試験当日、机の上に置いた工具袋から、ある受験者が充電式の電動ドライバを取り出した。電動機能のスイッチはOFFにしてある。回すつもりはない。ただ握りの太い、普通のドライバとして使うだけだ。ねじを締める箇所は課題の中に何箇所もあるから、これで数分は稼げる——そう考えていた。
その受験者の作品は、採点されなかった。配線は配線図どおり、接続の仕上がりにも欠陥はなかったのに、だ。
見当がつかなくて当然だ。工具についての規定は、判断基準(欠陥の12大項目)とは別のところに書かれている。読み終えるころには、なぜ「電動機能をOFFにしていた」が通用しないのかが説明できるようになっている。
技能試験の持ち物は、原則がひとつだけだ。工具は自分で持ってくる、材料は会場で支給される。
材料は「支給されたものだけ」
試験センターの規定はこうだ。作業に必要な材料は全て支給されるので、支給された材料のみを用いて作品を完成させる。自分で持ち込んだ材料を使用することは禁じられている。判断基準の12-1にも「支給品以外の材料を使用したもの」が欠陥として載っている。
材料の確認は試験開始前に行う。監督員の指示に従い、試験問題の表紙にある材料表と、材料箱に入っている材料とを照合する。ここで不足・不備・不良品を見つけたら申し出る。試験開始後の材料交換には一切応じてもらえない。
例外は3つだけだ。作業開始後に交換・追加支給を受けられるのは、リングスリーブ、差込形コネクタ、端子ねじのみ。ケーブルは切り直しがきかないので、寸法取りは一度で決める前提で練習しておく。
なお候補問題の注記にあるとおり、器具は端子台で代用して出題される場合がある。実物が来るとは限らないという前提で、端子台への結線も練習しておきたい。
工具は「電動工具以外の全て」
工具については、候補問題を確認して作業に必要なものを自分で用意する。他の受験者からの借用は禁止されている。使える範囲は広く、「電動工具以外の全ての工具を使用することができます」とされている。
ただし禁止も明確だ。
- 改造した工具・自作した工具は使用禁止。 例として「持ち手を延伸するよう加工した圧着工具」が挙げられている。目盛を書き込む程度でも改造にあたり、改造の大小に関わらず使用できない
- 工具以外の物、たとえばテスタなどの計測器等の使用は禁止
- 電線を一時的に束ねるためのクリップ等は使用可能。ただし試験終了までに必ず取り外す
- リングスリーブなどの小さな部品を入れておくケース(小箱等)は、材料持ち込みの疑いを防ぐ観点から使用できない。支給される材料箱を使う
工具箱・工具袋は机上に置ける。ケーブルにペンで印をつけることも問題ない。スケールを机に直接貼るのは、机を傷めると弁償になるため、試験開始後に保護板(厚紙)へ貼る。作業は椅子に座って行い、立ち続けた場合は失格になる(力を入れる場面で一時的に立つのは問題ない)。
そして安全面での注意がひとつ。近年カッターナイフでケガをして、手当のために退出する受験者が増えているため、試験センターはカッターナイフの使用自粛を求めている。
電動工具が禁止されている理由
ここが冒頭の話につながる。試験センターの説明は、禁止の理由から始まっている。
「電気工事士技能試験では、電気工事に係る基本的な作業の修得を試験することから「電動工具」の使用は認めていません」
つまり、手で作業できることそのものが試験の対象になっている。速く終わらせる手段を封じているのではなく、測ろうとしている能力が「手作業の技能」だという話だ。
そして結果は重い。「試験中、「電動工具」を使用している場合や監督員の指示に従わない等は、不正行為となり失格となりますので、持参しないよう注意してください」。不正行為があった場合には作品は採点の対象にならない、とも書かれている。欠陥がゼロでも、判定の土俵に載らない。
小型充電式電動ドライバ、家庭用電気ドライバ、ペン型インパクトドライバ、インパクトドライバ——試験センターが挙げている電動工具の例はこれらだ。工具袋にこの手のものが入っているなら、当日ではなく前日に抜いておくほうが確実だろう。
手でできる人だけが、電動工具を正しく使える
現場では充電式のドライバもインパクトも普通に使う。それでも「基本的な作業の修得を試験する」という理由で手作業に限っているのは、順序として筋が通っている。手が締め加減と剥き加減を覚えていれば、電動に持ち替えたときにも止めどころが分かる。逆は成り立たない。ここで問われる「電動工具以外の全ての工具」の使い分けは、そのまま作業速度と仕上がりの差になって現れる。
工具の側にも、その前提が織り込まれている。リングスリーブ用の圧着工具は握りが黄色、圧着端子用は別の色。手に取る前に取り違えが防げるよう、見た目で分かれている。目盛を書き込む程度でも改造とみなされるのは、工具が規格どおりであることを土台にして基準が組まれているからだ。
今日できるのは、工具袋を床に広げて、候補問題13問を1問ずつ見ながら「この課題で実際に握る工具」に印をつけていくことだ。買い足すべきものと、当日は一度も出さないものがはっきり分かれる。工具袋が軽くなるほど、机の上で探す時間が減る。
冒頭の受験者の作品がなぜ採点されなかったのか、答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。