月極駐車場の隅や雑居ビルの裏に置かれたキュービクル。フェンスで囲まれているわけでもなく、ただ無骨な金属の箱があり、扉には鍵がかかっているだけだ。中には高圧6.6kVの電気が通っている。柵で囲うでもなく、ただ箱に入れて鍵をかけるだけで、なぜそれが法令上「安全な施設方法」として認められているのか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、この「箱と鍵だけ」という方式が、法令のどの条文にどう根拠づけられているかを説明できるようになっている。
まず押さえておきたいのは、電技解釈という条文の中に「キュービクル」という言葉そのものは出てこないという点だ。この設備の法的な骨格は、第21条(高圧の機械器具の施設)と第38条(発電所等への立入防止)という2つの条文の組み合わせでできている。
第21条は、高圧の機械器具を安全に施設する方法として複数の選択肢を並べている。
- 第二号:さく・へい等を設ける場合は、さくの高さと、さくから充電部までの距離の和を5m以上とし、危険である旨の表示をする
- 第三号:柱上等に施設する場合は、地表上4.5m以上(市街地外は4m以上)の高さに施設する
- 第四号:コンクリート製の箱又はD種接地工事を施した金属製の箱に収め、充電部分が露出しないように施設する
このうち第四号が、まさにキュービクルの原型だ。さく・へいで「距離をとって隔離する」のではなく、「箱に収めて充電部そのものを見えなくする」という発想の転換がここにある。
さく・へい方式の「高さと距離の和が5m以上」という条件は、足し算になっている点に意味がある。フェンスを低くする代わりに充電部までの距離を大きく取ってもよいし、逆に敷地が狭くて距離を取れないなら、フェンスを高くすることで補える。どちらか一方だけを見て「フェンスの高さは基準を満たしているから安全」と判断すると、実際には充電部までの距離が足りず、合計で5mに届いていない、という見落としが起こりうる。高さと距離は別々の基準ではなく、必ず足し合わせて確認する必要がある。
扉の施錠については、第21条とは別に第38条第3項第二号イが根拠になる。この条文は「第21条第四号に準じるとともに、機械器具等を収めた箱を施錠すること」を求めている。つまり、箱に収めて充電部を露出させないという第21条の要件と、無関係な人物の立入を防ぐために鍵をかけるという第38条の要件は、別の目的から重ねて課されている2階建ての規制だ。この2階建て構造を知らずに施工すると、立派な金属製の箱を用意して充電部の露出という第21条の要件は満たしていても、扉に鍵をかけ忘れれば第38条の要件を満たせていない、という中途半端な状態に陥る。箱の構造だけを見て「もう安全だ」と判断せず、施錠まで含めて初めて要件を満たす、という順序を意識する必要がある。
一方で、現場でよく話題になる「点検を行う面は0.6m以上、操作を行う面は1.0m以上」という保有距離や、「屋外設置なら建築物から3m離す」という離隔距離は、電技解釈の条文には出てこない。これらは、東京都の公開基準(「キユービクル式変電設備等の基準」)や高圧受電設備規程(JEAC 8011)という電技解釈とは別の基準に基づく数値であり、「電技解釈の第◯条に書いてある」と断定できるものではない、という区別を持っておく必要がある。
保有距離 ― 面ごとに違う数字
キュービクルの周囲には、点検・操作・換気のために、面ごとに違う広さの空間を確保する。東京都の公開基準(自治体の例規集として無償で全文確認できる)では、点検を行う面0.6m以上、操作を行う面1.0m以上、換気口を有する面0.2m以上、キュービクル式以外の設備との間は1.0m以上とされている(屋内・屋外共通。屋外で隣接建築物が不燃材料・防火設備の場合の緩和あり)。
換気口の金網 ― 小動物の侵入を防ぐ
キュービクルの換気口は、内部の機器の発熱を逃がすための開口部だが、同時に外部からの侵入経路にもなる。消防庁告示第7号第三第七号ニは、換気口に金網、金属製がらり、防火ダンパーを設ける等の防火措置及び雨水等の侵入防止措置を求めている。
実務上この措置は、ネズミ・ヘビ・ヤモリといった小動物が換気口・電線引込口・腐食した隙間から侵入し、高圧充電部で短絡して波及事故(周辺一帯の停電)に至る事例を防ぐ役割も果たしている。対策は、換気口への目の細かい金網の設置、電線引込口・基礎の隙間の閉塞、相間バリアの設置、扉パッキン・腐食部の補修などだ。
キュービクルを見たとき、法令のどこに根拠があるかを言い当てられるようになる
この整理が頭に入ると、街で見かけるキュービクルの扉の鍵や、箱の材質が単なる仕様ではなく、複数の条文の要求を同時に満たすための設計だと分かるようになる。今日試せることとして、通勤・通学路のキュービクルを外から眺め、金属製の箱であること、扉に鍵がかかっていることを確認してみるといい。この2つがそれぞれ別の条文(第21条・第38条)の要求だと分かっていれば、見え方が変わってくるはずだ。
さく・へいで囲う方式ではなく箱に収める方式が主流になっているのは、都市部の限られた敷地でも安全な受電設備を設置できるからだ。省スペースであることと、充電部が露出しないことの両方を満たせる。第一種電気工事士がこのキュービクルの設置に関わるとき、法令上明記された要件(構造・施錠)と、業界規格・条例による実務上の目安(離隔距離)を区別して扱えるかどうかが、正確な施工計画の土台になる。
冒頭の「箱と鍵だけ」の設備、法令上どんな根拠に支えられていたのか。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。