換気扇のスイッチを入れると「ブーン」と低い音は鳴るのに、羽根がピクリとも回らない。テスターを当てて確認すると、モーターにはちゃんと100Vが来ている。電気は流れているのに、なぜ回転だけが起きないのか。
音がするということは、少なくともコイルには電流が流れて磁界ができている。それなのに回らない——これは単相誘導電動機の始動の仕組みを知らないと、まったく見当がつかない現象だ。
単相誘導電動機は、単相交流(一般家庭用の100Vなど)で動く電動機だ。固定子に主巻線と補助巻線の2つのコイルを持ち、この2つに位相差(タイミングのズレ)のある磁界を作ることで、初めて「回転磁界」という、ぐるぐると向きを変えながら回る磁界を作り出せる。
補助巻線側にコンデンサを直列に入れることで、主巻線側の磁界と位相をずらす方式をコンデンサ始動と呼ぶ。コンデンサを使わず、巻線そのものの抵抗差だけで位相差を作る方式が分相始動だ。エアコン室外機や換気扇など、家庭・小規模施設の機器に広く使われている。
一方、三相200V(動力)で動く三相誘導電動機(かご形)は、そもそも電源自体に3本の位相差がある。そのためコンデンサのような始動用の部品を使わなくても、3つの巻線に電気を流すだけで自然に回転磁界ができる。回転子は積層鉄心のスロットに棒状の導体を差し込み、両端を導体環で短絡した「かご形」の構造をしており、頑丈でメンテナンスがほとんど不要なことから工場設備の主力になっている。
回る速さを決めているのは、電源の周波数だ
回転磁界そのものが1分間に何回転するか。これを同期速度と呼び、1つの式で決まる。
は電源の周波数(Hz)、 は電動機の極数だ。この式の中に、現場で調整できる数字はほとんどない。周波数は東日本50Hz・西日本60Hzで固定されており、極数は電動機を作った時点で決まっている。4極の電動機なら、60Hzで 120×60÷4=1800 min⁻¹、50Hzなら1500 min⁻¹。同じ機械でも、使う土地の周波数だけで回る速さが変わる。
ただし、回転子が実際に回る速度は同期速度ぴったりにはならない。回転磁界にわずかに遅れてついていくからこそ回転子に誘導電流が流れ、回す力が生まれる——遅れがゼロなら力もゼロになる。この遅れの割合をすべりと呼び、負荷がかかった状態で数%、無負荷ならほぼ同期速度まで近づく。銘板に「1740 min⁻¹」のような中途半端な数字が刻まれているのは、1800 min⁻¹からすべりの分を差し引いた、実際の回転速度だからだ。
逆転は配線2本、始動は電流との勝負
回転方向を逆にしたいときは、3本の結線のうちいずれか2本を入れ替える。位相の並び順が逆になり、回転磁界ごと逆向きに回る。3本すべてを入れ替えても並び順は元と同じままなので、回転方向は変わらない。届いたポンプが逆に回っていた、という現場の定番トラブルは、配線2本の入れ替えで直る。
もう1つの実務が、始動の瞬間の電流だ。かご形誘導電動機に定格電圧をそのまま加えて始動する方法をじか入れ(全電圧始動)と呼ぶが、止まっている回転子を回し始める瞬間には、全負荷電流の4〜8倍程度の始動電流が流れ込む。この倍率は資料によって幅がある。第二種向けの教材は4〜8倍と書くものが多い一方、大形の高圧モータを扱うメーカー資料では定格電流の6〜10倍とされる。試験で問われるのは「およそ何倍か」であり、選択肢は1〜2倍・20〜30倍のように桁で離して置かれるので、数倍から10倍程度に収まる値を選べば正解になる。小さな電動機なら一瞬で済んでも、容量が大きくなると電源側の電圧を揺らし、同じ回路の照明やブレーカーに影響が出る。そこで始動時だけ巻線をスター結線にして各巻線への電圧を下げ、加速してからデルタ結線に切り替えるスターデルタ始動が使われる。始動電流は1/3に抑えられるが、引き換えに始動トルク(回し始める力)も1/3になる。
「音はするのに回らない」を、その場で切り分ける
始動の仕組みを知っていると、故障の切り分けが一気に速くなる。音がしているなら通電はしている、それでも回らないなら回転磁界ができていない——この2段階でたどれるからだ。換気扇でも循環ポンプでもエアコンの室外機でも、単相機であれば同じ順序で疑える。今日試せることとしては、家の換気扇や扇風機の銘板を見て「単相100V」と書かれているか確かめてみるといい。単相と書いてあれば、その中には必ず位相差を作るための仕掛けが入っている。
コンデンサは電子部品であり、経年で容量が抜けていく消耗品でもある。この仕組みを知らなければ「モーターの寿命だ」と判断して機器ごと交換することになるし、知っていれば部品1つを疑うところから入れる。試験がこの原理を問うのは、外から見た症状と内部で起きていることが一致しない典型例だからだ。
三相誘導電動機は、頑丈さとメンテナンス性の高さから工場設備の主力であり続けている。近年はインバータで回転数を変えて必要な分だけ回す省エネ改修も広く行われており、モーターまわりの仕事はむしろ増えている。容量に応じた保護機器の選び方は電動機のブレーカー選定ツールでも確かめられる。
冒頭の換気扇がなぜ音だけして回らなかったのか、答え合わせは理解度チェックの最後の問題でしてみよう。