停電の夜、電気自動車から住宅へ電気を送り返すV2H。そのとき車と家をつなぐのは、たった1本の黒い電線だ。この電線は、家の壁の中を走るVVFケーブルよりはるかに過酷な扱いを受ける。毎日抜き差しされ、地面を引き回され、ときに踏まれ、雨にも濡れる。
条文はこの電線に、キャブタイヤケーブルという移動電線用のケーブルを要求する。ところがよく読むと、キャブタイヤケーブルの中でも「1種」だけが名指しで除外されている。なぜ普通の配線用ケーブルではだめで、しかも1種はだめなのか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、この電線1本にかけられた条件を、電圧と使われ方の両面から説明できるようになっている。
電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車は、建物から充電するだけでなく、車載電池から建物へ電気を供給する(V2H)こともできる。この「電気自動車等から電気を供給するための設備」を規定しているのが電技解釈第199条の2だ。ここで主役になるのが、電気自動車等と供給設備を接続する電線——条文の言葉で供給用電線である。
まず全体の構図から押さえたい。屋内配線の世界では、電線は壁や天井の中に固定され、施工が終われば誰も触らない。だから絶縁と許容電流さえ確保すれば、外装はそれほど頑丈でなくてよい。ところが供給用電線は正反対だ。人が素手で持ち、コネクタを車に抜き差しし、駐車位置に合わせて引き回す。電線の一生のあいだ、ずっと動かされ続ける。
条文の具体的な要求は、対地電圧で2段階に分かれる(第199条の2第1項第六号)。
- 対地電圧150V以下 — 1種キャブタイヤケーブル以外のキャブタイヤケーブル、又はこれと同等以上の性能を有するケーブル。最も軽装な1種だけが、名指しで足切りされている
- 対地電圧150V超450V以下 — 2種キャブタイヤケーブルと同等以上の性能を有するものであり、かつ使用環境を想定した性能を有するもの
そしてどちらの場合も、断面積は0.75mm2以上とする。
もう1つ、見落とされやすい前提がある。住宅などの屋内では、対地電圧はふつう150V以下に抑えるのが低圧の世界の基本ルールだ。ところがV2Hのような給電設備では、車載電池の直流電圧をそのまま扱うために、対地電圧が150Vを超える構成が現実に出てくる。第199条の2は、これを無条件に認めているわけではない。直流450V以下であること、電路を非接地とすること、絶縁変圧器を介すること、地絡を検知して遮断する装置を設けること、といった条件(同項第五号ただし書)を満たした場合に限って150V超を許している。感電に対する守りを何重にも固めたうえで、初めて高めの電圧を使わせる、という構造だ。
だから「150V超450V以下では2種キャブタイヤケーブルと同等以上」という電線の条件は、単独の暗記事項ではない。150V超という例外的に高い電圧を許す代わりに、人が直接触れる電線には一段厳しい性能を課す——電圧の緩和と電線の強化がセットになっている、と読むと条文の設計が腑に落ちる。
この設備の施工で条件を読み違えると、失敗は目に見えにくい形で残る。供給用電線は見た目にはどれも黒くて太いゴム外装のケーブルであり、1種か2種かは外観だけでは判別しにくい。使用開始の時点では何も起きず、屋外での抜き差しと引き回しが積み重なった数年後に、外装の損傷から地絡や感電につながる。条文が種別と「使用環境を想定した性能」まで踏み込んで指定しているのは、この「施工直後には見えない劣化」を最初の電線選定で断つためだ。
隣の条文にある、もう1つの「逆に流れる設備」— 太陽電池発電設備の施設
第199条の2の隣、第200条は小規模発電設備の施設を定めている。車から電気を取り出すEV給電設備と、屋根から電気を送り出す太陽電池発電設備。どちらも「需要家側から電気が出てくる」という点で同じ顔をしており、条文が並んでいるのも偶然ではない。第200条第2項は、太陽電池発電設備の施設をこう定めている。
- 充電部分が露出しないように施設すること
- 太陽電池モジュールに接続する負荷側の電路(複数のモジュールを施設する場合はその集合体に接続する負荷側の電路)には、その接続点に近接して開閉器その他これに類する器具(負荷電流を開閉できるものに限る)を施設すること
- モジュールを並列に接続する電路には、短絡を生じた場合に電路を保護する過電流遮断器その他の器具を施設すること(ただし、その電路が短絡電流に耐えるものである場合は不要)
- 電線は直径1.6mmの軟銅線又はこれと同等以上の強さ及び太さのものであること
- 配線は合成樹脂管工事・金属管工事・金属可とう電線管工事・ケーブル工事のいずれかにより、それぞれの条文(第158条・第159条・第160条・第164条/屋側屋外は第166条第1項第七号)に準じて施設すること
- モジュール及び開閉器その他の器具への電線の接続は、ねじ止めその他の方法により堅ろうに、かつ電気的に完全に接続し、接続点に張力が加わらないようにすること
もう1つ、条文には書かれていないが実務と試験の両方で問われるのが、系統連系する側に使う逆接続可能型の漏電遮断器だ。パワーコンディショナと分電盤をつなぐ回路では、遮断器をOFFにしても発電側から負荷側端子に電圧が加わり続ける。一般の漏電遮断器はこれを想定していないため、OFF状態で負荷側に電圧が加わっても支障のないものが必要になる。これは電技解釈ではなく、内線規程(JEAC 8001)とメーカーの適用条件が定めている領域だ。どこまでが法令で、どこからが民間規程か——出どころを分けて覚えておくと、根拠を問う設問で迷わない。
配線の側にも注意したい点がある。第200条は「直径1.6mmの軟銅線又はこれと同等以上」としか書いていないので、太さそのものは低圧屋内配線と変わらない。特別扱いされているのは太さではなく、開閉器の位置と性能、そして接続点に張力を加えないことのほうだ。屋根の上のモジュールは風で揺れ、季節で伸縮する。その動きが端子に伝わらないようにしておけ、という要求が条文になっている。
充電スタンドの足元の電線から、設計の意図を読み取れるようになる
この条文が頭に入ると、街のEV充電スタンドや住宅のV2H機器を見る目が変わる。今日試せることとして、充電設備を見かけたら、車へ伸びる電線の外装と太さを観察してみるといい。壁の中のVVFとはまるで違う、厚いゴム外装の移動電線であることが分かる。あれが条文のいう「使用環境を想定した性能」の姿だ。
EV充電・V2Hの工事は、第一種電気工事士にとってこれから最も伸びる仕事の入口のひとつだ。太陽光と蓄電池と車載電池を組み合わせる住宅では、対地電圧の設計、地絡保護、電線の選定という、このトピックで見た論点がそのまま実務の判断項目になる。「車をつなぐ電線1本」の背後にある考え方を知っていることは、新しい設備を安心して任せてもらえる根拠になる。
冒頭の疑問——なぜ普通の配線用ケーブルではだめで、1種キャブタイヤまで除外されているのか。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。