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電力 ・ 14 / 16

がいしと絶縁協調

読み終えると、こうなる

変電所や鉄塔にあるがいし・避雷器の配置を見て、それぞれが系統全体の絶縁設計の中でどんな役割を担っているかを説明できるようになる

  • がいしの役割(機械的支持と電気的絶縁の両立)を、送電線・受変電設備の実物と結びつけて説明できる
  • 沿岸部でがいし連の枚数が増えたり耐塩がいしが使われたりする理由を、汚損とフラッシオーバの関係から説明できる
  • 絶縁協調の考え方(避雷器の制限電圧を機器のBILより低く設定する)を、なぜそうするのかの理由まで含めて説明できる
  • 架空送電線路のアークホーン・アーマロッド・相間スペーサ・埋設地線など主要構成部材の役割と、架空地線の遮へい角が直撃雷対策に果たす役割を説明できる
考えてみよう

変電所の変圧器のすぐ近くには、必ずといっていいほど避雷器が設置されている。 避雷器は、雷サージのような異常電圧が来たときに、変圧器より先に動作する ——つまり、変圧器が壊れる前に、自分の方から先に放電してしまう装置だ。

なぜわざわざ「先に壊れる(動作する)」ための装置を、高価な変圧器のすぐそばに 置いておくのか。絶縁を強くしたいなら、変圧器自体をもっと頑丈に作ればいいのでは ないのか。

このトピックを読み終えるころには、変電所や鉄塔に置かれたがいし・避雷器の配置を見て、 それぞれが系統全体の絶縁設計の中でどんな役割分担をしているかを説明できるようになっている。

種明かしは、電力設備の絶縁は「個々の機器を最大限頑丈にする」のではなく、 系統全体で絶縁の強さを釣り合わせるという発想で設計されている、という点にある。 これを絶縁協調という。

がいし — 電線を「支えながら絶縁する」部材

がいしは、送電線や受変電設備の電線・母線を、鉄塔や支持物から電気的に絶縁しながら 機械的に支持する部材だ。単なる絶縁材料ではなく、電線の重さや張力を支える構造材でもある 点が特徴になる。

がいしの材質には、伝統的な磁器(陶磁器質)のほか、ガラス(強化ガラスを使った 懸垂がいし)、そして近年採用が広がっている複合(ポリマー)がいし(FRP芯材にシリコーン ゴムなどを被覆した構造)がある。ポリマーがいしは磁器がいしに比べて軽量で、衝撃に強く、 表面のシリコーンゴムが撥水性を持つため、後述する汚損対策の面でも有利だとされている。

高電圧の送電線でよく見る、円盤状のがいしを何枚も鎖のようにつなげた構造は懸垂がいし連 と呼ばれる。1枚あたりの絶縁性能には限りがあるため、系統電圧が高くなるほど連結する枚数を 増やして必要な絶縁強度を確保している。

がいしの弱点は「汚損」— 乾燥時の性能だけでは測れない

がいしのカタログに載っている耐電圧の数値は、多くの場合乾燥した清浄な状態での値だ。 ところが実際の屋外では、塩分やじんあいが表面に付着し、そこに雨や霧で湿気を帯びると、 汚損した表面を伝ってわずかな漏れ電流が流れ始める。この漏れ電流が局所的に乾いた部分の アークを誘発し、最終的に表面全体を伝って絶縁破壊(フラッシオーバ)に至ることがある。

「がいしの絶縁性能=乾燥時の耐電圧」だと思っていると、汚損対策の必要性を見落とす。 沿岸部でがいし連の枚数が内陸部より多かったり、沿面距離の長い耐塩がいしが使われたり するのは、乾燥時の性能ではなく、汚損して湿った状態でのフラッシオーバ電圧を基準に 設計しているからだ。定期的な洗浄も、この汚損を前提にした保守活動になる。

絶縁協調 — 「一番弱い場所」を意図的に、安全な場所に作る

系統には、変圧器・遮断器・がいし・ケーブルなど、絶縁強度の異なる多くの機器が つながっている。雷サージや開閉サージのような異常電圧が系統に侵入したとき、 もし絶縁が最も弱い箇所が高価な変圧器の内部だったら、変圧器の絶縁が破壊されて 甚大な損害と長期の停止につながってしまう。

