√3 · V · I

3本とも「√3 VI」までは共通で、後ろに cosθ を付けるか、sinθ を付けるか、何も付けないかの 違いしかない。Sが力率を含まないのは、皮相電力が「見かけ上どれだけ電気を流しているか」であって、 そのうちどれだけ仕事をしたかを問わない量だからだ。

sinθ は cosθ から **sinθ = √(1 − cos²θ)** で出せる。力率0.8なら sinθ = 0.6 だ。 ただし負荷の内訳(R と X)が与えられているなら、**sinθ = X/Z** と読むほうが速いし確実。 力率0.8→0.6の組は頻出なので、3:4:5の直角三角形として覚えておくと計算が止まらない。

ベクトル図は「近道」であって「飾り」ではない

ベクトル図を描く力は、この先のΔ結線の断線パターンや、1相分の等価回路への還元でも土台として使い続ける。今日試せることとして、教科書やノートに描かれた三相のベクトル図を見たら、「これは大きさの関係を表しているのか、位相の関係を表しているのか」を自問してみるといい。両方が同時に描かれていることに気づけたら、この回のポイントは押さえられている。

工場のモーター制御盤や高圧受電設備では、力率を測る計器(力率計)が実際に設置されている。それが示す数値の裏側には、今回見たcosθ=R/Zという関係が隠れている。

冒頭の30度のずれがどこから生まれていたのか、答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。

出題者のワナ — ここで受験者を転ばせにくる

この論点は、知っているだけでは足をすくわれる。試験でよく仕掛けられる崩し方を、先に知っておこう。

  1. Y結線の相電圧と線間電圧を、大きさの関係(√3倍)だけで覚え、位相が30度ずれていることを見落とす

    なぜ引っかかる二種では『線間電圧=√3×相電圧』という大きさの関係式だけを使えば計算できたため、両者の位相がそもそも一致していないという事実に触れずに済んでいた。一種ではベクトル図を描かせる設問があり、大きさの関係式だけでは位相を答えられない

    見破り方ベクトル図を描くときは、まず3つの相電圧を120度ずつずらして描き、線間電圧は隣り合う2つの相電圧のベクトル差として描く。その差のベクトルは、元の相電圧に対して必ず30度傾いた位置に来る

  2. 負荷がインピーダンスZになった途端、力率を1(純抵抗)だと決めつけて計算する

    なぜ引っかかる二種の三相回路は抵抗負荷が中心だったため、cosθ=1という前提に慣れている。一種ではコイルを含む負荷や進相コンデンサ付きの負荷が出題され、cosθ=R/Zという計算が必要になる場面で、そのまま1を使ってしまう

    見破り方負荷の内訳にR(抵抗分)とX(リアクタンス分)の両方が示されていないかを先に確認する。示されていれば、Z=√(R²+X²)を計算してからcosθ=R/Zを求める、という手順を1相分の計算に必ず組み込む

参考文献・出典

理解度チェック(5問)

このトピックの内容がどれくらい身についたか、5問で確認しよう。 内訳は基本3問・応用1問・ひっかけ1問。基本が解けたら、条件を足した応用と、本番で足をすくいにくるひっかけまで踏み込む。

/ 5 問正解

覚えておきたいポイント

  1. Y結線の相電圧Vpは線間電圧Vlに対して位相が30度ずれている(Vl=√3×Vp、Il=Ip)
  2. 負荷がインピーダンスZ=√(R²+X²)のとき、1相に流れる電流はIp=Vp/Z
  3. 力率cosθは負荷のR/Zで決まり、線間電圧・線電流だけからは分からない
  4. 三相電力P=√3・Vl・Il・cosθ=3・Vp・Ip・cosθは、結線や負荷の中身によらず同じ形で使える
  5. 三相の無効電力はQ=√3・Vl・Il・sinθ、皮相電力はS=√3・Vl・Il。有効電力Pと同じ形で、cosθをsinθに替えるか、力率の項を外すだけ。sinθはcosθから sinθ=√(1-cos²θ) で出せるほか、負荷のX/Zからも取り出せる
  6. 1つの三相負荷について、P・Q・Sの3つを同時に問われる問題が出る。Z=√(R²+X²)→I=V/(√3Z)→cosθ=R/Z・sinθ=X/Z の順で確定させてから、P=√3VIcosθ・Q=√3VIsinθ・S=√3VI に入れると、どれを聞かれても同じ手順で答えられる
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