新人の電気工事士が、竣工検査で絶縁抵抗を測ろうとした。急いでいたため、ブレーカーを落とさずに絶縁抵抗計(メガー)のクリップを充電部に接続し、測定ボタンを押した。次の瞬間、「バチッ」という音とともに火花が散り、メガーの内部から焦げた匂いがした。
絶縁抵抗計は、電流を測るわけでも電圧を測るわけでもない。あくまで「絶縁性能」を確認するための測定器のはずだ。それなのに、停電状態にせず活線のまま接続しただけで、なぜ測定器が壊れかけるほどの事態になったのか。
このトピックを読み終えるころには、絶縁抵抗測定が何を、どういう仕組みで測っているのかが分かり、この火花の正体も見えてくる。
絶縁抵抗測定は、絶縁抵抗計(一般に「メガー」と呼ばれる)を使い、電線相互間・電線と大地の間の絶縁性能が基準値以上あるかを確認する試験だ。
測定の考え方と手順
絶縁抵抗計は、内蔵の電源で直流の高い電圧を測定対象にかけ、そのときにわずかに流れる漏れ電流から絶縁抵抗値(MΩ=メグオーム)を算出する測定器だ。手順の要点は次のとおり。
- 測定は被測定回路に電源電圧が加わっていない状態(電源を遮断した停電状態)で行う。通電中(活線状態)のまま絶縁抵抗計を接続して測定してしまうと、感電や測定器の破損(アークショートによる爆発的な故障)につながる重大な事故の原因になる
- 測定器のL端子(LINE、ライン端子)を電線(充電部)側に、E端子(EARTH、アース端子)を接地側・大地側に接続して測定する
- 測定後は測定対象に電荷が残っているため、感電防止のためすぐには触れず、放電してから扱う
絶縁抵抗値の基準
低圧電路の絶縁抵抗値は、電気設備に関する技術基準を定める省令 第58条により、使用電圧の区分ごとに次の値以上と定められている。
| 電路の使用電圧の区分 | 絶縁抵抗値 |
|---|---|
| 対地電圧150V以下(100V回路など) | 0.1MΩ以上 |
| 対地電圧150Vを超え300V以下(三相200Vの電動機回路など) | 0.2MΩ以上 |
| 使用電圧300Vを超えるもの | 0.4MΩ以上 |
単相3線式100V/200Vのように線間電圧が200Vであっても、中性線が接地されていて対地電圧が100V(150V以下)であれば、基準は0.1MΩが適用される。「使用電圧」ではなく「対地電圧」で区分が決まる点に注意しよう。
冒頭の火花は、この仕組みの裏返しで説明できる。絶縁抵抗計は「電圧が加わっていない電路」に自分で直流の高電圧をかけて測る前提の測定器だ。そこにすでに電圧がかかっている活線をつないでしまうと、外部の電源電圧とメガー内部の直流電源が同じ回路上でぶつかり合う。
事故が起きる前に見つけられる、ほとんど唯一の数字
絶縁の劣化は、音も匂いも出さずに進む。照明は点き、コンセントは使え、何の不便もないまま基準を割っていく。それを数字にできるのが絶縁抵抗測定で、この検査だけが「まだ起きていない事故」を見つけられる。値を下げているものの正体は、ネズミがかじった被覆だったり、湿気を吸った古い配線だったり、ビスが1本被覆を貫いた箇所だったりする。人が気づく前に、数字のほうが先に教えてくれる。
今日できるのは、自宅の分電盤を開けて、回路ごとに基準値を当ててみることだ。100Vの分岐回路なら対地電圧150V以下だから0.1MΩ以上。200Vのエアコン専用回路も、単相3線式で中性線が接地されていれば対地電圧は100Vなので、やはり0.1MΩ以上になる。「200Vだから0.2MΩ」と反射的に答えたくなるところで踏みとどまれるか。線間電圧ではなく対地電圧で見るという一点が、そのまま実務での判定そのものになる。
この基準が漏れ電流から逆算されていると知ると、丸暗記が要らなくなる。対地電圧100Vの回路で漏れ電流を1mA以下に抑えるには 100 ÷ 0.001 = 0.1MΩ。区分が上がるほど基準値も上がるのは、電圧が高いほど同じだけしか漏らさないためにより高い絶縁が要るからだ、と方向だけ押さえておけばいい。屋根の上のパネル、壁付けの蓄電池、屋外のEV充電設備。雨と紫外線にさらされる場所の設備が増えるほど、絶縁を数字で見張る仕事は増えていく。
火花の正体、そしてそれがなぜ測定器の破損につながるのか——答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。