変電所の変圧器のすぐ近くには、必ずといっていいほど避雷器が設置されている。 避雷器は、雷サージのような異常電圧が来たときに、変圧器より先に動作する ——つまり、変圧器が壊れる前に、自分の方から先に放電してしまう装置だ。
なぜわざわざ「先に壊れる(動作する)」ための装置を、高価な変圧器のすぐそばに 置いておくのか。絶縁を強くしたいなら、変圧器自体をもっと頑丈に作ればいいのでは ないのか。
このトピックを読み終えるころには、変電所や鉄塔に置かれたがいし・避雷器の配置を見て、 それぞれが系統全体の絶縁設計の中でどんな役割分担をしているかを説明できるようになっている。
種明かしは、電力設備の絶縁は「個々の機器を最大限頑丈にする」のではなく、 系統全体で絶縁の強さを釣り合わせるという発想で設計されている、という点にある。 これを絶縁協調という。
がいし — 電線を「支えながら絶縁する」部材
がいしは、送電線や受変電設備の電線・母線を、鉄塔や支持物から電気的に絶縁しながら 機械的に支持する部材だ。単なる絶縁材料ではなく、電線の重さや張力を支える構造材でもある 点が特徴になる。
がいしの材質には、伝統的な磁器(陶磁器質)のほか、ガラス(強化ガラスを使った 懸垂がいし)、そして近年採用が広がっている複合(ポリマー)がいし(FRP芯材にシリコーン ゴムなどを被覆した構造)がある。ポリマーがいしは磁器がいしに比べて軽量で、衝撃に強く、 表面のシリコーンゴムが撥水性を持つため、後述する汚損対策の面でも有利だとされている。
高電圧の送電線でよく見る、円盤状のがいしを何枚も鎖のようにつなげた構造は懸垂がいし連 と呼ばれる。1枚あたりの絶縁性能には限りがあるため、系統電圧が高くなるほど連結する枚数を 増やして必要な絶縁強度を確保している。
がいしの弱点は「汚損」— 乾燥時の性能だけでは測れない
がいしのカタログに載っている耐電圧の数値は、多くの場合乾燥した清浄な状態での値だ。 ところが実際の屋外では、塩分やじんあいが表面に付着し、そこに雨や霧で湿気を帯びると、 汚損した表面を伝ってわずかな漏れ電流が流れ始める。この漏れ電流が局所的に乾いた部分の アークを誘発し、最終的に表面全体を伝って絶縁破壊(フラッシオーバ)に至ることがある。
絶縁協調 — 「一番弱い場所」を意図的に、安全な場所に作る
系統には、変圧器・遮断器・がいし・ケーブルなど、絶縁強度の異なる多くの機器が つながっている。雷サージや開閉サージのような異常電圧が系統に侵入したとき、 もし絶縁が最も弱い箇所が高価な変圧器の内部だったら、変圧器の絶縁が破壊されて 甚大な損害と長期の停止につながってしまう。
そこで、系統の中に避雷器という「意図的に絶縁強度を低く作った保護装置」を配置する。 異常電圧が来ると、避雷器が他のどの機器よりも先に放電(動作)し、電圧を一定の 制限電圧以下に抑え込む。これにより、変圧器などの機器には制限電圧以下の 電圧しかかからず、破壊を免れる。
各機器の絶縁強度はBIL(基準衝撃絶縁強度)という指標で表され、避雷器の制限電圧より 十分に高く、かつ動作のばらつきを見込んだ余裕を持たせて設定される。この 「避雷器の制限電圧を基準に、各機器のBILを無駄なく釣り合わせる」という設計思想全体を 絶縁協調と呼ぶ。
避雷器のしくみ — 非線形抵抗の酸化亜鉛(ZnO)素子と続流遮断
ここまでは「避雷器が異常電圧を制限電圧以下に抑え込み、他の機器を保護する」という 役割の側から絶縁協調を見てきた。では避雷器自身は、内部でどうやってそれを実現して いるのだろうか。
避雷器は、雷サージや開閉サージなどの過電圧が、ある値(放電開始電圧)を超えたときに 放電して過電圧を抑え、サージが去ったあとは自動的に電流を遮断する装置だ。この 「サージが過ぎたあとに流れ続けようとする電流」を続流といい、続流を自ら断ち切る機能 (続流遮断)を持つことが、避雷器を単なる放電装置と区別する重要な性質になる。
かつて主流だった避雷器は、直列ギャップ(火花放電で導通する空隙)と特性要素 (電流に応じて抵抗が変わる素子)を直列に組み合わせた構造をしていた。この方式では、 まずギャップが火花放電(スパークオーバ)してから特性要素が働くため、動作開始までに わずかな遅れ(放電遅れ)が生じてしまう。