そこで、系統の中に避雷器という「意図的に絶縁強度を低く作った保護装置」を配置する。 異常電圧が来ると、避雷器が他のどの機器よりも先に放電(動作)し、電圧を一定の 制限電圧以下に抑え込む。これにより、変圧器などの機器には制限電圧以下の 電圧しかかからず、破壊を免れる。

各機器の絶縁強度はBIL(基準衝撃絶縁強度)という指標で表され、避雷器の制限電圧より 十分に高く、かつ動作のばらつきを見込んだ余裕を持たせて設定される。この 「避雷器の制限電圧を基準に、各機器のBILを無駄なく釣り合わせる」という設計思想全体を 絶縁協調と呼ぶ。

絶縁協調は「とにかく絶縁を強くする」設計ではない。絶縁を強くするほど機器は大型化・ 高コストになるため、必要最小限の余裕だけを持たせて釣り合わせるのが狙いだ。避雷器の 制限電圧という「基準点」が先にあり、そこから機器のBILが逆算的に決まる、という 順序で理解しておくと、絶縁強度の大小関係を問う問題で迷わない。

避雷器のしくみ — 非線形抵抗の酸化亜鉛(ZnO)素子と続流遮断

ここまでは「避雷器が異常電圧を制限電圧以下に抑え込み、他の機器を保護する」という 役割の側から絶縁協調を見てきた。では避雷器自身は、内部でどうやってそれを実現して いるのだろうか。

避雷器は、雷サージや開閉サージなどの過電圧が、ある値(放電開始電圧)を超えたときに 放電して過電圧を抑え、サージが去ったあとは自動的に電流を遮断する装置だ。この 「サージが過ぎたあとに流れ続けようとする電流」を続流といい、続流を自ら断ち切る機能 (続流遮断)を持つことが、避雷器を単なる放電装置と区別する重要な性質になる。

かつて主流だった避雷器は、直列ギャップ(火花放電で導通する空隙)と特性要素 (電流に応じて抵抗が変わる素子)を直列に組み合わせた構造をしていた。この方式では、 まずギャップが火花放電(スパークオーバ)してから特性要素が働くため、動作開始までに わずかな遅れ(放電遅れ)が生じてしまう。

現在主流になっているギャップレス避雷器は、直列ギャップを持たず、酸化亜鉛(ZnO)素子 だけで構成される。ZnO素子は、平常時の運転電圧のもとではほぼ絶縁体のようにふるまい、 漏れ電流はごくわずかしか流れない。ところが電圧がある値を超えると、抵抗値が桁違いに 急落し、一気に電流を通しやすくなる。この「低電圧では絶縁体的、高電圧では急激に低抵抗化」 という性質を非線形抵抗特性と呼ぶ。

ギャップレス避雷器が優れているのは、ギャップの火花放電を待たず、ZnO素子自体が電圧の 大きさに応じて瞬時に抵抗を変化させる点にある。そのため放電遅れがなく、より精度よく 制限電圧を抑えられる。過電圧が収まれば素子の抵抗は自動的に高い値へ戻るため、直列 ギャップという別部品を使わなくても続流遮断まで一体で行える——これが「ギャップレス」 という名前の意味になる。

この放電遅れの少なさと制限電圧の精度の高さは、そのまま前節の絶縁協調の話につながる。 避雷器の制限電圧がより正確に、より低く安定して抑えられるほど、保護対象機器のBILに 持たせる余裕(マージン)を必要最小限にでき、絶縁協調全体をより合理的に設計できる。 がいしが「絶縁を保ちながら壊れないようにする」部材だとすれば、避雷器は「意図的に 壊れる(放電する)ことで、他を守り、そして自分は元に戻る」装置だといえる。

架空送電線路の構成部材 — がいし・電線を雷や機械的損傷から守る脇役たち

がいしと避雷器が絶縁協調の中心的な役割を担う一方で、架空送電線路には、雷害や強風・着雪 といった機械的なストレスから電線・がいしを守るための部材が、鉄塔のあちこちに取り付けられて いる。それぞれ守る対象と目的が異なるため、名前と役割をセットで整理しておきたい。

