電柱の根元近くから、斜めに地面へ伸びる棒がある。支線だ。よく見ると、電柱にぴったり寄せて急な角度で張ってある電柱と、電柱から大きく離れた場所まで斜めに伸ばしてある電柱がある。同じ電線を支えているはずなのに、なぜ角度がこんなにも違うのか。そして、もし同じ太さの支線を使うなら、どちらの張り方がより安全なのか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、この角度の違いが単なる敷地の都合ではなく、力の計算そのものだと説明できるようになっている。
支線とは何を支えているのか
電柱に張られた電線は、両側へ引っ張られている。電柱がまっすぐ1本だけで立っていられるのは、電線の引っ張る力(水平張力)に、電柱自身が耐えているからだ。だが、電線の引き留め箇所や、電線路が曲がる箇所、電線の本数が多い箇所では、電柱だけでは支えきれないほどの水平力がかかることがある。この不足分を補うために、電柱から斜めに張って地面に固定する棒が支線だ。
支線に必要な張力Tは、電線の水平張力Pと、支線が電柱となす角θから、T=P/sinθという式で求まる。ここで見落としやすいのが、θの取り方だ。θは支線と地面のなす角ではなく、支線と電柱(垂直線)のなす角を指す。
支線の太さと、地際の防食
電技解釈第61条は、支線に使う金属線の強さも具体的に定めている。引張強さは10.7kN以上、安全率は2.5以上。より線を使う場合は、素線3条以上をより合わせ、素線は直径2mm以上かつ引張強さ0.69kN/mm2以上の金属線とする。「3条以上・2mm以上」という2つの数字は、必ずセットで覚えておきたい。
もう1つ、見落とされがちなのが地際の防食だ。支線は地中に埋め込まれ、地表付近は雨水や土壌の水分に常にさらされる。木柱の場合を除き、地中部分及び地表上30cmまでの地際部分には、耐食性のあるもの又は亜鉛めっきを施した鉄棒を使用し、腐食し難い根かせに堅ろうに取り付けることが求められる。根かせとは、支線の下端を地中で固定する板状・アンカー状の金具のことだ。地際は目に見えにくい部分だからこそ、腐食が進んで支線が切れれば、電柱を支える力そのものが失われる。
道路を横断する箇所に支線を張る場合は、高さの基準も加わる。路面上5m以上(やむを得ない場合は4.5m以上、歩道部分は2.5m以上)。電線と接触するおそれがある支線の上部には、がいしを挿入して絶縁を確保する。
支線を必ず設けなければならない箇所(第62条)
第61条が支線そのものの強さを定めるのに対し、電技解釈第62条は「どこに支線を設けなければならないか」を定める。対象は高圧・特別高圧架空電線路の木柱・A種鉄筋コンクリート柱・A種鉄柱で、次の3つの場合に支線を要する。
- 電線路の水平角度が5度以下であっても、両側の径間の差が著しく大きい場合は、電線路に平行な方向の両側に支線を設ける(径間差による不平均張力への対策)
- 電線路の水平角度が5度を超える場合は、その水平横分力に耐える支線を設ける
- 全ての架渉線を引き留める柱には、電線路の方向に支線を設ける
支持物の強度計算で考慮する荷重
支線と並んで支持物(電柱・鉄塔)の強度計算を左右するのが、風圧荷重だ。電技解釈第58条は、風圧荷重を季節と氷雪の有無によって次の3種類(プラス1種類)に分けている。
| 種類 | 想定する状態 | 適用場面 |
|---|---|---|
| 甲種風圧荷重 | 構成材の垂直投影面に加わる風圧を基礎に計算 | 高温季・全地方に適用する基本の荷重 |
| 乙種風圧荷重 | 架渉線の周囲に厚さ6mm・比重0.9の氷雪が付着した状態を基礎に、甲種の0.5倍を計算 | 低温季・氷雪の多い地方 |
| 丙種風圧荷重 | 甲種の0.5倍 | 低温季・氷雪の少ない地方等 |
| 着雪時風圧荷重 | 比重0.6の雪が同心円状に付着した状態を基礎に、甲種の0.3倍 | 異常着雪時想定荷重の計算用 |
木柱については、電技解釈第59条により風圧荷重に対する安全率が2.0以上と定められ、樹種別のわん曲破壊強度の表を用いて計算する。径間の制限も第63条にあり、木柱・A種柱は150m以下、B種柱は250m以下、鉄塔は600m以下(170kV未満・長径間工事以外)とされている。
安全率は「割る数」— 計算のどこで使うのか
支線の計算問題には、安全率が条件として混ぜられる。「支線の許容張力24.8kN、安全率2.0とする」というように与えられ、これをどこで使うのかが分からないと先へ進めない。
安全率の使い方は1つだけだ。許容張力を安全率で割って、実際に使ってよい張力を出す。
順番も大事だ。先に安全率で割ってから、 の計算に入る。 「素材が耐えられる限界(許容張力)」と「設計で使ってよい値」は別物で、その差を作るのが安全率だという構造を押さえておけば、割るのか掛けるのかで迷わない。
なぜ割るのか。安全率とは「限界に対して、何倍の余裕を見ておくか」を表す数字だ。安全率2.0は「限界の半分までしか使わない」という意味になる。だから限界値を安全率で割ると、使ってよい上限が出る。安全率が大きいほど、使える値は小さくなる——余裕を多く取るのだから当然だ。
電技解釈が支線に求めている安全率(架空電線路の支持物に施設する支線は原則2.5以上、第62条・第70条第3項により施設する支線は1.5以上)も同じ考え方で、条文の数字は「これ以上の余裕を見よ」という下限を示している。計算問題で与えられる安全率は、その条件を具体的な数値にしたものだ。
斜めの棒の角度に、計算が見えてくる
この関係が頭に入ると、電柱の支線の角度が単なる設置スペースの都合ではなく、T=P/sinθという力のつり合いの結果だと分かるようになる。今日試せることとして、通勤・通学路の電柱を見かけたら、支線が電柱に対してどれくらいの角度で張られているかを目測してみるといい。急な角度の支線ほど、実は見た目以上に強い張力を受け持っている。
支線の強度・防食・設置角度がこれだけ細かく定められているのは、支線が切れれば電柱そのものが倒れかねないからだ。電柱の倒壊は、電線の断線や周辺への被害に直結する。だからこそ、目立たない斜めの棒1本にも、引張強さ・安全率・防食・角度という複数の視点からの基準が重ねられている。
冒頭の疑問、電柱に近い急角度の支線と、大きく広げた支線、どちらがより安全だったのか。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。