現在主流になっているギャップレス避雷器は、直列ギャップを持たず、酸化亜鉛(ZnO)素子 だけで構成される。ZnO素子は、平常時の運転電圧のもとではほぼ絶縁体のようにふるまい、 漏れ電流はごくわずかしか流れない。ところが電圧がある値を超えると、抵抗値が桁違いに 急落し、一気に電流を通しやすくなる。この「低電圧では絶縁体的、高電圧では急激に低抵抗化」 という性質を非線形抵抗特性と呼ぶ。
この放電遅れの少なさと制限電圧の精度の高さは、そのまま前節の絶縁協調の話につながる。 避雷器の制限電圧がより正確に、より低く安定して抑えられるほど、保護対象機器のBILに 持たせる余裕(マージン)を必要最小限にでき、絶縁協調全体をより合理的に設計できる。 がいしが「絶縁を保ちながら壊れないようにする」部材だとすれば、避雷器は「意図的に 壊れる(放電する)ことで、他を守り、そして自分は元に戻る」装置だといえる。
架空送電線路の構成部材 — がいし・電線を雷や機械的損傷から守る脇役たち
がいしと避雷器が絶縁協調の中心的な役割を担う一方で、架空送電線路には、雷害や強風・着雪 といった機械的なストレスから電線・がいしを守るための部材が、鉄塔のあちこちに取り付けられて いる。それぞれ守る対象と目的が異なるため、名前と役割をセットで整理しておきたい。
- アークホーン:がいしの両端に取り付けられた金属電極。雷サージでフラッシオーバが起きた際、 アークをこの電極間に誘導することで、がいし本体の内部や表面をアークが直接通ることによる 破損を防ぐ。「がいしの身代わりになる」部材と考えるとよい。
- アーマロッド:電線をクランプ(支持点)で固定する付近に、電線と同じ材質の細い金属を 巻き付けたもの。風による振動が繰り返し加わることで生じる電線の疲労断線や、アークによる 電線の損傷・溶断を防ぐ。
- 相間スペーサ:強風時に電線同士が接近・衝突するのを防ぐため、電線相互の間隔を一定に 保つ器具。
- 埋設地線:鉄塔の脚部から放射状に地中に埋設した接地線、あるいは複数の鉄塔を地中で 連結した接地線。鉄塔の塔脚接地抵抗を小さくし、次に説明する逆フラッシオーバを抑制する 目的で取り付けられる。
架空地線と遮へい角 — 鉄塔の上に、あえてもう1本電線を張る理由
送電線の鉄塔の最上部には、送電線そのものとは別に、鉄塔を通じて接地された裸線が張られて いることが多い。これを架空地線と呼び、送電線への直撃雷を防ぐ目的で設置される。落雷は 物理的に最も高い位置にある導体に落ちやすいため、送電線より高い位置に架空地線を張っておけば、 雷は送電線ではなく架空地線に落ち、そのまま鉄塔を通じて大地へ流れる。
架空地線がどれだけ効果的に送電線を守れるかは、遮へい角という角度で評価される。図で 考えると、架空地線と送電線を結ぶ直線と、架空地線から真下に下ろした鉛直線との間にできる 角度が遮へい角だ。この角度が小さいほど、架空地線は送電線の真上に近い位置にあることに なり、直撃雷を防ぐ効果が大きくなる。
架空地線や鉄塔に直撃雷があった場合、鉄塔の接地抵抗が高いと、鉄塔の電位が瞬間的に大きく 跳ね上がり、鉄塔側から送電線側へアークが飛ぶ逆フラッシオーバという現象を招くことがある。 これを防ぐために、前節で見た埋設地線を設けて鉄塔の接地抵抗をできるだけ小さくする対策が 講じられている。
受変電設備の実務との接点
受変電設備の選定では、避雷器の設置有無・設置位置が絶縁協調の考え方に直結する。 避雷器は保護したい機器(変圧器など)のできるだけ近くに設置するのが原則で、 離れた場所に置くと、サージが伝搬する途中の反射によって保護効果が落ちることがある。 がいしの選定でも、設置環境が沿岸部か内陸部かによって、必要な沿面距離・がいし連の 枚数が変わってくる。こうした仕様の違いを「なぜそうなっているか」まで説明できることが、 電材商社としての提案力につながる。
冒頭の「なぜ避雷器は変圧器のすぐ近くに置かれているのか」という問いの答え合わせは、 理解度チェックの最後の問題でしてみよう。