技能試験の会場で、隣の受験者の作品が視界に入った。電線はところどころ波打ち、器具の並びもわずかに傾いている。自分の作品は違った。線はまっすぐ、寸法もきれいに揃え、余った電線の処理まで丁寧に仕上げてある。時間内に完成し、見た目では明らかに自分のほうが上だと思った。
結果は、隣の受験者が合格、自分は不合格だった。どちらの作品も、電気的には配線図どおりにつながっている。
見当がつかなくて当然だ。この試験が「どこを見て」合否を決めているかを知らないまま練習すると、丁寧さを注ぐ方向を間違える。読み終えるころには、試験官が作品の前で何をしているのかが具体的に見えるようになっている。
技能試験の採点は、学科試験とはまったく違う仕組みで動いている。試験センターの説明はこうだ。「合否は,作品の欠陥の有無の判定結果に基づき決定されます」「欠陥のない作品が合格となります」。
つまり、部分点という概念がない。10箇所を完璧に仕上げても、11箇所目に欠陥がひとつあれば不合格になる。逆に、判断基準のどこにも該当しなければ、多少不格好でも合格だ。
12大項目の全体像
公表されている判断基準は、次の12の大項目でできている。ほぼ作業の順に並んでいるので、そのまま自分の手順書として読める。
| 項目 | 何を見る項目か |
|---|---|
| 1.未完成のもの | 時間内に作り終わったか |
| 2.配置,寸法,接続方法等の相違 | 配線図どおりの配置・電線の種類・寸法・接続方法か |
| 3.誤接続,誤結線のもの | 回路が電気的に正しくつながっているか |
| 4.電線の色別,配線器具の極性が施工条件に相違したもの | 白黒の使い分け、コンセントのW側などの極性 |
| 5.電線の損傷 | 外装・絶縁被覆・心線を傷めていないか |
| 6.リングスリーブ(E形)による圧着接続部分 | スリーブの選択、圧着マーク、心線の端末処理 |
| 7.差込形コネクタによる差込接続部分 | 心線の差し込み深さ(先端と下端の見え方) |
| 8.器具への結線部分 | ねじ締め端子・ねじなし端子それぞれの結線の仕上がり |
| 9.金属管工事部分 | 構成部品の位置、接続の確実さ、ボンド線 |
| 10.合成樹脂製可とう電線管工事部分 | 構成部品の位置と接続の確実さ |
| 11.取付枠部分 | 取付枠の向き・位置、器具の取り付け位置 |
| 12.その他 | 支給品以外の材料、不要な工事、ゴムブッシング、器具の破損 |
1・3は複線図と作業の完了に、4〜8は電線をさわる作業そのものに、9〜11は器具や管の固定に対応する。12はそれ以外の落とし穴をまとめた項目だ。
このことは、試験センター自身の言葉でも確認できる。配置について「試験としては,多少曲がっていたとしても欠陥とは判断されませんが,可能な限り美しい作品作りを心がけてください」と書かれている。美しさは推奨であって、判定項目ではない。
試験が測ろうとしている3つの能力
判断基準の背後には、試験センターが「技能試験で重視する3つの能力」として挙げているものがある。
- 回路を的確に構成する能力 — 指定時間内に、与えられた配線図に基づき、電気的に正しく回路が構成されていること
- 配線図や施工条件を理解し遵守する能力 — 指定された配線図および施工条件に従っていない作品は、回路が電気的に正しく結線されていたとしても欠陥と判断される
- 接続等の作業を的確に行う能力 — 電線の被覆を剥くといった基本的な作業一つ一つを、定められた順序と方法によって完全に仕上げること
2番目が重い。電気的に正しくても、施工条件と違えば欠陥だ。たとえば「この接続はリングスリーブを使うこと」と条件に書かれていれば、差込形コネクタでつないだ作品は、たとえ完璧に光る回路であっても不合格になる。
数値の許容には但し書きがある
判断基準には「20mm 以上」「5mm 以上」といった数値が何箇所も出てくる。この数値について、試験センターは重要な注意を添えている。
判断基準は「試験環境や代用品の使用からくる制約等を勘案して設定したものであり,実際の現場ではより厳密な施工が求められます」。そして「判断基準の内容には,数カ所で数値[mm]の許容についての記載がありますが,実際の工事では限りなく 0mm に近い施工が求められていることを十分理解した上で」参照してほしい、と書かれている。
つまり「5mm未満ならセーフ」は試験の便宜であって、目標値ではない。練習でも0mmを目指して手を動かし、5mmは非常時の逃げ道として頭の隅に置いておく——この順序で覚えるほうが、本番で余裕が生まれる。
0mmを目指す、という言葉の意味
この但し書きは、試験と現場の関係をそのまま言い表している。判断基準の数値は現場の目標値ではなく、試験環境という制約の中で引かれた最低ラインだ。つまり技能試験の合格は「現場で許される最低限の仕事ができる」という証明であって、上手い工事の証明ではない。そう読めた瞬間から、練習の目的が「基準に触れないこと」から「基準に触れる余地をなくすこと」に変わる。
12項目に並んでいるのは、どれも放っておけば事故につながる状態ばかりだ。接続部の発熱、被覆の破れによる短絡、極性の取り違え。丸暗記の対象というより、先に失敗を見てきた側からの申し送りだと思って読むほうが頭に入る。
今日できることがひとつある。家のスイッチやコンセントのプレートを、正面からまっすぐ見てみる。枠が傾いていないか、壁との間に隙間がないか。「多少曲がっていたとしても欠陥とは判断されませんが,可能な限り美しい作品作りを心がけてください」という一文の温度が、他人の仕事を見た瞬間に分かるようになる。
冒頭の2人の作品で何が合否を分けたのか、答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。