  • アークホーン:がいしの両端に取り付けられた金属電極。雷サージでフラッシオーバが起きた際、 アークをこの電極間に誘導することで、がいし本体の内部や表面をアークが直接通ることによる 破損を防ぐ。「がいしの身代わりになる」部材と考えるとよい。
  • アーマロッド:電線をクランプ(支持点)で固定する付近に、電線と同じ材質の細い金属を 巻き付けたもの。風による振動が繰り返し加わることで生じる電線の疲労断線や、アークによる 電線の損傷・溶断を防ぐ。
  • 相間スペーサ:強風時に電線同士が接近・衝突するのを防ぐため、電線相互の間隔を一定に 保つ器具。
  • 埋設地線:鉄塔の脚部から放射状に地中に埋設した接地線、あるいは複数の鉄塔を地中で 連結した接地線。鉄塔の塔脚接地抵抗を小さくし、次に説明する逆フラッシオーバを抑制する 目的で取り付けられる。
これらの部材は、守る対象で整理すると覚えやすい。アークホーンは「がいし本体」を、アーマロッド は「電線のクランプ付近」を、相間スペーサは「電線同士の間隔」を、埋設地線は「鉄塔の接地 抵抗」を、それぞれ守っている。似た名前が並ぶが、対象が違えば役割もまったく違う。

架空地線と遮へい角 — 鉄塔の上に、あえてもう1本電線を張る理由

送電線の鉄塔の最上部には、送電線そのものとは別に、鉄塔を通じて接地された裸線が張られて いることが多い。これを架空地線と呼び、送電線への直撃雷を防ぐ目的で設置される。落雷は 物理的に最も高い位置にある導体に落ちやすいため、送電線より高い位置に架空地線を張っておけば、 雷は送電線ではなく架空地線に落ち、そのまま鉄塔を通じて大地へ流れる。

架空地線がどれだけ効果的に送電線を守れるかは、遮へい角という角度で評価される。図で 考えると、架空地線と送電線を結ぶ直線と、架空地線から真下に下ろした鉛直線との間にできる 角度が遮へい角だ。この角度が小さいほど、架空地線は送電線の真上に近い位置にあることに なり、直撃雷を防ぐ効果が大きくなる。

架空地線や鉄塔に直撃雷があった場合、鉄塔の接地抵抗が高いと、鉄塔の電位が瞬間的に大きく 跳ね上がり、鉄塔側から送電線側へアークが飛ぶ逆フラッシオーバという現象を招くことがある。 これを防ぐために、前節で見た埋設地線を設けて鉄塔の接地抵抗をできるだけ小さくする対策が 講じられている。

「架空地線が直撃雷を受け止める」ことと、「鉄塔の接地抵抗を下げて逆フラッシオーバを防ぐ」 ことは、別々の対策のように見えて、実は同じ一続きの雷害対策だ。架空地線(遮へい角)が 直撃雷そのものを防ぎ、埋設地線(接地抵抗低減)が、それでも避けきれなかった雷電流が 送電線側へ逆流するのを防ぐ、という二段構えで理解しておくとよい。

受変電設備の実務との接点

受変電設備の選定では、避雷器の設置有無・設置位置が絶縁協調の考え方に直結する。 避雷器は保護したい機器(変圧器など)のできるだけ近くに設置するのが原則で、 離れた場所に置くと、サージが伝搬する途中の反射によって保護効果が落ちることがある。 がいしの選定でも、設置環境が沿岸部か内陸部かによって、必要な沿面距離・がいし連の 枚数が変わってくる。こうした仕様の違いを「なぜそうなっているか」まで説明できることが、 電材商社としての提案力につながる。

冒頭の「なぜ避雷器は変圧器のすぐ近くに置かれているのか」という問いの答え合わせは、 理解度チェックの最後の問題でしてみよう。

出題者のワナ — ここで受験者を転ばせにくる

この論点は、知っているだけでは足をすくわれる。試験でよく仕掛けられる崩し方を、先に知っておこう。

  1. がいしの絶縁性能を「乾燥時の耐電圧」だけで判断し、汚損時のフラッシオーバ電圧低下を見落とす

    なぜ引っかかるカタログ値としてよく示される耐電圧は乾燥状態での値であることが多い。塩分やじんあいが表面に付着し、雨や霧で湿ると、その汚損層を伝ってわずかな漏れ電流が流れ、実際にフラッシオーバする電圧はカタログの乾燥値より大幅に下がる。この違いを知らないと、汚損地域での対策の必要性を見誤る。

    見破り方がいしの絶縁設計の話が出たら、「乾燥時」の数値なのか「汚損・湿潤時」の数値なのかをまず区別する。沿岸部・工業地帯など汚損が想定される場所では、がいし連の枚数を増やす、沿面距離の長い耐塩がいしを使う、定期的に洗浄するといった、汚損を前提にした対策が必要になる。

