電気工事士の資格を持たない事務員が、ある日の事務所で3つのことをした。
1つ目。デスクライトのプラグ(差込み接続器)の中でコードが抜けかけていたので、ねじを緩めて接続し直した。2つ目。分電盤の中で切れていたヒューズを、同じ規格の新品に取り替えた。3つ目。長年使って黄ばんでいた壁の露出型コンセントを、新品に取り換えた。
どう見ても3つ目がいちばん「電気工事らしい」。壁の器具を外し、電線を外して、新しい器具につなぎ直したのだから。ならば、この3つのうち電気工事士法違反になるのはどれで、いくつあるのか。
見当がつかなくて当然だ。このトピックを読み終えるころには、3つそれぞれについて、根拠となる条文まで挙げて説明できるようになっている。
電気工事士法には、資格がなくても手を出してよい範囲が2種類ある。よく混同されるが、法律上の成り立ちがまったく違う。
軽微な工事 — そもそも「電気工事」ではない
電気工事士法第2条第3項は、「電気工事」を「一般用電気工作物等又は自家用電気工作物を設置し、又は変更する工事」と定義したうえで、ただし書きで「政令で定める軽微な工事を除く」としている。つまり軽微な工事は、法律上の電気工事の定義から最初から外れている。電気工事ではないのだから、電気工事士でなければ従事できないという第3条の規制も、そもそも及ばない。
同法施行令第1条は、軽微な工事を6つ挙げている。
- 電圧600V以下で使用する差込み接続器、ねじ込み接続器、ソケット、ローゼットその他の接続器、または電圧600V以下で使用するナイフスイッチ、カットアウトスイッチ、スナップスイッチその他の開閉器に、コード又はキャブタイヤケーブルを接続する工事
- 電圧600V以下で使用する電気機器(配線器具を除く)又は電圧600V以下で使用する蓄電池の端子に、電線をねじ止めする工事
- 電圧600V以下で使用する電力量計・電流制限器・ヒューズを取り付け、又は取り外す工事
- 電鈴、インターホーン、火災感知器、豆電球その他これらに類する施設に使用する小型変圧器(二次電圧が36V以下のものに限る)の二次側の配線工事
- 電線を支持する柱、腕木その他これらに類する工作物を設置し、又は変更する工事
- 地中電線用の暗渠又は管を設置し、又は変更する工事
軽微な作業 — 電気工事だが資格が要らない作業
一方、電気工事士法第3条第2項は「一般用電気工作物等に係る電気工事の作業(一般用電気工作物等の保安上支障がないと認められる作業であつて、経済産業省令で定めるものを除く。)」という書き方をしている。こちらは電気工事であることを認めたうえで、省令が定める一部の作業だけを規制から外している。
同法施行規則第2条第2項の書き方は少し独特で、「次に掲げる作業以外の作業」を軽微な作業とする、という裏返しの定義になっている。裏返す前の「次に掲げる作業」=電気工事士でなければできない作業は、同条第1項第1号のイからヌまでとヲ、および第2項第1号ロだ。
- イ 電線相互を接続する作業
- ロ がいしに電線を取り付け、又はこれを取り外す作業
- ハ 電線を直接造営材その他の物件(がいしを除く)に取り付け、又はこれを取り外す作業
- ニ 電線管、線ぴ、ダクトその他これらに類する物に電線を収める作業
- ホ 配線器具を造営材その他の物件に取り付け、若しくはこれを取り外し、又はこれに電線を接続する作業(露出型点滅器又は露出型コンセントを取り換える作業を除く)
- ヘ 電線管を曲げ、若しくはねじ切りし、又は電線管相互若しくは電線管とボックスその他の附属品とを接続する作業
- ト 金属製のボックスを造営材その他の物件に取り付け、又はこれを取り外す作業
- チ 電線、電線管、線ぴ、ダクト等が造営材を貫通する部分に、金属製の防護装置を取り付け、又はこれを取り外す作業
- リ 金属製の電線管、線ぴ、ダクト等又はこれらの附属品を、建造物のメタルラス張り・ワイヤラス張り・金属板張りの部分に取り付け、又は取り外す作業
- ヌ 配電盤を造営材に取り付け、又はこれを取り外す作業
- ヲ 電圧600Vを超えて使用する電気機器に電線を接続する作業
- (第2項第1号ロ)接地線を一般用電気工作物等(電圧600V以下で使用する電気機器を除く)に取り付け・取り外し、接地線相互若しくは接地線と接地極とを接続し、又は接地極を地面に埋設する作業
そして施行規則第2条第2項第2号は、電気工事士が従事するこれらの作業を「補助する作業」も軽微な作業としている。有資格者の指示のもとで材料を渡す、電線を押さえるといった補助は、無資格でも行える。
軽微な工事と軽微な作業は、どちらも「資格なしでできる」という結論は同じだが、たどり着く道が違う。前者は電気工事の定義から外れることで、後者は電気工事であることを認めたうえで規制から外れることで、資格を免れている。試験でも「軽微な工事はどれか」「電気工事士でなければ従事できない作業はどれか」という形で、両方の側から問われる。
例外の側を知っている人が、現場の段取りを任される
原則を言えるより、例外を正確に押さえている人のほうが現場では頼りにされる。無資格の応援を1人つけた日に、その人に何を任せられるかを即答できるかどうかは、そのまま段取りに直結するからだ。電線を押さえてもらう、材料を渡してもらうといった補助作業は資格が要らない。一方で、電線管を曲げる、電線管に電線を収める、ボックスを造営材に取り付けるといった作業は任せられない。この線を引けるのは、裏返しの条文構造まで読んだ人だけだ。
今日できるのは、身のまわりで露出型のスイッチやコンセントを探してみることだ。壁に埋め込まれておらず、面に出ている四角い器具。物置、古い納屋、屋外の軒下などに残っていることが多い。無数にある配線器具の中で、あれの「取り換え」だけが条文のかっこ書きで名指しされて例外になっている、と知ったうえで眺めると、印象がまるで変わる。
なぜ露出型だけが除かれたのか。壁の中に手を入れる必要がなく、器具の裏側が見える状態で作業が完結するからだ、と読める。危険の大きさに応じて規制の網目を変える。法令はこういう細かい調整の積み重ねでできている。丸暗記させるための例外ではなく、事故の記録を反映して線を引き直してきた結果だと思うと、かっこ書き1つが急に面白くなる。
冒頭の3つの作業は、それぞれどちらの入口を通っていたのか。答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。