超高圧の送電線のすぐそばに、電話線や通信ケーブルが何キロも並走して走っている場所がある。 送電線と通信線は電気的に直接つながっていないのに、雷でもないのに通信線側に 突然、危険なレベルの電圧が現れることがある——それも、事故が起きた瞬間に限って。
つながっていない2本の線の間で、いったい何が「伝わって」しまうのか。 しかも、常に少しずつ影響が出る場合と、事故の瞬間にだけ跳ね上がる場合の、 2種類があるとしたらどう見分ければいいのか。
このトピックを読み終えるころには、送電線と通信線が並走する場所を見て、 そこで起こりうる誘導障害を原因ごとに区別し、対策の狙いを言い当てられるようになっている。
種明かしは、直接つながっていなくても電気は「電圧」を介して、あるいは「電流」を介して、 2つの経路の間に影響を及ぼしあうという性質にある。これが誘導障害で、原因が電圧か電流かで 静電誘導障害と電磁誘導障害の2種類に分かれる。
静電誘導障害 — 電圧が、静電容量を介して忍び込む
送電線と通信線は、空間的に近くにあるだけで、その間にわずかな静電容量(コンデンサ)が 存在している。送電線に電圧がかかっている限り、この静電容量を通じて通信線側にも 電圧が誘導される。これが静電誘導障害だ。
三相の送電線が完全に対称に配置され、各相と通信線との距離がすべて等しければ、 3つの相からの影響は打ち消し合って理論上はゼロになる。しかし実際の鉄塔では、 3相の導体を一直線や三角形に配置するため、通信線からの距離は相ごとに微妙に異なる。 この距離の違い(=静電容量の不平衡)が、打ち消しきれない誘導電圧として残る。
静電誘導障害は電力線が電圧を帯びている限り、常に発生しうる——電流の大小や、 負荷が軽いか重いかとは関係がない。無負荷の送電線でも、電圧さえかかっていれば起こる。
電磁誘導障害 — 電流が、相互インダクタンスを介して忍び込む
もう一方は、電力線に流れる電流が原因になる。電力線と通信線が並走していると、 電力線の電流がつくる磁束の一部が通信線の回路を鎖交し、相互インダクタンス を介して 通信線側に電圧を誘導する。これが電磁誘導障害だ。
平常運転時、三相の電流はほぼバランスしており、3相分の磁束はほぼ打ち消し合うため、 電磁誘導の影響は小さい。ところが1線地絡事故が起きると話が変わる。地絡した相に 大きな電流(零相電流、あるいは残留電流と呼ばれる)が流れ、3相のバランスが大きく崩れる。 この零相電流 が、通信線に誘導電圧を発生させる。
誘導電圧 は、角周波数 、相互インダクタンス(並走区間の単位長さあたりで 決まる)、零相電流 、そして並走している区間の長さ に比例する。 式のどの項が大きくなっても誘導電圧は大きくなる、というシンプルな関係だ。
軽減策 — どちらの障害に効くのかを区別して覚える
誘導障害の軽減策は、原因(電圧か電流か)に応じて狙いが異なる。
- ねん架(相回転):送電線の3相の配置を区間ごとに入れ替え、通信線との距離の不平衡を 平均化する。主に静電誘導障害の軽減に効く。
- 接地方式の選定・保護継電器の高速化:地絡電流の大きさや事故継続時間を抑える。 主に電磁誘導障害の軽減に効く。
- 離隔距離を取る・直角に近い角度で交差させる:並走区間を短くする、または距離を離すことで 静電容量・相互インダクタンスそのものを小さくする。両方の障害に共通して効く。
- 遮へい線を設ける・通信線を地中ケーブル化や光ファイバー化する:電磁的な結合を物理的に 遮断する。特に電磁誘導障害に有効で、光ファイバーは電気的な結合そのものが存在しないため 根本的な解決になる。
実務との接点 — 制御盤・受変電設備の配線でも同じ発想が生きている
規模はまったく違うが、この「電圧か電流かで影響の伝わり方が変わる」という発想は、 制御盤の中の配線設計にもそのまま応用されている。動力ケーブル(大電流が流れる主回路)と、 センサーや制御信号を伝える弱電の配線を、盤内で束ねずに離して配線したり、別々のダクトに 分けたりするのは、電力側の電流変化が信号線に誘導ノイズとして飛び込むのを防ぐためだ。 シールド付きケーブルを使うのも、電磁的な結合を遮断するという意味で、送電線の遮へい線と 同じ発想になる。送電線と通信線というスケールの大きい話も、制御盤内の主回路と信号線という 身近な話も、電気が「つながっていなくても影響し合う」という同じ性質の表れだ。
冒頭で見た「事故の瞬間にだけ通信線に電圧が跳ね上がる」現象の正体——答え合わせは 理解度チェックの最後の問題でしてみよう。