  2. 絶縁協調を「絶縁強度は高ければ高いほど良い」という単純な発想で理解する

    なぜ引っかかる安全のためには絶縁は強いほど良いという直感は自然だが、絶縁強度を上げるほど機器は大型化・高コストになる。絶縁協調は『どこまで強くするか』を、避雷器という保護装置の性能を基準に系統全体で無駄なく釣り合わせる設計であり、単純な最大化とは違う発想だ。

    見破り方絶縁協調の問題では、「なぜその絶縁強度なのか」を避雷器の制限電圧との relative な関係(避雷器の制限電圧+余裕分=機器のBIL)で考える。絶縁強度の絶対的な大小だけを見て「大きい方が正しい」と判断しないこと。

  3. 避雷器の役割を「異常電圧の発生そのものを防ぐ装置」だと誤解する

    なぜ引っかかる「避雷」という名前から、雷や異常電圧の発生自体を止める装置だと誤解しやすい。実際には避雷器は異常電圧の発生を防ぐのではなく、異常電圧が発生したときに自らが先に放電して電圧を制限電圧以下に抑え込み、他の機器(変圧器など)を保護する装置だ。

    見破り方避雷器の働きを説明するときは「異常電圧を防ぐ」ではなく「異常電圧が来たら自分が先に放電して、他の機器にかかる電圧を制限電圧以下に抑える」という順序で説明できるかを確認する。設置場所も、保護したい機器のできるだけ近くに置くのが原則だと合わせて覚える。

  4. 架空地線の遮へい角を、大きいほど直撃雷の防止効果が高いと誤解する

    なぜ引っかかる「角度が大きい=架空地線がより広い範囲をカバーしていそう」という直感的なイメージから、角度と防護効果の関係を逆に捉えやすい。

    見破り方遮へい角は、架空地線と送電線を結ぶ直線が、架空地線から下ろした鉛直線となす角度である。この角度が小さいほど、架空地線が送電線の真上に近い位置にあることを意味し、直撃雷を防ぐ効果が大きくなる、と図の形から考え直す。

参考文献・出典

理解度チェック(9問)

このトピックの内容がどれくらい身についたか、9問で確認しよう。 内訳は基本4問・応用3問・ひっかけ2問。基本が解けたら、条件を足した応用と、本番で足をすくいにくるひっかけまで踏み込む。

/ 9 問正解

覚えておきたいポイント

  1. がいしは電線を機械的に支持しながら、大地・支持物と電気的に絶縁する部材。磁器・ガラス・複合(ポリマー)がいしなどの材質があり、複合がいしは軽量・耐汚損性に優れることから採用が広がっている
  2. がいしの絶縁性能は乾燥時だけでなく、汚損(塩分・じんあい)が付着し湿気を帯びた状態での沿面フラッシオーバ電圧で評価する必要がある
  3. 絶縁協調とは、系統内の各機器の絶縁強度(BIL=基準衝撃絶縁強度)を、避雷器の制限電圧を基準に無駄なく釣り合わせる設計思想
  4. 避雷器は『事故を防ぐ』のではなく『自らが先に放電して、より高価な機器(変圧器など)を過電圧から守る』ための犠牲的な役割を持つ
  5. 現在主流のギャップレス避雷器は、酸化亜鉛(ZnO)素子の非線形抵抗特性(低電圧では絶縁体的にふるまい、ある値を超えると急激に低抵抗化する)を利用しており、直列ギャップがなくても動作でき、放電遅れがない。過電圧が去ったあとは素子の抵抗が自動的に回復し、続流(放電後も流れ続けようとする電流)を自ら遮断する
  6. 架空送電線路には、がいしの破損を防ぐアークホーン、電線の振動疲労を防ぐアーマロッド、強風時の電線相互の接近・衝突を防ぐ相間スペーサ、鉄塔の接地抵抗を下げて逆フラッシオーバを防ぐ埋設地線など、雷害・機械的損傷対策のための部材が組み込まれている。鉄塔上部に張る架空地線は、送電線への直撃雷を防ぐためのもので、架空地線と送電線を結ぶ直線が鉛直線となす角度(遮へい角)が小さいほど、直撃雷を防ぐ効果が大きい
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